一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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エコチャレンジャー 環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

No.005

Issued: 2012.05.09

(株)エスパルス 早川会長、地域の中で育つサッカークラブの役割と環境への取り組みを語る

早川巌(はやかわいわお)さん

実施日時:平成24年4月14日(金)13:30〜
ゲスト:早川巌(はやかわいわお)さん
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

  • (株)エスパルス代表取締役会長として清水エスパルスを率いる。
  • 鈴与(株)代表取締役副社長、清水食品(株)代表取締役社長などを兼任。
目次
スタジアムの紙コップ回収が一つのきっかけとして始まった、エコチャレンジの取り組み
サッカーは地域との一体感が強い競技なので、地域の方々と呼吸を合わせていくことが大事
予期せぬエコ活動の波及効果があった、カーボン・オフセットへの取り組み
スタジアムの芝管理の一環で、校庭や園庭に芝生を植える活動が始まった
打てば響くように、地域の方々の快い応援をいただけている
どんな小さな活動でも一歩踏み出さなければ始まらない

スタジアムの紙コップ回収が一つのきっかけとして始まった、エコチャレンジの取り組み

スタジアムに設置している紙コップ回収機

大塚理事長(以下、大塚)―  5回目になるエコチャレンジャーのインタビューでは、サッカーJ1の清水エスパルスを経営する、株式会社エスパルスの早川巌・代表取締役会長とお話させていただきます。
 早川さん、第1回カーボン・オフセット大賞・最高位の環境大臣賞をご受賞、誠におめでとうございます。

早川会長― ありがとうございます。

大塚― 受賞対象となった活動の具体的な内容については、後でゆっくり伺うことにして、環境にかかわるエスパルスの活動の歴史についてご紹介いただきたいと思います。エスパルスが「エコチャレンジ」の取組みを2008年ころから開始されたとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか。

早川会長― まず申し上げたいのは、Jリーグ自体が草創期から環境問題にずいぶん力を入れてきたことです。
 たとえば、ゴミの分別回収も徹底してやってきました。
 Jリーグの試合では、たくさんの飲み物などが販売されますが、危険防止のために、瓶あるいは缶から紙コップに移し替えて入場するようにルール化されています。その結果、たくさんの紙コップが無造作に捨てられていたのです。私どもの社員の間から、紙コップを何とかリサイクルできないだろうかという声が出てきたのです。2007年のことでした。
 紙コップ専用回収機をメーカーさんにつくってもらい、スタジアム(静岡市清水区にある、アウトソーシングスタジアム日本平:通称はアウスタ)の5〜6ヵ所に設置したところ、皆さんが大変協力的でした。改良した回収機を加え、2008年には15台に、現在は20台に増やして設置しています。

大塚― それがエスパルスのエコチャレンジの出発点だったのですか。

早川会長― エコチャレンジという意識をはっきりともっていたわけではありませんが、今思うと、具体的なエコ活動につながったのです。
 現在、スタジアムのトイレットペーパーは、紙コップを再生したものを使用しています。もっとも、ペットボトルの回収も同じころに始めていましたから、私どものエコ活動のスタートは紙コップとペットボトルのリサイクル・リユースだったのです。

大塚― これらの活動をはじめたときから、カーボン・オフセットを意識されていたのでしょうか。

早川会長― 2007年に、私が日本政策投資銀行主催のセミナーに参加し、カーボン・オフセットの重要性について伺ったのがひとつのきっかけでした。

大塚― 早川さんがエスパルスの社長時代のことですか。

スタジアムでのゴミ拾い

早川会長― そうです。そのセミナーで、カーボン・オフセットについて丁寧な講義を受けることができました。それまでにも、カーボン・オフセットという言葉は耳にしていたのですが、詳しいことを聞き関心が高まりました。
 ちょうどそのころ、グループの社員からエスパルスでカーボン・オフセットをやりませんかという提案があり、タイミングがあまりにもぴったりだったのを覚えています。エスパルスの規模ではむずかしいかなとも思ったのですが、カーボン・オフセットは売買単位が小さくてもできることがわかりましたので、すぐに行動に移そうと判断いたしました。
 その背景に、2008年が京都議定書の第一約束期間の開始の年でもあり、何か行動したいという意識があったのも事実です。2008年を、エスパルスのエコチャレンジ元年と考えて踏み出した次第です。


