一般財団法人 環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

EICピックアップ環境を巡る最新の動きや特定のテーマをピックアップし、わかりやすくご紹介します。

No.251

Issued: 2016.04.18

世界に向けて公表された、IPBES設立以来初のアセスメントレポート

目次
IPBESとは
これまでの決定事項
作業計画2014-2018
IPBESアセスメントレポート
日本の取組

IPBESとは

 今、地球上の生物種は、史上かつてない速度で絶滅しています。
 1992年、国連環境開発会議(地球サミット)を契機として、生物多様性保全のための包括的な枠組みの必要性をふまえ、生物多様性条約が採択され、その後、様々な検討・決定がなされてきました。
 2010年、愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、これ以上生物多様性が失われないようにするための具体的な行動目標である「愛知目標」が採択されました。愛知目標の達成には、生物多様性や生態系サービスの現状や変化を科学的に評価し、それを的確に政策に反映させていくことが不可欠です。このため、世界中の研究成果を基に政策提言を行う政府間組織として「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES:Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services)」が、2012 年4月に設立されました(2016年2月現在124の国が加盟)。
 IPBESは、「科学的評価」、「能力養成」、「知見生成」、「政策立案支援」の4つの機能を活動の柱としており、科学的な見地から効果的・効率的な取組みが一層推進されることが期待されています。

生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)の概要


これまでの決定事項

 2013年1月にドイツのボンで開催された第1回総会以降、これまでに4回の総会が開催されてきました。第1回総会から第3回総会までに、基本的な枠組や運用規則、作業計画等がまとまっています。また、第4回総会では、IPBES設立以来初のアセスメントレポートとなる、「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別アセスメント」と「生物多様性及び生態系サービスのシナリオとモデルの方法論に関するアセスメント」が総会の承認を経て世界中に向けて公表されました。


作業計画2014-2018

 第2回総会にて、IPBESの4つの機能ごとに、どのような成果をどのようなスケジュールで作り上げていくかという作業計画がまとまりました。目標とする成果ごとに、評価項目の絞込みなどの調査設計段階(スコーピングフェーズ)、実際の評価作業段階(アセスメントフェーズ)、評価・検討結果を活用するためのツール開発段階(ツール開発フェーズ)などの段階を設定しています。年に1度開催されるIPBES総会にて、その実施状況や各フェーズの成果物(またはその素案)を確認し、必要に応じて調整をしていくことになっています。
 IPBES作業計画2014-2018の中心的なアセスメントであり現在執筆作業中である「生物多様性及び生態系サービスに関する地域・準地域アセスメント」が2018年に公表、翌2019年には本年(2016)より執筆が開始される「生物多様性及び生態系サービスに関する地球規模アセスメント」が公表される予定です。

作業計画2014-2018
[拡大図]


IPBESアセスメントレポート

 第4回総会での承認を経て世界中に向けて公表された、IPBES設立以来初のアセスメントレポートとなる、(1)「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別アセスメント」と(2)「生物多様性及び生態系サービスのシナリオとモデルの方法論に関するアセスメント」について、その概要をご説明します。

(1)「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別アセスメント」
 ミツバチ等の花粉を運ぶ昆虫達の価値、現状や傾向、食糧生産に与える影響について世界中の科学者の知見を集約しとりまとめた評価報告書で、技術報告書と政策決定者向け要約(SPM: Summary for Policy Maker)の2つで構成されています。SPMでは花粉媒介者と花粉媒介の「価値」、「現状と傾向」「変化要因、リスクと機会、政策と管理手法オプション」として、22のキーメッセージが報告されています。
 「価値」については、野生植物種の多くが花粉媒介に頼っていることや、世界の作物生産量の5〜8パーセントが動物による花粉媒介に依存していると推定されており、年間市場価格にして世界全体で2350億ドル〜5770億ドル(2015年米ドル)に上ることなどが報告されています。
 「現状と傾向」については、野生花粉媒介者の出現頻度と多様性が低下している地域があることや、過去50年間で世界全体の花粉媒介者に依存する作物の生産量が300パーセント増加していることなどが報告されています。
 「変化要因、リスクと機会、政策と管理手法オプション」については、土地利用の変化、集約的農業経営、農薬の使用、環境汚染、侵略的外来生物、病原体及び気候変動をリスクとして、環境負荷の低い農業や生活、多様な農業システムの共存、エコロジカルインフラへの投資を機会として、それぞれの変化の要因を整理した上で、それに対応する政策及び管理手法オプションが提言されています。

