環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
第75講「再生するか、国立公園」
第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
第72講『2009年霧中の旅―新春呆談』
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No. 第75講「再生するか、国立公園」
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Issued: 2009.04.07
H教授の環境行政時評(第75講 その3)
自然公園法の改正と海域保護の課題

Aさん―ところで、前にとりあげた自然公園法の改正はどうなったんですか【5】

H教授―うん、改正法案が閣議決定されて国会に提出された。別に対立法案じゃないから、可決は間違いないだろう。

Aさん―その割には新聞でもテレビでも報道されませんでしたね。

H教授―そんな大騒ぎするほどの大改正に見えなかったからだろう。

Aさん―えー、だって自然公園前面の浅海域の保護を目指す画期的な改正じゃなかったんですか。センセイ、そう言ってましたよ。
【5】 自然公園法の改正について
第73講(その2)「自然公園の新たな海域保護制度を予想する」

H教授―いや、それはまだ未知数、そうなる可能性はあるけど、まだわからない。
今後、環境省が海洋基本計画【6】なんかも援用して、いかに頑張れるかだよな、うん。

Aさん―ひとりで納得してないで、中身を話してください。

H教授―つまり海域の保護強化に関しては、従来の海中公園地区の名称を海域公園地区に変更して、若干の規制強化を行うこととされただけのようだ。自然環境保全法の方もほぼパラレルで自然環境保全地域海中特別地区を海域特別地区に改めて、同様の規制強化を行う。

Aさん―規制強化というと、海中だけじゃなく、海面上の行為も規制されるということですね。

H教授―うん、海中公園地区に顔を出している岩礁などでの破壊行為は従来は規制されていなかったが、そういうものも規制されるようになった。

Aさん―具体的に何か問題になっているところがあるんですか。

H教授―さあなあ。
実際に意味があるのは、動力船の運行について海域公園地区内に区域及び期間を決めて規制──つまり要許可行為──としたこと。また陸域と同じように、海域公園地区内に利用調整地区、つまり立ち入り自体を制限できる地区を指定できるようにしたこと、あとはこれまで海中公園地区では自然公園ごとに指定する動植物の採取捕獲を規制していたんだけど、それを海域公園地区ごとに規制する区域と種を指定するようにしたことかな。
【6】 海洋基本法と海域保全
第70講(その2)「海洋保護区の設定、検討開始」
第55講(その3)「その他の話題」

Aさん―えー、なんだかよくわからないな。
要はそれまで「海中公園地区」と言っていたものを、「海域公園地区」と改名して、海中だけじゃなく海面上も規制できるようにしたことと、「海域公園地区」の中に「動力船規制地区」と「利用調整地区」を設けるということですか。

H教授―まあ、そういうことになる。「動力船規制地区」というのは法律上の名称としては特に定まっていない俗称だけどね。

Aさん―その「動力船規制地区」というのは、グラスボートなどを排除する区域ですか。

H教授―いや、既得権があるし、一律に排除することは公園利用上マイナスの方が多い。コントロールして無秩序にならないようにしようということだろう。
どれだけの地区を指定しようとしているのかはわからないけど。

Aさん―利用調整地区の方は、具体的に問題になっている地区はあるんですか。

H教授―さあ、よく知らない。

Aさん―なんだ、じゃあ、大した改正じゃないじゃないですか。

H教授―いや、実はもうひとつあるんだ。
これまで海中公園地区では自然公園ごとに指定する動植物の採取捕獲を規制していたんだけど、それを海域公園地区ごとに規制する区域と種を指定して規制するようにしたんだ。
仮にこれを「動植物捕獲規制地区」と呼ぼう。海域公園地区では、この「動植物捕獲規制地区」を指定しないと今までの規制も自動的に解除されてしまうから、原則的に現在の海中公園地区はすべて改正と同時に「動植物捕獲規制地区」にするんだろう。
つまり、逆に言うと、「動植物捕獲規制地区」に指定しない海域公園地区、これは現在の海中公園地区より規制の緩い──陸域でいえば、特別保護地区でない特別地域に相当する──海域公園地区が誕生する可能性が生まれたということだ。

Aさん―なあるほど、それで、この改正を契機に、海域公園地区をどっと増やして、自然公園の前面海域は大半海域公園地区にしようとするわけですね。

H教授―うーん、それはどうかなあ。理論的には可能になったが、現実的にはどこまでそれができるかということもある。
環境省自体がその気になって積極的にそうしようとするかどうか、それに関係省庁がどこまで受け入れるかだろう。自然公園前面の浅海域だと言ったって、結構広く港湾区域や漁港区域に指定されていて、そういうところは難しいだろうな。

Aさん―「海域の景観の保護」を図るため、藻場や干潟、景観的に岩礁と一体となった海域をいかに広く指定できるかにかかっているわけですね。

H教授―うん、具体的な指定候補地をどれだけ考えているかだけど、下手すれば、区域の拡大はエピソード的なものにとどまりかねない。ま、その場合でも将来に備えての布石だけは打ったという見方も可能だろうが、それじゃあ、ちょっとさびしい。

Aさん―うーん、ぜひがんばってほしいですねえ。来年には、名古屋で生物多様性条約COP10が開かれますものねえ。
ところで、いわゆる海面普通地域の面積はどれくらいなんですか。

H教授―さあ、環境省の公式な統計資料では陸域しか出ていなかったような気がするなあ。
何かの資料で見た記憶があるけど、国立・国定公園合わせて170万ha程度、陸域面積のちょうど半分くらいだったと記憶している。

