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アメリカ横断ボランティア紀行

No.035

Issued: 2013.03.01

魚類野生生物局の予算

目次
保護地域における料金収入
魚類野生生物局の抱える問題
科学に基づいた野生生物管理
アメリカの野生生物保護区が抱える問題
魚類野生生物局の概要
魚類野生生物局の年間予算
魚類野生生物局のポスター

魚類野生生物局のポスター

 アメリカの魚類野生生物局の予算は、国立公園局に比べて特別会計に依存する割合が大きい。特別会計には入場料金収入や狩猟許可などに伴う手数料などが含まれる。保護区の管理を充実するためにはそれなりの予算と体制が必要となる。

 予算や組織を充実するための魚類野生生物局の戦略と課題について、国際課長のハーブ・ラファエルさんに伺った。

保護地域における料金収入

 その日は、魚類野生生物局職員を対象に、日本の野生生物保護の状況に関するプレゼンテーションを行なった。それまでも国立公園局では何度か発表する機会があったが、野生生物に関するプレゼンははじめてだった。日本の鳥獣保護区とアメリカの国立野生生物保護区との違い、地方自治体と国との関係の違いなどについて、様々な質問が出てくる。日米の自然保護制度は大きく異なると同時に、いずれもそれぞれの実情に合った制度でもあるのだ。一つひとつの政策に着目すれば、日本にも導入ができそうなものも少なくないが、全体の制度の仕組みを理解していないと、導入の際、日本に合った形で制度を工夫することができなくなってしまう。料金徴収や特別会計の導入はおそらくその顕著な例であろう。

 「プレゼンテーションの中で、ワタルがアメリカの保護地域での料金収入に興味を持っていることがわかったよ。私もそれはいい着眼点だと思う。特定の受益者負担財源を保護地域管理の費用に充当することについてはいまだに賛否両論ある。コスタリカでは、訪問客1人につき一定額の料金を徴収して保護区管理のための財源としている。フロリダ州では開発に伴う土地取引額100ドル(1ドル85円換算で約8500円)に対して5セント(同約4.25円)を徴収して、保全費用の財源としている。プエルトリコでも、石油精製量に応じて一定の保全費用を業者から徴収している。この財源は自然環境の保全にプラスに働いている」

 しかし、現在米国の国立公園などで行われているような料金政策は、将来いい結果をもたらさないという。

 「保護区で徴収される料金収入だけでは、到底管理費用が賄えるようにはならない。また、もしそれが可能になったとすれば、連邦議会が予算を配分しなくなるだろう。料金収入で賄えるのであれば、なぜ税金が必要になるのか、ということだ」

 ラファエルさんの説明は続く。

 「料金収入で保護地域を管理する手法は、特に国立公園局で顕著だ。国立公園局は魅力が高いので、高い入場料金を取ることができる。また、そうすることで入場者数を抑制することもできるだろう。人気のある国立公園では、どうしても入場者数が多くなりすぎるから、料金を高くして管理費用を賄いながら、利用者数も抑制できる。安易でかつ効果の高い手法といえる」

 そのような高い入場料金を払うことのできる人々は、市民全体のごく一部に過ぎない。料金徴収及びその料金の値上げが、潜在的に貧しい人々に対する差別になっているというのだ。ただでさえ、公園には裕福な高齢者や白人家族しか訪れていないのに、さらに値上げが続けば黒人やヒスパニック系住民など貧困層の足は遠のいていく。市民全員の財産であるはずの国立公園が、ほとんど一部の裕福な人々だけのものになってしまってしまいかねないと危惧されるわけだ。

 しかも、魅力の高い有名な国立公園には潤沢な予算が入り、マイナーな公園の管理がないがしろにされるという問題を生じかねない。

 「国立公園局での料金政策が変化したのは現在から20年ほど前。それまで低く抑えられていた入場料金が大幅に上昇しはじめたんだ。それでも国立公園の施設やサービスの質は非常に高く、市民は高額な入場料金を払ってでも公園を利用してくれた。国立公園局にとっては、格好の値上げ理由になったわけだ」

