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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(田部井淳子、小林光、後藤泉、中村梧郎)が1年間、毎月交替して登場します。

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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.021

Issued: 2013.09.09

思い出の富士登山

田部井 淳子さん

田部井 淳子(たべい じゅんこ)さん
登山家。
1975年、世界最高峰エベレストに登頂(女性世界初)。
1992年、女性世界初の七大陸最高峰登頂者となる。
現在までに64か国の最高峰に登頂。山岳環境保護団体NPO法人日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HAT-J)所属。

2013年7月の富士登山
2013年7月の富士登山

 2013年7月22・23日の2日間、「被災した東北の高校生を日本一の富士山へ」を企画し、実行しました。昨年第1回を行い、60名の高校生が登り、「一生の思い出になった」「つらかったけど、諦めなくてよかった」「一歩一歩進めば目的が達成されることがわかった」「また行きたい」などの感想を寄せてくれました。こんな体験を一年で終わらせてはもったいない、継続して行い、いい体験を積むことで東北の今後の復興の力になることをと信じ、今年も実行したのです。
 今年の主催は山と渓谷社・日本山岳遺産基金と私が行い、今後もこの形で続けてゆくつもりでいます。今年は主に福島県から高校生74名が参加し、42名のスタッフとともに全員が登頂できました。

 参加した高校生の環境はまちまちです。大震災後、家族と離れ他県に移らざるを得なかった生徒さん、1年生の時に入った高校と2年、3年は別々のサテライト校に移った生徒さんなど、多感な時期に思いもよらない環境に入り複雑な思いを抱きつつも、この富士登山に参加したことで、勇気と元気と前向きさを感じてくれたことがわかり、本当によかったと思っています。彼らの感想の一部を紹介いたします。
 「大震災以来いいものを見てこなかったけれど、この富士登山でいいものをいっぱい見て元気が出た」
 6合目の山小屋に泊まった日の夕方、影富士と雲海と虹を見て大歓声をあげ「すごい、すごい」を連発していた高校生がたくさんいたのです。また、早朝2時半に出発したときはちょうど満月で月明かりだけでも歩けるほどの見事さには私も感激いたしました。まさに満月に導かれての富士登山です。途中で頭がいたくなった生徒さんや、気分悪いといった生徒さんにはスタッフが「ゆっくり休んでゆこう」「深呼吸しよう」「お湯を飲もう」などと声をかけ、自分の班と離れても行けるようにして頂上まで導き、全員が登れたのです。
 「小さな一歩を積み重ねて上の小屋につく度に血潮が沸き立ちました。一心不乱に前に進むことを考え、自分の悩みは富士山に比べれば小さなことだと感じました。また富士山に登ったことで物のありがたさがよくわかりました」
 「山では少しの水もムダにできず日常生活ではあまり意識することのなかった水の大切さを学び、私の価値観に影響を与えました。当たり前がいかに幸せかをかみしめながら生活してゆきたいと思います」
 「知り合いが一人もいなかったけれど、知らない人たちの中でもやってゆけるのだとわかりました」
 「グループで助け合うことは気持ちいいとつくづく感じました」
 「一歩一歩、本当につらかったけれど、頑張ってよかった。頂上に立った時は涙が出ました」
 といった感想です。
 富士登山は各高校生に、大きな勇気と元気と、一歩一歩の大切さ、水の大切さ、助け合いの精神の素晴らしさを感じさせてくれたできごとだったなぁーとつくづく感じ、今後も続けてゆきたいと思っています。

参加した高校生たちと
参加した高校生たちと(写真提供 東北の高校生の富士登山事務局)



記事・写真:田部井淳子