環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第79講「新たな政策形成回路創出に向けて―わが国の政権運営の行方は」
第78講『日本政府、「中期目標」決定』
第77講「後退する氷河と増大する氷河湖決壊の危機」
第76講「低炭素革命雑感 ─附:漂着ごみの行方」
第75講「再生するか、国立公園」
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No. 第78講『日本政府、「中期目標」決定』
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Issued: 2009.07.15
H教授の環境行政時評(第78講 その3)
日本の社会構造を変えるために

H教授―そりゃそうには違いないが、そう言ってしまえば、実も蓋もない。それに世論調査などでは一応は望んでいるということになっている。だから、日本でなぜできないかを、もう少し、社会の構造として考えてみようじゃないか。
まずは経済成長の鈍化やマイナス成長が死ぬほど恐い。シビアな環境対策を産業構造に組み込み、ビジネスチャンスにしようなんて姿勢がまるでない。
そして各省各部局、いやそれだけでなく自治体から民間大会社までを貫いている、内部構造としての横並び主義で、それが結果としての現状維持につながってしまう。
ある政策を推し進めようとするとき、やり方の一つは補助金などのオカネとヒトだ。でもいろんな省庁部局にはすべて族議員がくっついていたりして、一つの政策や一つの省庁部局に突出した予算や人員をつけるわけにはいかない。
だから結局のところシーリング体制、省庁一斉横並びの対前年比何%の世界になってしまう。これは予算だけじゃない。定員だって、税の減免だって同じ力学が働き、掛け声とは裏腹に抜本的な変革ができない仕組みになっている。
民間だって基本的に同じだ。「赤信号、みなで渡れば恐くない」って奴なんだ。

Aさん―民間はともかく、役所だったら、そんなのソーリにリーダーシップがあればできるんじゃないですか。

H教授―例えば予算を考えてみよう。ある政策に何兆円なんて予算を投入しようとすれば、大増税すれば別だけど、財源が限られているから、逆に何割も予算を削減しなきゃいけないところがいっぱい出てくる。
そりゃあ、削られる側は必死の抵抗をするだろう。ボクが役人だってそうするさ。
そしてソーリが常識人というか凡人だったら、理論武装されて攻められりゃ、対抗できないだろう。

Aさん―ぷっ、要するに非常識な人間がソーリだったら変えられるかもしれないって訳ですね。

H教授―そんなことは言ってない。確固たる信念とそれへの揺るぎない国民からの信頼がよほどなければ、平時に予算をがらっと変えることはきわめて難しいんだ。
つまり予算面からの横並び主義は変えるのが難しく、それが閉塞感を生み、コイズミさん流のコーゾーカイカクへの期待が国民的に高まったんだ。
でも、コイズミさんだってこの面では結局大したことは何もできなかった。
もちろん、これは予算だけじゃない。定員にしたって、税制にしたって、権限にしたって、すべて同じ力学が働いている。
でも平時の予算を大きく変えるのは難しくとも、補正予算ならば話は別だ。
ところが、麻生サンはこの補正予算15兆円で旧態依然たる目一杯のバラマキをしちゃった。
目玉のはずの「日本版グリーンニューディール」が――中身についてはボクは異論があるけど【12】――15兆円の一割にしか過ぎないということが、すべてを物語っている。

Aさん―じゃ、どうすればいいんですか。
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【12】 「日本版グリーンニューディール」に対するキョージュの異論
第76講(その1)「低炭素革命(1)」
第77講(その3)「間近に迫る日本の中期目標選択とキョージュの転向」
逆転の発想を!

H教授―ひとつの解は高級官僚の政治的任命制度だけど、これは危険な側面も持っている【13】
また、ボクは予算編成についても革命的な案を言ったことがあるんだけど、読者の反応は皆無だった。
つまり、「各省ごとに義務的経費を除いて、公共事業やその他の政策的経費については最低限50%は各省が自発的にカットする。その代わり、カット分の3分の1は各省に戻して、各省の責任で自由に予算編成できるようにして、査定もしない。残りの3分の1は各省の縄張りを越えた政治予算にし、公募方式で各省に競争させる。残る3分の1を借金返済に充てる」というものだったんだけどねえ【14】