 ラファエルさんの話はいつもながら単刀直入だ。料金収入は、単に保護区の管理予算が助かるということではない。

 「南アフリカで黒人による政府が初めて樹立されたとき、国立公園では大規模な破壊が行われたんだ。国立公園は白人や外国人などごく一部の利用者のものだった。一般の国民にとっては存在意義が理解できない。だから、皆、国立公園の木を切って薪にしてしまったんだ」

 保護地域が守られるためには国民の大部分の支持が必要だという象徴的な例といえるだろう。

 「アメリカの保護区が今たどっている道も同じようなものだ。目の前の予算に目がくらんで安易に料金収入に頼ってしまっている。入場料金を単なる管理費用の捻出策と考えてはいけない」

 料金徴収の問題は、保護区の管理を考える上で、将来にわたってその保護区の質をどのように維持していくかを左右する重要なテーマということがわかる。
「それから、公園内のコンセッション業者の問題も見逃せない」

 コンセッション業者は、公園内でホテルなどの便益施設の営業を請け負う業者。施設は国が整備するが、日常的な補修などはこの業者が行なう。収益の一部は、契約に基づきその国立公園の管理に還元されるという仕組みである。公園管理者にとっては、公園施設の管理運営をアウトソーシングできるため予算や職員を節約できる上に、いくらかの収入も得ることができる。また、利用者も民間企業の便利で質の高いサービスを受けることができる。

 利用者が支払う代金の一部が公園にも還流するという意味では、これもひとつの受益者負担財源といえる。以前は特定業者の独占などが批判されていたため、近年入札制度が導入された。とはいえ、依然一部の業者の寡占状態が続いているのも事実だ。

 「少額の契約金を支払いさえすれば、長期間にわたって公園内で独占的に営業することができる。施設自体は国立公園局が建設しているのに料金は高い。相当の利益を得ていることがわかるよね。これは大きな既得権益だ。一方で、そうした利益から公園管理に還元される資金はそれほど大きくないんだ。1980年代にコンセッションの契約料金が大幅に見直されて、かなり現実的な価格になったものの、コンセッション業者の活動を管理しきれているとは言い難い」


魚類野生生物局の抱える問題

 「国立野生生物保護区の入場料金は国立公園に比べるとまだまだ安い。しかも、ほとんどの保護区では料金を徴収していないから、ここまでの話は主に国立公園の抱える課題といえる」
 一方、魚類野生生物局の予算では、特定の行為や製品に対する課税による特別会計の割合が高いという(文末の【参考1】参照)。
 「例えば、同局が所管するプログラムに、連邦政府釣魚回復補助制度(Federal Aid in Sport Fish Restoration)や連邦野生生物回復補助制度(Federal Aid in Wildlife Restoration)などがある」
 これらの予算は、猟銃や釣具に課税することにより、狩猟対象鳥獣や釣魚保全のための財源を確保する制度だ。日本でいえば、ガソリンなどに課税される揮発油税のような特定の商品にかかる税金のことだ。
 「その2つの予算を合計すると5億ドル(約425億円)にもなる。魚類野生生物局は、その予算を州政府に配布している。この予算は、各州政府野生生物部局の予算収入のかなりの部分を占めている。ところが、ここに魚類野生生物局がかかえる大きな課題の原因があるんだ」
 ラファエルさんの表情がかげる。
 「問題は、州政府に配布される金額の決定方法だ。審査は州政府から申請された事業計画に、その州のハンターや釣り人の人口が加味されて決定される。だから州政府はハンターや釣り人をとても大事にしている」
 ハンター人口などが考慮される理由は単純だ。
 「彼らが納税者だからだ。そのため、狩猟の対象となる野生動物や釣魚の回復プログラムが州政府の主要な業務となる。その一方、予算とは直接関係のない一般のビジターやバードウォッチャーへの対応は二の次になってしまう。狩猟の対象にならない野生動物や釣り人にとって関心の低い魚に対する保護政策も軽視されがちだ」
 日本でも道路特別会計で整備されるのは自動車のための道路であって、そうした財源と直接関係のない人たちが使う歩道や自転車道は二の次になっている。そんな状況と同じ構図といえる。
 「実際の愛好者数はバードウォッチャーの方がハンターより圧倒的に多いんだ【1】。野生動物にしても狩猟の対象となる鳥獣の種数はごく限られている。その違いは税収とからむか否かだけでしかない」

