「国立公園局の予算は、基本的に公園の利用者数に基づいて配分されています。他の48州と地理的に離れているアラスカ地域には、それほど多くの利用者が来るわけではありません。予算も、他の地域よりずっと少ないんです」
いくらすばらしい自然環境に恵まれた国立公園を管理していても、人が来なければ管理費用は配分されない。一方で、アラスカのような一つ一つの公園が大きい地域では、管理に人も予算も必要だろう。
「アラスカで最も利用者数が多い公園はどこだと思いますか?」
やはり有名なデナリ国立公園だろうか?
「実はクロンダイクゴールドラッシュ国立歴史公園というところが一番多いんです」
聞いたことのない名前の公園だが、大型船のクルーズツアーのコースに入っているのがその理由だという。
クルーズ船は、利用者数を引き上げるためには大きな効果がある一方で、野生生物への影響も懸念されている。
「クルーズ船の利用が多いグレーシャーベイ国立公園では、自然環境の調査コストをクルーズ船の運行会社が負担しています」
こうした、利用者へのサービスと自然環境のモニタリングを民間に委ねることにより、管理コストを圧縮しているということだろうか。
○参考1:クロンダイクゴールドラッシュ国立歴史公園(Klondike Gold Rush National Historic Park)
![]() |
1976年設立。公園は、1898年に起きたゴールドラッシュを象徴する歴史的建築物や展示、トレイル(White Pass Trail)などから構成されている。スキャグウェイ(Skagway)には、ビジターセンターの他、修復された建築物が13棟ある。面積は13,191エーカー(約5,340ヘクタール)だが、そのうち連邦政府所有地は2,419エーカー(約980ヘクタール)のみ。 |
クロンダイクゴールドラッシュ国立歴史公園 位置図 |
「そもそも、アラスカではまだ国立公園の重要性が十分認識されていません。例えば、キーナイフィヨルド国立公園では、隣接するスワードの住民の間に、公園への根強い反感が残っています」
スワードは、かつてはアラスカの重要な玄関口として、石炭の積み出しや、金採掘のための移住者が上陸してきた。はるか内陸部のフェアバンクスに至る鉄道の起点でもある。しかし物流や旅客システムの変化に伴って、スワードの重要性は大幅に低下し、20年ほど前には、この町の収入減はほとんど何もなくなってしまったそうだ。
「現在は、氷河の遊覧クルーズにより観光拠点として復活していますが、その恩恵を受けていない人々にとっては、国立公園の魅力は実感されていません」
これはとても意外なことだった。
次に、今回の調査の大きな目的である、国立公園の利用規制について伺うことにした。
「利用者規制の成功事例は、やはりデナリ国立公園の自家用車の乗り入れ規制でしょうね。1970年代にいち早く自家用車の利用を全面禁止したことが成功の要因だと思います」
一方、失敗した事例もあるそうだ。
「カトマイ国立公園では、1日250人を上限とする利用者規制を導入しようとしたのですが、結果的にだめでした。政治的な圧力などもあったのです」
アラスカでも、利用規制を新たに導入したり、これまでの規制を変更したりするのは決して簡単なことではない。
「他の地域では、シャトルバスによる利用者誘導や自家用車台数の抑制を行っている公園もあります。こうした方法が現実的なのではないでしょうか」