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目次
新エネルギー戦略の主要行動領域
21世紀型エネルギー・環境システムへの移行に向けて
【13】
大島堅一、「再生可能エネルギーの政治経済学」、2010年
【14】
杉田敦編、『連続討論 「国家」はいま』、岩波書店、2011年、86-95頁

No.193

Issued: 2011.06.03

加速するドイツの脱原発

―ドイツの環境・エネルギー戦略から21世紀型電力供給を考える[3]

新エネルギー戦略の主要行動領域

 新エネルギー戦略の主要行動分野は以下の9分野です。

  1. 将来のエネルギー供給の要としての再生可能エネルギー
  2. エネルギー効率向上
  3. 原子力及び化石燃料を使用する発電所
  4. 効率的な電力系統網と再生可能エネルギーの接続
  5. 住宅・建築分野の省エネ改修・建築
  6. 輸送分野における挑戦
  7. イノベーションと新たな技術のためのエネルギー研究
  8. 欧州及び国際的な文脈でのエネルギー供給
  9. 受容性と透明性

 以下は、1. から5. までの主要なポイントです。

1.将来のエネルギー供給の要としての再生可能エネルギー
 再生可能エネルギーは、将来のエネルギー供給の主要な柱であり、2030年までには最終エネルギー消費量の30%、2050年までには60%、2030年までには総電力発電量の50%、2050年までには80%が目標とされています(表1参照)。再生可能エネルギー法に基づき再生可能エネルギーの拡充を継続すると同時に、イノベーションと費用低減を促す働きかけを行います。再生可能エネルギー法はより市場に即したものとし、再生可能エネルギーの拡充を更に進めます。再生可能エネルギーの割合の増加とともに、従来エネルギーを含めた電力系統、蓄電設備、それらのネットワーク等の最適化を図ることとしています。
 緊急行動計画の一環として洋上風力発電に関する法令を改正し、洋上発電の技術的なリスクをよりよく把握します。そして洋上風力発電パークの最初の10施設の早期の建設を促進するため、独復興金融公庫(KfW)が、2011年に融資総額50億ユーロを提供する特別プログラム「オフショア風力エネルギー」を開始します。

2.エネルギー効率向上
 エネルギー節約及び節電には多大の潜在的可能性があります。この可能性を経済的インセンティブの提供と、情報発信、コンサルティング・サービスの充実により顕在化させます。
 エネルギー生産性を今後年平均2.1%向上させ、1次エネルギー消費量を2020年までに20%、2050年までに50%削減します。また、電力消費量を2020年までに10%、2050年までに25%の削減を目指します(表1参照)。さらにエネルギー・サービス市場を重点的に支援し発展させます。
 エネルギー管理システムの実施状況に応じて産業への税制優遇措置を実施します。具体的には、エネルギー税及び電力税に関し、2013年からは企業がエネルギー・マネジメント・システム(EN16001、ISO50001)を導入しエネルギー節約に寄与した場合のみ、税制上の優遇を認めます。
 連邦経済技術省は、年5億ユーロの省エネ効率ファンドを設置し、連邦環境省と調整の上、消費者、中小企業・産業、地方自治体が実施する特定の省エネ活動に対する財政的援助を行います。
 連邦環境省の国家気候保護イニシアティブに、2011年より追加的に年間2億ユーロの予算が措置され、この執行は連邦経済技術省との調整により定められます。

3.原子力及び化石燃料を使用する発電所
 国内17箇所の原子力発電所の稼働期間は、平均で12年間延長します。
 原子力発電所の稼働期間が延長されることにより再生可能エネルギー及び省エネ関連事業への投資促進予算が確保されます。2016年までの時限措置である核燃料税に加え、稼働期間延長からもたらされる追加的利益からの負担(課徴金)に関する取り決めが原子力発電所運営事業者との間で行われます。新規に導入される核燃料税及び追加的な課徴金は、原子力発電事業者の追加的な利益の大半の支払いを求めることになり、このことで稼働期間延長により原子力発電事業者が経済的に優位な立場に置かれることを防止します。
 今後エネルギー・ミックスにおいて石炭の役割は縮小し、2020年には30%、2030年には20%となります。

4.効率的な電力系統網と再生可能エネルギーの接続
 再生可能エネルギーの拡充には、伝統的なエネルギーとの調和と最適化を図る必要があり、電力系統のインフラと蓄電技術が重要な役割を果たします。
 特に緊急な取り組みが必要とされているのは、北部の風力発電パークからの電力を南部及び西部の人口密集地域に送る南北の送電線です。
 また、将来的に必要とされるインフラの需要を導き出すため、連邦政府は2011年に既存の系統及びエネルギー送電網拡充法によって示されている需要を基に、インフラ拡充をめざす「電力系統拡充目標2050」を策定します。これは、既存の電力系統の拡充、オーバーレイ・ネットワークの計画及び実証試験用送電網の検討、洋上における北海電力系統及びクラスターの形成、独電力系統網の欧州ネットワークへの接続を含みます。
 「スマート・グリッド」は、将来的に、発電施設・蓄電施設・消費者並びに電力系統網を近代的な情報技術により管理します。インテリジェントな電力系統網の構築のため、スマート・メーター並びに発電施設、蓄電設備、消費者及び電力系統運営システムのコミュニケーション・ネットワークと管理手法の導入に向けた法的な土台を構築します。

