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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.050

Issued: 2016.02.09

クルーズの魅力

幡野 保裕(はたの やすひろ)さん

幡野 保裕(はたの やすひろ)さん
1944年 北京生まれ。
東京、横浜で幼年時代を過ごし、その後尼崎へ。高校時代は信州・長野で柔道の県代表インターハイ選手として活躍。
東京商船大学卒業後、'68年日本郵船(株)へ入社。以来14年間の海上勤務ではコンテナ船、オイルタンカー、バルカー船の経験を積む。また13年間の陸上勤務では主に船員の教育、労働管理、人事管理を担当。'89年に船長に昇進。飛鳥には、'95年4月より副船長として乗船後、'95年6月より2003年3月まで飛鳥船長を務める。
その間、4回の世界一周クルーズを指揮した。

 地球は水の惑星と呼ばれ、その70.8%は海であり、地球上の全ての陸地は海でつながっています。人類は人流・物流に、この海を最大限に利用してきました。
 そして現代ではクルーズというレジャーとしても洋上の旅を楽しんでいます。
 日本でも船旅が移動の手段でなくレジャーとして登場して略四半世紀になります。
 私はその黎明期の1995年から2003年までの8年間、客船飛鳥の船長として世界中の海域を航海しました。世界一周のクルーズも幸いにして4回指揮を取らせて貰らいました。

 私の大好きなクルーズを顕す言葉は、「クルーズは時の揺り籠」です。
 船のタラップを昇り船内に足を踏み入れると、そこは非日常の世界です。
 仕事や肩書は全て、陸上に置き忘れて下さい。ご婦人方は家事一切を忘れて頂いて結構です。
 ゆっくりと流れる非日常の時間をお客様にお好きなようにお使い頂くことこそ、クルーズの魅力と考えます。
 時間軸で云うとジェット機の1時間が船の1日に相当します。羽田からホノルルまで、ジェット機では約7時間のフライトで一寝入りしたら到着ですが、船で横浜からホノルル約7日間を要します。
 ゆっくりと時間をかけて、美味しい食事や、講演会、カルチャー教室、スポート、エンターテイメントを楽しんでいる間に目的地がやってきます。
 リゾート・ホテルで優雅な時間を楽しんでいる間に、目的地がやってくるような、移動型と滞在型がコンバインされた究極のスタイルの旅がクルーズと言えます。

 安全・安心、便利、快適、そして多くの感動と健康が付いてくるのが船旅です。
 今回はそれぞれについて詳しくお話しする紙面は有りませんので、旅をする最重要な目的「感動」について述べさせて頂きます。

オアフ島(ハワイ)ダイヤモンド・ヘッド沖(撮影 中村庸夫氏)

オアフ島(ハワイ)ダイヤモンド・ヘッド沖(撮影 中村庸夫氏)


 人は何を求めて旅をするのでしょうか。感動を求めて旅をするのだと私は考えます。
 船旅には多くの本物の感動があります。自然との出会い、自然現象や海洋生物との出会いです。また海から眺める陸地の風景は特別です。季節と時間により、またアプローチする方向により変わっていく景色です。
 人との出会いも有ります。船旅で同じ感動を共有する人との出会い、寄港地で触れ合う、現地の人々との出会いもあります。
 世界一周クルーズは特別なクルーズで大きな達成感があります。
 海の色や、景色、気候、文化、伝統、食事、習慣は場所によって異なり、地球の大きさを感じます。また人々との触れ合いでは、言葉は違い、宗教は異なっても、笑顔や優しさで心が通じ合え、人は何処に行っても同じと地球の小ささを感じます。
 世界一周クルーズに何度もご乗船されるお客様がいるのはこの大きな感動の為と私は考えています。

 船旅が与えてくれる感動の中で大きな比率を占めるのは、自然との出会いで有りましょう。
 朝日・夕日を眺めるだけで船旅は満足できると話されるお客様も居られます。人にとって日々がいつも新なのと同様、朝日・夕日も同じもの決して存在せず、毎日異なります。
 「朝日に“今日も元気で過せますように”と、また夕日に“良い一日を有難うございます”と祈る時には生命の素晴らしさを感じる」とは、デッキに集う人々の言葉です。

 最近都会では見難くなった、宝石箱をひっくり返した様な星空にも出会えます。
 海を移動する船からは色々な場所から星空を見る事ができます。北に進むと北極星が天頂に近づきますし、南に進むと南十字星が大きく立ち上がります。
 虹も多種多様。見事なアーチを創る虹。運が良ければ、その中を船が通り抜けます。
 まっすぐ天使の梯子の様に天空に伸びる虹も顕れます。特別なものは、月光で出来る虹でしょう。満月の夜に、スコールが水滴を振り撒いてくれると、虹が立つのです。その月光が創る虹はムーン・ボーまたはナイト・レインボーと呼ばれます。

 海は見ていて飽きない。
 光と水深が創る青のグラディーションに勝る宝石はないと考えます。

 潮流と風が創るその表情も千差万別、菩薩の様な穏やかな慈愛に満ちた表情から不動明王の憤怒の表情まで有ります。
 クルーズ船にとっては豊かな海の存在が不可欠であり、洋上を仕事場にすると、この海を守っていきたいと強く感じます。

タヒチ モーレア島(撮影 中村庸夫氏)

タヒチ モーレア島(撮影 中村庸夫氏)


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(記事:幡野保裕、写真提供:中村庸夫氏)

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