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No.196

アメリカ横断ボランティア紀行(第30話)
ハーパースフェリーセンター訪問

Issued: 2011.07.26

ハーパースフェリーセンター訪問[1]

 ハーパースフェリーセンターは、アメリカ国立公園局の総合メディアセンターだ。建物のデザインは近代的で、隣接する古めかしいレンガ造りのマザー研修所とは対照的だが、この2つの施設が隣接することには実は大きな意義がある。インタープリテーション技術を教えるマザー研修センターと、国立公園内の展示や様々なデザインを一元的に担当するハーパースフェリーセンターの連携が、アメリカの国立公園というブランドを支えている。

国立公園の「メディアセンター」

 国立公園局ハーパースフェリーセンターは、各国立公園のパンフレット、インタープリテーションの教材作成、解説板、ビジターセンターの展示物などをデザイン、制作している国立公園のナショナルメディアセンターである。
 マザー研修所のちょうど後ろに建物があるため、研修所を訪れたあと、引き続きインタビューのお願いをしていた。ハーパースフェリーセンターの自然解説メディア研究所(Interpretive Media Institute)のデービッドさんが、センターの中を案内しながらいろいろ説明してくれた。
 「国立公園局のロゴマークはご存じかと思いますが、実は少しずつデザインが変わっているんです」
 国立公園局のロゴマークは、ネイティブアメリカンの使用していたヤジリをモチーフにしていることから、通称「アローヘッド」と呼ばれる。そのデザインを組織創設当時から時代を追って見ていくと、確かに少しずつ違う。徐々にスマートなデザインになってきた感じだ。
 「同時期のロゴマークでもデザインにばらつきがあったり、運用が徹底されず、ロゴマークをあしらった旗がつくられたりもしました」
 国立公園局には組織を象徴する旗はなく、旗にロゴマークを使用することも認めてはいない。

国立公園局のロゴマーク「アローヘッド」について説明するデービッドさん。
国立公園局のロゴマーク「アローヘッド」について説明するデービッドさん。

アローヘッドの実物。
アローヘッドの実物。

 有名なパークレンジャーのユニフォームも時代に応じて少しずつ変化してきた。ロゴマークやユニフォームは、組織のアイデンティティーを統一する上でとても重要なツールだ。統一イメージをつくりあげるのもハーパースフェリーセンターの業務の一つだ。
 「このセンターができるまでは、ワシントンDCとサンフランシスコに同様の機能を持つセンターがありました。1970年にハーパースフェリーに施設が建設され、自然解説の教材やプログラムデザインなどの機能が一元化されるとともに、隣接するマザー研修所におけるレンジャー養成と連携することで、大きな相乗効果が得られました」
 こうして、デザインの統一による「国立公園」というアイデンティティーの確立を強力にすすめることができるようになった。
 その例が、全国の国立公園に備え付けられている地図入りのパンフレットの制作だろう。このパンフレットは、通称「ブラックバンド」と呼ばれる。国立公園のパンフレットは横長で、パンフレットの上端に黒い帯が印刷されているが、それが「ブラックバンド」の由来となっている。黒い線は、パンフに限らず国立公園局のほぼすべての印刷物に表示され、印刷物に統一されたイメージを提供している。なお、折りたたみ式のパンフであることから、別名パークフォールダーとも呼ばれる。
 「この黒い帯を入れるデザインは、もともとワシントンDCの地下鉄表示に用いられていたものです。ニューヨーク在住のMr. Massimo Vingelli氏が考案しました」
 実は、黒い帯はパーツのひとつに過ぎないという。
 「Vingelli氏が考案したのは、『ユニ・グリッド(Uni-grid)システム』というものでした。これは、パンフレットの紙面構成の基本となるB版用紙に、あらかじめ格子状のマス目(グリッド)を設定し、それにあわせて、文字や写真を配列するというアイデアでした」
 このユニ・グリッドシステムを導入することにより、ハーパースフェリーセンターでのデザイン統一に目途がたった。いわば国立公園局の印刷物の「原理原則」といえる。国立公園というと、写真や図面など、どうしても不規則になりがちなパーツを取り入れなければならない。グリッドそのものは表示されないが、文字の段組や写真をマス目を目安に配置することにより、全体的なまとまりと統一感が生まれる。公園ごとの個性を尊重しながら国立公園局としてのイメージを打ち出すことができる、画期的なアイデアだった。

さまざまな公園の通称「ブラックバンド」と呼ばれるパンフレット。サイズやデザインがそろっていてとてもいい記念になる。
さまざまな公園の通称「ブラックバンド」と呼ばれるパンフレット。サイズやデザインがそろっていてとてもいい記念になる。

パンフレットを開いたところ。公園を代表するような印象的な写真とイラストにより公園の成り立ちなどが説明されている。
パンフレットを開いたところ。公園を代表するような印象的な写真とイラストにより公園の成り立ちなどが説明されている。

パンフレットの裏面。無料のものとは思えないほど詳細でわかりやすい地図が掲載されている。
パンフレットの裏面。無料のものとは思えないほど詳細でわかりやすい地図が掲載されている。