 ハンターや釣り人など、特別会計の財源となるような税を負担している人々の意思や意向が、政策に優先的に反映される。また、生物の側から見れば、そのような人たちの興味の対象となる生きものがより大きな恩恵をこうむることができる。これが現在のアメリカの野生生物保護行政の現状なのだ。
 「ガンカモ類の保全は、野生生物保護区が最も力を入れている課題だ。特に東海岸にある野生生物保護区では水草が豊富に育つ池を作り、餌となる小麦や大豆まで栽培する保護区さえある。これが、“野生生物保護区は『カモの養殖場』だ”と揶揄されるゆえんだ」
 ところが、近年このようなガンカモ類による農業被害が増加して問題になっているという。
 「ガンカモは人にも慣れ、平気で農地や民家の庭などにある作物を食べてしまう。餌が豊富なため、渡りをやめて、1年中米国内に滞在する個体も増えてきているほどだ。これは、現在のガンカモ類に偏重した保全区管理の弊害といえるだろう」
 このような不均衡を是正するための努力も行われているという。
 「魚類野生生物局では、バードウォッチャーなどの新しい愛好者を取り込むために、双眼鏡や鳥のえさ台に課税することを検討した。結果としてこの提案は受け入れられなかったが、感触はそれほど悪くなかった。提案では課税額は3〜10%程度と比較的少額だったため、メーカーにもそれほど抵抗はなかった。小型の鳥類の保護が充実されれば、それらを対象とする商品も売れると考える業者もあった。課税が財源の確保につながるとともに、対象となる生物に対する保全のインセンティブにもなる。言い換えれば、特定の課税措置がない種は、相対的に保全対策が手薄になってしまうんだ」
 このような形でハンティング団体が政治力を持ち、野生生物保護行政に影響力を持っているということは考えたこともなかった。そのハンター人口が近年減少してきたことで、ハンティング団体の政治力も弱くなってきているという。
 「バードウォッチャーは、まだハンターたちのような政治力を行使できていない。その一因は組織化が進んでいないということと、受益者負担の税制を持っていないために、予算の面で連邦政府や州政府の政策に政治的な影響力を行使できていないということなんだ」
 つまり、魚類野生生物局では国立公園局のように国民一般からの支持を得るのではなく、特定の野生生物愛好家などからの直接的な貢献に依存しているということになる。課税を単なる財源確保と見ず、野生生物行政のいわば「応援団」の組織化やその政治的影響力の行使という観点からみる視点は新鮮だ。もともと野生生物愛好家などは国民全体からすれば少数派だ。そうした「戦略」を選択することも効果があるだろう。そして、当然そこにはデメリットもあるはずだ。

科学に基づいた野生生物管理

 「ワイオミング州ではビッグホーンシープという野生のヒツジの個体数が回復したため、10頭のみを狩猟対象として、狩猟許可を入札にかけた。その結果、1頭あたり10万ドル(約850万円)という値がついたんだ。裕福なハンターの中には、貴重な野生生物を狩ることができるのであれば、お金はいくらでも払うという人がたくさんいる。野生生物管理者の立場からすると、増えすぎた個体数を調整しながら追加的な予算も得られる、ありがたい制度だ」
 ただ、問題もあるという。
 「科学的なデータに基づいた管理ができるのは、政治家や地元の有力者などが関係しない場合に限られる。ところが、野生生物の狩猟を規制しようとすると必ず政治家が介入し、狩猟枠を拡大するよう圧力をかけてくるんだ」
 これはまさに、前述のハンターグループの政治力が裏目にでるパターンと言える。
 「野生生物の管理は科学的データに基づいて実施されることが大原則だけど、現実には政治的な介入を招いて、大きくゆがめられてしまうことが多いんだ」
 極端な例として、ラファエルさんは途上国における希少野生動物の狩猟の事例を紹介してくれた。
 「国際サファリ協会では、メンバーを対象にアフリカなどの野生動物の狩猟ツアーを催行している。そのために相手国政府機関に大金を支払う。絶滅の危機に瀕するゴリラ1頭に100万ドル(約8500万円)ものお金を支払うという話もある。途上国政府としては、ゴリラ1頭で、その国が必要としている保全費用が転がり込んだから、大変魅力的な提案だろう。もちろん、大金が動けばそこに必ず汚職が生ずる。収入がそのまま保全費用に使用されるとは思えない」
 料金徴収による野生生物の保全は理論的には可能かもしれない。ただ、そこに人間が介在する限り、必ず政治的な配慮が求められるといえる。

