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アメリカ横断ボランティア紀行(第35話)
魚類野生生物局の予算
Issued: 2013.03.01
魚類野生生物局の予算書、
グリーンブック
アメリカ内務省が取りまとめている予算書(Budget Justifications、 通称グリーンブック)によれば、私が研修を行なっていた2004年度の魚類野生生物局の予算額は合計19億7,154万ドル(約1,676億円)、うち一般会計分が13億343万ドル(約1,108億円)、特別会計分が6億681万ドル(516億円)であり、予算額に占める特別会計の割合は34%である。ちなみに、現在の2012年度予算額は24億2,907万ドル(約2,065億円)であり、2004年に比べて13%ほど増えている。しかしながら、近年の米国政府の財政状況を反映してか、2012年度、2013年度予算要求額はいずれも前年度を下回っている。また、特別会計の割合はほぼ40%に達している。
一方で、定員は2004年度と2011年度がほぼ同程度だったものの、2012年度に減少し、2013年度要求でも減少傾向にある。予算額は増加しているものの職員数は頭打ちになっていることがわかる。
2003年度 成立 |
2004年度 成立 |
2011年度 成立 |
2012年度 成立 |
2013年度 要求(*) |
2012年度予算対 2004年度増減 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
金額/人員 | % | ||||||
一般会計 | 1,243,617 | 1,303,433 | 1,505,130 | 1,475,571 | 1,347,586 | 172,138 | 13.21 |
特別会計 (特別会計の割合:%) |
660,675 (34.7) |
668,103 (33.9) |
987,770 (39.6) |
953,494 (39.3) |
994,731 (42.5) |
285,391 (-) |
42.72 (-) |
合計 | 1,904,292 | 1,971,536 | 2,492,900 | 2,429,065 | 2,342,317 | 457,529 | 23.21 |
定員 | 9,305 | 9,500 | 9,508 | 9,368 | 9,290 | -132 | -1.39 |
これに対し、同時期の国立公園局の予算をみてみると、2004年度予算額は合計25億5,699万ドル(約2,173億円)である。単純に比較すると、魚類野生生物局の予算は国立公園局の予算の8割にも満たない。また、国立公園局の2012年度予算うち一般会計分が22億5,858万ドル(約1,920億円)であるのに対し、特別会計分は2億9,841万ドル(約254億円)と、予算額に占める特別会計の割合は11.7%に過ぎない。これは、同時期の魚類野生生物局予算と比較するとほぼ3分の1だ。国立公園の入場料収入に依存する割合が増えつつあるとはいえ、まだまだ一般会計が9割近くを占めている。
2003年度 成立 |
2004年度 成立 |
2011年度 成立 |
2012年度 成立 |
2013年度 要求(*) |
2012年度予算対 2004年度増減 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
金額/人員 | % | ||||||
一般会計 | 2,241,930 | 2,258,580 | 2,611,419 | 2,579,620 | 2,578,650 | 321,040 | 14.21 |
特別会計 (特別会計の割合:%) |
303,630 (11.9) |
298,414 (11.7) |
391,953 (13.1) |
404,003 (13.5) |
407,480 (13.6) |
105,589 (-) |
35.38 (-) |
合計 | 2,545,560 | 2,556,994 | 3,003,372 | 2,983,623 | 2,986,130 | 426,629 | 16.68 |
定員 | 20,574 | 20,442 | 22,051 | 21,907 | 21,689 | 1,465 | 7.17 |
一般会計の割合が高いということは、米国民の意思を代表する連邦政府議会がその必要性を認め、国の予算を配分していることを示している。これに対して特別会計は特定の受益者が納入する税金や入場料によって支えられているから、それらの受益者が納得すればよい。米国民一般の支持は必要ない。もちろん、この場合、特定の受益者グループの意思や要望がより強く政策に反映されることとなる。
