環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを、環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。
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第13講 「都市の生理としての環境問題−花粉症・ヒートアイランド・都市景観」
第12講 「2004新春 環境漫才」
第11講 「浄化槽と下水道 ―浄化槽法20年」
第10講 秋深し、瀬戸内法はなんのため?
第9講 夏のできごと&温暖化対策税雑感
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No. 第12講 「2004新春 環境漫才」
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Issued: 2004.01.15
H教授の環境行政時評 (第12講 その3)
環境省百手観音

Aさん―でも環境省も各方面にいっぱい手を広げて、いろんなことを来年 ─あ、今年だ─、今年中に結論を出すと言ってますね。大丈夫かしら。

H教授―そうだな。この時報でいままで取り上げたものだけでも、温暖化対策税(→第9講)に、亜鉛の排水基準(→第7講、第9講)、VOC(→第10講)、環境基本法見直し(→同)、エコツアー(→本講)だろう。土壌汚染対策法や環境教育法(→第5講)や自然再生推進法(→同)だって宿題はいっぱい残ってる。

移入種問題だって新法を作るって言ってるし、遺伝子組み換え生物もある。廃棄物だって課題続出だし、ディーゼル排ガス(→第10講)もあるから、ホントたいへんだよねえ。
あ、そうそう3Rプロジェクト(→第11講)なんてのもあった。

Aさん―はやばやと役人をリタイアしてよかったでしょう。

H教授―その代わり誰とは言わないけど、できのわるい女子学生の面倒をみなくちゃいけない。

Aさん―ワタシだって、「キョージュ」だっていうだけのお粗末なセンセイの相手しなくちゃいけないんですよ! 誰とは言わないけど。

H教授―はは、痛みわけか。さ、今日はこれで終わろうか。

Aさん―まだ、紙数が残ってます。

H教授―だって、今夜はイブだぜ。ボーイフレンドと食事しなくていいのか。

Aさん―なに言ってるんですか、今日は仮想正月でしょう!

H教授―(小さく)可哀想に...、行くところがないのか。(涙)

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新規補助金獲得秘話

Aさん―うるさいんです! ワタシャ、学問に生きるんだから。
センセイ、前講で新しい補助金を立ち上げたと言ってたでしょう。その話を聞きたいんですけど。

H教授―ああ、もう15年以上前だな。水質規制課長のときだけど、新規の予算要求で河川の直接浄化の補助金を出したことがあるんだ。

Aさん―直接浄化って、川底のヘドロをさらえたりするんですか?

H教授―ほんとうはそういうソフトこそが必要なんだけど、日本の補助金事業は、ハードというかハコモノというか、施設の建設だけを対象にすることが普通なんだ。

直接浄化にはいろんなやり方があるんだけど、川のそばに浄化装置を置いて、川の水をそこに引き入れて浄化してから再放流することにして、その浄化装置の補助金を要求したんだ。

Aさん―あれ? ワタシの田舎の川ではもっと前からなんかそんなのやってましたよ。

H教授―そうなんだよ。旧・建設省の河川環境整備事業【13】の補助制度には、河川の直接浄化事業もメニューに入っている。だから熱心な自治体の首長がいるところでは、そのメニューを使ってやっていたんだ。だけど、普通はメニューにはあってもそんなのは、やりっこなかった。だって、自治体での担当は環境部局でなく、土木部局の河川課かなんかだから。

それでも一応メニューにあるから、新規要求はきわめて困難が予想された。それでも要求せざるをえなかった。

Aさん―どうしてですか?

【13】 河川環境整備事業
河川法(1964・国土交通省所管)に基づいて国土交通省が所管する河川整備事業のひとつで、1969年からはじまった。具体的には水質浄化や清浄な流水の確保を図る「河川浄化事業」、環境護岸、せせらぎ水路、散策路等の整備を行う「河道整備事業」、河川水面利用の適正化や推進を図る「河川利用推進事業」があり、国直轄事業と都道府県補助事業がある。
河川審議会から答申を受けた「今後の河川環境のあり方」(1995)や目的に「河川環境の保全と整備」を加えた河川法改正(1997)を背景として積極的な事業展開が図られている。


