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首長に聞く!自治体首長に、地域の特徴や環境保全について語っていただきます。

No.014

Issued: 2023.11.27

第14回 鹿児島県長島町長の川添健さんに聞く、自然の恵みを活用した日本一・世界一豊かさを実感できる町づくり

長島町長 川添健(かわぞえ たけし)さん

ゲスト:長島町長 川添健(かわぞえ たけし)さん

  • 昭和19年生まれ、鹿児島県出水郡長島町浦底出身。
  • 昭和38年に東町役場に入町し、昭和60年に収入役就任。
  • 平成15年より東町町議会議員となり、平成17年に東町町長に就任。
  • 平成18年に旧長島町と旧東町が対等合併し、初代長島町長に就任。
  • 現在5期目を務める。

聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 㓛刀正行

目次
島一周の花壇を作り、年中楽しめる街道へ
8人の兄と親しく語り合った経験が政治のコツ
自然から恵まれたものをうまく利用した風力発電
太陽光のエネルギーで加工したブリを世界へ発信していく
県内所得1位に迫る農業・漁業を自然エネルギーでまかなう

島一周の花壇を作り、年中楽しめる街道へ

㓛刀理事長(以下、㓛刀)― EICネット「首長に聞く!」インタビューに登場いただきましてありがとうございます。
まず初めに長島町のご紹介からお願いしたいと思っているのですが、午前中に長島町をまわらせていただきまして、特に街道沿いのお花がきれいに整備されているのを拝見し、感動いたしました。ちょうどボランティアの方が整備されていて、本日は町長もご参加されていたとお聞きしています。

川添町長― そうなんです。本日は170名ほど集まってくださり、お礼を申し上げました。また、このほか町内の約250名がボランティア団体に登録していて、応援してくれる方がいます。
私は、お金はなくとも豊かさが実感できるような町にしたいと考えています。そんな、ゆったりとできる町が、日本中・世界中に一つくらいあってもいいのではないかと思っているのです。

㓛刀― そうした点も含めて、長島町の特徴について、ご紹介いただけますでしょうか。

川添町長― 長島町は西海岸の一部が雲仙天草国立公園に指定されていて、風光明媚であることが最大の魅力です。
東海岸には、海水温が高く、静かな波の八代海があり、養殖には最適です。そこで養殖のブリができます。国立公園のある西側は温暖な場所のようですけど、東シナ海の冬は寒さが厳しいところです。ただ、厳しさはあるのですが、赤土で育つ根菜類のさつまいもや馬鈴薯は最高の味に育ちます。条件の悪い気候もうまく農業に役立てられますし、海水温の高い八代海で豊かな養殖場として利用できます。不便なところですけど、恵まれた環境を神様が与えてくれているのではないかと感じます。
また、この島には大きな天然石がたくさんあるんですけども、昔からうまく活用して、段々畑を作ってきました。この段々畑というのは水捌けがよく、石で温められた地温が夜中まで残る保温効果で味のよい農作物ができます。やはり神様が「長島、頑張れよ」という状況を与えてくださったような気がしますね。

㓛刀― 長島町を案内していただいた途中、いろいろな形の石をうまく石垣として使われているのを拝見しました。これも町長のご発案だと伺いました。

川添町長― 町の公共事業では、ブロック擁壁を造るのに本土から材料を調達していましたが、ブロック擁壁よりも昔から農家の方が造られた石垣の方が強いのです。何百年も経った畑の石垣でもそれほど崩れていません。これを公共事業に使う方法はないかというところが着眼点でした。

㓛刀― そうですか。島全体に道路が整備されていて、沿道に石垣の花壇も作られて、よい雰囲気になっていました。

川添町長― あと4~5年しますと、島を一周する花壇が完成いたします。花壇の延長線上にはツワブキなどの花が咲き誇り、また街路樹には天草・長崎の地域産のアオモジ(宝の木)を植栽しています。春先には香りのよいきれいな花が咲いて、初夏には新緑が豊かで、秋には紅葉してと、年中楽しむことができます。この街道が島一周40kmに渡って完成しますと、日本一・世界一安らぎの得られる島になると思います。

㓛刀― 現在完成している部分を見るだけでも、その光景が目に浮かびます。車で走っていてもいろいろな花が咲いて、見事に整備されていると思いました。ありがとうございます。

