環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第87講「鳩山内閣誕生から半年」
第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
第85講「2010年、環境政策始動 ―温暖化対策基本法制定とアセス法改正に向けて」
第84講「2010年新春呆談―平成維新のその先は?」
第83講「COP15前夜―付:事業仕分けをめぐって─」
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No. 第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
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Issued: 2010.03.04
H教授の環境行政時評(第86講 その2)
保護地域面積15%をめぐって

Aさん―あ、また逃げた。
ところで、陸域海域の15%を保護地域にするというのが、条約事務局の原案のようですが、日本は今どの程度なんですか。

H教授―それはちょっと言うのが難しい。なぜかというと、そもそも保護地域って何かという定義が問題になってくる。

Aさん―国際的な定義はないんですか。

H教授―法律や公的権威に基づいて自然環境やそれに密接に関連する景観、生物、地物や事象について、人為による改変から完全にあるいは一定程度保護が図られている地域を“Protected Area”といい、日本語では「保護地域」とか「保護区」だとか言われているけど、以下では「保護地域」と呼ぼう。
保護地域の管理カテゴリーとして国際自然保護連合IUCNでは、Ia、Ib、II〜VIまでの7通りのカテゴリーに区分している。
例えば国立公園はIIというカテゴリーに入っている。国定公園都道府県立自然公園も設定目的はほぼ同じだから、日本の自然公園はすべてこのIUCNのIIという保護地域のカテゴリーに属するとすれば、その陸域指定面積は国土の約14%に達する。
鳥獣保護区だとか、天然記念物だとかもカウントすると15%どころか20%は軽く超えるだろう。保安林なども保護地域に含めれば30%を越すかもしれない。

Aさん―だったら問題ないんじゃないんですか。

H教授―保護地域と言った場合、国際的な主流の考え方は、土地の所有権管理権に基づいて設定された地域なんだ。これを営造物制という。
一方、日本の自然公園をはじめとする各種の保護地域は土地の所有権管理権に基づくんじゃなくて、法律によって指定し、法律によって規制しているんだ。これを「地域制」という【9】
ちなみに日本の国立公園の土地所有別比率は国有地62%公有地26%民有地12%だが、国立公園ごとに大きな差がある。また、国定公園、都道府県立自然公園となるともっと民有地の割合が増えてきて都道府県立自然公園だと半分近くが民有地だ【10】
しかも国有地とは言っても、そのほとんどは国有林として林野庁が管理している。そして、森林経営、つまり林業を行っていて、環境省にしてみれば、民有地とさして変わらない。

Aさん―でも規制しているんだから、同じように保護していると言えるんじゃないですか。
つまり保護地域だって言えばいいんじゃないですか。

H教授―日本国憲法は土地の所有権を保証している。だから社会的にみて公共の福祉のための必要最低限の規制しかできないようになっているんだ。
しかも自然公園法には規制によって蒙る損害は補償するという規定だってあるし、公益との調整規定だってある。
そんな補償のための予算だって持ってないから、徹底した規制はきわめて難しく、許可基準を守らせるのがやっとだ。
【9】 これを「地域制」という
第41講(その4)「自然公園体系の課題と展望」
【10】 国立公園等の土地所有別比率
自然公園土地所有別面積総括表

Aさん―あ、そうか。だから普通地域だとか特別地域だとか、特別保護地区だとかの規制の強弱をつけているんですね。

H教授―うん、普通地域なんかは規制ったって超大規模開発に届け出義務を課しているだけで、規制していないのとさして変わらない。これを保護地域と言えるか。

Aさん―…。

H教授―特別地域だって、一定の行為に要許可制を科しているが、一方じゃ、許可基準を決めていて、第一種特別地域を除けば、建物だって道路だって農地開発だって許可基準内であればできてしまう。これでも、保護地域だって胸を張って言えるか。

Aさん―じゃ、胸張って保護地域と言えるところって?

H教授―陸域じゃあ、特別保護地区と第一種特別地域。あと環境省が土地管理を行っている集団施設地区
第三種特別地域になると森林施業に具体的な制限を科しておらず、実質的にフリーパスだから、保護地域と言えるかどうかはかなり疑問だ。
第二種特別地域はまあ保護地域と言って言えないことはない程度かな。

Aさん―その自然公園の特別保護地区と第一種特別地域を合わせて国土面積に占める比率はどのくらいなんですか。

H教授―2%くらいじゃなかったかな。ほとんど全てが国公有地だ。
そもそも都道府県立自然公園なんて、特別保護地区は設定できないようになっているんだ。

Aさん―自然公園以外の保護地域だってあるでしょう。

H教授―うん、ただ基本的にみな仕組みは同じで、いわゆる「地域制」。
土地の所有権・管理権に基づくんじゃなくて、法律による公用制限で法の目的に即した最低限の保護を行おうとするものだ。
自然環境保全法に基づく保護地域は代表的なというか自然環境の保護に特化した保護地域だが、面積はぐっと少なくなる【11】
都市緑地法による保護地域も面積はきわめて小さく、ほぼ無視できる広さでしかない。
【11】 自然環境保全法に基づく保護地域や、都市緑地法による保護地域
第26講(その4)「自然環境保全地域等の蹉跌」

Aさん―鳥獣保護区はどうですか。たしか鳥獣保護法が根拠法ですよね。

H教授―「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」が正式名称。鳥獣保護区は国土の約10%を占めている。
だけど開発自体を規制していて、自然公園の特別地域に相当する鳥獣保護区特別保護地区は国土面積の1%以下に過ぎないし、自然公園の特別保護地区に相当するような特別保護指定区域に至ってはわずか7千haに過ぎない【12】
つまりほとんどの鳥獣保護区は単に狩猟行為を禁止しているだけだ。
これを胸張って保護地域と言えるか。

Aさん―…。
じゃあ、文化財保護法による天然記念物は? これはいっぱいあるでしょう。

H教授―うん、いっぱいあるし、天然記念物指定地域は厳しい規制が科されているはずなんだけど…、はたして保護地域といえるのかなあ。

Aさん―どういうことですか。

H教授―そもそも天然記念物の数自体は明確なんだけど、具体的な地域の面積などは統計がない。
屋久島原生林だとか上高地だとかの、一定の広い面積で指定している天然記念物もあるにはあるが、むしろそれは例外で、動植物の種指定だとか「植物の自生地」だとかという漠然とした指定の方が多く、どれだけの地域が指定されているのかわからないものも多い。

Aさん―…。
【12】 鳥獣保護区のうち、特別保護地区・特別保護指定区域の指定状況
鳥獣保護区制度の概要(環境省)

H教授―それに屋久島原生林にしても上高地にしても国立公園に指定されている。鳥獣保護区でも特別保護区のような開発を規制している地域の相当部分は自然公園にも指定されていて、自然公園の管理に実質的に委ねている面もあるんじゃないかな。

Aさん―そういう重複というのは結構あるんですか。

H教授―国立公園をはじめとする自然公園は、風景地の保護という観点から指定されるんだけど、そうした場所には学術的に貴重な動植物や地形、自然現象にも富んでいるのが普通で、それらは天然記念物に指定されたり、野生鳥獣の宝庫として鳥獣保護区にもなったりすることも多い。
三種類の自然公園と三種類の自然環境保全法による指定地域は相互に重複しない旨の規定はあるけど、それ以外はむしろ重複する方が自然だろう。
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