環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第88講「鳩山内閣の環境政策―迷走か、瞑想の末か」
第87講「鳩山内閣誕生から半年」
第86講「ポスト2010年目標 ―生物多様性保全の新たな展開に向けて」
第85講「2010年、環境政策始動 ―温暖化対策基本法制定とアセス法改正に向けて」
第84講「2010年新春呆談―平成維新のその先は?」
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No. 第87講「鳩山内閣誕生から半年」
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Issued: 2010.04.12
H教授の環境行政時評(第87講 その1)
難産の末、温暖化対策基本法案まとまる

H教授―やっと温暖化対策基本法の案がまとまったなあ。

Aさん―前講の話とは違いがありましたか【1】

H教授―そりゃおおありさ。国内排出量取引制度は大発生源に対するキャップ、つまり総排出量規制制度があって、はじめて成立する概念だと思うんだけど、例外的にではあっても原単位方式も認めることありうべしとしている。

Aさん―原単位方式というのは、生産量や生産額の単位あたりのGHG排出量、つまり排出係数を年々下げればいいという話ですね。だから、生産量が大きく伸びたときは総排出量が増えることもあるっていうことでしょう?

H教授―うん、鉄鋼などエネルギー多消費の産業団体とその傘下の労働組合が総排出量規制に猛反発したのに配慮したって話だ。
でもねえ、貧しい途上国が原単位方式や対BAU方式を言うのは理解できるが、先進国が言うべきじゃないと思うな。
【1】 温暖化対策基本法に関する前講の話
第86講(その1)「温暖化対策基本法制定?」

Aさん―えーと、原単位方式は中国やインドで中期目標に取り入れてますよね。単位GDP当たりのGHG排出量を、中国は40〜45%、インドは20〜25%減らすのを目標とするそうですが、対BAU方式って、なんですか?

H教授―BAUは「Business As Usual」。文字通り、現状のままで推移したと仮定した場合の目標年度に予想される排出量より、目標年度にどれだけ減らすかというものだ。2020年の中期目標でいうと、ブラジルが37.5±1.5%程度削減を目標とし、お隣の韓国は30%削減を目標とするそうだ。

Aさん―じゃ、絶対量がどれだけ減るか、そもそも減るのかということもわからないわけですね。変なの。
でも日本も原単位方式も認めるとすると、国内排出量取引の制度設計がたいへんですね。

H教授―そもそもが原単位方式などたとえ例外としてでも認めるべきじゃなかったと思うよ。経済同友会だっておかしいと言ってるぐらいだ。

Aさん―産業界や労働組合の意を汲んだって話ですが、政府部内にもそういう意向があったということですか。

H教授―うん、環境省と経産省の対立構造は基本的に変わってないみたいだ。

Aさん―ところで、2020年の25%カットでも2050年の80%カットでもいいんですが、そのうちどれだけを国内の排出努力で削減して、どれだけをCDMによる海外での削減や、海外からの排出権購入で減らしたとみなすか、その割合については何か言っていますか?

H教授―いわゆる「真水論」だね。これが、もろに温暖化対策税やキャップの話と連動するから、重要な論点なんだが、依然として不明のままだ。
4月に入ってから環境省の行程表(ロードマップ)案が公表されたが、そこでは一応「真水100%」としているが、多分紛糾するんじゃないかな。
この行程表のもとになっているのが、環境省の中長期ロードマップ検討会での議論だ。2020年の中期目標に関しては、3月19日にこの検討会が、「さまざまな施策を講じることにより、今ある技術だけでも国内で25%のカットは可能」とのロードマップ(行程表)の叩き台を出した【2】

Aさん―それに必要な経費や国民負担はどうなんですか。

H教授―上の資料ではそれには触れていない。3月26日に同じ会議が開催され、そこで議論されたそうだ。その結果は発表されていないが、そのときに提出された叩き台はすでに公表されている【2】

Aさん―それにはどう書いてあるんですか。

H教授―2020年時点で33兆円の投資が必要。ただし、競争技術等で縮減するものもあるので、それを差し引くと20兆円だそうだ。
で、海外への輸出も考慮すると、45兆円の新市場と125万人の新規雇用が見込まれるし、関連産業への波及効果も考えると118兆円の市場規模、345万人の雇用規模に達するそうだ。

Aさん―潰れていく産業や失われる雇用などもあるんじゃないですか? そういったマイナス効果はどうなんですか?

H教授―マイナスの影響は評価してないそうだから、そういう意味では説得力がどうかなあという気がする。
ただGDPはこの対策を実施したときから5年で1%程度は押し上げるという試算を出している。
【2】 環境省「中長期ロードマップ検討会」の叩き台(案)
「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(議論の叩き台案)」
ロードマップ実行に当たっての視点・課題(必要な経費や国民負担等について)

Aさん―具体的にはどういう施策をやれば達成可能だと言うんですか。

H教授―今まで言われていた施策の総動員だ。排出量取引、温暖化対策税導入、税のグリーン化、再生エネルギーの全量買取を大前提として、住宅・建築物では省エネ基準の義務化、エコカー減税の継続、高効率給湯器等の普及、住宅新築に際しての太陽光発電の義務化等々だね。

Aさん―ほかに目立った点は?

H教授―原発は8基増設し、稼働率も近年は60%台だが、それを最大88%にするとしている。温暖化対策基本法の議論のときに、原発推進への舵を切っちゃったんだね。
原発推進に否定的だった社民党も最後には飲んでしまった。

Aさん再生可能エネルギーの占める率はどうなんですか。

H教授―基本法では、2020年に一次エネルギー供給に占める割合を現況の5%弱から10%にするとしている。
経産省のエネルギーの中長期需給見通しでは2020年には9%となっており、それを基本法との関係で10%にしなければいけないというので経産省は四苦八苦しているんだが、このロードマップでは12.6%にするとしている。
経産省の猛反発は必至だろうなあ。

Aさん―センセイのコメントは何かありますか。

H教授―GDPがどうとか市場規模がどうだとかについて、ボクは経済学のことはさっぱりわからないからコメントのしようがない。そりゃあ、GDPが大きくなれば結構なんだろうけど、なんとなく信じがたいところがある。というか、希望的観測あるいは願望が入り混じっているような気がしてならない。
それに政策そのものには異論はないけど、なんといっても総エネルギー抑制という視点が決定的に欠けていると思う。
もともと温暖化基本法は随所に「経済の成長、雇用の安定、エネルギーの安定的供給の確保」という配慮規定があるんだけど、これって公害対策基本法に当初あって、公害国会で削除された「経済との調和」条項に似てると思わないかい?

Aさん―つまり経済成長神話から、いまだに抜け出せていないということですね。

H教授―うん、このことは今まで何度も言ってきたから繰り返さないけどね。
そもそも2020年に25%カットという基本法の目標は、「国際的な枠組み構築と意欲的な目標が合意されたと認められる日以降の政令で定める日からの施行」ということになっていて、それこそ空文化する可能性だって大きい。
もしこれが空文化すれば、それこそ2050年80%カットなんて雲散霧消しかねない。
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