環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
トップページへ
第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
第82講「友愛か憂曖か―苦悩する鳩山政権」
第81講「鳩山革命の行方は?」
第80講「政権交代と環境政策」
第79講「新たな政策形成回路創出に向けて―わが国の政権運営の行方は」
メルマガ申し込み 会員登録 ヘルプ サイトマップ
国内ニュース 海外ニュース イベント情報 環境Q&A 機関情報 環境リンク集 環境用語集 ライブラリ 森づくり宣言
No. 第82講「友愛か憂曖か―苦悩する鳩山政権」
page 4/4  123
4
Issued: 2009.11.11
H教授の環境行政時評(第82講 その4)
温暖化対策と自治体

H教授―それと自治体の役割が大きく変化するんじゃないかな。

Aさん―と、いいますと?

H教授―今までは自治体の温暖化対策というのは、普及啓発にパフォーマンスぐらいしかやることがなかった、というか、やれなかった。
規制にしても税による誘導にしても、ツールを持っているのは国。その国が産業界に弱腰だったから、厳しい態度を取れたのは国に依存しない財政基盤を持つ東京都ぐらいだった。
でも、これからは圧倒的な支持率を背景に、政府は大工場などに対して、本格的に厳しいキャップを課していくと思う。
となると県に期待される役割は?

Aさん―あ、そうか。国のキャップがかかっていない規模の発生源に対する、キャップ&トレード規制ですね。

H教授―そうだな。ただ、それだけじゃないと思う。
さっきも言ったように、政府は温暖化対策税を導入すべく検討をはじめたが、国税だけじゃなく、地方税部分もあるかもしれない。
鳩山内閣のキャッチフレーズは「地方主権」だ。だとすれば、現在は自治体が厳しい制約を受けている徴税権についても、大幅に認めるようになるかもしれない。
そうなれば、税を武器に自治体の創意工夫で、いろんなことが可能になるかも知れない。
あと、市町村は?

Aさん―県がキャップ&トレード規制する規模以下の発生源に対する、キャップ&トレード規制ですかねえ。

H教授―うーん、それができる技術スタッフのいる市町村は少ないと思うぞ。
国や県のキャップ&トレード規制は、当然国内CDMも認めるだろう。となると、そういうCDM案件の発掘と仲介にこそ、もっとも現場を知っている市町村の役割があるんじゃないかな。

Aさん―都市部の市町村だと中小工場、中山間部の市町村だったら吸収源―森林の整備―の発掘というわけですか。

H教授―無論それだけじゃあない。
「見える化」対策を進めた事業所への、税制上の優遇措置だとかの、きめ細かい、そして、それこそ抑制効果が定量的に測れる施策が、市町村に求められるようになると思う【15】
 ページトップ

【15】 見える化対策に向けた優遇措置
第66講(その1)「福田ビジョンの可能性と限界」
FITとマイクログリッド、スマートグリッド
Aさん―あとの施策としてはFITですね。鳩山内閣は大幅に拡充するんでしょう?

H教授―民主党の「政策INDEX」にはそうなっているが、まだ具体案は見えない。
それより太陽光発電に関してだけ、麻生内閣が限定的ながらFITを導入した。今年の7月1日に成立した「エネルギー供給構造高度化法」というんだけど、太陽光発電に限り、余剰分を従来のRPS法で買っていたものの2倍の値段で電力会社が買うというものなんだ【16】
その告示が衆院選翌日の8月31日で、施行が11月1日、つまり明日。
ところがそれに伴い、小型風力発電などはRPS法での買い取り価格が、半減することになるという。

Aさん―だって、この制度の拡充を公約していた民主党政権ができるのが、事前にほぼ分かっていたんでしょう。だのに、選挙翌日に告示するなんてのは、あまりにもひどい話ですねえ。
太陽光発電だけじゃなく、すべての自然エネルギー、再生可能エネルギーによる発電に拡大すべきだし、余剰分だけでなく、全量買取にすべきでしょう。
【16】 RPS法とエネルギー供給構造高度化法
第70講(その1)「経済危機と温暖化対策」
固定価格買取制度(フィードインタリフ制度)入門

H教授―うん、ただそうなるとそのコストは電気料金に加算される。ダメージを受ける貧しい人々への影響を少なくするように、料金体系の変更も考えなくちゃいけない。
それに日本は自然エネルギーのなかで太陽光発電だけを重視していて、温暖化対策としてはむしろ原子力重視だね。このあたりの感覚が少しずれている。
環境省は川内原発の増設で、アセス法【17】に基づいて、「原発の最大限の活用を」という大臣の意見書を出したそうだ。
社民党首の福島サンはこれに反発するなど、ここでも不協和音を奏でているし、ボクも放射性廃棄物問題など別の未解決の問題を抱えているから疑問に思うけどね【18】

Aさん―欧米では主力はむしろ風力発電ですよね。

H教授―うん、日本だって北海道なんかでは風力発電は随分発電可能なんだけど、RPS法がガンになっていて、北電は一定量以上の買取を拒んでいる。
RPS法は、本来コストの高い自然エネルギーの一定量を、電力会社に買い取り義務を課すことで、その普及を図るはずなんだけど、その義務量がわずか1%台で、それをオーバーしているからっていって買い取らないんだ。
米国では買い取り義務量は州によって違うけど、発電量の10〜30%。それがおしなべて1%台の日本はあまりにもお粗末というしかない。
ま、FITを導入するということは、RPS法を廃止するんだろうけど。
【17】 アセス法
第2講(その3)「ミテイゲーション私論」
【18】 川内原発の増設
第18講(その5)「原発のリスク」

