環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第77講「後退する氷河と増大する氷河湖決壊の危機」
第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
第75講「再生するか、国立公園」
第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
第73講『当たるも八卦、当たらぬも八卦、新たな海域保護制度 ―付:ダーウィン生誕200年』
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No. 第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
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Issued: 2009.05.15
H教授の環境行政時評(第76講 その4)
地域環境保全基金と漂着ごみ対策

H教授―そんなことはない。目立ったところでは「地域版グリーンニューディール基金」がある。

Aさん―それはなんですか。

H教授―うん、平成元年に58の都道府県・政令指定市に対して、「地域環境保全基金」なるものの創設に国は助成したことがある【18】
基金は最低額が一自治体当たり1億円で、確か対象となったほとんどすべての自治体が基金を創設したんじゃなかったかな。
基金の運用益で、環境保全のための広報などソフト事業に充てるというものなんだけど、今の金利では運用益ったって、ごくわずかだ。
その基金に今後3年間、毎年550億円を積み増すということのようで、その際自治体の負担は不要とするようだ。
【18】 地域環境保全基金
平成2年版環境白書(第1章 第3節 1 環境管理の推進)

Aさん―でも金利が今のままじゃあ、雀の涙というか、焼け石に水みたいなものじゃないですか。

H教授―いや積み増し分は、取り崩しても構わないということのようだから、いろんなことが可能だと思うよ。
今想定されているのは、温暖化対策法で作られた実行計画に基づく事業や、アスベスト廃棄物不法投棄対策、PCB対策【19】、それに漂着ごみ対策などのようだ。
でも使い道を指定するんでなく、できるだけ自治体の自由にすべきだと思うし、もっと有効にするためには、規制や税制に対する地方分権をもっと進めなきゃいけないと思うけどね。

Aさん―550億円の配分計画は?
【19】 PCB対策
第3講(その2)「PCBの教訓」
H教授―これからルール作りにとりかかるらしいけど、基本的には事業計画内容と人口等で配分を決定するとしている。
でも前者で査定するなんてなると、また三割自治【20】になっちゃいそうな気がする。どうしてもそうするというなら、査定過程をすべてオープンにすべきだろうな。

Aさん―何かその想定している事業で目新しいものはありますか。

H教授―海岸漂着ごみ対策に毎年50億円を充てることを検討しているそうだ。以前から問題が指摘され、検討していたんだけど、カネがネックになっていたらしい。
それをセットにして、仮称「漂着物処理法」の骨子がこのほどまとまったそうだ【21】

Aさん―ちょ、ちょっと。順序立てて説明してください。

H教授―海岸をちょっと歩けばわかるけど、浜にはいろんなものが打ち上げられている。
【21】 漂着物処理法の骨子
海岸漂着物処理推進法案を了承 漂流・漂着物対策特別委員会・関係部会合同会議

Aさん―♪名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実ひとつ♪(「椰子の実」島崎藤村作詞、大中寅二作曲)とは時代が違いますものね。ペットボトルやら何やらが一杯で…。

H教授廃棄物処理法では産業廃棄物は排出者が、それ以外の一般廃棄物は市町村が処理責任を負っている。
漂着ごみは、普通は産業廃棄物ではないから、一般廃棄物ということになる。一般廃棄物の処理は「住民が出したごみだから、住民にもっとも密着している自治組織である市町村の責任」という理屈なんだけど、漂着ごみや海底のごみの場合、他の地域や場合によっては他国から流れてきたものが多くを占め、そんなもの処理する謂れはないとなるのが普通だ【22】

Aさん―土地所有者の処理義務はないのですか。

H教授―土地の占有者には清潔の保持に努める旨の規定があるが、これでもって海岸の管理者に処理義務があるというのは酷だろう。

Aさん―そもそも海岸の管理者は誰なんですか。
【22】 漂着ごみの処理責任
第48講(その3)「水俣病50年と漂流・漂着ごみ」

H教授―プライベートビーチというのがないわけではないが、一般的には国有地だろう。ただし、港湾区域や漁港区域のそれぞれの管理者は公共団体とされていて、実態としては都道府県か市町村――以下、県にしちゃうよ――が多い。また、それ以外の海岸でも「海岸保全区域」は原則として県が管理者だ。海岸保全区域以外の海岸は国の普通財産だったが、管理は市町村に委任されていたんじゃなかったかな。
ただ、海岸法の大改正で、ほとんどの海岸は海岸保全区域に指定され、今では港湾区域や漁港区域以外でも原則として県が管理者になっていたと思う。
気を付けなきゃいけないのは、一口に県といっても、港湾区域と漁港区域、そしてそれ以外ではすべて所管する課が異なることだ。