長島の北端に位置する針尾公園からの眺望。海上には養殖ブリの生け簀が浮かんでいるのが見える

長島の北端に位置する針尾公園からの眺望。
海上には養殖ブリの生け簀が浮かんでいるのが見える

ボランティアが整備する沿道の花壇

ボランティアが整備する沿道の花壇


8人の兄と親しく語り合った経験が政治のコツ

㓛刀― 次に、町長ご自身のことに関してご紹介いただきたいと思います。ご出身やご経歴、長島町への思いについてお話いただけますでしょうか。

川添町長― 私はこの地で生まれ、この地で育ちました。家族は9人兄弟で、父は町議会議員をしていまして、22歳上の長兄も町議会の議長まで務めさせていただくなど、育った環境が、政治で地域のために頑張らないかんよといった雰囲気のある家庭でしたので、役場の職員に採用されてからも、地域のために、皆のために、一人一人がよくなってほしいという想いでおりました。
2006年3月20日に旧東町と旧長島町が合併して今の長島町になった当時、私は旧東町役場を退職して町議会議員を務めていましたが、その時の町長が急に亡くなり、1年3ヶ月ほど旧東町町長を務め、それから新しい長島町の町長に立候補し、就任いたしました。家庭の雰囲気がきっかけになって、政治の世界に入ったように思います。
私は特に優秀な大学を出たわけでもありませんので、人の力を借りて政策を推進することが必要だといつも思っていました。役場の職員も、それほど高学歴の職員がいるわけではありません。ですから、人の物まねをしてでも町に定着するような政策を工夫していけば、全体では日本一の町になれるのではないかと考えたのです。駅伝でも、抜きん出たナンバー1になれるランナーはいなくても、引き離されずにタスキを繋いでいけるナンバー2のランナーがたくさんいれば優勝だってできますよね。
自分で創造することができなければ、見よう見まねで勉強することと、それから国や県などにお願いをしていくことが大事だと思います。
親近・疎遠といわれるように、親しい人には必ず誰かが助言をしてくれますが、間柄が疎くなれば距離は遠くなり、距離が遠くなれば疎くなるものです。私は9人兄弟の一番下で、このあたりでは末っ子を「しったれ」と言いますが、8人の兄によく叱られもしましたけど、可愛がってもらいました。家族で親しく語り合う雰囲気があったことも、政治のコツとして、今に役立っていると思います。

長島町役場

長島町役場

東シナ海を望む

東シナ海を望む


自然から恵まれたものをうまく利用した風力発電

㓛刀― ありがとうございます。次に、長島町の環境に対する取り組みについてお伺いしたいと思います。
後ほど改めてお聞きする脱炭素の取り組みは、これからの時代とても大事になりますし、本日もご案内いただいた「ながしま造形美術展」でも、さまざまな自然素材や不用品を活用した作品の数々を拝見しました。また、太陽光発電や風力発電も早くから取り入れられています。その辺を含めてお話しいただけますか。

川添町長― 今理事長のおっしゃられたように、自然のものや廃れたもの、自然からの恵みを活用する工夫ということになるのでしょうけど、そういう視点を、私も職員たちも備えています。
ここの町は歴代、風の強い場所でしたので、先達がこの風力をうまく利用して電気に変えたらどうかと考え、西海岸を吹く東シナ海の風力を使って発電しようという機運が生まれました。最初の風車は23年前に1基できました。その後、NEDOの制度を利用して、九州電力の子会社等民間会社を含めて現在34基の風車があります。
自然をうまく利用する方法があったことで、町も手をあげて、町営の風力発電所をやってみようということになりました。それ以来、国の補助金事業などにも常に目配りをしているうちに、国でもどんどん風力発電の普及に力を入れてくれるようになりまして、加速してきています。

㓛刀― ごみ問題についてもかなり積極的に取り組まれているそうですね。

川添町長― 長島町は、海外からの海岸ごみもいっぱい流れてくるところですので、国や県とタイアップしながら、ごみ拾いをしています。そのごみ拾いの作業は、潮待ちの時間で作業をしています。午前中に海でごみ拾いの作業をして、昼から花の手入れすることで、一日の管理作業を有効に行うと、そのような工面もしています。

長島八景の一つ「毎床風車公演展望所」から望む風車群

長島八景の一つ「毎床風車公園展望所」から望む風車群

ながしま造形美術展

ながしま造形美術展


太陽光のエネルギーで加工したブリを世界へ発信していく

㓛刀― 本日も時期外れの陽気になっています。気候危機どころか非常に大変な局面になってきていて、脱炭素社会に向けた取り組みも急がれます。長島町ではかねてより風力発電や太陽光発電を整備され、日本の中でも最先端を進まれていると思いますが、その辺の構想について、現在までとこれからの展望についても、お話いただけますでしょうか。