5.住宅・建築分野の省エネ改修・建築
 住宅・建築物部門はドイツの最終エネルギー消費の約40%を占め、CO2排出の約3分の1を占めます。2020年までに建築物からの熱需要の20%、2050年までに80%の削減をめざします。
 2050年までに、ほぼ100%の建築物のゼロ・エミッション化を目指し、長期的に建築物の熱需要を削減します。そのため、現在年間で1%の割合でしか行われていない既存の建築物の省エネ化のための改修工事の割合を、年間2%程度まで上昇させます。
 建築物の保有者が早期に目標値を達成した際には、政府からの助成を得ることができます。さらに既存のCO2建築物改修プログラムに加えて、改修の促進に向けた新たな税優遇を導入します。
 建築物における再生可能エネルギーの拡充に対しては、追加的に年間2億ユーロの予算が措置され、市場インセンティブが継続されます。また、建築物の改修に対する特別税控除を検討します。

ハノーバー市のレンタル自転車
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21世紀型エネルギー・環境システムへの移行に向けて

 福島原発事故は、わが国の原発に依存する電力大量消費・大量供給社会のもろさを露呈し、原発の安全性と経済性の根本的な再検討を、評価基準・評価体制を含めて求めるものです。この事故からくみ取るべき教訓は、原発の技術的課題のみならず、電力供給システム全般、そしてエネルギー安全保障や気候変動政策にも深くかかわります。そのためには電力供給システムのライフサイクルをトータルで考慮し、エネルギー政策・環境政策・資源政策を統合的に考えることが必要です。
 わが国では従来原子力発電が、経済性・安全性、そして気候変動政策への寄与を理由として促進されてきました。安全性や気候変動政策への寄与については、いまやその根底が揺らいでいます。経済性については、放射性廃棄物処理などバックエンド(後処理)の不確実性、原発と一体で建設される揚水発電の費用、そして種々の名目で原発のための支出されている巨額の財政負担などを考慮すると、発電コストが過小に評価されてきたことが明らかにされています【13】。すなわち原子力発電の経済性は実は巨額な財政支出があって初めて成り立っていたのであり、それが他の再生可能エネルギーなど多様な発電技術実用化を妨げ、競争をゆがめてきたのです。
 また、わが国の現在の電力供給は地域独占で行われる垂直統合型であり、発電と送電は分離されていません。今や世界的にはこの仕組みは特殊な形態となっています。今後は電源別の公正な競争を可能にする制度的枠組みづくりが課題であり、その中で発電と送電を分離し、小規模・分散型の再生可能エネルギーによる発電の適正な競争への参加が期待されます。

 気候変動のリスクと原子力のリスクを避けるためには、長期的には化石燃料と原子力発電への依存を減らすことが必要です。これは電源の形態でいえば、従来型の[化石燃料+原子力]から、[再生可能エネルギー+省エネルギー+スマート・グリッド+蓄電]への転換です。後者を未来型、ないし「21世紀型のエネルギー・電力供給システム」と名づけます(表2参照)。
 「省エネルギー」と節電を進めることは、マイナスのエネルギー・電力の消費であり、それはエネルギーや電力の供給能力を高めることです。これは節約したエネルギー相当分を生産したことになり、いわば省エネ発電所を建設することに相当します。このような省エネルギー・節電のメカニズムを経済社会にビルトインし、省エネ発電所への投資を促進する制度的基盤づくりが重要です。
 スマート・グリッド(次世代送電網)は、情報技術を活用してエネルギーの需要と供給を管理し、再生可能エネルギーや複数の分散型蓄電装置の能力を活かすうえで欠かせません。スマート・グリッドとスマート・メーターの活用、そしてスマートコミュニティを広げることにより、電力使用者と供給者の双方向のコミュニケーションが可能とし、リアルタイムで需給バランスを図り、需要のピークをシフト(平準化)することが容易になります。
 [再生可能エネルギー+省エネルギー+スマート・グリッド+蓄電]のエネルギー・電力供給システムは、従来の大規模・集中電源から、分散型ネットワーク電源への転換をも意味します。小規模分散型であることによって、大規模な災害が起こった場合でも、大規模集中立地によるリスクを避け、システム全体の停止は避けることができます。したがって災害への抵抗力が高くなり、リスク低減社会の構築に資することになります。これはさらにエネルギーの地産地消と自然に適合した地域経済や雇用の拡大にもつながることになるのです。
 日本政府は福島原発事故を契機として、エネルギー基本計画をはじめ、既存のエネルギー政策の根本的な見直しを行うことを表明しています。発送電の分離を始めとし、はたして「21世紀型のエネルギー・電力供給システム」への移行を確かなものとできるかどうか、今後大いに注目されるところです。

表2 従来型電力供給システムと21世紀型電力供給システム
原子力+化石燃料 再生可能エネルギー+スマート・グリッド+蓄電
大規模・集中電源 分散型・双方向型(大規模災害への抵抗力大)
地域独占・垂直統合 電力自由化、発・送電分離
既得権益 産業構造転換・新規参入、消費者の選択
RPS(再生可能エネルギーに関する固定枠制) FIT(固定価格買取制)、新たなビジネスモデル
トップ・ダウン ボトムアップ(←市民運動、消費者運動、自治体からの政策革新)

(諸富徹【14】を参考に筆者作成)

自然再生事業(ハム市)

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【記事・写真】松下和夫

〜著者プロフィール〜
松下 和夫
 京都大学大学院地球環境学堂教授 国連大学高等研究所客員教授。
 東京大学経済学部卒、ジョンズホプキンス大学大学院(修士)。環境庁(省)、OECD環境局、国連地球サミット上級計画官等を経て2001年より現職。92年の地球サミットには国連の立場から、2002年の持続可能な開発世界首脳会議には環境省参与として参画。国連気候変動枠組条約や京都議定書の交渉にも関与。持続可能な社会に向けた地球環境政策や環境ガバナンス論を研究。主著に「環境政策学のすすめ」、「環境ガバナンス」、「環境政治入門」など。http://www.envpolicy.ges.kyoto-u.ac.jp/lab/index.htm
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