アメリカの野生生物保護区が抱える問題

 「アメリカの森林局は、世界でも有数の道路建設実績を持つといわれる。目的は、木材伐採、レクリエーション、釣り、狩猟など。それらのために森林内に道路を作りまくっているんだ。道路建設はそれ自体が深刻な環境破壊を引き起こす。ブッシュ政権(当時)になって、さらにこの傾向に拍車がかかっている」
 国立公園や野生生物保護区でも同じようなことがいえるという。
 「野生生物保護区でも管理用の車道や一般用の有料道路がある。これらの道路は、自然環境への影響が十分検討されないまま建設されてきた。車社会であるアメリカにとって、道路は欠かせない施設であるのも確かだが、保護区の管理と言う観点からはその影響を十分に理解した上で建設されるべきだよね」
 国立野生生物保護区は、これまで一般の利用者に対するビジターサービスをあまり重視していなかったから、一般利用のための道路はそれほど必要とされてこなかった。ところが、近年の保全への関心の高まりや、都市系住民を中心とするバードウォッチャーが増加するに従い、ビジターサービスや利用施設への需要が高まってきた。こうした動きを無視できなくなって、将来的には、利用者や周辺住民などをより強く意識した管理に重点が置かれてくるだろうというのだ。
 保護区の管理を巡っては、他にもさまざまな問題がある。
 「野生生物保護区の抱える問題の多くは、実は保護区の区域外に原因があるんだ。外来種の問題はもちろんだが、保護区を流れる河川の汚染や水量の不足は上流で起きていることだ。大気汚染も保護区の区域などは関係ない。悪影響は年々深刻になるばかりだ」
 これらに取り組むため、野生生物保護区の管理者も新しい取組みを始めているという。
 「これまで、保護区の管理者は、区域外の住民や州政府などとのコミュニケーションはあまり重視してこなかった。ところが、こうした関係者との良好な関係づくりが必要不可欠であることに気づき始めたんだ」
 野生生物保護区を巡る環境が変わる中、変化に対応しながらも一貫性のある管理をどのように実現していくか、これからの大きな課題だという。


魚類野生生物局の概要

 ここであらためて魚類野生生物局という組織の概要をみてみたい。英語の名称はFish and Wildlife Service(FWS)である。魚類野生生物局は、アメリカの国立野生生物保護区システムの管理及び絶滅危惧種法等の野生生物の保護と管理に関する法律を所管している。魚類野生生物局には、11の長官補と7の地域事務所があり、それらが局長を補佐する管理組織(Directorate)を構成している。
【図1】米国魚類野生生物局組織図(PDF:24KB)

 同局は、アメリカ政府内務省(Department of the Interior)に属している(第33話図1参照)。内務省では、魚類野生生物及び公園担当長官補(Assistant Secretary, Fish and Wildlife, and Parks)が指揮監督に当たる。以前インタビューを行なったドン・ベイリーさんは、クリントン政権当時にこのポストに就いていた。なお、魚類野生生物局長は閣僚ではないが、同局の上部組織にあたる内務省の長官は閣僚である。
 組織には、国立公園局同様に使命(ミッション)が定められている。その内容は「米国民が継続的に恩恵を受けることができるよう、魚類、野生生物、植物及びそれらの生息地を保全し、保護し、もしくはそれらを改善することに責任を負うこと」だ。魚類野生生物局は、556の国立野生生物保護区、6の国立記念物(National Monument)、80の生態系サービス事務所(Ecological Service Field Offices)、71の国営魚類孵化場(National Fish Hatchery) 、1箇所の歴史的魚類孵化場(D.C. Booth National Historic Hatchery、サウスダコタ州)、65魚類野生生物保全事務所(Fish and Wildlife Conservation Offices)、9の魚類保健センター(Fish Health Centers)、魚類技術センター(Fish Technology Center)1ヶ所、38の湿地管理地区(Wetland Management Districts)、50の調整地域(Coordination Areas)など、合計1億5千万エーカーにものぼる地域を管理している。
 このうち、国立野生生物保護区、湿地管理地区、調整地区などを総称して国立野生生物保護システムと呼ばれている(文末の【参考2】を参照)。

