環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第87講「鳩山内閣誕生から半年」
第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
第85講「2010年、環境政策始動 ―温暖化対策基本法制定とアセス法改正に向けて」
第84講「2010年新春呆談―平成維新のその先は?」
第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
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No. 第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
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Issued: 2010.03.04
H教授の環境行政時評(第86講 その1)

Aさん―センセイ、大変です。チリで大地震、マグニチュード8.8ですって。何百人もの犠牲者が出ています。

H教授―うん、亡くなられた方にはお悔み申し上げるし、被災者の方には心からお見舞い申し上げよう。
日本でも津波が広い範囲で観測された。幸い、大被害にはならなかったが。

Aさん―ただの津波警報じゃなく、大津波警報ってあったんですね。知らなかったわ。

H教授―うん、ボクもはじめて知った。
ところでチリへの災害救助は迅速かつ的確にやってほしいねえ。ハイチのときのような後出しジャンケンはみっともないからね。
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このままでは2度上昇の範囲に抑えることは困難との見通し

Aさん―さて、本論ですが、温暖化では、何か動きはありましたか。

H教授―まあ、一番ホットな話ではあるから、動きがあるのは当然だ。でも、毎回毎回温暖化の話題じゃああきてくるから、ごく簡単に国際的な動きと国内の動きを見てみるにとどめよう。国際的な動きの方をひとつ挙げるとすれば?

Aさん―その前にひとつだけ。オランダの低地率、つまり海水面より低い陸地は26%なんですが、IPCC第四次報告書ではそれが55%と間違って記載されていたということが発覚しましたね。

H教授―ふふ、ほんとに仕方がないねえ。みな鵜の目鷹の目でみているんだから、こういうケアレスミスは徹底的にチェックする必要があるね。
ところで世界には内陸部に海水面より低い地域がいくつかある。死海、カスピ海や米国のデスバレー、豪州のエーア湖等々だけど、驚いたことに、中国の思いっきり内陸部、新疆ウイグル自治区のトルファン盆地がそうで、海抜マイナス154mだって。

Aさん―そんなどうでもいい雑学をひけらかせないでください。
さて、コペンハーゲン合意に基づき、各国が1月末までに2020年に向けての削減計画を提出、その削減計画を前提に、世界のいくつかの研究機関が計算した結果をUNEPが発表しました【1】
現在の温暖化対策の前提は2050年までに産業革命前からの温度上昇を2度以下にとどめようというものでしたが、UNEPの報告書によると、現在の削減計画では不可能になるというものでした。

H教授―うん、50%の確率で「2度以内」を達成するには、2007年時点で約290億トンとされる世界の温室効果ガス排出量を、20年に400億〜483億トン(二酸化炭素換算)に抑え、さらに50年まで毎年3%ほど削減していく必要があるんだ。
ところが各国・地域が条約事務局に提出した中期目標をもとに計算すると、20年に排出される温室効果ガスは世界で488億〜512億トン(同)で、削減量が数十億トン足りない見通しとなったということだ。
もちろんいろんな仮定を置いての推計だけどね。
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【1】 コペンハーゲン合意に基づく各国の2020年削減計画
海外ニュース「55カ国が2020年までの温室効果ガス排出削減目標を提出」
温暖化対策基本法制定?

Aさん―(困惑して)国内の動きの方なんですけど、なんだか、一向に進んでいるように思えないんですけど。

H教授―うん、まず国内での削減目標が依然として定まっていない。
つまり、「2020年に25%カットする」っていうんだけど、これ自体条件付なのはさておくとしても、国内対策でどれだけカットするのかの目標値、つまり真水分が決まっていない。
環境大臣は15%から25%の間で検討すると言っているけど、実現可能な目標値でなければいけないし、他省庁や産業界からの異論続出で、いつまでにどういう方法で決めるのかがどうにも見えてこない。

Aさん―でも温暖化対策基本法が決まるんでしょう。前講でそうおっしゃいましたよね【2】

H教授―うん、環境省案は固まったようだ。2020年の再生可能エネルギー供給目標は一次エネルギーの10%としていたが、その後さらにアップ、「最終エネルギー消費の20%程度」とするようだ。
ただ、温暖化対策基本法の根本的な部分で政府部内でも異論が出て、調整が難航していたようだ。今でも難航しているのかもしれないが。