Aさん―ふうん。で、現実の処理はどうなっていたんですか。

H教授―ボランティアなどが回収して、燃えるものは燃やしたりしていたんだが、現在では市町村の処理場に持ち込んでいることが多いんじゃないかな。
でもさっき言ったように、なぜ市町村が処理しなけりゃあならないかって不満が鬱積していたんだ。カネだってかかるからね。

Aさん―で、その新法ではどういうことになりそうなんですか。

H教授―政府は「基本方針」を定める。県は単独または共同で「地域計画」をまとめ、その中で役割分担を明確にする。また住民、ボランティアも含めた推進協議会を組織することができるとしている。
処理責任という言い方はしていないが、海岸管理者、つまり知事が清潔保持の観点から必要な措置を講ずるとしている。
そして他府県からのごみが多い場合は、当該県に協力を求めることができるし、外国の場合は外務大臣が外交上対応するとしている。さらに、環境省の協力規定も盛り込まれているし、国民の協力義務規定も設けるようだ。
そして決定的に重要なのは、政府は必要な財政措置を講じるし、他府県や外国からの漂着ごみが多い地域では、財政上特別な配慮をするということだ。

Aさん―つまりカネの面は見通しがついたので、県が中心になって処理をするということですね。

H教授―うん、実務上は窓口が廃棄物処理主管課になるか、海岸管理者サイドになるかの問題はあるが、直感的には前者だと思う。また、実際の処理は処理場を持っている市町村が行うけど、ちゃんとそのための経費を県が面倒をみるということだろう。

Aさん―廃棄物処理法で、一般廃棄物と違うジャンルとして漂着ごみを位置づけるのですか、また漂流ごみや海底ごみも適用されるのですか。

H教授―さあ、どうだろう。後者は多分含まれるだろうと思う。
あとこの予算措置は3年限りとしているが、それから以降もこの枠組みでいくことにならざるを得ないんじゃないかな。
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自然公園法・自然環境保全法改正案のその後
Aさん―ふうん、ところで前講で取り上げた自然公園法の改正【23】はどうなったんですか。
あれも沿岸域の保護強化が重要なテーマだったですね。
【23】 自然公園法の改正と沿岸域の保護強化
第75講(その3)「自然公園法の改正と海域保護の課題」
「自然公園法及び自然環境保全法の一部改正法律案」を閣議決定へ 生物の多様性の確保など(国内ニュース)

H教授―うん、無事4月17日に成立した。自然環境保全法も同時に改正された。
そうそう、前講(第75講)で、
「今の役人の間では、法律を制定したり、改正すること自体が目的になってしまっているような気がするんだ。法律は目的達成のための手段であって、目的そのものじゃないんだ。だけど、法律の制定や改正は役人の勲章みたいに思ってるところがあるんじゃないかな。」
と書いたんだけど【24】、改正に携わった環境省の幹部職員から、決してそんなことはない、われわれにレンジャーマインドは健在だとの抗議文が届いた。
ぼくとしてはエールを送ったつもりだったんだけど、カチンと来たようだな。不徳のいたすところだ。
まあ、その言やよしで、今後の頑張りに期待しよう。
ただ、90年前後の環境庁時代――ボクが水質規制課長時代――には、庁議のたびに、なんか法改正のタマはないのかと、各局長が事務次官から毎度毎度せっつかれていて困っていたのは事実だけどな。

Aさん―ねえ、センセイ。さっき、漂着ごみの話があったでしょう。それと自然公園法、自然環境保全法の改正とリンクさせればどうかしら。

H教授―えっ、どういうことだ。
【24】 法律の制定、改正自体が目的化していないか
第75講(その4)「法律は目的でなく手段である」
Aさん―アタシ、学部生のときにゼミの実習【25】で、山陰海岸国立公園の竹野海岸に何度か行ったんですけど、ホントにきれいな海で感激しました。
でも打ち上げられた漂着ごみには閉口しました。中には明らかにハングルや簡体漢字のごみもありましたし、医療廃棄物まで漂着していました。
ボランティアの方と一緒にごみ拾いをして、自治体で処理してもらったんですけど、自然公園行政でも何かやれることはないのかしらと思ったんです。

H教授―なるほどねえ。考えてみる余地はあるねえ。
【25】 ゼミ実習
第32講(その2)「経験的ボランティア考」

Aさん―よかった! だって、どんなキレイな国立公園の海岸だって漂着ごみがあるだけで、げんなりしちゃいますもの。
もしあの海岸に漂着ごみがなくなれば、心置きなくカレシとロマンチックな愛を語れるわ。ウフ。

H教授―漂着ごみが消える日と、キミがカレシを見つけるのとどちらが早いかだね(鼻で嗤う)。

Aさん―ヒッ、ヒドーイ(泣き出す)。

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(平成21年4月27日執筆 4月末日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
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