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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイコーナーです。
4人のエッセイスト(草田照子、幡野保裕、中澤弥子、下田明宏)が1年間、毎月交替して登場します。

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環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.060

Issued: 2016.12.09

道路景観をデザインする ─目白通りの景観形成─

下田明宏(しもだあきひろ)さん

下田明宏(しもだあきひろ)さん
 工学院大学建築学部まちづくり学科教授。株式会社ディー・エム代表取締役。
 1955年東京都文京区生まれ。
 専門は、ランドスケープデザイン。地域特性を生かした外部空間のデザインを研究、実践。
 趣味は、ネコ、イヌ、花。

 美しい都市、歴史を感じる都市など、都市のイメージは、我々の頭の中で、どのようにして形づくられるのであろう。我々が、もっぱら歩きながら、車を運転しながら、都市を認識しているとすれば、おそらく、道路沿いの景観、即ち、道路景観こそ都市のイメージ形成に最も大きな影響を及ぼすものではないだろうか。

 目白通りは、千代田区の九段下を起点として、東京都西部と都心部を結ぶ広域幹線道路である。幅員も広く、交通量も多い。その目白通りの中でも、JR目白駅と江戸川橋に近い目白坂下を結ぶ約2.4kmの道路景観は、東京の道路の中でもまず屈指のものと呼んでもよいと思う。

 この区間には、幾つかの特徴がある。まず、区画が大きく接道距離が長い施設が多い。例えば、学習院大学、学習院中・高等科、川村学園、目白小学校、日本女子大学、日本女子大学附属豊明小学校・幼稚園、目白台運動公園、椿山荘等である。教育機関が圧倒的に多く、安全・安心のためにしっかりとした囲障が設けられている。生垣やレンガ、石壁が連続し、イチョウの街路樹が整然と並ぶさまは、風格ある道路景観を形成するばかりでなく、イチョウが黄金色に色付く秋の美しさは例えようもない。

今年も色付き始めた目白通りのイチョウ並木
今年も色付き始めた目白通りのイチョウ並木

学習院の風格ある囲障
学習院の風格ある囲障

 さて、数年前に、学習院大学の前にある目白小学校が建て替えとなり、併せて目白通りに面する囲障も更新されることになった。当時の囲障は、クリーム色のタイル壁であり、これは目白通りに対する防音や児童の安全を考えてのことだと思うが、対面の学習院の風格ある囲障に比べ、いかにも単調で通俗なイメージであった。設計事務所が提案してきた図面を見ると、タイル壁を撤去し、替わりに緑化フェンスとなっている。緑化フェンスは、金網フェンスにツタ植物等を絡ませたもので、非常に軽微なものである。理由を聞いてみると、視線を通して、学校活動のアピールと地域とのつながりを持たせたいということであった。しかし、目白通りは、広域幹線であり、不特定多数の歩行者が通る道路である。地域とのつながりを持たせるのであれば、小学校裏の住宅地側で行うべきであり、ここでは、児童の安全のため、また、併せて対面の学習院の緑と呼応するように、しっかりとした囲障を整備し、目白通りの風格ある景観形成に寄与すべきではないか、というのが私の意見であった。

かつてあった目白小のタイル壁
かつてあった目白小のタイル壁

学習院(道路向側)に呼応する目白小の緑(右側)
学習院(道路向側)に呼応する目白小の緑(右側)

 先回も述べたが、近代の都市では個々の建築が過剰に自己主張を行い、これが都市の景観を著しく損ねていることがある。メルボルンで見たように、都市の道路や河川沿いなど、都市の骨格に十分な緑を確保することで、建築の自己主張が緩和され、都市美が形成されるというのが、私の考えである。このような緑地は、散歩やジョギング、サイクリングなど、市民のレクリエーションの場としても機能し、また、都市の外縁部と都心部をつなぎ、都市環境の生態的価値を高めることにも寄与するのである。

 さて、PTAの協力も得て、私の意見を区の教育委員会へ提言したところ、何とこれが認められたのである。緑化フェンスは取りやめとなり、石壁と生垣によるしっかりとした囲障が整備された。500m近くも目白通りに接道している学習院に比べ、目白小学校の接道距離は200mにも満たないのであるが、それでも、現在、この区間を緑に囲まれて移動するときの心地よさは格別である。大切なのは、沿道の土地の所有者や道路附属物の設置者が、自分たちが道路景観を形成するのだという使命を認識することである。たとえ小さくても、それが集まれば、道路景観に与える影響は大きく、通過する人々のストレスを減らし、都市のイメージは改善されていくはずである。

 と、若干いい気持ちになっていた矢先、学習院の正面に、“緊急交通路”の巨大な道路標識が出現した。緊急交通路に異論はないが、問題は、その下のイラストである。ブルーのボディにピンクの唇を持った、おそらくナマズのつもりで描いたのであろうが、日本人以外には何の意味も持たない、この巨大なイラストが、一体どのような経緯で公的な道路空間に出現したのか?電線の地中化が盛んに叫ばれている一方で、このようなナンセンスを公共が率先して行っているさまを目の当たりにするとき、日本の道路景観の行く末は、まだまだ遠いと感じるのである。

目白小前の新しい道路景観
目白小前の新しい道路景観

突如出現したナマズ
突如出現したナマズ


(写真の無断転写転載を禁止します)


(記事・写真:下田明宏)