サッカーは地域との一体感が強い競技なので、地域の方々と呼吸を合わせていくことが大事

ペットボトルから再生したエコチャレンジTシャツを着て入場する選手たち

大塚― エスパルスのエコチャレンジともかかわると思いますが、早川さんがお考えになっている、地域社会とプロサッカーチームとの関係とはどのようなものなのでしょうか。

早川会長― Jリーグのチーム名にはすべて地域名がついています。これは、野球などと違うところです。つまり、地域との一体感、ローカリティが強いスポーツなのです。地域の方々と呼吸を合わせて、多くの皆さんとコニュニケーションをとっていくことが大事なのです。
 地域の方々は、エスパルスの一挙手一投足を非常に注目しておられます。私も社長時代に、静岡市のすべての町内会と自治会を講演して歩きました。それぞれ2時間ずつ、全部で62回に分けて行いました。静岡市当局にも大変ご協力いただき、私たちの考え方はおおよそご理解いただけたのではないかと思います。
 静岡・清水はサッカーのメッカなのですが、市民の中にはJリーグの試合をテレビで観るだけで、「生で」観戦する人は少なかったのです。とにかく実際にご覧いただきたいと思い、バスを仕立ててスタジアムに来ていただいたこともあります。サッカーの「生の」シーンは、テレビとは臨場感がまったく違い、殺気立ったり、血の気が上がったり、はじめて観た方が一瞬一瞬を楽しみ、感動されるわけです。

スタジアムを訪れる小さなサポーターたち

 一方で、私がとくに感動したのは、ある80歳くらいの男性の方から、はじめてサッカーを観た感想の手紙をいただいたときです。「世の中、子どもたちがどうだとか、悪いこともいっぱいあるけれど、サッカーを見ればみんないい人になる」と。これが私にとっての決め手になりました。
 私たちにとっては、エスパルスのちょっとした行動にも地域の皆さんが敏感に反応されるので、やりがいもありますし責任も重いと感じています。


予期せぬエコ活動の波及効果があった、カーボン・オフセットへの取り組み

大塚― 今おっしゃった、エスパルスが地域の中で育っていくというのは素晴らしいと思います。
 カーボン・オフセット大賞・環境大臣賞の受賞対象になった活動について伺います。エスパルスのエコチャレンジは、具体的な方針をどのように立案され、どのように実行に移されたのでしょうか。

早川会長― エスパルスの基本方針として、たんにサッカーのみならず環境問題などの社会貢献でも世界標準を目指すということがあります。カーボン・オフセットそのものについは、先ほどお話ししたように、私がたまたまカーボン・オフセットにかんする講義を聞いたことと、グループ社員から提案のあったことがきっかけでした。ちょうど2008年度のシーズンの予算を組んでいるところでしたので、エコチャレンジの柱として、予算に組み込むことにしたのです。その当時は、企業はCO2の削減努力を相当していたものの、一般家庭からのCO2の排出量は増えつづけていました。エスパルスのように市民から親しみやすい団体が取り組めば、一般の方々も興味をもつのではないかという期待をもったのです。
 エスパルスが行動を起こすことで、なにか一石を投じられればという思いでした。
 ところが、カーボン・オフセットを始めると発表した途端に、新聞、雑誌、テレビの取材など、いろいろなことに巻き込まれてしまいました。それに対応するのに精一杯というか、うれしい悲鳴というのか、本当に波紋の大きさにびっくりしました。私は兼任の社長(鈴与株式会社副社長との兼任)でしたので対応しきれないこともあり、広報室長が忙しく飛び回ってくれました。彼女のおかげで、取材をお断りすることもなく乗り切れたと感謝しています。

大塚― スタート時点での目の置きどころがよかったのでしょう。ところで、清水エスパルスの選手たちの地域での活動のことや、ジュニアユースチームがブラジルに招待されたとことなどについてもお聞きしたいと思います。

