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H教授の環境行政時評

環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

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No.088

第88講「鳩山内閣の環境政策―迷走か、瞑想の末か」

Issued: 2010.05.13

H教授の環境行政時評(第88講)

第一約束期間初年度、目標をクリア

Aさん―センセイ、2008年度のGHG排出量の確定値が、環境省より公表されましたね【1】

H教授―うん。08年度──つまり第一約束期間の初年度なんだけど──、GHG排出量は12億8200万トンだったそうだ。これは、基準年の1990年に比べると1.6%の増加。だけど、京都メカニズムで認められている森林吸収量が3.5%、政府が購入した排出枠のうち1.6%を割り当て、それに電力業界が排出枠として購入したかCDMで認められたかした分が、6400万トン、つまり5%分になる。
結果、「1.6−3.5−1.6−5=△8.5」で、無事、対90年比△8.5%となり、国際公約の△6%を達成できたというわけだ。

Aさん―なんで電力業界がそんなことまでするんですか。

H教授―経団連のまとめた業界ごとの自主目標を達成するためだろう。そういう意味では、日本の産業界は立派と言えば立派だ。

Aさん―でもセンセイ、絶対達成不能だって言ってたじゃないですか。「真水」ではないにせよ、なぜそれが可能になったんですか。

H教授―なんとGHGの総排出量が対前年度比で6.4%も減っているんだ。

Aさん―わかった。リーマンショックですね!

H教授―ご明察。08年9月のリーマンショック以降の急激な景気後退が原因のすべてだ。決して、削減努力が実ったものではないというのが、悲しい現実だ。
総排出量が13億トンを割り込んだのは93年以降はじめてらしいからな。

Aさん―ということは09年も景気回復していないから…。
でもそれって全然メデタイ話じゃないですね。

H教授―うん、例えばボクが温暖化対策推進協議会の座長をしているA市の場合だけど、90年に比べて2003年では20%以上GHGが減少している。

Aさん―それってスゴイじゃないですか。

H教授―でも、それは削減努力が実ったんじゃない。工場が次々と移転していったからなんだ。

Aさん―…。

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自治体の排出枠創出への動き

H教授―つまり削減努力で減らすことがいかに難しいかを逆説的に証明しているようなものなんだ。
でもねえ、だからこそ、普及啓発のようなことでなく、削減させるようなシステムの導入が大切なんだ。
自治体でもそういう努力をしているところが増えてきていて、朝日新聞社が全国66の都道府県・政令指定市にアンケート調査したところ、6割に当たる40自治体で、排出枠を作り出すシステムの導入を図っている。

Aさん―え? 具体的にはどういうことなんですか。

H教授―東京都は条例で排出量取引制度を導入している【2】。本格的なキャップ&トレードだから、企業には排出枠を購入するインセンティブが働くことになる。それ以外に35の自治体が、圏域内の大手発生源に対し、自主的な削減目標を定めることとその達成のための計画書を作るように義務付けていて、その目標達成のため域内で創設した排出枠を購入してくれることを期待している。

Aさん―自治体が創設する排出枠って?

H教授―自治体自体が直接的に生み出す排出枠だったら、自治体の森林整備で生まれるCO2吸収量だとかがあるだろうし、間接的なものとしては中小企業の省エネや自然エネルギーの活用によるCO2の排出減少分を証書の形で認証して、それを大手発生源に対して斡旋するようなことが考えられる。
つまり自治体はこうした排出枠を生み出し、それを売却する、あるいは売却の斡旋をすることで地域振興を図ろうとする狙いがあるようだ。

Aさん―そのためには単なる自主的な削減目標じゃなく、きちんとした法定の義務としてのキャップが決められなければいけませんね。でないとせっかく作り出した排出枠を誰も買わないまま終わっちゃう危険だってありますものね。

H教授―うん、それと残る4割がまだ踏み出せてない原因は、単独で排出規制や厳しい排出抑制指導を行うと、企業が域内から出て行ってしまうんじゃないかという心配だろうね。
せめてこれぐらいはきちんと国家のシステムとしてやらないと鳩山内閣誕生の意味がなくなっちゃうよ。

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水俣病最終解決に向けて動き出したか?

Aさん―あと公式確認から54年、5月2日に現地水俣で行われた水俣病犠牲者慰霊祭に鳩山首相が出席、犠牲者と被害者に直接謝罪しました【3】。総理が出席するのははじめてのことだそうです。

H教授―それに先立って4月16日に、前講で述べた通り、新たな救済方針を閣議決定したからだろうなあ【4】。一時金210万円、月額12900〜17700円の療養手当てや医療費が支給される他、被害者3団体に対して活動費用や社会福祉施設の運営費として31億5千万円が支給される。

Aさん―訴訟を起こしていない未認定の被害者からの申請受付も始めたそうですね。最終的にはどれくらいの人が申請することになるんでしょう。

H教授― 一説には3万人くらいになるんでないかと言われているが、よくわからない。潜在患者の数だって把握されてないんだ。

Aさん―これで最終解決になるんですか。

H教授― 一歩前進したことは事実だが、政治決着に反対し、訴訟を継続中の被害者団体もないわけじゃないから、最終解決への道のりはなお遠い。
あと鳩山サンは国際的な水銀汚染の防止条約づくりに貢献したいとし、その条約を「水俣条約」と名付けたいと言っている。

Aさん―水俣の悲劇の後でも、そんな恐れがまだあるんですか。

H教授―うん、特に中南米諸国では小規模な金山採掘―というかゲリラ的な違法採取―がいまだたくさんあって、そうしたところでは金の精錬に水銀やシアンをいまでも使ってるところが多いんだ【5】

Aさん―どうすればいいんですか。

H教授―シアン中だ!

Aさん―ク、クダラナイ(絶句)…。

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(平成22年5月5日執筆 同月7日編集了)
註1:環境に直接関係しない部分等は、編集部判断によりカットさせていただきました。筆者のブログでお読みいただけます。
註2:本講の見解は環境省およびEICの見解とはまったく関係ありません。また、本講で用いた情報は朝日新聞と「エネルギーと環境」(週刊)に多くを負っています。