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No.196

アメリカ横断ボランティア紀行(第31話)
国立保全研修所訪問

Issued: 2011.09.09

国立保全研修所訪問[1]

NCTC外観

 魚類野生生物局(FWS)の所管する国立保全研修所(National Conservation Training Center:NCTC)は、保全に関する連邦政府機関連携型の施設で、アメリカ国内の自然環境の保全に関する研修所として設置された。ウェストバージニア州シェファーズタウン郊外の、広々とした敷地にゆったりと整備されており、ハーパースフェリーセンターのFWS版ともいえるメディアセンターの他、アーカイブ(収蔵庫/博物館)が併設されている。

リック所長

 「始めまして、所長のリック・レモンです。リックと呼んで下さい」
 私たちをセンター入口で待っていてくれたのは、何と所長ご本人だった。とても気さくな感じの方だ。これまで国立公園局の関係機関を数多くまわってきたが、担当者との面会だけで終わることも少なくはなく、所長に直接会えたのはまれだった。所長本人に出迎えていただけるとは、正直驚いた。
 「よく来てくれましたね。ロビーに保全に関する展示があります。そこでまずアメリカの保全の歴史についてご紹介したいと思います」
 ロビーに入ると、高い天井からシャンデリアのような照明が下がっている。外観も立派だが、内装もかなり贅沢なつくりだ。展示スペースには、鳥の模型が吊られており、展示には剥製と模型などがうまく組み合わせられている。
 「訪問者の方には、まずここで『保全(conservation)とは何か』を理解してもらいます」
 1700年代の野生生物の乱獲から始まる展示は、1970年代の保全運動の高まりまでの背景や歴史をわかりやすく解説している。これまで国立公園を中心とした歴史を学んできた私たちにとって、「アメリカにおける保全」との初めての出会いとなった。
 展示では、アメリカ開拓時代からの恐ろしいほどの野生生物の乱獲の歴史が具体的に解説されていた。また、そうした違法な狩猟を取り締まるレンジャーの命がけの様子なども描かれている。連邦政府の法秩序よりも個人の自由と力(銃)が尊重されていた時代に、違法捕獲を取り締まることがいかに困難だったかが想像できた。

国立保全研修所(NCTC)のリック・レモン所長
国立保全研修所(NCTC)のリック・レモン所長

ロビーにはアメリカの保全の歴史に関する展示がある
ロビーにはアメリカの保全の歴史に関する展示がある

 「実は、レイチェル・カーソンは、FWSの職員だったのです。」
 その名前は当然大学の授業で聞いて知っていた。『沈黙の春』を著し、農薬の生態系への影響に警鐘を鳴らしたということくらいは覚えている。ただ、保全研修所に訪問したこの場面で、なぜ彼女の名前が出てきたのだろうか。何か重要なアイコンになっているようだった。

 ロビーの展示を一回りしてから所長室に案内される。所長室の入口のところで何人かの職員に紹介された。
 「保全研修所は、関係する政府機関共有の研修所です。FWSがその管理を行っています。国立公園局のマザー研修センターからも職員が一人派遣され、こちらで勤務しています。」
 リエゾンオフィサーと呼ばれる職員は、確かに国立公園局のユニフォームを来ている。皆にこやかに挨拶してくれる。

 この研修所は、国立公園局のマザー研修所とは対照的に、新しく現代的な造りをしている。敷地や建物も格段に大きい。また、やはり敷地はポトマック川に面しており、静かですばらしい立地だ。マザー研修所に比べるとずっと明るく開放的なイメージを受ける。

NCTCの本部。大きな建物だ
NCTCの本部。大きな建物だ

NCTCの敷地は広く、建物がゆったりと整備されている
NCTCの敷地は広く、建物がゆったりと整備されている

オフィスの内部は明るく、広々としている
オフィスの内部は明るく、広々としている

ゆったりとした敷地内にはハクトウワシも営巣している
ゆったりとした敷地内にはハクトウワシも営巣している

 「この施設をここに建てたのは、やはり地の利と広い土地があったことです。ウェストバージニア州には当時大変有力な議員がいて、その意向が働いたということもありますが、このすばらしい景観が一番の理由だと思います」
 敷地内にはハクトウワシが2つがいも生息しているそうだ。でも、なぜ「保全(conservation)」に関する研修所が必要なのだろうか。日本では、「野生生物の保全」とか、「自然環境の保全」とか保全の対象があるものだが、アメリカでは「conservation(保全)」そのものが目的になっている。
 「1990年代の初め、多くの若者が保全に興味を持ち、この世界に入ってきました。ところが、保全のコンセプト自体を理解することは容易ではありませんでした。スミソニアン博物館に行ったことはあっても、そこには西部の標本があるだけで、保全の思想はありません。西部開拓の歴史は利用(utilize)と絶滅(extinction)の積み重ねに他なりません。その意味で、アメリカでは、『なぜ私たちは、野生生物や魚類を保全しなければならないのか』ということがなかなか理解されにくいのです」
 アメリカでは、まず国立公園のようなかたちで原生自然地域を政府所有地とし、開発の対象から除外した。
 「国立公園にすることにより自然の『部分』は保護できるようになりました。ただ、この動きはごく一部の人々に支持されていたに過ぎず、国立公園以外の地域は、徹底的に開発されてしまいました。この国の多くの人々が保全活動に関心を持ち始めたのは、農薬など過度の化学物質による環境汚染がきっかけでした。まさに、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』出版の背景となった問題です。『このような過ちを二度と犯すべきではない』という人々が多くなりました」
 そのような動きの中でウィルダネス法(Wilderness Act)も成立し、保護地管理にも新たな時代が到来した。しかしながら、保全政策にはまだまだ問題が山積しているという。
 「この研修所は、保全に関する歴史、技術を身に付けるために必要な研修を実施するだけでなく、教材や教育プログラム、そして保全に関するあらゆる人のパートナーシップを構築する場でもあります」
 だとすると、マザー研修所のような自然解説活動などに特化した研修施設とは相当性格が違う。
 「学校に通う子どもたちが実際に野生生物保護区を訪れたり、野生生物に触れたりすることは難しいのです」
 子どもたち向けにはそのような体験をコンピューター上でもできるようにしてあげることが必要だという。
 「15、16歳になってくると、車、ファッション、ボーイフレンドなど誘惑が多くなります。そのような世代にも、少しでも保全へのつながりを持ってもらいたいのです。私たちが子どもの頃と違い、現在はずっと多くの子どもたちが都市で育っており、自然とのつながりが希薄になってきています」

オフィスの内部は明るく、広々としている

ゆったりとした敷地内にはハクトウワシも営巣している

児童向けの講義室も備えられている

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