国立公園のさまざまなテーマごとの説明パンフレットも同じようなデザインで製作されている。
国立公園のさまざまなテーマごとの説明パンフレットも同じようなデザインで製作されている。

パンフレットの原稿。
パンフレットの原稿。

 ところが、近年このセンターをめぐる状況はあまり好ましくないという。
 「国立公園局では、1995年に組織改編がありました。担当地域内の公園のデザインの統一と、国全体のスタンダードとの整合という意味からハーパースフェリーセンターの機能を支持していた地域事務所の機能が縮小され、相対的に各公園の力が強化されました。」
 各公園の予算執行の権限が強くなり、実際の「お金」を握るようになると、事態は変化した。
 「それぞれの公園の所長が勝手に印刷物やインタープリテーション用の解説板を作るようになりました。『国立公園』としての統一感は薄れ、国立公園はよりローカルなものへと質を変えつつあります」
 これは、国立公園局の存在意義にもかかわる重大な変化だ。
 「パンフレット制作予算は、ワシントンDCから直接センターに配分されています。つまり、公園ごとの財政状況にかかわらず、全国同じ質のパンフレットを提供できるよう配慮されていたのです」
 最近は、ワシントンDCにある国立公園局本部からの予算配分が削減され、十分な予算が確保できなくなったという。
 「不足分は各公園に負担してもらうことになるのですが、センターから発行せずに、直接業者に発注して制作する公園も出てきました。その方が印刷費を安く抑えられるというのです」
 ただ、そのためにはデザインの統一感やコンテンツのレベルが犠牲になる。

ハーパースフェリーセンターの職員

地図の制作セクションの職員。
地図の制作セクションの職員。

 このセンターにはどのような職員が勤務しているのだろうか。
 「このセンターには、いわゆる『パークレンジャー』はほとんど勤務していません。文章を作ったり、調査したり、デザインを考えたりする業務が多いため、エディター(執筆・編集者)やアーティストが多いのです。公園の現場に勤務するレンジャーは、そうした技能を持ち合わせてはいません。かといって、各公園がそれぞれに専門職員を雇用するのは効率が悪いのです」
 案内されたのはパンフレットなどに用いられる地図を制作するセクションだ。大型のPCが何台も置かれている。
 「この地図セクションでは各地の国立公園の地図制作や加工を担当しています。GISでいろいろな地理情報を組み合わせるだけではなく、デザイン上の加工を加えて、わかりやすい地図をつくるのです」
 一般のビジターにとってわかりやすい地図とはどのようなものだろうか。
 「例えば、地形図の色分けの色調などです。標高や植生を勘案して、なるべく実際のイメージに近い配色を用いています」
 見かけは似たようなものだが、よくみると公園ごとに色調が全く違うのがわかる。
 「アラスカなど高緯度地方の公園は氷河、ツンドラなど青白色〜黄色に、メキシコに近い乾燥した草地は赤褐色を基調にした乾燥地らしいデザインにしています。また、雨の多い地域の鳥瞰図には、地図の隅の方に『雲』のデザインを挿入します。大気が水分を多く含んでいることを表現しているわけです」

地図の陰影のつけ方などについて説明を受ける。
地図の陰影のつけ方などについて説明を受ける。

ハワイ火山国立公園の地図には雲がデザインされている。
ハワイ火山国立公園の地図には雲がデザインされている。

 国立公園の解説板をデザインしている部署にも案内してもらった。路傍解説板の実物が設置されている。ここは少し国立公園の現場に近い雰囲気がある。
 解説板は、目の前にある岩や植生、野生動物などに関する情報をビジターに提供するためのもので、自然公園の施設の中でもとても大切なものだ。様々な地図や写真、イラストとともに自然に関する解説が表記されている。制作や設置には手間もお金もかかるもので、公園管理者にとってはなかなか手間のかかる代物だ。
 「このアルミ製のフレームはとても頑丈に作られていて、ちょっとやそっとでは壊れません。問題は盤面なんです」
 見本として設置されていたのは、胸くらいの高さのフレームで、解説板の表示面が斜めについているものだ。このタイプの解説板はアメリカの国立公園で数多く目にする。ビジターの視界をさえぎらず、また遠くから見てもそれほど目立たないという利点がある。視線を下に移せば必要な情報を読むことができるが、その分雨風や直射日光をまともに受ける。日本では、表示面を目の高さに垂直に設置するタイプのものが主流だ。この方が長持ちするし、大きな情報板を掲示することができるという利点がある。その分圧迫感があり、眺望を遮ってしまうおそれもある。
 「こうした解説板には、『難敵』が2つほどあります」
 「ひとつはいたずらです。ペンキを塗られたり、割られたり、傷を付けられたりすることが多いのです。また、いたずらがなくとも、時間がたつと変色したり色が薄くなってしまったりします。もうひとつは内容の変更です。内容が古くなったり、新たに追加が必要になる情報が出てきたりします」
 そのため、この解説板にはおもしろい工夫がある。
 「実は、この表示面は『紙』でできているんです」
 一見すると、プラスチックの板に見えるが、実際はカラー印刷した紙を樹脂でコーティングしているという。
 「最初のデザインができたら、その時点で複数枚制作しておきます。予備は、設置先の公園とハーパースフェリーセンターの両方に保管しておきます。公園でいたずらが頻繁にあったりして足りなくなったらセンターから追送します」
 色があせたり破損したりしても、板の部分だけを交換できるので費用が低く抑えられるという。また、内容に変更があっても、印刷原稿のファイルを修正して印刷するだけなので、対応も容易だ。
 「解説板の部品を大きく2つに分け、板面は消耗品、フレームは耐久品と考えました。それにより、合理的な制作が可能になりました」
 これは、ハーパースフェリーセンターでの長年の努力の成果といえるだろう。なお、こうした標識(サイン)類のデザインや構造の統一化については、「ユニガイドシステム」(UniGuide System)というマニュアルに一元化されている。