ブラジルの名門インテルナシオナルに招待された、エスパルス・ジュニアユースチーム

早川会長― ブラジルからエスパルスが招待されたきっかけは、クレジットの購入対象となった小水力発電所の会社が、日本のプロサッカーチームが自分達の排出権を購入したということに非常に関心をもち、選手を招待したいという申し出があったときです。その後、小水力発電所の地元にある世界的に有名なインテルナシオナルの会長からも、大変素晴らしいことだと最大限のご協力をいただき大歓待をしていただきました。
 プロの選手はスケジュール的にむずかしかったので、中学2年生のジュニアユースチームの選手たちを派遣し、サッカーの試合はもちろん、実り多い親善が実現しました。本当に予期せぬエコ活動の波及効果で、インテルナシオナルも即座にクラブのカーボンオフセット化宣言をし、世界にカーボン・オフセットが広がることに貢献できたかなと感じました。
 また、エスパルスのプロの選手たちは、よく地元の学校にいってエコレクチャーをはじめいろいろな講義をしています。小野伸二選手は、イルカのショーで有名な伊豆・三津シーパラダイスという水族館で、サンゴ礁の保全活動の支援をつづけています。

大塚― サッカーの選手たちは、多くの方がテレビなどで親しみを感じていますから、小学校で話をしてもインパクトが大きいのでしょうね。

早川会長― そうですね。私どもが話してもなかなか目を輝かせて聞いてくれることはありませんが、同じことを選手が話せば、皆が身を乗り出して聞いてくれます。選手の積極的な協力姿勢はこのエコチャレンジで本当に大きな力になったと思います。


スタジアムの芝管理の一環で、校庭や園庭に芝生を植える活動が始まった

先生方や父母の方々の協力で、園庭に芝生の苗を移植

大塚― ほかにも、エスパルスとして小学校や幼稚園に芝生を植える活動などもされていると聞いています。印象深いことをご紹介いただけますか。

早川会長― 芝生を植え始めたのは4年前のことです。現在では、幼稚園の園庭と学校の校庭をあわせて、30を越えるまでになりました。エスパルスのホームスタジアムのアウスタ日本平は、芝生が日本一きれいなスタジアムに贈られるベストピッチ賞を4年連続を含む計5回獲得しています。それに、エスパルスの練習場の芝生も素晴らしいのです。
 これらの芝の根づけをよくするために、時々、空気穴をあけ芝を取り除くことがあります。その芝を捨てていたのですが、ポットに入れ苗として養生し、幼稚園や学校の庭に植えることにしたのです。アウスタとエスパルスの練習場の芝ということで、学校の先生や父母の方々も親近感をもってくれています。
 苗を養生するときには、200人近い方々が参加されますし、移植するときにはさらに多くの方々がきてくださいますので、作業はあっという間に終わってしまうほどです。
 今、幼稚園や学校で評判になり、「つぎはうちをやってくれ」と順番をまっておられるようです。私どもは、できれば全部の校庭と園庭に植えたいと思っています。しかし、植えっぱなしではだめなので、芝を刈る機械なども一緒に寄贈し、アフターケアをしっかりするようお願いしています。おかげで、先生たちがよく養生してくださっているようです。こうして、子どもたちが裸足で思う存分走れ、健康増進や友達を増やすことに役立てばと願っていますし、一方で、CO2の削減により地球環境にも優しいでしょうから、一石二丁、三丁にもなると考えています。

大塚― 素晴らしいアイデアですね。

早川会長― 大塚さんもご存じと思いますが、ドイツにいきますと学校の庭はきれいな芝生です。日本では、たとえば東京の校庭はコンクリートが多いですよね。情操教育どころではありません。人間も動物ですから、自然がいいと思います。芝生化は、私たちが一番力を入れていることのひとつです。

大塚― エスパルスが、地域との接点を開拓されてきたことがよくわかります。

早川会長― もちろん、県も応援してくれていますし、市からも援助をいただいています。
 生徒や園児たちの父母、地域の学校関係者など多くの方がプロジェクトに入ってくださいました。
 さらに、企業からも資金的なサポートをいただいています。このように、みんなで一緒になってやっています。

大塚― 民が先にはじめ、官を含めて地域が一丸になっているようですね。

早川会長― ほんとうに、そのような感じです。


打てば響くように、地域の方々の快い応援をいただけている

エコチャレンジに署名するサポーター

大塚― スポーツが、人びとの考え方まで変えることを実証しているように感じました。
 少し話が変わるかもしれませんが、温暖化をはじめとする環境問題に対し多くの方が理解していても、具体的な行動をとるかというとむずかしいと、よく言われます。今まで話を伺っていて、エスパルスだけではないのかもしれませんが、サッカーを介すると、サポーターなどを含め、関係する方々がよりよい環境をつくるための行動に積極的になるということでしょうか。

