環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第79講「新たな政策形成回路創出に向けて―わが国の政権運営の行方は」
第78講『日本政府、「中期目標」決定』
第77講「後退する氷河と増大する氷河湖決壊の危機」
第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
第75講「再生するか、国立公園」
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No. 第78講『日本政府、「中期目標」決定』
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Issued: 2009.07.15
H教授の環境行政時評(第78講 その2)
昨年の政権交代―日米の対比
H教授―降りかかる火の粉をかぶる覚悟もなくて、政治家になる方が間違ってるんだ。
ま、それはともかく、福田サンのあとは今の麻生サン。
新内閣誕生直後に、「100年に一度の大津波」といわれる経済危機が世界を襲い、麻生サンは温暖化対策なんてことを考える余裕もなく、それに翻弄されっぱなし。
失言や漢字の読み間違いの続出くらいなら、まだご愛嬌ですまされたけど、思いつきでいろんなことを言ってはすぐ取り消したり、ぶれたりしてリーダーシップのカケラも見受けられなかった。党内閣内からの不祥事も後を絶たなかったし、側近中の側近だった鳩山サンとも「かんぽの宿」問題で袂を分かってしまった。
まさに、ブッシュ政権末期のような状況だ。

Aさん―その米国をみてみましょう。同じ政権交代でも海の向こうではだいぶ違うようですね。昨年末の大統領選挙でオバマさんが勝利しました。国際協調など無視してカウボーイ気取りで世界をひっかきまわし、最後は野垂れ死にのような終わりかたをしたブッシュ政権と異なり、オバマさんは国際協調主義を宣言。環境政策でも、京都議定書を離脱し、温暖化対策に背を向け続けたブッシュさんとは180度異なる、温暖化対策積極論をぶちあげました。
H教授―うん、その極め付きが「グリーンニューディール政策」【7】。大統領就任直後から経済危機・雇用対策としての環境対策を強力に打ち出した。
もちろん米国の不況は依然として深刻で、回復の兆しは見えないけど、オバマさんの支持率はいまだ圧倒的で、麻生サンとは大違いだ。

Aさん―日本でも日本版グリーンニューディールを、と環境省などがいろいろ動いたし、それなりの成果がないわけじゃなかったですけど【8】、麻生サンの主力は目先の人気取りに行っちゃいましたからね。
定額給付金12,000円に、休日の高速道路乗り放題1,000円…。

H教授―うん、さらに旧態依然たる公共事業ばらまき路線など、あれやこれやで補正予算はなんと15兆円! 即自的な民意は喜んだかもしれないが、対自的な民意は完全にそっぽを向いちゃったといっていいだろう。
雇用対策、景気対策として産業構造を環境対応型のものに転換していこう、ビジネスチャンスとしてとらえようという発想が、皆無というわけではなかったんだろうけど、欧米との対比ではきわめて希薄だった。

Aさん―ちょっと話を元に戻しましょう。オバマさんは中期目標も明言したんですね。
【7】 グリーンニューディール政策
第72講(その4)「2009年、霧中の旅」
【8】 日本版グリーンニューディールの取り組みと成果
第76講(その2)「低炭素革命(1)」

H教授―うん、2020年にはGHGは対90年比0%(対05年比△20%)にまで減少させるという新方針を打ち出した。これだけをみれば、大したことはないと言えそうだが、それまでのブッシュ政権はなんと2025年まではGHG排出は増え続け、2025年からは減少させるという方針だったから【9】、ガラッと変わったという印象を与えた。
また対90年比0%というのもまだ可変的で、途上国取り込みのためにはもっとカットということもありうべしということのようだ。
米国のアキレス腱は伝統的に議会との軋轢。クリントン大統領末期のとき、ホワイトハウスではそれなりに温暖化対策をやろうとしたが、議会は全会一致で京都議定書否認にまわったことがあったほどなんだ。
6月末にはC&Tの排出量取引制度創設を軸とする、米国版温暖化対策法案ともいえる「クリーンエネルギー・安全保障法」案が、ギリギリだったけど下院を通過した。
いずれにせよ、この法案が上院を通過できるかどうかが今後のみものになっている。