乱暴な言い方をしてしまえば、一般会計、特別会計にかかわらず、予算額はその政策の人気投票のバロメーターということができる。もちろん、一般会計予算には特定の「色」がついていないため、使途にも自由度がある。その代わり国民の広い支持と議会での厳しい審議を経る必要がある。これに対し、特別会計の方は財源が明確であるため、毎年確実に予算が確保できるが、「パトロン」の意向は無視できない。
芸能人に例えれば、一般会計は一般の視聴者からの支持であり、どうなるかわからない視聴率が目安になる。「国民的アイドル」である国立公園は、こちらのグループといえる。国民的な支持を得るために、スキャンダルを避けながら、常にすべての国民に愛されるイメージを維持しなければならないという苦労がある。
一方で、特別会計はファンクラブからの収入のようなものだろう。主にハンターなど一部の根強いファンに支えられている国立野生生物保護区は、どちらかというと特別会計組だ。こうしたファンの気持ちが離れないようにイメージを維持する必要がある。ところが、ファンの中には野生生物愛好家や野生生物保護団、環境保全団体などの全く異なる志向のグループもあり、そうした人たちのバランスも重要だ。もちろん、できれば将来的には国民的なアイドルになりたいという気持ちが少しはあるのかもしれない。
ここで注目したいのは、魚類野生生物局はあえてこうした予算配分を選んでいるのではないかということだ。保護区の規模やカバーしている行政分野を考えると、国立公園の管理に特化する国立公園局よりも大きな予算が必要になるはずだ。しかしながら、野生生物の保全を第1のミッションとする魚類野生生物局は、国立公園局のようには国民の支持が得られない。野生生物の保全のために規制を行なったり、一般の利用を制限したりしているからだ。これに対して国立公園局は、国立公園の「保護と利用」の両立をミッションとしている。公園を訪れるビジター(≒有権者)へのサービス向上が組織の目的のひとつであり、そのために施設を充実することも必要となる。パークレンジャーを数多く配置し、利用施設を管理するためにはより大きな予算と組織が必要となり、それが引いては予算・定員の増強につながる。その代わり、そうしたミッションを実現する過程では、自然保護とのトレードオフが避けられない場合もある。
魚類野生生物局は、「Wildlife Comes First(野生生物優先)」を貫くため、あえて少ない予算や小さい組織で効率的に業務を遂行する体制を選択しているように思える。日本で国立公園や野生生物保護行政を担っている環境省も、どちらかといえば後者に近いといえる。第33話でも指摘したとおり、日本の環境省にとっては、おそらく魚類野生生物局の仕組みの方がより参考になると思われる。それがまた日本の状況により適した国立公園管理の姿を見出すことにもつながるのではないだろうか。
魚類野生生物局国際課のプレゼント交換会の様子
クリスマスが近づいたある日、職場の人たちでクリスマスプレゼントの交換会がありました。職員それぞれ持ちよったプレゼントをゲーム形式で選んでいくのですが、皆さん本気。いつもは環境保全や動物保護を真顔で語っているのに、子どものようにはしゃいでいました。私たちには歌をうたうカエルのパペットが当たりました。実際に聞こえてくる歌はあまりよくききとれず、いまだに何の歌かわかりませんが、楽しそうな歌をうたってくれます。
アメリカでは、クリスマスに限らず、様々な場面でプレゼントを贈ったり交換したりすることがあるようです。ケンタッキー州やカリフォルニア州にいたときもそうですが、皆さんのプレゼントは、自分では買わないようなくだらないもの(失礼)、おもしろいもの、笑えるもの、もしくは実用的なものが多いのが印象的でした。
日本では、プレゼントというと特別で高価なものを贈るという感じもありますが、アメリカの人たちは、あまりお金をかけなくても、よく相手の必要なものや似合うものを探すのだが上手だなと感心させられました。そのなかにユーモアもあって、今後プレゼントを選ぶときにまねしたいなあというものが多かったと思います。贈り物のラッピングはお店でやってもらうのではなく、包装紙やリボンを使ってそれぞれが工夫します。プレゼントをもらうとその場でこうした包装をあけて(大抵はビリビリとやぶって)、何とも気の聞いたコメントやうれしそうなリアクションをしてくれます。そして何といってもうれしいのがメッセージカードでした。アメリカのプレゼントは、贈られるモノだけではなく、包装、メッセージ、贈るタイミング、受け渡しの様々なやりとりがセットになっていて、後味が暖かく思われました。ただ、帰国前に一番困ったのもそうした贈り物でした。
プレゼントをそれぞれが選んでいきます
カエルのパペットでした!