早川会長― そのように感じます。皆さんが協力的によくやってくれますね。

大塚― 最初にインプットするときに、早川会長をはじめ多くの方々がいい方向性を根づかせたということなのでしょうか。ところで、早川さんからみて、サポーターやファンの方々は、エスパルスあるいはサッカーというスポーツとどう付き合おうとしているとお感じでしょうか。

早川会長― カーボン・オフセットをはじめたときは、そのために多少お金もかかりましたし、もっといい選手を探してこいというような要望が出てこないかと気になったり、ファンの皆様やスポンサーの皆様がどのように思うかを心配したのは確かです。それでも、エスパルスの活動の柱のひとつとして、カーボン・オフセットを取り上げたかったのです。
 そして、実際にはじめたところ、まったく後ろ向きの意見を聞くことはなく、むしろ、皆さんから素晴らしいという声や、誇りに思うという声をたくさんいただき、本当に嬉しく思いました。
 最近では、サポーターやファンの方々がエコの活動に一緒になって取り組んでくれています。たとえば、試合が終わった後にゴミを回収するクリーンサポーターズを募集すると、あっという間に定員が一杯になります。
 また、今日もアウスタで公式試合がありますが、スピーディーなサッカーになるように、試合の前に少し水をまくのですよ。以前は、社員が水をまいていたのですが、ホースに振り回されるなど、問題が生じたこともありました。専門の方に頼むほうがいいと消防団に声をかけたところ、たちまち10チームの消防団の方々が応援してくれることになりました。そんなに大勢にこられても困るからと、抽選をしたほどです。このようなことはささやかなエピソードですけれども、それぐらいに、打てば響くというか、地域の方々が快くやってくれるのです。私はびっくりもしましたが、とても嬉しかったです。エスパルスが多くの方から親しまれ、支持され、存在感があることの表れと思っています。

大塚― 「打てば響く」というのは、いいですね。
 ところで、サポーターには若い方が多いと思います。最近の新聞報道などをみていると、「若者は内向き」などといわれることが多いようですが、早川さんからみていかがでしょうか。

早川会長― サッカーで付き合っている人たちに限れば、皆さん本当に積極的で団結力も強く、一つのチームになって素晴らしい応援をしてくれています。ですから、私は若い方々が内向きなどとはまったく思っていません。


どんな小さな活動でも一歩踏み出さなければ始まらない

第1回カーボン・オフセット大賞で環境大臣表彰を受賞

大塚― 今日お話を伺っていて、私には目から鱗のことがたくさんありました。早川さんが、「打てば響く」と言われたこと、思い切って判断し行動に移されたことは、環境にはもちろんですが、社会をよくすることに貢献されてきたと感じています。
 最後になりますが、EICネットは多くの方々にみていただいていますので、今日の話のまとめとして、早川さんから清水発のメッセージをいただきたいと思います。

早川会長― そうですね。私どものエコチャレンジは小さな活動からスタートし、カーボン・オフセットで一歩踏み出したわけです。それは、ごく小さな単位でのカーボンの購入でした。しかし、どんな小さな活動でも一歩踏み出さなければ始まらないと思いますし、行動を起こすことの尊さといいますか、重さを深く感じるようになりました。カーボン・オフセットやエコ活動を経験するなかで、私自身、あるいはエスパルス自身が、いろいろなことを学び、また、多くの方々との交流も深まり広がりました。おかげで、カーボン・オフセットで投じた費用どころではない大きなものを得たと思っています。世界に広がったことも、本当に、私どもの想像を超えた驚きであり、喜びでもありました。
 EICネットの読者の皆様も、それぞれが行動を起こされ、前に進んでいくことを切に願っています。

大塚― 清水エスパルスという、清水の地ではじまり、サッカーチームの育成と環境保全という新しい視点を切り開いた早川さんから、幅広い話を伺うことができました。ますますのご活躍を期待しています。本日はどうもありがとうございました。

(株)エスパルス代表取締役会長の早川巌さん

一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎

(株)エスパルス代表取締役会長の早川巌さん(左)と、一般財団法人環境情報センター理事長の大塚柳太郎(右)


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