(2)「生物多様性及び生態系サービスのシナリオとモデルの方法論に関するアセスメント」
 文字通り「生物多様性及び生態系サービスの現状や将来を評価・予測するための方法論」を記した評価報告書です。花粉媒介の評価報告書と同じく、技術報告書及び政策決定者向け要約(SPM)にて構成されています。SPMは3つのハイレベルメッセージと、それをサポートする15のキーメッセージ、さらにはこれに関連するIPBESや科学コミュニティ等への12のガイダンスにより構成されています。
 ハイレベルメッセージでは、

  • シナリオやモデルは様々な課題はあるものの政策支援に多大な貢献ができること、
  • シナリオやモデルをアセスメントや意思決定支援に活用するには、モデルを用いた予測に伴う不確実性や予測不可能性を考慮に入れ、様々な手法やツールを注意深く組み合わせる必要があること、
  • とりわけ適切な計画と投資、能力強化がシナリオやモデルの開発や適用における課題 の克服しうること、

 が示されています。
 キーメッセージでは、上記ハイレベルメッセージを支えるものとして、自然、自然による恵み、人間の福利との関係を理解するのにシナリオやモデルは効果的なツールであること等の技術的な事項が列記されています。

 ガイダンスには、

  • IPBESのテーマ別アセスメント、地域アセスメント、地球規模アセスメントに関わる専門家が、政策に関連するシナリオやモデルの活用事例の分析や統合により得られる知見を最大限に活用することが望ましいこと、
  • IPBESが今後、科学者コミュニティと緊密に連携し、IPBESの目的に沿った柔軟で適用性のあるマルチスケールのシナリオの作成を検討することが望ましいこと、
  • シナリオやモデルの活用における課題を克服するために、IPBESが科学者コミュニティ、政策形成や意思決定に関わる実務者の能力強化と支援を継続することが重要であること、
  • シナリオやモデルが高度に専門的であるため、すべてのIPBES成果物の検討において、シナリオ、モデル、意思決定支援ツールの有効性や限界について知識を持つ専門家が関わることが望ましいこと、
  • IPBESが全ての成果物に関わる専門家がシナリオとモデルの活用や、その結果の効果的な情報伝達を助けるメカニズムを実行するべきであること、
  • IPBESの全ての成果物にシナリオやモデルの潜在的な有用性が十分に活かされるような措置をとること、

 等が示されています。


日本の取組

 環境省では、IPBESの国際的な取り組みを支援するために、IPBESに対して年間約30万ドルの拠出をしています。また「IPBES国際ワークショップ」、「先住民と地域住民の知識体系に関する専門家ワークショップ」を国連大学等と共同開催し、IPBESの概念的枠組みの構築や作業計画の策定・実施に貢献してきました。国内においては、国内専門家・関係省庁間の情報交換及び情報共有の体制整備、我が国からのインプットに向けた研究実施支援、日本国内の生物多様性及び生態系アセスメントの実施を行っています。
 また、IPBES事務局機能の一部を担う技術支援機関が、我が国の提案に基づき、地球環境戦略研究機関(IGES)に設置され、協力機関と共に「アジア・オセアニア地域における生物多様性及び生態系サービスの評価報告書」の作成に重要な役割を担っており、今後も積極的な貢献を進めて行きます。


アンケート

この記事についてのご意見・ご感想をお寄せ下さい。今後の参考にさせていただきます。
なお、いただいたご意見は、氏名等を特定しない形で抜粋・紹介する場合もあります。あらかじめご了承下さい。

【アンケート】EICネットライブラリ記事へのご意見・ご感想

(記事:環境省自然環境局 土屋守雄、図版:環境省)

〜著者プロフィール〜

土屋守雄(つちやもりお)
 環境省自然環境局自然環境計画課生物多様性地球戦略企画室 専門官。住友林業株式会社入社(平成15年度)、環境省出向(平成26年度)。本プロジェクトの他、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)を担当。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。