Aさん―これで日本以外の先進国の中期目標は、ほぼ出揃っちゃったわけですね。
で、日本では、官邸に中期目標を定めるための委員会が設けられたんですけど【10】、今年に入っても環境省・NGOと経産省・産業界の対照的な意見を収斂させることはできず、ついに対90年比+4%から△25%までの6つの案を官邸に提出。麻生総理の政治決断に委ねることになってしまったわけですね。そしてついにその結論が出ました。
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【9】 米国の温暖化対策の傾向
第1講(その2)「キョージュ、温暖化対策を論じて暑く、もとい熱くなる」
第38講(その2)「温暖化四方山話」
【10】 中期目標策定のための委員会
首相官邸>地球温暖化問題に関する懇談会(中期目標検討委員会など)の開催状況
今後の見通し
H教授―日本での政治の極意は、「足して二で割る」ことだと思われてる節があるんだけど、麻生総理が選択したのはまさにその通りだった。
この案に対してはすぐさま中国、国連が反応し、物足りなさを表明した。
また、洞爺湖サミットでは、G8諸国は2050全球GHG半減の長期目標を宣言で明示したが、翌日開かれた主要排出国会議では新興国の抵抗で2050GHG半減は盛り込めなかった。
その轍を繰り返さないために、イタリアのラクイラで来週開かれるG8サミット【11】の宣言案と、その翌日開かれる新興国を含めた「主要経済国フォーラム」の宣言案では、ともに「2050全球GHG半減」に加えて「先進国は少なくとも対90年比80%削減」を入れたらしい。
後者は新興国側をなんとしてもポスト京都で、なんらかの定量的な削減枠組みに取り込みたいとの意図から、先進国側により厳しい表現にしたようだ。
とりあえずはこれがCOP15の前哨戦となるだろう。

Aさん―いずれにせよ12月にコペンハーゲンで開かれるCOP15で、中期目標、いわゆる「ポスト京都」の最終決着がどうなるかが決まるわけですね。

H教授―COP16まで先送りという可能性だってゼロじゃないと思うがね。
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【11】 
G8サミット ラクイラ会議
「中期目標」は京都議定書の二の舞にならないか?

Aさん―日本の中期目標は中国や国連に「低い」って批判されてます――そのこと自体はその通りだと思いますが――対90年比△8%って、そもそも達成可能なんですか。
このカット分はCDM国際排出量取引などの京都メカニズム分や森林吸収分を含んでない、いわゆる「真水」なんでしょう。マトモな政策手段も持ってないのに、そんなことできるんですか。

H教授―おっ、かなりシビアだな。

Aさん―アタシ、10年前の京都議定書と同じになるんじゃないかと心配なんです。
京都議定書のときは日本は産業界の主張を入れて、当初対90年比0%を主張しました。結果的には京都メカニズム・森林吸収込みの対90年比△6%で決着しましたが、最終的にはどうなるんでしょう。
産業界の当初の主張の90年比0%だって、達成できないことは明らかじゃないですか。
08年から12年までの平均値だったら、対90年比+5〜+10%くらいになるんじゃないですか。

H教授―さあ、どうなんだろう。公式には政府は今だって、対90年比△6%は達成可能だという看板は下ろしてないんじゃないかな。日本がもっと不況になって生産活動が落ちれば、排出量も落ちると期待している輩もいないとは限らない。
でも、ま、常識的に言えばキミの言う通りだろうな。でもそれはどうしてだと思う?

Aさん―センセイ、いっつも言ってましたよね。技術革新にだけ頼っていて、一向に社会的経済的構造を変えようとしないからだって。
10年前から環境税は“検討する”をひたすら繰り返しているだけ。国内排出量取引制度はようやく昨年秋から試行が始まった程度で、世界の取引市場とのリンクなんていつになるか見当もつきませんよね。自然エネルギーの固定価格買取制度もようやく太陽光発電に限ってだけの小規模なものがはじまっただけ。世界の流れからは圧倒的に遅れています。

H教授―だから、それはどうしてなんだ。
別に「低炭素社会」だけではなく、「循環型社会」、「自然共生型社会」、「持続可能な社会」、「生物多様性保全」とかいろんなことが言われ、基本法ができたりして、理念としてはかなり一般化しているけど、GHG削減策に典型的なように、所詮はお経の文句って感が拭えない。一体、それはどうしてなんだ。環境税を導入すれば、そしてその税額を上げれば、GHG排出抑制ができるのが確かなのに、どうしてやらないんだ。

Aさん―うーん、どうしてでしょう。どうしてなんですか。やはり民意が大して望んでないからでしょうか。
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