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No.210

Issued: 2012.08.22

【エコポイント寄附特講】地球温暖化対策と都市・地域づくり(2)「ストラスブール ──渋滞対策から低炭素都市へ、トラムを中心とした都市づくり」

目次
都市づくりの展開
ストラスブールにおける移動の推移
ストラスブールの移動手段
終わりに

 ストラスブールはドイツと国境を接するフランスの都市でパリから450km北東にあり、面積は約78km2、人口はフランスで7番目に多い約28万人である[1]。市の中心部はライン川の支流イル川に囲まれた0.94km2の中州で「グランディル」と呼ばれ、大聖堂や中世の古い町並みが残る美しい地区で、1988年に世界遺産に登録されている。
 2009年10月にフランスの経済誌『エクスパンシオン』は、フランスの主要20都市について大気の質、交通による年間一人当たり炭素排出量、バスレーンやトラムなど公共交通の充実度、自転車専用道路、制限速度30km/h以下の道路の設置状況、緑被率、地域暖房による炭素排出量、廃棄物リサイクル率の8項目を判定し、ストラスブールを「フランス一のエコシティ」とランク付けしている[2]
 このエコシティの中心的存在がトラム、日本でLRT(低床型路面電車)と呼ばれるものであり、20年以上にわたってストラスブールの公共交通政策の要となってきた。この政策では、自動車に代わる交通手段を優先し、トラムとバスや自転車、徒歩等の多様な移動手段を組み合わせて使うよう市民に促している。現在、世界各地では、地球温暖化対策としての要請もあり、車中心社会から脱却した公共交通指向型開発(TOD)が模索されている。
 以下では、既にそれを成功させているストラスブールの都市づくりを紹介する。

都市づくりの展開

 ストラスブールでは、1960年に旧式のトラム(路面電車)が廃止されると、市の中心部に流入する車が増え、交通渋滞や排気ガス等の問題が生じ、市の中心部は巨大な駐車場と化していった。
 1989年、こうした問題の解消策としてトラム導入をマニフェストに掲げていた社会党が市長選に勝利し、トラム路線新設が決定された。1990年、都市・交通計画の行政責任を担うストラスブール都市共同体(CUS)【1】はストラスブール交通公社(CTS)と契約して事業の運営を委託し、1994年11月には最初の路線(A線)9.8kmが開通した。
 路線の敷設拡大と並行して市は、公共交通の利用へと市民を誘導すべく、さまざまな施策を打ち出していった。バス路線の整備拡大を図り、パーク・アンド・ライド(P+R)のシステムを導入し(図を参照)、自転車専用道路や駐輪場、歩行者空間を整備拡大した。またトラム沿線への中小企業誘致や文化・スポーツ施設の建設など、トラムに乗りたくなるようなインセンティブを生み出していった。
 一方、1992年には都心の通り抜けを禁止する交通プランを実行に移して都心へのマイカー乗り入れも規制したほか、都心の路上駐車スペースを削減し、有料駐車ゾーンを拡大する等、市民の自動車利用を抑えるような策を講じたのである。

ストラスブールにおける移動の推移

 その結果、CUSにおける公共交通機関による住民の年間トリップ数【2】は、1992年に4200万回だったものが2008年には9300万回と、118%以上増加している[3]。住民一人当たりにすると、2008年の一年間に207回公共交通を利用したことになる。また一日に都心部に進入する自動車の数は、1990年には約24万台だったものが、2008年には17万台と約28%減少し、都心部に入る市民の移動手段が大きく変化したことが示されている[4]
 2008年現在、CUSでは住民の94%がバス停かトラムの駅から400m圏内に住んでいる[5]

ストラスブールの移動手段

市内を走るトラム(写真:Google Earthより)
[拡大図]

トラムの路線図(出典: CTS_schematique_jour_2020_V06 をもとに作成)注:赤線で囲まれた部分は市の中心にあるグランディル部分。
[拡大図]

