環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第84講「2010年新春呆談―平成維新のその先は?」
第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
第82講「友愛か憂曖か―苦悩する鳩山政権」
第81講「鳩山革命の行方は?」
第80講「政権交代と環境政策」
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No. 第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
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Issued: 2009.12.04
H教授の環境行政時評(第83講 その2)
COP前夜1 ─出揃った各国の数値目標

Aさん―それはそうとCOP15の開幕まであと1週間ですね。

H教授―うん、だいぶ各国の反応も出揃ってきた。
2050年の長期目標では、来日したオバマさんとの首脳会談で、日米は2050年80%カットを目標とすることで合意しているし、先進国全体でも80%カットということでほぼ同意は取り付けている。
だからCOP15の焦点のひとつは、2020年の中期目標なんだ。対90年△25%の日本、同じく△20%のEU以外の各国の対応も、ほぼ明らかになってきた。

Aさん―米国は05年比で△17%ですね。対90年比では△4%どまりですか。

H教授―最終的には、05年比△20%という可能性も残っているんじゃないかな。
上院で審議されていて難航している法案では、△20%だそうだ。
オバマさんは精力的に中国、インドと協調外交をとっており、COP15では自らも出席し、交渉のヘゲモニー(hegemony=覇権)をとろうとしているようだ。

Aさん―その中国、インドはどうなんですか。

H教授―中国ははじめて排出削減目標を明示した。
2020年までに、GDP当たりの排出量の05年比40〜45%の削減を目標とするとのことだ。
単位GDP当たりだから、絶対量では多分増加することになるだろうし、45%の削減ができたとしても、単位GDP当たり排出量は現在の日本より多い。だけど、まずはこういう数字目標を示しただけでもよしとしなければいけないだろう。
もっとも「国情に即した自発的措置」で、義務付けられることには相変わらず難色を示している。

Aさん―インドは?

H教授―インドも「おおまかな目標数値」を定める方針らしいが、公式発表はまだない。いずれにせよ中国と同じで、法的拘束力のある目標にされるのには反対のようだ。

Aさん―その他の国はどうなんですか。カナダは反温暖化政権だと聞きましたが。

H教授―カナダのハーパー政権は温暖化対策に後ろ向きで知られているが【3】、さすがに風向きには逆らえないと思ったのか、COP15には参加するそうだ。
カナダ連邦議会は、法的拘束力はないものの90年比で△25%という動議を採択したが、ハーパー政権は06年比で△20%を目指すそうだ。これは90年比では△3%にしかならないんだけど、強い自治権を持つケベック州は、EUに右倣えするそうだ。
【3】 カナダ・ハーパー政権の温暖化対策
第38講(その2)「温暖化四方山話」

Aさん―逆に反温暖化政権から、温暖化対策に熱心な政権に変わったオーストラリア【4】はどうなんですか。

H教授―オーストラリアは、対05年比で5〜25%削減するとの法案が審議中。この数字は対90年比でもほぼ同じだそうだ。
隣国のニュージーランドは、対90年比で△10〜15%を表明している。
ロシアは対90年比△15%としていたが、このほど△20〜25%に引き上げるのに同意したそうだ。
もっとも大胆な削減を表明しているのはノルウェーで、対90年比△30%だけど、△40%に引き上げることも検討しているそうだ。

Aさん―大体そんなところですか。

H教授―新興国もいろんな動きが出ている。
ブラジルは何も対策をとらなかった場合の推定排出量に比べて、36〜39%カットすると発表した。これまで難色を示していたアマゾンの森林伐採の削減量の数値目標も明示した。
インドネシアも熱帯雨林の伐採抑制により、26%カットを表明し、国際支援が広がれば41%まで目標を引き上げるそうだ。
韓国も何も対策をとらなかった場合の推定排出量より30%カットを目指すそうで、これは対05年比△4%に相当する。
メキシコは2012年までに現在より8%カットするとしている。
南アフリカだけは、今のところ削減目標は発表していないようだ【5】

Aさん―対90年比と対05年比が入り混じったり、「何も対策をとらなかった場合と較べての削減率」だとか、単位GDP当たりの削減率だとか、いろんな尺度があって、わかりにくいですね。対比できるようにしてほしいわ。
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【4】 温暖化対策に熱心な政権に変わったオーストラリア
第59講(その2)「温暖化をめぐる攻防―バリを目前にして」
【5】 各国の温室効果ガス削減目標
本文の記述は下記に拠っている
 FAPBB News「COP15目前、各国の温室効果ガス排出削減中期目標」
COP15前夜2―なにが論点か

H教授―そこが外交上の駆け引きというやつなんだろう。
問題はどういう政策手段で削減を目指すかだ。バナナの叩き売りのように数字だけは勇ましいけど、実際に削減されなければどうしようもない。
そういう意味では、どういう政策手段で削減していくかという道筋を明らかにしてほしいし、未達成の場合のペナルティの強化も必要だろう。