 魚類野生生物局は絶滅危惧種法(Endangered Species Act)の執行(文末の【参考3】を参照)、渡り鳥個体群の維持、国として重要性の高い水産資源の回復、湿地・湖沼などをはじめとする野生生物の生息地の保全と回復、及び外国政府やアメリカ原住民政府が行っている保全活動に対する支援など、以下のような業務を所掌している。

(魚類野生生物局の代表的な所掌事務)

  • 国立野生生物保護区の管理
  • 渡り鳥の保全
  • 科学的知見の集積、及び他の連邦政府機関ならびに民間に対する助言
  • 魚類の保全と回復
  • 絶滅の恐れのある種の回復
  • 生態系の保全
  • 魚類及び野生生物生息環境の改善のためのパートナーシップ構築
  • 国際的な協力
  • 野生生物に関する連邦法規の執行(取締り)
  • 原住民部族、州政府及び市民に対する支援

 2003年度の定員(FTE: Full Time Equivalent)は9,305名(表1参照)だ。これは、同時期の国立公園局の職員数20,574人(表2参照)にくらべ半分に満たない。管理対象となる国立野生生物保護区システムの総面積が国立公園の総面積より若干ではあるが大きいこと、国立公園局がアメリカの国立公園の管理に特化した組織であるのに対し、魚類野生生物局の業務は保護区以外にも多岐にわたることを考えると、魚類野生生物局の組織はかなり人員が少ないことがわかる。
 また、職員のうち、中央組織、地域事務所、及び出先機関それぞれに勤務する職員数(2004年度現在概算)を聞き取ったところ、以下のとおりだった。ただ、この職員数は時期によりかなり増減することや、定員と実際に雇用され配置されている職員数とのかい離があることから、合計は定員数とは一致しない(2004年当時の組織図は図1のとおり)。
①本省(全国を対象とする業務を行っている部局):約1,360名
②地域事務所等(特定の地域を対象とする業務を行っている地方組織): 約3,110名
③国立野生生物保護区などの出先機関:約5,320名
 なお、魚類野生生物局の職員は、そのほとんどが生物学を専門とする職員(biologist)により構成されている。特に、魚類野生生物局長については、1956年の魚類野生生物法(Fish and Wildlife Act of 1956)に、必要な技能・経験などが規定されている。その要件とは、「生物学に関する教育を受け、かつ魚類及び野生生物の管理に関する経験と知識を有していなければならない(No individuals may be appointed as the Director unless he is, by reason of scientific education and experience, knowledgeable in the principles of fisheries and wildlife management.)」というものである。このように、魚類野生生物局は主に生物を中心とする自然資源の管理に重点が置かれた職員構成とされており、それは土地管理やビジターサービスの専門家たる国立公園局とは職員に求められる技能や要件が異なる(国立公園局の職種については第15話を参照)。

