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環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。

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目次
FWSの職員研修
最新技術の活用
【1】短期実務研修(details)
局内の現地事務所などに派遣して実務研修を行わせる制度。数週間から数か月まで派遣期間には幅がある。

No.196

アメリカ横断ボランティア紀行(第31話)
国立保全研修所訪問

Issued: 2011.09.09

国立保全研修所訪問[2]

FWSの職員研修

 保全研修所は、もちろんFWSの職員研修も実施している。
 「FWSの職員のほとんどは生物学の学士号を持っており、修士号を持っている職員も少なくありません。ですので、学術的なバックグランドはしっかりしています」
 ところが、専門的な知識と仕事のスキルとは全く異なるものだと指摘する。
 「外部関係者とのコミュニケーションや人間関係作り、問題解決、対立解消などのスキルは大学では教えてくれません。保全の分野で最も困難な問題は『人』により引き起こされるのです」

研修プログラムについてご担当者より説明を受ける
研修プログラムについてご担当者より説明を受ける。写真右端の方は短期実務研修を受講中の幹部候補生

 FWSは非常に幅広い業務を担当しており、職員数は全体で約8000名にも上る。
 「このうち管理職のレベルまで昇進することになる職員には、必要な管理技術、戦略的な計画立案などを身に付けてもらう必要があります。この先5年間に局内で何人がリタイアするかを見定め、それに見合う幹部職員を養成することになります」
 現在の幹部職員の多くはベビーブーム世代だ。今後3年間で幹部の実に4割が退官する予定だという。
 「ベテラン職員はコミュニケーションに長けています。それに見合う職員を養成するために、短期実務研修【1】などを積極的に実施しています」
 その他、中級管理職員を上級職員として養成するための、上級管理職プログラム(Advance Leadership Program)も行われているそうだ。


写真向かって左が幹部職員向けガイドブック、左側が一般職員向け
写真向かって左が幹部職員向けガイドブック、左側が一般職員向け

 当然ながら、FWSの幹部職員は、民間、NGO、州政府職員、他の政府機関と常に連携や調整を行いながら仕事を進めていく必要がある。
 「幹部職員が効果的に関与するには、例えば『木材会社と弁護士を交えて議論をする段階』では遅すぎるのです。対立が決定的になる前に調整する、それが私たちの重要な任務なのです。幹部職員には人間関係を築くための能力が求められます」
 職員には、幹部職員向けとその他の一般職員向けのガイドブックが配布されている。
 「ガイドブックには、ごく基本的な情報以外はほとんどが電話番号などのコンタクト先とその部署の概要で占められています。職員にコミュニケーションをとるための基本的な情報があれば、あとは職員が自ら問題を解決することができるはずです」
 このような能力を養成することを目的として、研修にはいろいろな工夫が施されている。例えば、同じ研修コースにいくつかの異なる組織の職員を参加させ、その中で異なる意見や考え方を聞き、コミュニケーションをとる経験を積んでもらうということなどだ。
 「研修にはアメリカの大手のNGOや民間企業なども参加します」

講義室の廊下
講義室の廊下。天井が高く木が多用され、施設としての質が高い。民間の会議施設と比較しても遜色ないのではないだろうか

 また、保全にはほぼ全ての分野が関係する。保全に関係する人材だけを養成しても、保全をめぐる状況を改善することはできない。
 「そのため、保全とは直接関係のない海軍将官の研修を受け入れています。軍の幹部候補生たちは、将来世界のあらゆる場所でリーダーシップを発揮することになります。少しでも保全に理解のある人々が、20年後に幹部職員として活躍してもらいたいと願っているのです」
 同様の目的のために、ボーイスカウト、ガールスカウトの団体にも使ってもらっているという。また、この施設では外部の組織が会議を開催することもでき、年間500〜600程度のイベントや会議に利用されている。デュポンや大手NGOであるTNC(ネーチャーコンザーバンシー)などが会場として使うことにより、このセンターがあらゆる分野の人々にとって保全に関係する研修の場となることを目指している。
 「私たちは、とにかく人々にこのセンターに来て、使ってもらいたいと考えています」


最新技術の活用

 保全研修所の会議施設の特徴は、施設のオートメーション化と様々なコンピューター技術を活用していることだという。それぞれの部屋に必要な機器が備え付けられており、タッチパネルなどですべての機器を操作することができる。
 「初期費用はかかりましたが、技術革新によって将来のコストは低下していきます。もし機器操作のための職員を雇用すると、人件費は将来必ず上昇していくことでしょう」
 FWSは施設の管理コストを削減しながら、予算的、人的資源を本来の目的である保全の理解推進に集中投下している。

講義室内部
講義室内部。日本ではスクール形式が一般的だが、この講義室には丸テーブルが備えられている

タッチパネル式の操作盤
タッチパネル式の操作盤。講義室内の施設はすべてこの端末から操作することができる

 「私たちが取り組んでいるのは、『認識を高めること』(built awareness)です。国立公園局は、実際に国立公園を訪問してもらい、自然を体験してもらうことを目的としていますが、私たちは必ずしも保護区を訪れてもらわなくてもいいと考えています」
 いったいどういうことだろうか。
 「FWSは野生生物を守ることを第一の目的としているからです」
 国立公園が守る対象としている「地形」や「景観」と異なり、野生生物は時間帯や季節、さらにはその分布域などが限られているため、実際にその姿を観察することは容易でない。また、国立公園と比べて国立野生生物保護区を訪れる人は少ない。あまり大勢の人々が訪れるようになると野生生物の生息環境が影響を受けてしまう。
 「野生生物に親しみ、野生生物保護に対する理解を深めてもらうための手段として、映像は欠かせないのです。近年、映像やIT技術が急速に進歩してきて、自ら映像を作成し、配布、配信することが容易になりました」
 NCTCの特徴は、そのような技術革新のメリットを最大限活用しているところにある。
 「このセンターには、AV教材、教育用パンフレットなどの教材を作成するために、グラフィックデザイナー、写真家、映像製作スタッフなどが勤務しています。撮影スタジオもあり、遠隔地教育のための教育プログラムを放送し、双方向コミュニケーションによる講義も行われています」  こうしたメディア関係の職員が勤務しているところはハーパースフェリーセンターとも共通しているが、NCTCでは動画やAV教材もつくれる。映像の編集はコンピューターにより自動化されている。
 センター内には「イメージライブラリー(映像図書館;Image Library)」と呼ばれる施設があり、写真、映像などが保管され、必要に応じて配布されている。
 「以前には想像できなかったことが可能になり、より多くの人々に野生生物の映像や私たちのメッセージを届けることができるようになりました」
 私たちもライブラリーのカウンターで、サンプルとしてDVD数枚をいただいた。こうした映像等の教材は、国立野生生物保護区や関係部署、教育関係の施設などにも配布されるとともに、ウェブサイトなどを通して一般にも公開されている。

メディアライブラリーの職員より説明を受ける
メディアライブラリーの職員より説明を受ける。全米地図上のピンはビデオ教材の送付先などを示している

様々な映像教材。野生生物や保護区に関するものが多い
様々な映像教材。野生生物や保護区に関するものが多い

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