Aさん―何が一番の問題なんですか。
【2】 温暖化対策基本法の制定
第85講(その1)「温暖化対策基本法創設へ」

H教授―そもそも2020年目標の25%カット自体が条件付になっている。つまり25%というのは「公平かつ実効性のある国際的な枠組構築と積極的な目標の合意」がなされるという国際的な条件というか前提のもとでの、中期目標だ。
その前提が満たされるかどうかわからないし、今も言ったように真水分も決まらないのに、キャップ&トレードのキャップが設定できるかという問題だ。
また、政府予算案作成過程で財源問題が深刻化。消費増税の議論も出てきたから、温暖化対策税についてもそもそもの位置づけから考え直すという方向だって出てくるかもしれない。

Aさん―ということは、温暖化対策基本法が決まるのはもっと先になるということですか。

H教授―わからない。
でも2月24日付けの新聞では3月5日に法案を閣議決定の予定とあったから、水面下で調整がついたのかもしれない。
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「ポスト2010年目標」に向けて

Aさん―で、今回のメインディッシュは?

H教授―今年は生物多様性条約COP10が10月に名古屋で開催されるので、それに関連する話題でいこう。

Aさん―このCOPは隔年開催ですよね。COP10は何が特別なんですか。

H教授―うん、2002年のハーグで開かれたCOP6で「2010年目標」というのを定めた。
「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」というもので、7つの目標分野で、11の最終目標が設定されている。また、これらの目標分野ごとに、2010年目標の進捗状況を評価するための指標案が整理・提示されているんだ【3】
今年はまさにその目標年にあたるんだ。

Aさん―そうか、すると「ポスト京都」じゃないけど、「ポスト2010年目標」、つまり新たな目標も議論することになるんですね【4】
【3】 2010年目標
第83講(その3)「生物多様性COP10に向けて」
【4】 ポスト2010年目標
生物多様性条約ポスト2010年目標 日本提案(平成21年度中央環境審議会自然環境・野生生物合同部会 第4回生物多様性国家戦略小委員会 資料3)
環境メディア「20年までに種の絶滅防止=保全目標、COP10で議論−条約事務局案」

H教授―うん、そしてカナダのモントリオールにある条約事務局の作成した「2020年目標」の原案が明らかになったそうだ。

Aさん―へえ、どんな原案なんですか。

H教授―「生物への脅威を減らし、種の絶滅を防ぎ、生態系の復元を目指す」としているそうだ。

Aさん―なんだか、随分抽象的ですね。

H教授―ま、そう早まるな。で、達成のための具体策として「陸域や海域の少なくとも15%以上を保護区(保護地域)とする」だとか、「生物多様性を損なうような事業への補助金を廃止する」だとかの20項目を挙げているそうだ。
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「生物多様性国家戦略2010」まもなく決定

Aさん―日本の国内の動きとしてはどんなもんがあるんですか。

H教授―COP10に向けて、生物多様性国家戦略の改正案、つまり「生物多様性国家戦略2010」がほぼまとまった。
まもなく中環審からの答申がなされ、閣議決定される手筈だ。

Aさん―へえ、その「国家戦略2010」はどんなものなんですか。

H教授―全文(案)は環境省生物多様性センターのホームページで紹介されている【5】
例によってお経の文句みたいなものが多いんだけど、目新しいところとして「海洋生物多様性保全戦略」を策定するとしている。また、それだけでなく「海洋保護区」を設定する方向のようだ。

Aさん―先日、海域の保全強化のために自然公園法を改正しましたが【6】、そのことではないんですか。
【5】 生物多様性国家戦略2010(案)
全文
概要
【6】 自然公園法改正と海域の保全強化
第75講(その3)「自然公園法の改正と海域保護の課題」

H教授―いや「海洋保護区の設定の推進や、自然公園法自然環境保全法の改正を受けた海洋の保全・再生の取組を強化する」としているから、また別だろう。具体的にどの程度まで設定の検討が進んでいるかは知らないが、海洋基本計画でも明記している【7】
あと、第三次国家戦略では、「第二部 行動計画」で、今後5年間の具体的施策660と数値目標34を挙げている【8】。「戦略2010」では、660を720に増やし、数値目標を35に増やすそうだ。

Aさん―へえ、その中身は?

H教授―原文を読んでくれ。第三次国家戦略からの見え消しで表記している。
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【7】 海洋基本法と海洋保護区の設定
第70講(その2)「海洋保護区の設定、検討開始」
【8】 第三次生物多様性国家戦略
第57講(その3)「第三次生物多様性国家戦略案まとまる」
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