路傍解説板のモデル(奥)。手前は表示面を垂直に設置するタイプ。
路傍解説板のモデル(奥)。手前は表示面を垂直に設置するタイプ。

樹脂コーティングされた解説板。
樹脂コーティングされた解説板。

解説板の断面。
解説板の断面。

コーティングされる前の紙の原稿。
コーティングされる前の紙の原稿。

 古めかしい缶詰やお菓子が積み上げられた部屋に案内された。デザインは古いが、よく見ると「商品」は新品だ。
 「これは、ハーパースフェリー歴史公園内の『売店』に並んでいる『商品』です。当時の店を復元したもので、もちろん今は営業していません。すぐ近くにある公園は、職員の格好のトレーニングの場なのです。センターの職員は、歴史公園の展示の制作やメンテナンスなどにより、多くのことを学んでいます」
 ハーパースフェリー歴史公園はセンターから徒歩ですぐのところにある。ここで試行錯誤することにより、そうそう行き来することのできない全米各地の国立公園のビジターセンターの展示や、建物の修復技術などにその成果をフィードバックしているのだ。

当時のままに復元された商品のパッケージ。
当時のままに復元された商品のパッケージ。

復元された公園内の店舗に並べられた「商品」。まるで本物のようだ。
復元された公園内の店舗に並べられた「商品」。まるで本物のようだ。

センター所長インタビュー

所長インタビューの様子。
所長インタビューの様子。

 一通り施設の見学を終えると、センターの会議スペースに案内され、所長のクミンズさんのお話を伺った。
 「私がセンター長に就任してから既に7年が経っていますが、このように長期間同じポストにとどまるのは異例のことです。国立公園局ではこれまで、3〜4年ごとに異動して多くの経験を積むべきという考え方が主流でした。ところが、時代も変わり、共働きの職員も増えてきました。短期間の異動は職員の家族にとって大きなストレスです。組織にとっても、引越しに伴う費用負担は小さくありません」
 ハーパースフェリーセンターの所長のポストは日本で言えば特別職にあたる(米国ではSenior Executive Serviceと呼ばれる)。一般職員の級は15級までなので、15級から特別職に昇進するようなケースは原則公募を経なければならない。クミンズ所長も応募したそうだ。
 「幹部から『君からの応募用紙が見たいんだが』という電話が入ったんです。これは暗にこの職を受けてみろ、という指示だったわけです。もちろん、あくまでも公募プロセスを経る必要があります」
 こうした適格者選出のプロセスでは、候補者の知識(knowledge)、技能(skill)、能力(ability)を考慮して決定される。
 「中でも『people skill』と呼ばれる、地域社会などの外部関係者との人間関係構築に必要な技能が国立公園局では重視されます。例えば、国立公園ではアメリカ原住民との関係は微妙で、注意を要します。連邦政府とインディアン社会との関係は法によらず協定(treaty)によるものであるため、一段高いレベルの関係と見なされます」
 一方、このセンターならではの特殊性もあるという。
 「このセンターは他のどのような国立公園局の組織とも異なる特徴があります。それは、特殊な技能職員が芸術や技術などの主観的な業務に携わっているということです。センターの業務の性質からすれば、効率より創造性を優先させなければなりません」
 その反面、近年の連邦政府は特に費用対策効果に注目する傾向がある。こうした創造性の高い業務と時間コストの効率性を追及する傾向とは、どうしても相容れない部分がある。例えば、パンフレットだ。
 「国立公園局が製作している質の高いパンフレットには、相当の費用がかかります。ところが、パンフレットによる自然解説の効果は、単に印刷部数では計測できません」
 そもそもインタープリテーションの目的についても、公園を管理する職員間ですら議論があるそうだ。
 「現在では、国立公園の管理は区域内の資源を守ることが主たる目標であるとされていますが、そうではない意見を持つ職員もいます。つまり来訪者への自然体験機会の提供であり、そのためのインタープリテーションの充実です」
 ゲートでの入場管理がしっかり行われていることが多いアメリカの国立公園では、どうしても入場者数の多寡が公園の魅力の判断基準になってしまうことが多いのも事実だが、国立公園の管理や効用を「利用者数」といった単一の尺度で測ることはこうした観点からも適切ではないという。

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