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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(市毛良枝、関礼子、小飼一至、石井好彦)が1年間、毎月交替して登場します。

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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.005

Issued: 2012.05.08

山の四季

市毛 良枝さん

市毛 良枝さん
俳優。
静岡県出身。
特定非営利活動法人日本トレッキング協会理事。
環境カウンセラー。
趣味の登山をきっかけに環境関係の執筆、講演など活動の場を広げる。

 季節の区切りをいつからいつまでと考えるのが一般的なのでしょう。例えば春。関東あたりでは、2月末、3月、4月、せいぜい5月初め位までという感じではないでしょうか?
 もちろん日本は南北に長い国土を持ちますから、北や南で事情は違うので一概には言えません。緯度によっても季節は巡り、九州が夏でも東北はまだ春も訪れていなかったり。列島を駆け巡る桜前線や紅葉前線のニュースによって日本の長さを知ることができます。余談ですが、桜は、ソメイヨシノに限定しなければほぼ一年中、日本のどこかで見ることが出来ます。
 山に登るようになって、季節とは、いったい何を頼りに考えたらいいのだろうと悩むようになりました。春になると、皆さんから「そろそろ良い季節だから山に行きたくなるでしょう?」と聞かれます。でも、麓の春は、山ではまだまだ雪景色。軽装備では登れない、なかなかプロっぽい世界なのです。もちろん残雪期の山は、誰も踏んでいない新雪の美しさと、目ざめつつある木々の芽のふくらみに春の先駆けを感じて、身内から湧き上がるような喜びに満たされます。厳しい緊張感はあるものの、重い荷物も忘れるほどの感動を味わえるので大好きです。でも、山はまだ白と茶色の冬枯れの世界なのです。それはおそらく、都会の方の思い描く春ではないので、質問にいつも戸惑います。
 山の中では、標高に従って縦にも季節は移動します。麓は春でも2000〜3000メートルの山の上ではまだまだ雪が山小屋を覆いつくす程の冬です。真夏にだって雪が残る景色を見ることができます。3000メートル級の山の夏は本当に短く、雪が溶けたと思ったらもうすぐ次の雪が降ってきて、春と呼べるのは、麓が真夏と言われる頃のほんの短い間です。だからこそ、その一瞬の輝きは貴重で、出合えた喜びは限りないものです。


 麓が初夏の輝きに包まれる頃、山では、大木がドーナツ状に根雪を溶かした輪っかを従え、春の息吹を放ちはじめます。生まれたての木の芽が、透き通る緑のきらめきを見せ、山は遅い春まっ盛りとなります。そして夏。山の夏は、涼しいと思われるでしょうけど、歩けば当然汗だくになります。下界の夏とは違って空気は冷たくさわやかではあっても、太陽に近い分、暑いものは暑い。それでも花、花、花。白、黄色、ピンク、百花繚乱の大パノラマの中、強い太陽に照らされながら歩く夏山は、山登りの王道と言えるでしょう。
 9月になれば山にはもう秋の気配が漂います。夏まだ盛りの9月初旬にマイナス8度で震え上がり、山小屋の水が凍り付いたこともありました。中旬にどかっと初冠雪なんてこともありました。あっという間に冬の訪れです。また、次の春、あのいっせいに命が輝き出す一瞬のときめきのために、長く閉ざされた冬がはじまります。人を拒むような厳しく長い冬です。
 凝縮された山の四季は都会とは違う移ろいを見せますが、それぞれの季節が短いからこそ、その時にしか出合えない貴重な時間を体験しにまた行きたくなるのです。



記事・写真:市毛 良枝