 現在では生物学を専門としない職員も管理職や国立野生生物保護区の管理所長になることが少なくはない。この背景には、近年のパブリックインボルブメント手続きの増加や、保護管理や野生生物保護のための地元住民、NGOなどとのパートナーシップ構築の必要性から、様々な技能を有する職員が必要とされていることなどがあり、組織自体の性格も徐々に変化しつつあることを示している。
 そもそも、魚類野生生物局自体はこれまでもダイナミックな組織の統廃合を経て、現在の組織形態をとっている。同局の起源は、商務省の米国魚類及び漁業理事会(U.S. Commission on Fish and Fisheries in the Department of Commerce)と、農務省の経済的鳥類及びほ乳類学課(Division of Economic Ornithology and Mammalogy in the Department of Agriculture)という2つの異なる政府機関だ。いずれの機関も19世紀後半にアメリカ国内で引き起こされた野生生物の乱獲とそれに伴う生物の急激な減少を食い止めるために創設された組織である。
 現在の原型ができたのが1937年であるが、その後も漁業関係の業務が切り離されるなど、組織改編が続いた。1973年の絶滅危惧種法の成立や、1980年のアラスカ重要国有地保全法の成立により、同局の権限や所管する国立野生生物保護区システムの規模の大幅な拡充などが行われた。その一方で、1993年に国家生物研究機関(現在は米国地質調査所(USGS)の一部)が設立されると、同局の研究者が移籍、結果として組織としての科学的基盤が弱くなってしまったといわれている(文末の【参考4】を参照)。
 このような経緯から魚類野生生物局は多くの関係部署と連携を取りながら業務を行う傾向がある。これは、歴史的にも一貫して国立公園関係の業務に特化し、ほとんどすべての業務を自らの組織の中で行う国立公園局とは対照的である。

魚類野生生物局の年間予算

魚類野生生物局の予算書、グリーンブック

魚類野生生物局の予算書、グリーンブック

 アメリカ内務省が取りまとめている予算書(Budget Justifications、 通称グリーンブック)によれば、私が研修を行なっていた2004年度の魚類野生生物局の予算額は合計19億7,154万ドル(約1,676億円)、うち一般会計分が13億343万ドル(約1,108億円)、特別会計分が6億681万ドル(516億円)であり、予算額に占める特別会計の割合は34%である。ちなみに、現在の2012年度予算額は24億2,907万ドル(約2,065億円)であり、2004年に比べて13%ほど増えている。しかしながら、近年の米国政府の財政状況を反映してか、2012年度、2013年度予算要求額はいずれも前年度を下回っている。また、特別会計の割合はほぼ40%に達している。

 一方で、定員は2004年度と2011年度がほぼ同程度だったものの、2012年度に減少し、2013年度要求でも減少傾向にある。予算額は増加しているものの職員数は頭打ちになっていることがわかる。


【表1】米国魚類野生生物局予算額推移 (単位:千ドル、人)
2003年度
成立
2004年度
成立
2011年度
成立
2012年度
成立
2013年度
要求(*)
2012年度予算対
2004年度増減
金額/人員
一般会計 1,243,617 1,303,433 1,505,130 1,475,571 1,347,586 172,138 13.21
特別会計
(特別会計の割合:%)
660,675
(34.7)
668,103
(33.9)
987,770
(39.6)
953,494
(39.3)
994,731
(42.5)
285,391
(-)
42.72
(-)
合計 1,904,292 1,971,536 2,492,900 2,429,065 2,342,317 457,529 23.21
定員 9,305 9,500 9,508 9,368 9,290 -132 -1.39

 *:一般会計に、沿岸影響評価補助プログラム(CIAP)の非義務的経費の支出見合わせ分2億ドル減額分を含む。

 これに対し、同時期の国立公園局の予算をみてみると、2004年度予算額は合計25億5,699万ドル(約2,173億円)である。単純に比較すると、魚類野生生物局の予算は国立公園局の予算の8割にも満たない。また、国立公園局の2012年度予算うち一般会計分が22億5,858万ドル(約1,920億円)であるのに対し、特別会計分は2億9,841万ドル(約254億円)と、予算額に占める特別会計の割合は11.7%に過ぎない。これは、同時期の魚類野生生物局予算と比較するとほぼ3分の1だ。国立公園の入場料収入に依存する割合が増えつつあるとはいえ、まだまだ一般会計が9割近くを占めている。

【表2】米国国立公園局予算額推移 (単位:千ドル、人)
2003年度
成立
2004年度
成立
2011年度
成立
2012年度
成立
2013年度
要求(*)
2012年度予算対
2004年度増減
金額/人員
一般会計 2,241,930 2,258,580 2,611,419 2,579,620 2,578,650 321,040 14.21
特別会計
(特別会計の割合:%)
303,630
(11.9)
298,414
(11.7)
391,953
(13.1)
404,003
(13.5)
407,480
(13.6)
105,589
(-)
35.38
(-)
合計 2,545,560 2,556,994 3,003,372 2,983,623 2,986,130 426,629 16.68
定員 20,574 20,442 22,051 21,907 21,689 1,465 7.17

