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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(田部井淳子、小林光、後藤泉、中村梧郎)が1年間、毎月交替して登場します。

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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.016

Issued: 2013.04.09

許してください、スズメバチ様

中村 梧郎さん

中村 梧郎(なかむら ごろう)さん
人物や環境問題、戦場も捉えてきたフォトジャーナリスト。日本写真家協会会員。テレビ朝日の報道番組ザ・スクープや徹子の部屋にも出演。最近はニューヨークやカリフォルニアでの写真展開催で国際的に活躍。著書に「新版・母は枯葉剤を浴びた」(岩波現代文庫)、「環境百禍」(コープ出版)、「戦場の枯葉剤」(岩波書店)など。

めったに人を刺さないマルハナバチ(スズメバチは怖くて撮れませんでした)
めったに人を刺さないマルハナバチ(スズメバチは怖くて撮れませんでした)

 暖かくなると「通学中の子供をスズメバチが襲撃」というニュースが増える。昔はそんなにいなかったのに、天敵の野鳥や蛇が減って増え放題、ということなのだろうか。
 友人の奥さんが数年前、長野県の諏訪でスズメバチにやられた。頭を六か所刺されて救急車で運ばれた。事なきを得たが、友人は、戸袋に巣食っていたスズメバチ一族を、薬品を使わずに一網打尽とした。ガラス瓶の中でビイビイと怒り狂っているハチをさらに揺すって興奮させる。そこへ35度の焼酎を注ぎ込む。「死んだのではだめ、怒って毒やらホルモンやらを出してるやつが一番いい」という。効いたかどうかはわからぬが、精力剤だというので当時、私もお猪口で一杯いただいた。思い起こせば、焼酎液の中でひしめき合っているハチたちがなんだか揃って復讐のまなざしで私を見ているような気もした。

羊歯(シダ)が生い茂る草むら。この先の柘植(ツゲ)の群落にスズメバチの巣が作られていた
羊歯(シダ)が生い茂る草むら。この先の柘植(ツゲ)の群落にスズメバチの巣が作られていた

 去年の夏の盛りに山形で私は庭の草刈りをした。スターターの紐をぐいっと引っ張るとエンジンがかかり、2メートルほど先でカッターが回転する。それを肩にかけて左右に振りながら草むらをなぎ倒してゆく。みずみずしい草の香りが漂う。腰を曲げて草刈り鎌を使うのに比べたらどれほど楽なことか。
 気分は爽快だった。そのとき突然の激痛が走った。太ももの周辺だ。見ると3センチほどの巨大なスズメバチ数匹がズボンの上から毒針を刺している。素手で掴み取って地面に叩きつけ、草刈り機を放り出して逃げた。「勘弁して!」と叫んでもまだ追っかけてくる。100メートルも走り回っただろうか。逃げきったぞと思ったら痛みが蘇った。まるでペンチでつねられているような痛みだ。尿中のアンモニアで毒を中和しようとしたが膀胱も縮みあがっていて小水が出ない。急がないと心臓麻痺だとの話も聞く。騒ぎを聞いた家人が病院に電話をかけた。「小便などをかけないで、すぐに来なさい」とのことだった。

芝生で遊ぶ子供たち。スズメバチだけでなく最近はダニにも気をつけなくては
芝生で遊ぶ子供たち。スズメバチだけでなく最近はダニにも気をつけなくては

 医師は直ちに点滴を始めた。「前にスズメバチに刺されたことはないか」と聞く。「ない」と答えると「それは良かった、2度目だと致命的になるケースがありますよ」と脅される。草刈り機で巣をつついたのに気づかなかったのだ。2時間もかけて点滴を終えるといくぶん楽になった。痛みは残るがフラフラ感がおさまっている。スズメバチは自分で治療するのは無理、必ず病院に来なさいねと諭されてようやく放免となった。
 必ず来いといわれたって、この次は致命的なんだから即死かもしれないではないか、とブツブツ言いながらも対策を練った。草を刈るのでなく除草剤をまけば、と近所の農家では言う。だが、除草剤は対人毒性が強く発がん性が懸念されるものが多いので使いたくない。残る手段は服装を変えることだ。ハチの習性は、蜜をなめにくる黒い熊と戦うことにある。ハチが跳びかかってきたのは黒いズボンめがけてだった。下はゴム長だし、上は白っぽいシャツだ。頭は麦わらをかぶっているから黒髪も見えない。もっとも最近は白髪だらけで黒いのは探さないとない状態なのだが…。要するに黒色はだめということなのだ。かくして、次の草刈りは安全な白装束でやることに決めた。それがそのまま棺に運ばれる装束としてちょうど良いということにならなければよいが、と案じつつ。

山形の庭の一角に咲いていたチューリップ
山形の庭の一角に咲いていたチューリップ



記事・写真:中村 梧郎(なかむら ごろう)