私たちのプレゼントはゴリラのぬいぐるみでした
ここで特別会計としているのは、連邦政府予算のうちpermanent appropriationsとよばれる予算項目である。連邦議会に提出される予算書には含まれており、それぞれの予算項目ごとに使用できる予算額の上限などが定められる。
特別会計の中で予算額が大きい項目は、釣魚回復基金(釣具等に課税)、野生生物回復連邦補助(狩猟のための火器、弾薬などに課税)、渡り鳥保全法に基づく渡り鳥保全会計(渡り鳥狩猟許可証収入を財源)などである。
国立野生生物保護区等の入場料収入などを財源とするフィーデモンストレーションプログラムは、入場料金が比較的安く設定され、利用者数も国立公園に比べ少ないため予算額は小さい。
国立魚類野生生物財団(National Fish and Wildlife Foundation)という連邦議会により設立された魚類及び野生生物保全のためのNGO組織がある。この組織は、これまで20年間「保全切手(annual conservation stamp)」を毎年発行することによって多額の収入を得て、その一部を保護区に寄付金として還元している。この寄付金は厳密には政府の特別会計とは異なるが、非狩猟者層による野生生物保全関連収入の例である。
・【表3】米国魚類野生生物局2005年度予算要求の概要(PDF:72KB)
国名 | 保護された面積 (エーカー) |
回復、増進、 創出された面積 (エーカー) |
プロジェクト数 |
---|---|---|---|
カナダ | 5,143,210 | 2,718,772 | 391 |
メキシコ | 232,743 | 494,853 | 160 |
米国 | 2,047,501 | 2,144,447 | 686 |
総計 | 7,423,454 | 5,358,072 | 1,237 |
【図2】国立野生生物保護区システム概念図(面積などは図書記載のものをそのまま使用)
出典:Robert L. Fischman(2003): The National Wildlife Refuges: Coordinating a Conservation System Through Law, Island Press, pp.277
「Figure 2-1 Taxonomy of the National Wildlife Refuge System」を一部改変して翻訳
※拡大図はこちら
魚類野生生物局の所管する国立野生生物保護区システム(National Wildlife Refuge System)は、野生生物及びそれらの生息地保全を目的として設立されたものであり、大きく保護区(refuges)と調整地域(coordination areas)とに二分される。後者は、魚類野生生物局所有地であるが、管理は州政府により行われている。連邦政府と州政府は協力協定もしくは土地の長期貸借契約を結んでいる。
保護区は、さらにガンカモ類繁殖地域(waterfowl production areas)とその他の国立野生生物保護区とに分けられる。このその他の国立野生生物保護区は、システム全体の9,500万エーカー(約3,846万ヘクタール)のうち約97%に相当する9,200万エーカー(約3,725万ヘクタール)を占める(面積は2004年当時)。
2005年度予算要求書によれば、2003年度現在の年間利用者数は約4,000万人(うち、自然解説活動への参加者数は1,610万人)。保護区における魚類野生生物局職員数は2,800名(定員ベース;メンテナンス担当職員数を除く)であり、その他のべ39,000名以上のボランティアが、1,445,922時間(1,500万ドル=約12おく7500万円相当)の貢献を行っている。これは、魚類野生生物局全体のボランティア数の88%に相当する。また、保護区の協力団体(friends groups)は全国で250団体が組織され、構成メンバー数は約30,000人である。青年職業訓練生(Youth Conservation Corp: YCC)による保護区管理に対する貢献は、金額にして年間100万ドル(約8500万円)程度である。
The Lacey Act (1900), The Migratory Bird Act (1918), The Migratory Bird Hunting and Conservation Stamp Act (1934), The Federal Aid in Wildlife Restoration Act (1937), The Eagle Protection Act (1940), The Federal Aid in Sport Fish Restoration Act (1950), The Endangered Species Act (1973), The Marine Mammal Protection Act (1972), The Conservation on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES) (1975), The Wild Bird Conservation Act (1992), The National Wildlife Refuge System Improvement Act (1997))
記事・写真:鈴木渉