H教授―わかった、じゃ、今回はひとつだけ。
数年前のことだけど、瀬戸内海で、ある県が港湾の拡張で大規模な埋立計画を構想した。そこは国立公園のすぐそばなんだけど、国立公園には入っていない。でも、万葉集でも知られた国立公園内の展望台からの景観は台無しになっちゃうんだ。
県は地元住民をツンボ桟敷に置いたまま計画を進め、港湾計画の変更を地方港湾審議会で通しちゃった。その時点ではじめて計画を公表。それを知った地元住民は怒って激しい反対運動が起きた。
Aさん―その県の環境部局はなにしてたんですか。
H教授―計画の初期の段階で港湾部局と大喧嘩したらしい。で、最後は環境部局は一切責任を持てないから勝手にしろって、投げ出しちゃったという話だ。
もっとも埋め立て材が建設廃材で、処分場不足に悩む環境部局の廃棄物担当課は賛成という内部事情もあったらしいんだけど。結局、港湾部局が知事を説得してゴーサインが出されたらしいよ。
Aさん―へえ、で、それから?
H教授―港湾計画変更は地方港湾審議会のあと国の港湾審議会に諮られる。環境庁、つまり、現・環境省はそのメンバーなんだ。この話は環境庁時代の話だから環境庁で以下統一するよ。
通常、こういう案件は地方港湾審議会に諮られる前に、環境庁と非公式の事前調整を行うんだけど、このケースの場合一切なしで突っ走った。しかも、場所が瀬戸内海だから「埋立ての基本方針」に適合するかどうかっていう問題がある【4】。
Aさん―話の腰を折るようですが、「埋立ての基本方針」ってなんですか?
H教授―瀬戸内海環境保全特別措置法では、埋め立てに関して瀬戸内海の特殊性に配慮しなければならないとし、具体的なことは審議会で審議されるとしているんだ。
これを受けて、審議会が「埋立ての基本方針」というのを定めているんだが、これには前文で「埋立ては厳に抑制すべきであり」と埋立抑制の理念を謳い、本文で「やむをえず埋立てを認める場合の方針」がごちゃごちゃと書いてある。もっともやむをえず認める場合ってどんな場合かってのは一言も書いてないんだけど。