Aさん―あとGHG(温室効果ガス)の排出抑制はいいんですけど、エネルギーの総需要抑制のような将来ビジョンを掲げているところはないんですか。
いつもセンセイが言ってますけど、エネルギー需要を抑制せず、技術革新だけでGHGを大幅カットなんて、そもそも不可能じゃあないんですか。

H教授―ボクはそう思うけど、ロンボルグなら可能というだろう【6】
北欧かどっかの国で、そういう長期計画を掲げた国があったような気がするけど、記憶が定かでない。
つまり、残念ながら依然として、世界のほとんどの国では、その不可能なことを掲げているようだ。
【6】 ロンボルグなら可能というだろう…
第12講(その2)「ロンボルグの波紋」

Aさん―そうか、日暮れてなお道遠しですね。
ところで、ブラジルやインドネシアは、森林伐採の抑制ということを言ってますね。

H教授―うん、来年度は生物多様性COP10の年でもあるし、熱帯雨林の保護は真剣に考える必要がある。
IPCCの報告書でも、世界の人為的なGHG排出量の内訳は、化石燃料が57%、森林減少に由来するものが17%と試算していて、REDD(Reducing emissions from deforestation in developing countries)と呼ばれる途上国での森林減少の防止のための仕組みを考える必要があるとされている。

今の京都メカニズムでは、植林・再植林しかCDMと認めてないが、森林の維持管理のようなものも認めてしかるべきだと思うな。

Aさん―あとは途上国への支援の強化策ですね。

H教授―うん、京都議定書第一約束期間である2012年までの途上国支援に、気候変動枠組条約のデブア事務局長は100億ドルが必要だと言っている。
EUは年75億ドルから100億ドル必要だとしていたが、EUの拠出額は明示していないし、それどころか、リーマンショック以降、EU内で意見の対立が見られるようだ。

Aさん―アイスランドが破産し、ドバイも危ないそうですから、そういう全球的な不況の中では無理ないかも。日本はどうなんですか。

H教授―日本は鳩山イニシアティブ【7】として、2012年までの3年間に90億ドル、つまり8,000億円を拠出するとしている。

Aさん―ひぇえ、太っ腹ですね。事業仕分けにかけなくていいのかしら。

H教授―もっとも日本は、それ以前の福田内閣のときに「クールアース・パートナーシップ」として相当額の支援を表明していて、それに少し上乗せして衣替えしたというのがホントのところだけどね。
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【7】 鳩山イニシアティブ
第81講(その1)「鳩山イニシアティブ」
COP15前夜3─不況によりCO2排出量急減

Aさん―ところでGHGの排出量は、リーマンショック以降の経済不況で相当減少したんじゃないですか。

H教授―GHG全体はどうか知らないが、08年の世界のCO2排出量は、国際研究チームの発表によると、炭素換算で87億トンで、07年より2%増加しているそうだ【8】。09年には減少しそうだとのことだけどね。

Aさん―日本はどうなんですか。

H教授―10月末に経済産業省が発表したエネルギー需給実績(速報)によると、08年のエネルギー消費は前年度比で6.8%減少、CO2排出量も6.7%減少したらしい【9】
経団連によると、製造業とエネルギー産業からのCO2排出量は、前年度比で10.5%も減少したんだけど、それでも対90年度比は7.4%増となっている。

Aさん―じゃあ、京都議定書の△6%は達成不可能ですね。
【8】 世界のCO2排出量は、炭素換算で87億トン、07年より2%増加
国内ニュース「世界金融危機にも関わらず 過去最高 CO2排出量一人当たり年間1.3トン!」
【9】 エネルギー需給実績(速報)
経済産業省「平成20年度(2008年度)エネルギー需給実績(速報)」

H教授―いや、ところが今月に入って環境省が発表した08年度のGHG排出量の速報値では、温暖化係数の高いメタン代替フロンが大幅に減ったせいで、GHG全体としては対90年比で1.9%増加にとどまるらしい【10】
政府は森林吸収と排出権購入で5.4%を充てることとしている。だからGHG排出量は対90年△0.6%が目標だったので、2.5%分だけが不足することになる。
電力業界が自主目標達成のために、海外から購入した排出権を、それに充当することで、初年度は辛うじて達成ということになるそうだ。

Aさん―でも不況だから達成というのは、あまり喜ばしいことじゃないですね。

H教授―まったくだ。やはり問題は環境税だとか自然エネルギー固定価格買取制度国内排出量取引制度をいかにうまく制度設計し、導入するかだろうね。
環境税はすでに2兆円程度の税収を見込む環境省案が出ていて、今税調で議論しているところらしい。
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【10】 
国内ニュース「2008年度の日本の温室効果ガス総排出量速報値を公表、基準年比1.9%増に」
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