H教授―実は予算要求っていうのは、係で議論し、課で議論し、局で議論し、と段々と絞り込みつつ、上に上がっていくんだ。で、当時の水質規制課のある係長が奇想天外、まったく実現の可能性がないけれど非常に面白いアイデアをあげた。
これはおもしろい、ユニークだというので、とうとう局議【*】の場まで上がってしまった。ぼくはその頃は水質規制課じゃなかったから局議の場ではじめて知ったんだけど、これはおもしろい、庁議【*】の場でのおもしろい話題提供になるというんで、ここも通過。庁議にまであがっちゃった。
そしたら事務次官がこれはおもしろい、ひとつがんばってみろと言い出した。単なる話題提供のつもりで出しただけで、万に一つの可能性もないのはわかっていたから、こんなのガンバルつもりは毛頭ないんだけど、すんなりと下ろさせてくれそうにない。それで、少しは可能性のある骨っぽい代案の新規要求を考えろということになった。
ちょうどそのときぼくが水質規制課長になった。しかたなく苦し紛れに考え出したのがこの補助金だった。

Aさん―でもそんなの旧建設省の縄張りを荒らすことになるから、できないんじゃないんですか?

H教授―建設省の補助対象は河川法適用河川【14】なんだ。河川法では一級河川、二級河川、準用河川と区分しているんだ。だけど、よく調べてみると実態は河川でも、準用河川にもなってないものがあることがわかった。これを普通河川というらしい。
河川法適用河川は国の行政財産だけど、普通河川は形式的には大蔵省(現・財務省)が管理する普通財産ってことになっているらしい。ついでにいえば道路もそうだね。道路法の道路や、誰がいつ作ったかがはっきりしている道路以外に、昔から存在している道がある。里道というんだけど、これも普通河川と同じ扱いらしい。

Aさん―で、その普通河川を対象に要求したんですか。なんかセコいですねえ。

H教授―うるさい。で、新規の補助金なんて普通じゃ通るわけがないから、議員の力を借りて大蔵に圧力をかけるしかないというんで、理解のありそうな議員を十数人ピックアップした。それからは、議員会館参りの毎日だったなあ。

Aさん―何人かで行くんですか?

H教授―いや、ぼくひとりさ。それに、局長がその頃変わったばかりで、予算局議も庁議にも出てなかったから、なんでそんなくだらない予算要求をしたんだ、オレは知らんと突き放され、一切協力してくれなかった。

Aさん―議員さんの反応はどうでした?
【*】 局議とは局の課室長以上の会議。 庁議とは部局長、官房三課長以上の最高幹部の会議で、現在では省議。予算局議に関しては係長以上が出席する。
【14】 河川法と、同法適用河川
河川法は、国内の河川整備のあり方などを規定する法律で、1964年に制定された。所管は、国土交通省。
明治時代以降の近代河川管理制度は、「治水」を目的に始まり、戦後の高度成長期に急増した水需要に対応するため「利水」が目的に加わった。さらに、水質などの環境悪化の深刻化、また地域の個性を生かした川づくりへの高まりなどを受け、1997年の改正で、「環境保全」「地域住民の意見の反映」の観点が盛り込まれている。
1997年の法改正では、従来、河川整備について水系ごとに河川管理者が定めていた「工事実施基本計画」に代えて、「河川整備基本方針」と、それに基づく20〜30年間の具体的な整備目標となる「河川整備計画」の2段階で策定することが定めらた。同計画の策定に当たっては、必要に応じて学識経験者や住民などの意見を聴くことになり、水系ごとに流域委員会が設置されている。
同法では、国土交通大臣が指定した一級河川(1999年時点で13,935河川)、都道府県知事が指定した二級河川(1999年時点で7,029河川)を対象とし(これらには湖沼も含まれる)、また同法の一部を準用し、市町村長が管理する河川を準用河川と規定し、河川区域内での工作物の新築、河川の流出の占有等を行う場合、また河川保全区域内において工作物の新築などを行う場合は、河川管理者の許可が必要となる。一級、二級および準用河川以外の河川を「普通河川」という。
河川法(総務省法令データ提供システム)
「河川法の一部を改正する法律」について(国土交通省河川局)

H教授―説明を聞いてがんばってくださいねと言われるのがせいぜいで、真剣に興味を持って聞いてくれた議員は少なかったねえ。

で、だんだんこちらも働きかける議員の数を絞っていって、最後はふたりの議員に集中。秘書さんに「毎日毎日ご苦労さんですねえ」って慰められたよ。

Aさん―へえ、で、さいごは?