 一般会計の割合が高いということは、米国民の意思を代表する連邦政府議会がその必要性を認め、国の予算を配分していることを示している。これに対して特別会計は特定の受益者が納入する税金や入場料によって支えられているから、それらの受益者が納得すればよい。米国民一般の支持は必要ない。もちろん、この場合、特定の受益者グループの意思や要望がより強く政策に反映されることとなる。
 乱暴な言い方をしてしまえば、一般会計、特別会計にかかわらず、予算額はその政策の人気投票のバロメーターということができる。もちろん、一般会計予算には特定の「色」がついていないため、使途にも自由度がある。その代わり国民の広い支持と議会での厳しい審議を経る必要がある。これに対し、特別会計の方は財源が明確であるため、毎年確実に予算が確保できるが、「パトロン」の意向は無視できない。
 芸能人に例えれば、一般会計は一般の視聴者からの支持であり、どうなるかわからない視聴率が目安になる。「国民的アイドル」である国立公園は、こちらのグループといえる。国民的な支持を得るために、スキャンダルを避けながら、常にすべての国民に愛されるイメージを維持しなければならないという苦労がある。
 一方で、特別会計はファンクラブからの収入のようなものだろう。主にハンターなど一部の根強いファンに支えられている国立野生生物保護区は、どちらかというと特別会計組だ。こうしたファンの気持ちが離れないようにイメージを維持する必要がある。ところが、ファンの中には野生生物愛好家や野生生物保護団、環境保全団体などの全く異なる志向のグループもあり、そうした人たちのバランスも重要だ。もちろん、できれば将来的には国民的なアイドルになりたいという気持ちが少しはあるのかもしれない。
 ここで注目したいのは、魚類野生生物局はあえてこうした予算配分を選んでいるのではないかということだ。保護区の規模やカバーしている行政分野を考えると、国立公園の管理に特化する国立公園局よりも大きな予算が必要になるはずだ。しかしながら、野生生物の保全を第1のミッションとする魚類野生生物局は、国立公園局のようには国民の支持が得られない。野生生物の保全のために規制を行なったり、一般の利用を制限したりしているからだ。これに対して国立公園局は、国立公園の「保護と利用」の両立をミッションとしている。公園を訪れるビジター(≒有権者)へのサービス向上が組織の目的のひとつであり、そのために施設を充実することも必要となる。パークレンジャーを数多く配置し、利用施設を管理するためにはより大きな予算と組織が必要となり、それが引いては予算・定員の増強につながる。その代わり、そうしたミッションを実現する過程では、自然保護とのトレードオフが避けられない場合もある。
 魚類野生生物局は、「Wildlife Comes First(野生生物優先)」を貫くため、あえて少ない予算や小さい組織で効率的に業務を遂行する体制を選択しているように思える。日本で国立公園や野生生物保護行政を担っている環境省も、どちらかといえば後者に近いといえる。第33話でも指摘したとおり、日本の環境省にとっては、おそらく魚類野生生物局の仕組みの方がより参考になると思われる。それがまた日本の状況により適した国立公園管理の姿を見出すことにもつながるのではないだろうか。


【1】バードウォッチャーとハンターの利用状況
 1996年に行われた、全国釣り、狩猟、及び野生生物関連レクリエーション調査(1996 National Survey of Fishing, Hunting, and Wildlife-Associated Recreation)によれば、同年度の釣り人、ハンター、野生生物観察者(wildlife watcher)数はそれぞれ、3,500万人、1,400万人、6,300万人と、野生生物観察者が圧倒的に多い。また、それそれの総支出額を比較しても、380億ドル(約3兆2300億円)、210億ドル(約1兆7850億円)、290億ドル(約2兆4650億円)と、経済的な貢献度にそれほど大きな違いはない。
野生生物観察自体はまだ歴史が浅く、愛好者が組織化されていないために政治的な影響力は相対的に小さく、現在の米国の野生生物行政は狩猟鳥獣に偏重している。ただ、近年狩猟人口も減少してきていることから、将来的にはこうした傾向にも変化がみられることが予想される。
【2】ダックスタンプ(渡り鳥狩猟許可証)
 切手のようなデザインとなっていることから「スタンプ(切手)」と呼ばれている。渡り鳥の狩猟を行うハンターは、この切手を購入し各州発行の狩猟許可証に添付しなければならない。

