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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.048

Issued: 2015.12.10

旧ユーゴの民族共栄オーケストラ バルカン室内管弦楽団設立!

柳澤寿男(やなぎさわとしお)さん

柳澤 寿男(やなぎさわ としお)さん
指揮者。1971年長野県生まれ。
パリ・エコール・ノルマル音楽院オーケストラ指揮科に学び、佐渡裕、大野和士、ジェイムズ・レヴァイン、クルト・マズアなどに師事。2007年、バルカンの民族共栄を願ってバルカン室内管弦楽団を設立。同年「ニューズウィーク日本版・世界が尊敬する日本人100」に選出。2009年、バルカン半島の民族対立の象徴の地のひとつとも言えるコソボ北部のミトロヴィッツァで、UNDP国連開発計画、KFOR国際安全保障部隊、コソボ警察などの協力を受け、歴史的演奏会を実現し大成功を収めた。
2013年から世界平和コンサートへの道プロジェクトが開始され、各地でバルカン室内管弦楽団の来日公演などを行い、第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件から100年の節目に、最終公演としてサラエボ国立劇場でヨーロッパの共通国歌とも言われ第九平和祈念コンサートを開催。著書に「戦場のタクト」〜戦地で生まれた奇跡の管弦楽団(実業之日本社)。
現在、バルカン室内管弦楽団音楽監督、コソボフィルハーモニー交響楽団首席指揮者、ベオグラード・シンフォニエッタ名誉首席指揮者、ニーシュ交響楽団首席客演指揮者。
HP http://www.marscompany-balkan.com/

 旧ユーゴ解体後の民族紛争は各民族の交流をなくしてしまい、音楽といえども共に演奏することはできなくなってしまった。そこで、国連などの意見も聞きながら、バルカン半島の民族共栄を願ったバルカン室内管弦楽団を立ち上げた。
 2009年5月、コソボ北部ミトロヴィッアで行われたコンサートは歴史的コンサートとなり、日本の高等学校の世界史の教科書に記載されるほどになった。
 ミトロヴィッアは川を挟んで南側にアルバニア系住民、北側にセルビア系住民が住む街。橋は軍隊によって厳重に警備され、時折対立が起こると高く土が盛られ、通行ができなくなる。人々はいつからかこの橋を分断の橋と呼ぶようになった。この橋の南北両側で両民族の音楽がひとつになったコンサートを開催するというプロジェクトが立ち上がった。それはまさに音楽が国、民族、宗教を越えた架け橋となるものだった。
 バルカン室内管弦楽団は、国連開発計画と軍隊、警察の尽力を得てコンサートを開催することとなった。国連とともに南側の市長、北側の市長に会い、コンサートの開催条件を確認した。コンサート中のセキュリティ強化、コンサート告知をギリギリまで行わない、名前を公表しないなど、条件はすべてセキュリティに関するものだった。
 音楽家たちは最初こそぎこちなさはあっても、家族の一員が他の民族であり、戦中戦後は会えなくなっていたり、自分自身が戦争で敵対してしまった相手の国で生まれ、もう戻ることができなくなったりと、それぞれの理由から民族合同のオーケストラへの参加を楽しみにしてくれた。オーケストラはセルビア人、アルバニア人、マケドニア人の3民族で構成され、リハーサルは3日間、マケドニアで行われた。
 コンサート当日は国連の特殊車両によって、一同がミトロヴィッアの両コンサートホールまで移動し、厳重な警備のなか、安全に演奏できた。まさに歴史的な奇跡のコンサートであった。

 それから5年経ち、年に一度開催されるバルカン室内管弦楽団は旧ユーゴ各都市をはじめ、ニューヨーク、ウィーン、東京など世界中でWorld Peace Concertを開催している。
 今年2015年はセルビアの首都ベオグラードで世界的なヴァイオリニスト諏訪内晶子さんと共演。来年2016年6月には東京公演、岡谷公演、ジュネーブ公演などが予定されている。
 戦地で生まれた奇跡の管弦楽団が世界に羽ばたいていきます。ぜひコンサートでお会いしましょう!

私服のリハ風景(© 後調正則氏)

私服のリハ風景(© 後調正則氏)

日本から参加の合唱の人と現地の合唱団(© 後調正則氏)

日本から参加の合唱の人と現地の合唱団(© 後調正則氏)

日本のホールでは珍しいステージ裏の出演者専門カフェでくつろぐバルカン楽団メンバー。喫煙率は高め。どのテーブルに座るか?も興味深い。(© 後調正則氏)

日本のホールでは珍しいステージ裏の出演者専門カフェでくつろぐバルカン楽団メンバー。喫煙率は高め。どのテーブルに座るか?も興味深い。(© 後調正則氏)


2015年ベオグラードでのバルカン室内管弦楽団

2015年ベオグラードでのバルカン室内管弦楽団


右セルビア人の第二ヴァイオリン、左サラエボ(子)チェロ。この演奏中一番仲が良かった二人の演奏後のハグ(© 後調正則氏)

右セルビア人の第二ヴァイオリン、左サラエボ(子)チェロ。この演奏中一番仲が良かった二人の演奏後のハグ(© 後調正則氏)


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(記事:裄V寿男、クレジットのない写真は筆者提供)

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