環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第78講『日本政府、「中期目標」決定』
第77講「後退する氷河と増大する氷河湖決壊の危機」
第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
第75講「再生するか、国立公園」
第74講「化学物質対策の新展開―化審法改正」
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No. 第77講「後退する氷河と増大する氷河湖決壊の危機」
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Issued: 2009.06.04
H教授の環境行政時評(第77講 その1)

Aさん―センセイ、GW後もいろんなことが起きていますねえ。やっぱり世界は時代の曲がり角なんでしょうか。

H教授―国内では、民主党党首が小沢サンから鳩山サンに交代、突然のスキャンダル発覚で鴻池サンの官房副長官辞任、さいたま市長選で泡沫候補と思われていた民主党無名候補の圧勝、突然飛び出して、あっという間に尻すぼみに終わりそうな麻生サンの厚生労働省分割論…いっぱいあるよね。
新型インフルエンザ論
Aさん―まずは新型インフルエンザの国内への飛び火でしょう。厳重な検疫体制をくぐり抜け、それどころか渡航歴のない関西の高校生での発症が明らかになり、兵庫、大阪が一時パンデミック状態になりました。

H教授―ああ、おかげでウチの大学も一週間の臨時休講。たった一週間だったけど、その余波は大きく、いまだに後遺症が出ていて、対応に追われっぱなしだ。
でもパンデミックはおおげさだろう。われわれ地元はそれなりに日常生活を営んでいたぜ。ただ、ボクの教え子がその最中に神戸で結婚式を挙げたんだけど、関西以外の招待者からは怯えてドタキャンが出たという話だ。
マスクはどこにいっても売り切れ状態が今も続いているけど、これは東京でもそうらしい。経済に与えた悪影響は相当なものがあるけど、マスク業界だけはウハウハだな。

Aさん―でも今度の新型インフルエンザですけど、免疫ができているのかどうか、センセイのような老人はかかりにくいそうです。よかったですね。

H教授―こらこら、面と向かって人を老人呼ばわりするんじゃない。レンジャーのOB会なんかに行くとボクなんかはまだまだヒヨッコなんだからな。

Aさん―へいへい。
ところでこの新型インフルエンザ、伝播性は強いらしいですが、意外と毒性は弱いそうですね。

H教授―当初、メキシコで報告されたときは死者が100人を越したと言われていたけど、その後大きく下方修正され、致死率は通常のインフルエンザと大差ないらしい。実際には報告された10倍〜100倍くらいの人が発症している可能性は高いと思うよ。でも、自然治癒する人も多いそうだから、あまり神経質になる必要はなさそうだ。

Aさん―じゃあ、当初騒ぎすぎたってことですか。

H教授―そんなことはない。WHOにしても各国政府にしても、正体や毒性がよくわからないうちはどんな過敏になったってなりすぎということはない。
それにこれからだってウイルスが変異していって、強毒性に変わることだってないわけでないから、今後とも十分監視し続ける必要はあると思うよ。

Aさん―でもとりあえずは弱毒性らしくてよかったです。これがスペイン風邪のようなものだったら大変ですね。社会や日常生活が一気に崩壊してしまう危険だってありますから。
進化の頂点に立つヒトが、ウイルスのような原始的な微生物に脅かされるって、考えてみればヘンですね。
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ウイルス=進化の頂点説

H教授―ヒトが進化の頂点に立っているなんて認識自体が間違っている。
進化の目的が種の個体数の増加だとしたら、一番進化したって言えるのは細菌などの微生物じゃないか。
それにウイルスなんてのは細菌でもないし、その起源や生物系統樹上の位置付けも定まっていないんだ。昔はウイルスが結晶することもあることから無生物説まであったくらいだ。

Aさん―だったらやっぱりウイルスって無生物から生物に進化する途中の、もっとも原始的な生物というか半生物じゃないんですか。

H教授―ウイルスは増殖するからやはり生物というしかないだろう。
ただ、ウイルスには多くの種類があるが、すべて生物の細胞内でしか増殖できない。そして細胞構造もなく、代謝機能もない。最小限の核酸―つまり遺伝子―と蛋白質の外殻しか持っていないんだ。
つまり通常の意味の生物から、いろんな構造や機能をどんどん捨てていったんではないかと言われている。
より複雑になることが進化だとしたら、退化なんだろうけど、増殖が生物の究極の目標だとしたら、増殖に無駄なものをどんどん捨てていったという意味では、進化の頂点に立つという見方だってできるだろう。

Aさん―だって植物性ウイルスとか動物性ウイルスとかいうじゃないですか、原始的な動物、原始的な植物ということじゃないんですか。

H教授―寄生主が植物か動物かで、そういう呼び方をするだけだ。
大体、生物を動物と植物に二分するなんてのは50年以上前の発想だ。
今では、原核生物と真核生物にまず二分する。原核生物は細菌と古細菌に大別、真核生物は単細胞生物と多細胞生物に大別し、多細胞生物になってはじめて動物、植物に分けるのが普通なんだ。
そしてウイルスは、細菌よりはるかに小さく、このいずれにも入らない。ウイロイドというウイルスよりもさらに小さいものもあるそうだ。
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突如、話題はダイオキシン

Aさん―(遮る)わかりました、わかりました。
ところで伝播性、感染力の強さと毒性の強さとは比例していないなんて意外ですね。

H教授―伝播性が強いから毒性も強いだろうというのは単なる錯覚に過ぎない。別に因果関係はない。似たように錯覚される例は他にもある。
例えばダイオキシンだ。ダイオキシンが史上最強の毒物だといって大騒ぎされたのは知っているね。確かに動物実験で測る物質そのものが持つ潜在的な毒性、つまり「ハザード」は大きい。でも、実際にそれが起こって現実の危険となる可能性を表す「リスク」は、ハザードと存在量を掛け合わさって決まるものなんだ。ダイオキシンの場合、その存在量は超微量だから、現実問題として「リスク」がそれほど大きいわけではない【1】

Aさん―だけど、ダイオキシンは発がん性もあるのでしょう。

H教授―じゃあ、発がん性は強いのか?

Aさん―そりゃあそうでしょう。決まってるじゃないですか。

H教授―どうして? 別に因果関係はないだろう。それが錯覚なんだ。

Aさん―うーん(困って)、実際はどうなんですか。
【1】 ダイオキシンのリスクとハザード
第3講(その2、3)「ダイオキシンの虚実」
H教授―前にも言ったじゃないか【2】。発ガン性の有無を決める医学者の会議では、辛うじての過半数で「有」と決まった。つまり、発がん性はあってもそれほど大きいものじゃないと見るのが普通だろう。
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【2】 発がん性評価
第3講(その2)「ダイオキシンの虚実」
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