妻のひとこと

魚類野生生物局国際課のプレゼント交換会の様子

魚類野生生物局国際課のプレゼント交換会の様子

 クリスマスが近づいたある日、職場の人たちでクリスマスプレゼントの交換会がありました。職員それぞれ持ちよったプレゼントをゲーム形式で選んでいくのですが、皆さん本気。いつもは環境保全や動物保護を真顔で語っているのに、子どものようにはしゃいでいました。私たちには歌をうたうカエルのパペットが当たりました。実際に聞こえてくる歌はあまりよくききとれず、いまだに何の歌かわかりませんが、楽しそうな歌をうたってくれます。
 アメリカでは、クリスマスに限らず、様々な場面でプレゼントを贈ったり交換したりすることがあるようです。ケンタッキー州やカリフォルニア州にいたときもそうですが、皆さんのプレゼントは、自分では買わないようなくだらないもの(失礼)、おもしろいもの、笑えるもの、もしくは実用的なものが多いのが印象的でした。
 日本では、プレゼントというと特別で高価なものを贈るという感じもありますが、アメリカの人たちは、あまりお金をかけなくても、よく相手の必要なものや似合うものを探すのだが上手だなと感心させられました。そのなかにユーモアもあって、今後プレゼントを選ぶときにまねしたいなあというものが多かったと思います。贈り物のラッピングはお店でやってもらうのではなく、包装紙やリボンを使ってそれぞれが工夫します。プレゼントをもらうとその場でこうした包装をあけて(大抵はビリビリとやぶって)、何とも気の聞いたコメントやうれしそうなリアクションをしてくれます。そして何といってもうれしいのがメッセージカードでした。アメリカのプレゼントは、贈られるモノだけではなく、包装、メッセージ、贈るタイミング、受け渡しの様々なやりとりがセットになっていて、後味が暖かく思われました。ただ、帰国前に一番困ったのもそうした贈り物でした。


プレゼントをそれぞれが選んでいきます

プレゼントをそれぞれが選んでいきます

カエルのパペットでした!

カエルのパペットでした!

私たちのプレゼントはゴリラのぬいぐるみでした

私たちのプレゼントはゴリラのぬいぐるみでした


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(記事・写真:鈴木 渉)

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〜著者プロフィール〜

鈴木 渉
  • 1994年環境庁(当時)に採用され、中部山岳国立公園管理事務所(当時)に配属される。
  • 許認可申請書の山と格闘する毎日に、自分勝手に描いていた「野山を駆け回り、国立公園の自然を守る」レンジャー生活とのギャップを実感。
  • 事務所での勤務態度に問題があったためか以降なかなか現場に出してもらえない「おちこぼれレンジャー」。
  • 2年後地球環境関係部署へ異動し、森林保全、砂漠化対策を担当。
  • 1997年に京都で開催された国連気候変動枠組み条約COP3(地球温暖化防止京都会議)に参加(ただし雑用係)。
  • 国際会議のダイナミックな雰囲気に圧倒され、これをきっかけに海外研修を志望。
  • 公園緑地業務(出向)、自然公園での公共事業、遺伝子組換え生物関係の業務などに従事した後、2003年3月より2年間、JICAの海外長期研修員制度によりアメリカ合衆国の国立公園局及び魚類野生生物局で実務研修
  • 帰国後は外来生物法の施行や、第3次生物多様性国家戦略の策定、生物多様性条約COP10の開催と生物多様性の広報、民間参画などに携わる。
  • その間、仙台にある東北地方環境事務所に異動し、久しぶりに国立公園の保全整備に従事するも1年間で本省に出戻り。
  • その後11か月間の生物多様性センター勤務を経て国連大学高等研究所に出向。
  • 現在は同研究所内にあるSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ事務局に勤務。週末、埼玉県内の里山で畑作ボランティアに参加することが楽しみ。