H教授―このふたりは大蔵の主計にそれぞれのパイプで働きかけてくれたみたいだ。そしてダメ押しになったのはこの話を聞きつけた自民党の政調会長が興味を示したことだと思うよ。わずか5,000万円だったけど、予算がついた。
でもねえ、結局のところこっちへ来た5,000万円というのは、本来自然保護局 ─今は自然環境局って言ってるけど、ぼくの本家だよね─、そこにいくはずのところのものを削って持ってきたんだって。おかげで、自然保護局の諸先輩からは出入り禁止を言い渡された。

Aさん―そのお世話になった議員センセイを銀座かどこかで接待したりはしなかったんですか?

H教授―え? まったくなにもなしだよ。キミ、なにを考えてるんだ。役人イコール接待なんて考えちゃダメだぞ。

Aさん―そうか、環境省って ─あ、当時は環境庁でしたっけ─ おカネないですもんね。で、その予算はいまも生きてるんですか。

H教授―もちろんだよ、水辺の緑地整備だとか、普通河川の水環境改善にまで補助対象を広げて、予算も一桁増えたみたいだ。と、言っても微々たるものだけど。

Aさん―いまでもそういう新規予算の要求には政治家のお世話になるんですか?

H教授―さあ? どうだろう?

Aさん―なんだ、知らないんですか。
ところで、予算要求といえば、2004年度の政府予算案が固まったそうですね。
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持続可能社会の構築
H教授―ああ、そうみたいだね。新聞情報しか知らないけど、あんまり新味がないねえ。各省一律に予算を数%削るだけなんて、そんな時代はもう終りにしなくちゃ。しかも廃棄物の予算まで削るなんて、なに考えてるんだろうね。

Aさん―でも年金だ、福祉だ、国際協力だ、景気対策だって、いろんなことがいっぱいあるけど、そのなかで環境というのはどう考えればいいんでしょう。

H教授―「持続可能な社会【15】の構築」というのが、それを理解するうえでのキーワードだと思うな。環境やエネルギーだけでなく、年金も赤字国債も福祉も防衛も高速道路も「持続可能な社会」というフィルターを通して見てみればいい。そうすると新たな世界がきっと見えてくるよ(断言する)

Aさん―(感心して)ふうん...、なぁるほどねえ。

H教授―で、見た結果を教えてほしいんだ。見たらどうなるかなあって、ふと思いついたんだ。でも、最近は老眼がひどくて、自分じゃ見えないんだ。な、頼んだぞ。それじゃあ。

Aさん―セ、センセイ...そ、そんなあ。
【15】 持続可能な社会
国際的なキーワードとしては、Sustainable Development(SDと略し、日本語では「持続可能な開発」もしくは「持続可能な発展」などと訳される)。環境と開発は不可分の関係にあり、開発は環境や資源という土台の上に成り立つものであって、持続的な発展のためには、環境の保全が必要不可欠であるとする概念で、1980年に国際自然保護連盟(IUCN)、国連環境計画(UNEP)などが取りまとめた「世界保全戦略」に初出した。
1992年のリオ会議でも中心的な考え方として、「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」に具体化されるなど、今日の地球環境問題に関する世界的な取り組みに大きな影響を与えるものとなった。日本の環境基本法では、第4条等において循環型社会の考え方の基礎となっている。
1984年国連に設置された「環境と開発に関する世界委員会」(WCED=World Commission on Environment and Development、委員長の名前をとってブルントラント委員会とも呼ばれる)が1987年に発行した"Our Common Future"(邦題『地球の未来を守るために』)と題する最終報告書の中では、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」と説明し、広く世界の支持を受けた。
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(平成15年12月24日執筆・文:久野武、2004年1月14日編集終了)
(参考:南九研時報33号(平成14年4月))
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