Aさん―フィフティフィフティ方式【15】の変形みたいな案ですね。

H教授―人事システムについても、法文系キャリア優位のもとでシマごとに縄張りが決まっている現状について、「シマ内部に自浄のためのシステムは存していない。自浄システムを内部にビルトインする唯一の現実的な手段は、不祥事を起こした者のポストはすべからく他のシマで埋める」と喝破したつもりだ【16】。ボクは枡添サンは個人的には好きじゃないけど、今度の医政局長と保健局長の人事については、ついにその聖域を打ち破ったという意味では評価している。

Aさん―センセイが法文系キャリアで、同じことを言ったら評価できるんですけどねえ。

H教授―(無視して)縦割りの是正についても「各省庁は縦割りになってるんだから、(首相)補佐官がいくつもの省庁に関連しているなんらかのシングル・イシュー、つまり単一課題を担当し、それで各省を横に串刺しするようにすりゃあいいんだ。そして補佐官ひとり当たりスタッフを最低でも何十人か付けて、そのシングル・イシューに関する指揮命令権を持たせりゃあ少しは変わるかもしれない。例えばバイオマス担当補佐官とかね。ことバイオマスに関する限り、農水省も経産省も環境省も、担当官はそこの大臣よりも担当補佐官の指示を優先するシステムでも作らなきゃあ、動きっこない。最終的にはすべての役人は縦の序列で動くとともに、新たにできた横の系列からの指示にも従わなければならないようにすればいい」と言った【17】けど、これも決してできない話ではない。
つまり、抜本的な政策転換を行うには、それを受容し駆動する基礎となるような、システムというか、組織原理のようなものや、<常識>をもう一度見直す必要があるんだ。
【13】 高級官僚の政治的任命制度
第76講(その2)「脱線―ポリティカル・アポインティーについて」
【14】 予算編成に関するキョージュの革命的な提言
第48講(その1)「07年度政府予算案決定」
【15】 フィフティ・フィフティ方式
第59講(その3)「カーボン・オフセットとフィフティ・フィフティ」
【16】 官僚の人事システムの現状と課題
第21講(その3)「環境行政の人的側面」
【17】 省庁縦割りの是正について
第46講(その1)「安倍政権の滑り出し」

Aさん―例えば?

H教授―ボクは何度も言ってるぜ、手近なところではオリンピックの開催時期をズラせというのだってそうだ【18】
公共料金体系を環境負荷がもっとも少なくなるようにガラッと変えるというのも何度も言っている。
「権利」と「義務」を時によっては逆転させろっていうのもそうだ【19】
また、これだけネットとケータイが普及してきたんだから、サラリーマンの勤務の過半は在宅で可、あるいは在宅を義務付けるなんてすると、労働のイメージもガラッと変わるし、都市の難問のかなりの部分が解決できる。
少子化をホントに憂うんなら、私生児優遇策をとりゃあいいんだ。現にフランスはそうしている。
こういう大胆な発想でもって、いろんな世の中のシステムをもう一度見直すんだ。

Aさん―(小さく)アタシャ、大学院の指導教員をまず見直すかなあ。
【18】 抜本的な政策転換のために、組織原理の<常識>を見直す
第67講(その4)「「とりまとめ予算」の謎」
【19】 権利と義務の逆転
第76講(その2)「バカンス革命?」

H教授―中期目標に話を戻せば、意味のある中期目標にするためには、いずれにしても、そうしたシステムの根本的な見直しを行い、新たな政策転換を受容させる仕組みづくりが必要だし、それには十分な検討と周知と準備の期間が必要だ。
さらに価値観を根底的に転換させるには10年でも足りないくらいだが、温暖化対策は待ったなしだから、本格的な削減は2020年からということにする。
だから今決めるのは、2050年対05年比80%減、あるいは95%減をゴールとしての、2040年と2030年の目標。そしてそれが未達成のときに世界に示す覚悟のほどだ。なけなしの外貨を、未達成率に応じて世界にドーンと拠出することを宣言する【20】
またもや京都議定書の二の舞みたいなことになれば、スッテンテンの裸になると宣言する。
こういうふうに、自らをがけっぷちに追い込んでしか、太平洋戦争敗戦のときのような大転換はできないだろう。(大演説)
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【20】 意味ある中期目標を打ち出すための“覚悟”
第77講(その3)「間近に迫る日本の中期目標選択とキョージュの転向」
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