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環境さんぽ道

環境さんぽ道

様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.084

Issued: 2018.12.10

いのち

堤江実(つつみえみ)さん

堤 江実(つつみえみ)さん
詩人・絵本作家。詩の朗読コンサート、日本語についての講演などで活躍。
詩集「つたえたいことがあります」、絵本「水のミーシャ」他著書多数。

いのち

あなたに触れる

なんという
やすらかなあたたかさ

この宇宙を
何億年ものあいだ
一瞬もやすむことなく
星がめぐり
月がめぐり
太陽がめぐっているように

あなたの宇宙を
脈打ち 流れ めぐりつづける

いのち

こちらで、堤江実様ご自身による朗読をお聞きいただけます。
堤江実詩集「つたえたいことがあります」(三五館)

 もうすっかりおなじみになった風景。
電車の中だけでなく、歩くときも、食べるときも、人と話している時も…。
もしかしたら寝ている時でも、、、と思ってしまうほどの風景。
ただひたすら、スマホの画面だけとむきあって…。

 私は、ささやかな抵抗でガラ携で頑張っていたのですが、そろそろお手上げです。
PCが一台あれば、私の場合、携帯は、メールと電話だけで十分便利だったのですが、どうも、テクノロジーの進歩は、単にものとしての携帯を超えて、社会のシステムを変え、人の行動パターンを変え、時代そのものの立ち位置さえ変えてしまうようで、これは、生きていけなくなるのではないかという追い詰められ方です。
スマホで動くインフラ、スマホで保存する写真、スマホでどこへどのように行くかを指示してもらわなければ外出もままならない。スマホがなければ、存在証明もおぼつかない。

 かつて、冷蔵庫の出現が、女性たちの買い物のパターンを劇的に変え、毎日の物売りという商売を消滅させ、女性の意識を変え、家族のありようまで変えて、社会の時間軸を激変させたように、スマホは、ただの携帯の進化形ではなく、社会とのかかわり様の新しい形へのパスポートなのでしょう。
いつでもどこでも、自分以外の外界の誰かとつながっている。自分以外のことを知るのは、短く、感覚的、瞬発的な数行でおしまい。
ゆっくり、時間をかけてすみからすみまで新聞を読むことで、時代を知り、世界を知ることが、生き方の中心だった人々がいたのは、いつのころだったでしょう。
誰もが、待つということに、深く考えるということに、時間をかけるということに恐怖を感じる時代というのは、人をどこに向かわせてしまうのでしょう。
神戸製鋼の不正事件の時に、質より効率が追及された結果だと論じられ、暗澹としたのでしたが、それ以来、あっちもこっちも似たような話ばかりです。

 環境とは、外の世界のことではなく、自分自身の生き方の反映です。
スマホ時代に、自然の時間との乖離が取返しがつかなくなった時、この地球はどうなってしまうのでしょう。
そして、いのちあるすべての生き物たち、なかでも人という種に未来はあるのでしょうか?

 世界中が、便利なスマホに使いこなされて、考えることがおろそかになった時には、ほんの一握りの天才たちが創りだす新たな奴隷社会が目に浮かんでしまいます。
わかりやすいメッセージに瞬間的に、雪崩を打って追随する人々。
今の日本を見ていると、もうすでに始まっているとしか思えない。
なんとか、いのちの時間をからだで感じ、心で受け止めることを忘れないでいたいと思います。

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