◇トラム

 ストラスブールのトラムは低床で窓は深く大きく、ドアも広く、環境にも人にもやさしい。ストラスブール交通公社(CTS)が運営しており、現在の6系統(A〜F)69駅を結ぶ55.5km(営業km、軌道距離は38.6km)の路線網はフランス最大である。毎日約30万人の乗客が利用し、朝4時半から夜中の0時半まで運行している。8つの駅にパーク・アンド・ライド用の駐車場がある。
 トラムの切符はバスと共通で、片道券は1.6ユーロ(約160円)、回数券や往復券、24時間券、2〜3人用の24時間券、往復券付き駐車券等、利用者に配慮した切符が各種用意されている[6]

◇バス

 トラムと同じCTSが運営する。B線、C線のトラム開通に合わせてバスの本数が12%増加する等[7]、トラム導入と並行してバスの運行も拡大され、トラムに乗り換えられるように路線も再編された。都市圏を走る30路線283台のほか、他の都市と結ぶ11路線57台のバスが運行している[8]。障害者に配慮してバス停の改築や低床化、エアコン整備等、車両の最新化も図られ、バス優先レーンも設けられている。

◇自転車

 自転車も重要な移動手段で、自転車道路延長は約500km。公共駐車場には約1800台分の駐輪スペースがある(うち850台分が有料)。乗り換えに便利なようにバス停とトラムの駅の近くにも21カ所の駐輪場が設けられている(各20〜40台の規模)。
 ラッシュアワーでなければ自転車をトラムに持ち込むこともできる。ストラスブール駅等、市内15カ所には、市が運営するヴェロップという貸自転車も用意されている。

◇徒歩

 徒歩も重要な移動手段で、2009年の世帯調査を見ると、CUS内の住民の外出のうち3分の1が徒歩である[9]。歩行者専用道路は1970年代に整備されてからトラム路線の開通とともに拡大され、市の中心部は歩行者に開放されている。
 歩道は縁石を低くし、都心部では自動車の速度を30km/hに制限する等、歩行者の安全と快適さに配慮がなされている。

◇自動車

 2009年の調査では、CUS内の住民の外出のうち46%は自動車である[9]。都心部での利用は規制されているが、自動車は重要な交通手段であり、パーク・アンド・ライドが推奨されている。
 1999年からフランス初のカーシェアリング事業も行われており、登録利用者は2000人(2010年)である。


終わりに

 アメリカのポートランドやドイツのカールスルーエ等、トラムを軸とした都市づくりに成功している例はこのほかにもいくつかある。日本でも環境モデル都市である富山市がトラムを導入しており、エコシティやコンパクトシティにおける新たな公共交通機関として、トラムへの期待が高まっている。

【1】ストラスブール都市共同体(CUS)
ストラスブールと周辺27自治体で構成され、面積は306km2、人口は約45万人である。
【2】トリップ数
1トリップとは乗り換えなしの利用を指す。行き先までに1回乗り換えるときは、2トリップと数える。

 一般財団法人環境情報センターは、環境省・経済産業省・総務省が実施する「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」(家電エコポイント)及び国土交通省・経済産業省・環境省が実施する「エコポイントの活用による環境対応住宅普及促進事業」(住宅エコポイント)における環境寄付団体として選定を受けております。
 皆様からお寄せいただいた寄附金は、地球温暖化防止に向けた事例収集および普及啓発に活用させていただいています。本記事はその一環として作成したものです。
 ご協力いただきました皆様に厚く御礼申し上げます。

 ※詳しくはエコポイントにおける環境寄附のお礼をご覧ください

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(記事)環境問題翻訳チーム・ガイア

〜著者プロフィール〜

環境問題翻訳チーム・ガイア
1994年
フリーランスの翻訳者によって、環境問題の専門翻訳チームとして結成。
2012年
環境省の仕事をはじめ、各種NGOや企業、研究機関などから幅広く、英訳・和訳を受注するのに加え、全世界の主要環境機関、主要国の環境関連省庁の発表するニュースの抄訳を毎週提供するという仕事にも携わっている。環境に関連した最新の動向を常に把握することに努め、翻訳に活かしている。また、翻訳で実際に使用した環境用語を環境訳語辞典で公開している。

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