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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.018

Issued: 2013.06.07

渓流釣りの話

小林 光さん

小林 光(こばやし ひかり)さん
(一社)水生生物保全協会理事。元環境省自然環境局長。
1971年〜2002年環境庁・環境省に勤務し、緑の国勢調査、重要湿地500の選定に関わる。
趣味は渓流釣り、登山。最近では、ブラックバスの防除の普及に取り組む。

 前回(No.014)、私の趣味が渓流釣りとお話しました。今年も連休前に南会津に遊んで来ました。イワナ、ヤマメはほどほどでしたが、雪解け直後の岸辺に咲く可憐な春の花を楽しんできました。

カタクリ〜南会津のスプリング・エフェメラル(春の妖精)

カタクリ〜南会津のスプリング・エフェメラル(春の妖精)

ヒトリシズカ〜十五人囃しのよう

ヒトリシズカ〜十五人囃しのよう

畔一面のツクシ

畔一面のツクシ


イワナ

イワナ


ヤマメ

ヤマメ

 ところで、釣り人というのはどんな場所にでも釣竿をだしてみたい習性を持っているようです。私もそうです。「野晒し」という落語の枕に、「釣れますか?!」「今朝からやってんですがね、まだピクッともいいません」「そうかもしれませんね〜。そこは夕べの雨で水が溜まったんですから」というのがあります。私も水面と見れば手当たり次第に毛鉤を打ち込んでいます。釣の師匠が「そんなところにはいないよ!」と言う場所も、どうしても試してみたくなります。それが上手と下手の分かれ目で、確実にポイントごとに釣りあげる師匠と、いない場所に打ち込んで魚を散らしてしまう私とでは3倍も4倍も釣果に差が出ます。
 そんな釣り下手の私ですので、釣り歴40年にしてやっと開眼したのも、イワナのいない所でやっても釣れないという当たり前のことです。要はイワナのいる所に行けばよいのです。イワナは幻の魚などと言われて釣るのが難しいと思われていますが、本来貪欲な魚です。釣り上げたら、ヘビ、カエル、サンショウウオが口からはみ出ていたこともありました。何でも食べてしまう魚のようです。つまり魚がいる所では、誰にでも釣れる魚なのですが、そういう場所に行くには足腰が頑健で、クマの恐怖をものともしない図太さ(鈍感さ?)が必要なのかも知れません。
 渓流釣りをしていて、魚が釣れる以外にも楽しいことがあります。イワナに気付かれないように静かに歩くせいか、思いがけなく動物が寄ってくるのです。川幅5〜6mの対岸をヒグマの子どもに追い越されたこともありました。そういうのは願い下げですが、シカ、サル、イノシシ、キツネ、アナグマ、イタチ、テン、リスなどは良く間近で見かけます。ある時、崖の上部から大きな音がして緊張したところ、落ちてきた石がいきなり歩きだしたので、さらにビックリしたことも。カモシカでした。また、誰かに見られているような気がして、ブナ林の上部斜面をキョロキョロ探すと、1頭のカモシカにジッと見られていたという経験もあります。
 それと、同じ渓に通いつめていると、自然の変化の速さに気付き驚くことがあります。昨年倒れたばかりの大木が、今年には既に一部が腐って土に還ろうとしています。後継の稚樹が芽を出していることもあります。自然は逞しく循環しているのです。それなのに、10年も通い続けていると、だんだんイワナが釣れなくなり、魚のサイズも小さくなるように思います。自然の回復力が追いつかないのでしょうか。人間の影響が小さくても、自然は案外と人為には弱いもののようです。全くの釣バカの私ですが、イワナ釣りをずっと楽しむためにも、釣り過ぎないように気を遣わなければと思っている今日この頃です。

山形の渓流2007年(森孝順氏撮影)

山形の渓流2007年(森孝順氏撮影)

山形の渓流2008年(森孝順氏撮影)

山形の渓流2008年(森孝順氏撮影)


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記事・写真:小林 光(こばやし ひかり)

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