Aさん―じゃあ、海岸線延長はどれくらいですか? 前面海域が国立公園になっている率は? 国立公園でも自然公園全体でもいいんですけど。

H教授―うーん、これも正確な記憶はいけど、自然環境保全基礎調査の一環でデータが出ていたと思う。
…確か、全国の海岸線3万2千kmの半分弱が国立・国定公園に指定されていたんじゃなかったかな。

Aさん―普通地域でなら海域も相当程度カバーしているんですね。それを意味のある保護海域にできるかどうかが問題なんですね。センセイ、そんなに悲観的にならないで、ここはひとつ、環境省の頑張りに期待しましょうよ。
ところで海域以外の改正点はなんですか。

H教授―第一に目的規定に「生物の多様性の確保」というのを入れた。目的規定の変更というのは法律屋さんにいわせると抜本的な大改正ということになるそうだが、問題は具体的な中身がどう変わるかだよねえ。

Aさん―で、どう変わるんですか。

H教授―特別地域の中の指定する地域での植物の損傷と、外来生物の放出──つまり持ち込み──が規制される。つまり要許可行為になる。

Aさん―まあ、当然と言えば当然ですね。でも特別地域全域じゃないんですね。
H教授―全域ということになると、特別保護地区との差がなくなってしまうからかなあ。
あともうひとつは「生態系維持回復事業」の創設だ。例えばシカの食害が問題になっている地域があるが、防護柵を設置したり、追い出したりして食害を防ぐような保全のための事業全体を「生態系維持回復事業」として公園計画に位置づけ【7】、公園事業と同じように積極的に事業を推進できるようにしたことだ。
公園事業は基本的に施設を作り運営する、いわば「施設の概念」だけど、こうした保全のための事業は、むしろ「行為の概念」なんだ。
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【7】 自然公園法における「公園計画」の位置付け
第54講(その2)「国立公園ヌーベルバーグ」
脱線―公園事業とは?
Aさん―ところで公園事業ってなんですか。

H教授―公園計画──普通は利用施設計画──に基づいて行う事業を公園事業というんだ。
米国の国立公園は基本的に公園当局が土地を管理している、いわゆる営造物公園だが、ホテルだとか、そういう営利を伴うような利用施設は、公園当局の意志を代行して民間が建設運営している。そういうものを「公園事業」と呼んでいるんだ。
日本の自然公園は地域制だけど、公園事業という考えは米国のものをそのまま持ち込んでいる。

Aさん―えーと、公園事業は国が執行するけど、地方自治体だとか、民間も国に代わって執行することができるんですね。

H教授―うん、環境省以外の国の機関が行うときは環境大臣の同意が要るし、自治体が行おうとするときは大臣の承認が、そして民間が行おうとするときは大臣の認可が必要となるけど、その代わり保護のために規制している行為の許可、つまり公用制限の解除という手続きは不要となる。

Aさん―環境省以外の国の機関? あ、そうか。公園利用上必要な車道が利用施設計画に位置づけられていれば、例え国土交通省の国道だったとしても公園事業になっちゃうんですね。

H教授―うん、その場合、公園計画の中身を具体的にしようとするときは事業決定という手続きを経て、事業執行の協議をして環境大臣が同意すれば事業執行できるということだ。

Aさん―ホテルなんかはどうなるんですか。

H教授―まったく同じだ。公園計画に宿舎という計画があって、民間も宿舎事業として認可を受ければ公園事業が執行できる。

Aさん―公園計画に宿舎がない場合は宿舎、例えばホテルや民宿は建てられないんですか。

H教授―その場合は宿舎という計画を追加して公園事業として認可を受けて執行する方法と、そうではなくて、大臣の許可をとってやるという方法がある。
後者の場合は許可基準を遵守しなければいけないが。

Aさん―え、なんだかよくわからないな。認可と許可って同じようなものじゃないんですか。

H教授―法律的にはまったく違う概念らしいんだ。
前者は国に代わって執行する、いわゆる特許事業で、後者は公共の福祉のための制限を部分的に解除することらしい。

Aさん―でも結果的に、宿舎ができることに違いはないでしょうし、宿舎としてやっていることだって大差ないわけでしょう。
いくら国に代わって執行する公園事業だからといって、自分の土地に建てたホテルなんかだと、経営にまで口出しできるわけではないでしょう。

H教授―公園事業の場合は、許可基準に縛られないが、宿舎であれば収容力など事業決定で決められた大枠の範囲でなければ認可されないし、管理計画などで建築物の高さや規模なども縛られている。でも、通常は許可基準よりはゆるい基準だから、許可基準と比べたらかなり大きなものだって建てることは可能だ。

Aさん―じゃ、かなりフリーじゃないですか。公園事業だからこそ、規模も含めて、余計に環境保全に配慮しなければいけないんじゃないですか。

H教授―うーん、今日はよいところをつくなあ。
そうなんだ。実際問題、法律屋がなんと言おうと、民有地の特別地域なんかだと、わざわざホテルなどを公園事業にする意味は薄いんだ。
意味があるとすれば、原則許可できないような特別保護地区だとか、第一種特別地域、あるいは環境省所管地などの場合だよね。あと国有林も、公園事業でないと、土地を貸さないようだ。
地域制の公園、特に民有地の多い公園では民間の執行する公園事業というのは、もともとかなり無理な制度なんだ。だけど、昔は、民有地の民宿でもホテルでも、大きなものから小さなものまで片っぱしから指導して、公園事業として認可申請させちゃったケースがいっぱいある。今さらそれを公園事業でなくてもいいなんて言えないじゃないか。
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