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No.194

Issued: 2011.06.23

竹林を間伐 生態系を守り、復興支援へ

目次
竹の伐採 今昔
竹の間伐に参加
まとめ

どこまでも続く竹の小路

 「生物の多様性」や「生態系の保全」と言えば、植林や動植物の保護など“増やす”ことがまず思い浮かびます。ですが、「伐採」や「間伐」などの“減らす”作業も、生物多様性や生態系の保全に向けた大事なステップです。代表例の一つに、『竹』があります。
 今回は、愛知県名古屋市で行政と民間の協働によって取り組まれている竹林の間伐と、その間伐竹材を東日本大震災の被災地の復興支援に役立てようという活動事例を紹介します。

竹の伐採 今昔

大きくなる前に筍を採ってしまうのも有効活用?

 竹を伐採することが、なぜ生物多様性や生態系の保全につながるのか? それは竹の特性によるところが大きいのです。もともと強靭な繁殖力を持つ竹は人の手が入らない場所でどんどん生長し、勢力を増して生息域を拡大しています。生い茂る枝葉は地面に差し込む日光を遮り、結果として他の植物やその植物を食料とする動物を追いやることとなり、生物多様性や生態系を貧弱なものにしてしまいます。
 その対策に頭を悩ます住民や自治体も少なくありません。竹の根はあまり深く生えず、横に広がっていくことから、地下に遮断のプラスチック板を入れたり、集めて加熱したり、と対策をとっています。それでも、近隣の林にどんどん竹が広がったり、中には住宅の近くや庭の中にまで竹が生えてきたりするため、苦戦している住民がたくさんいます。

 背景には、竹が材料としてあまり使われなくなったということもあります。昔は竹籠や物干し竿など、竹製品が身近にあふれていました。用途があったから、定期的に竹が伐られていましたが、近年ではプラスチックやアルミニウムなどの製品に取って替わられています。その結果、使われなくなった竹は、わざわざ取り除くための伐採が必要になってしまいました。逆に言うと、竹を有効活用する方法を見出すことで、環境保全につながっていくのです。
 そんな竹の有効活用に関わる活動の一環として、竹炭が土壌改良に役立つことに注目し、間伐竹材を竹炭にして東日本大震災の被災地へ送ろうと、先日、「竹の間伐」が行われました。

竹の間伐に参加

『竹伐採十字軍』の横断幕

間伐の趣旨が書かれた看板


 5月14日(土)最高気温24℃の晴天のもと、牧野ヶ池緑地で竹の間伐が行われました。長い竹林を抜けると『竹伐採十字軍』の横断幕と間伐の趣旨などが書かれた看板が掲げられ、すでにたくさんの人たちが集まっていました。地元の竹材組合、建築関係者、被災地へ送る竹炭を作る人、大学生ボランティア(OBを含む)、間伐に興味を持った一般市民、親子連れなど総勢約50人が参加しました。
 牧野ヶ池緑地管理事務所の所長さんの挨拶に続き、主催者の「竹やぶを竹林にしましょう」という声で間伐開始。今年が2回目となるこの間伐作業、昨年の参加者も多いだけあって、適度な間隔で竹を伐採する人、伐採した竹の長さを揃えて鋸で切る人、枝葉を落とす人、竹炭にする太めの竹を選りわけて竹林の外に出す人、その竹をトラックに積み込む人、細い竹や枝葉を整理する人、と誰からともなく作業を分担して効率よく進めていました。
 私は初めての参加で、鋸で竹を切り長さを揃える作業に挑戦しましたが、細めの箇所を切ったにも関わらず、竹繊維の強さとしなやかさに思うように鋸が進まず、最後の「皮一枚」になってもなお切り離すのに苦労していました。小さな子どもと参加した親子は、太い竹をトラックに積み込むため竹林の外の原っぱで待機し、柵の間から長い竹が出てくると2人で力を合わせてトラックへ運んでいました。


作業を分担して手際よく進めます

子どもは竹林の外でお手伝い


 午後には愛知県の大村知事が応援に駆け付け、ポロシャツに長靴姿で竹の間伐作業に参加されました。夕方には林の向こう側が見えるようになり、地面に日差しが差し込むほどにすっきりと整えられ「竹やぶから竹林へ」の間伐作業が終了しました。
 この日、伐採した竹は500〜600本、そのうち約450本を焼いて竹炭を作り、被災地の土壌改良に活用される予定です。


応援に訪れた大村知事

竹の長さを揃える作業に参加しました


「竹やぶから竹林へ」視界が開けてきました

トラックに積み込まれる竹。これらが竹炭になって被災地へ届けられる予定です

まとめ

 里山などで特定の動物が増えすぎることによって生態系ピラミッドが崩壊するように、植物の世界にも増えすぎによる弊害が発生しています。それと同時に、今回の竹の間伐と間伐竹材を活用した取り組みでは、生態系保全と間伐竹材の有効活用をうまく両立させる一例になっています。
 竹林保全の活動は、各地で実施されています。伐採の規模や間伐材の使われ方は様々ですが、今回のように「土壌改良に役立つ竹炭を作って被災地の復興支援に役立ててもらいたい」という目的で、全国各地で竹の間伐と竹炭作りが行なわれれば、大規模な保全と被災地支援につながるのではないでしょうか。また、世代や地域を超えて活動が広がることで、さらなる竹の有効活用や竹製品への回帰が見られたり、次世代での持続的な活動を目標に、子どもたちに竹について知ってもらう機会もできます。
 例えば七夕の頃、地元の幼稚園・保育園や親子が参加できる「間伐イベント」を行なって、子どもへのお土産に竹の細枝を配るのは、いかがですか?

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記事・写真:来野とま子、香坂玲

〜著者プロフィール〜

香坂 玲

東京大学農学部卒業。在ハンガリーの中東欧地域環境センター勤務後、英国UEAで修士号、ドイツ・フライブルク大学の環境森林学部で博士号取得。
環境と開発のバランス、景観の住民参加型の意思決定をテーマとして研究。
帰国後、国際日本文化研究センター、東京大学、中央大学研究開発機構の共同研究員、ポスト・ドクターと、2006〜08年の国連環境計画生物多様性条約事務局の勤務を経て、現在、名古屋市立大学大学院経済学研究科の准教授。

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