川添町長― 先達の時代から、町営と民間を合わせて34基の風車を活用しておりましたので、町内外から注目されてきました。そうした機会を活用して、町でも太陽光発電所を造りましたけど、さらに行政の庁舎や病院、避難所などにも太陽光パネルを設置して、安心して暮らしていけるための電源確保の取り組みも行っています。
さらに、今後はもっと進めていきたいことがあります。今、長島の漁協が120億円規模の養殖ブリを生産していますが、これを海外に売り込もうというのが私たち最大の戦略です。コロナ禍以前のピーク時には全体の約3割にあたる30億円分近くを海外に輸出していましたが、現在の輸出額は10億円ほどになっています。輸出用のブリの加工場はピーク時の3分の1程度に減っていますが、繁忙期は24時間稼働することで現在の出荷数を確保しています。この加工場を新しく増設していこうという計画を立てています。
この加工場は、やはり環境にやさしい工場にしなくてはと私は思っています。原発や石油・石炭で作った電気ではなく自然エネルギーを活用する計画を立てています。加工場の屋根には太陽光発電設備を設置して、天気の悪い日は蓄電しておいた電気で、ブリの加工をする。
それを世界に発信して、「自然エネルギーで育ったブリ」とPRしていこうと、大いに力を入れています。
これからの時代、地方に企業を誘致するのはなかなか難しいですから、町の産物を売り出すことで新しい産業を始めていきたい。おそらく世界中、特にヨーロッパでは自然エネルギーで作ったものは受け入れられていますので、実現させたいと思っております。
それから、本来、長島町でSDGsを考えるなら、潮流発電が最適の方法です。天草海峡というのは日本一の幅と流れがあるところです。海流は24時間満ち引きを繰り返しますから、その潮流をうまく利用して発電したいのです。本当は新しい加工場も潮流を利用したかったのですけど、残念ながらまだ研究段階で実用化できていないようです。
潮流を活用するのに、長島町には最適な潮の流れがありますので、お金はありませんけど、実証実験する場所は提供できますので、ぜひ実現してほしいと思います。
漁協では、エサの確保のための冷蔵庫に1億円くらいの電気代がかかっていますので、潮流発電でまかなうことができれば、漁民人口が100人~200人増えるよりも経済効果が出ると思います。それがこれからの夢です。

㓛刀― 確かに、潮流発電の実用化は世界的にあまり進んでおりません。イギリスなどでかなり進められているように聞いていますが。

川添町長― 洋上風車は、海の中に建つことになりますから見た目に少し抵抗感がありますけど、そこに見えない潮流を利用すれば、24時間行ったり来たりしていますから、余るほど発電できることになります。

㓛刀― 現在でも、風力と太陽光で発電した電気が、町内だけでは使いきれないほどになっていると思います。

川添町長― 2.4倍です。民間の事業を含めて34基の風車と、太陽光発電も合わせますと、町で消費する量の2.4倍の電気を生産しているわけです。
食料になると、エネルギーベースで240倍くらいになっています。ここ長島町は農業の町ですからね。
ですから、“長島大陸”では非常時でも食べものにも電気にも困ることはないと思っております。

㓛刀― 今、エネルギーの地産地消をどう実現するかという取り組みが各地で進められていますが、長島町ではその段階はとっくに超えていらっしゃるわけですね。

川添町長― その通りです。あとは、潮流発電を取り入れて、町内にも回せるような仕組みになれば一番いいんですけどね。ただ、そうしてたくさんの電力を生み出しても、町内では使い切ることはできま せんので、余剰電力は町内以外に購入していただかないとならないわけです。

長島夢追い元気発電所の発電状況を示す看板

長島夢追い元気発電所の発電状況を示す看板

長島夢追い元気発電所のソーラーパネル

長島夢追い元気発電所のソーラーパネル


県内所得1位に迫る農業・漁業を自然エネルギーでまかなう

㓛刀― 午前中にご案内いただいた際にお聞きしたのですが、竹島に新たにできる加工場で太陽光発電を利用されるというお話でした。第一次産業に自然エネルギーを活用していこうということですよね。

川添町長― そうなんですよ。新たな政策として自然エネルギーを活用する場合、町の経済の半分を支えるような養殖ブリやじゃがいもなど産業と直結した工場や加工場であれば、経済効果も非常に高くなります。

㓛刀― 獲ったものをそのまま販売するのではなく、加工して価値を付け、そこにさらに自然エネルギー由来の電気で作ったという価値を付けるのですね。
では最後に、これまでのお話と重複する部分があるかもしれませんが、EICネットの読者へメッセージをいただけますでしょうか。

川添町長― 長島町は、第一次産業だけでも鹿児島県内で1位の所得額が実現するのではないかという状況になっています。現在は、農業・漁業だけで4位ですが、1位との差は一人当たり26万円です。ところが長島町では、平成4年度と現在の預金高の増加額が64万円アップしていまして、今度の統計では1位になっていてもおかしくありません。そして、一番になった農業・漁業の電力を自然エネルギーでまかないたいと思っております。
また、先ほど理事長のお話しにもありましたが、廃棄物になる石や木を街路に利用しておりまして、材料費にはほとんど費用が掛かっていません。人力は掛けていますけれども。
そのような方法で、住む人たちが豊かさを実感できるような日本一・世界一の町を造ってみたいというのが私の夢です。

㓛刀― 普通、畑を作ろうと思うと、石が邪魔になって、どこでも本当に苦労されると聞いています。それをうまく利用されているということですね。

川添町長― どこかから掘ってきた石を使うのであればあまり効率がよいとは言えないと思いますが、農家の方々は邪魔になっている石をどかしてから土をかぶせて畑を作っています。
建設業では、畑を拓く代わりに石をもらい受けて、その石を道路の石積みに使うのです。建設業の利益率も高くなり、農家も助かります。
もう一つ、昔の人は営々と石を積んで畑を築いてきました。今後の道づくりでも、100年・200年先もずっと残って、景観的にも落ち着けるようなものとして、石積みを公共事業にも使ってほしいと思っております。

㓛刀― ありがとうございました。

長島町長の川添健さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の㓛刀正行(右)



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