Aさん―でも、風力発電は風が吹かなければダメですし、太陽光発電は夜や曇り、雨の日はダメですよね。不安定な電源ですから、電力会社としては質の悪い電気ということになるんじゃないですか。

H教授―それはそうだ。蓄電技術が進めばいいんだけど、現状ではイマイチのようで、そのコストも高い。
先日、S先生に教えてもらったんだけど、ある程度の広い地域全体で、そういう自然エネルギーによる発電ネットワークを作ればいいんだそうだ。
風力がダメなときは太陽光が、太陽光がダメなときは風力が発電するだろうし、両方ダメなときは買電し、両方OKなときは売電し─というようにすればいいんだ。
これがマイクログリッド、分散型電力網とでもいえばいいのかな。こういうものを各地に市民参加で立ち上げていけるといいんだけどねえ。

Aさん―日本だと急流が多いから、小型水力もいいんじゃないですか。

H教授―うん、それはそうなんだけど、水利権の問題があって、それを解決するのが結構たいへんらしい。地熱発電は景観破壊のうえ、スケール(垢)がパイプにくっついて詰まってしまうという問題があるし、温泉への影響も心配。バイオマスは利用のメドがない間伐材や廃材は山ほどあるが、一定の質をもったものを回収するにはコストがかかってしまう。自然エネルギーではないが、新エネルギーとされるごみ発電は効率が悪い。
一言で言うと、どの自然エネルギーも一長一短、帯に短し襷に長しといったところで、だからこそその弱点をお互いに補うようなマイクログリッドをつくればいいんだ。

Aさんスマートグリッドという言葉もよく聞きますが。

H教授―オバマさんがしきりに進めようとしているやつだね。
大規模な系統電力に高度なIT技術で通信・制御システムを組み込んで、効率的に電力を安定供給し、状況に応じて使用電力自体も制御しようとするものだ。で、そのために開発されたのがスマートカード。
これもさきほどのS先生の受け売りだが、米国は電力については供給量と需要量の差が小さいところから編み出された苦肉の策らしい。需要量が供給量に近づくと、電力料金がはねあがり、需要を落とすよう誘導したりすることができるらしい。

Aさん―日本はどうなんですか。
H教授―先年の柏崎・刈羽原発が地震でダウンしたときは、大口需要者の需要を抑えるのに駆けずり回ったことがあるけど【19】、一般的には日本では供給余力が結構あり、需要サイドを押さえる必要が少ないらしい。

Aさん―じゃそんなものを導入する必要はないということですか。

H教授―いや、ボクはこれからの日本では総需要をなんとしても抑えることが必要だと思う。だからこそ、日本も見習わなくちゃいけない。
もっとも日本は9電力体制で、電力会社間で融通しあうラインが細いという問題があるし、しかも東日本と西日本では周波数が違うという大問題があり【20】、その問題をなんとかするほうが先決かもしれない。
 ページトップ

【19】 柏崎・刈羽原発の停止と大口需要者の需要抑制
第56講(その1)「日本の一番暑い夏」
【20】 東日本と西日本の周波数の違い
第73講(その1)「日本版グリーン・ニューディールは可能か?」
SEAの試行―高速道路無料化

Aさん―世論は決して支持してないと思うんですが、高速道路の無料化をやはり鳩山内閣は断行しそうですね。

H教授―マニフェストは国民との約束だからというんだけど、世論調査なんかではネガティブな意見が多い。
これについては民主党の公約の一つであるSEA、つまり戦略アセス【21】をやってみるべきだね。

Aさん―アセスって公共事業や開発計画についてのものなんじゃないですか。
そしてそれを構想段階の早い時期にやるのがSEAじゃなかったですか。
環境省のSEAガイドライン【22】でもそうなってましたよ。

H教授―SEAはPolicy, Plan, Programについてやるものという定義がなされている。
高速道路無料化なんて、環境に最も影響のあるPolicyじゃないか。SEAの試行にもってこいのケースだと思うけどねえ。

Aさん―あと、生物多様性COP10が来年名古屋で開催されますけど、こちらの方の動きも急ですね。今月には「神戸生物多様性国際対話」が開かれたし、環境省も「ポスト2010年目標日本提案」素案というのを発表しています。

H教授―もう時間がない。それは次回にまわそう。

Aさん―あ、ところでセンセイ、まだ禁煙は続いているんですか。
【21】 戦略的アセス
第17講(その1)「SEAと立地地点選定」
【22】 SEAガイドライン
第51講(その3)「SEAガイドライン」

H教授―うん、もう4ヶ月になる。

Aさん―よかったですねえ。税収不足を補うため、タバコは大幅に値上がりしそうですよ。
タバコ一箱500円とか1000円時代が来そうです。いいときにやめましたよねえ。
ホント悪運強いのにはあきれちゃうわ。オカネが随分浮いたでしょう。今度たっぷりご馳走してくださいね。

H教授―…(浮かぬ顔)。

Aさん―どうかしたんですか。

H教授―タバコをやめたら、またまた腹が出てきて、ズボンが全部合わなくなっちゃった。かえってカネがかかりそうなんだ。

Aさん―だったら、せっせと運動して、脂肪を燃焼させればいいじゃないですか。

H教授―うん、で、ウォーキングを始めたんだ。そうしたら今度は腰痛になっちゃって、通院するのにまたカネがかかるんだ。

Aさん―…。
 ページトップ
page 4/4  123
4

(平成21年10月31日執筆、11月4日編集了)
註:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。
Copyright (C) 2004 EIC NET. All rights reserved.