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No.260

Issued: 2017.04.13

奄美群島国立公園の誕生 〜生態系管理と環境文化型の新たな国立公園〜

目次
国立公園誕生の背景
奄美群島国立公園の概要
生態系管理型の国立公園
環境文化型の国立公園

 日本の南西部に位置する奄美群島が2017年3月に34番目の国立公園に指定されました。国内最大規模の亜熱帯照葉樹林が残され、アマミノクロウサギなど固有種や希少な野生動植物が数多く生息生育しているほか、世界的な北限に位置するサンゴ礁や石灰岩の海食崖、鍾乳洞、マングローブ、干潟など多様な自然環境がみられる地域です。群島最大の奄美大島では14集落が国立公園区域に含まれ、自然と共生してきた暮らしの中で培われた地域の伝統文化(環境文化)が有形無形の文化景観として国立公園の魅力にもなっています。

湯湾岳(奄美大島)

湯湾岳(奄美大島)

寝姿山(通称)(徳之島)

寝姿山(通称)(徳之島)

国立公園誕生の背景

 奄美群島は1974年に国定公園に指定されました。その区域は海岸部が中心で、サンゴ礁や海岸の景観を保護することが主な目的でした。環境省は2007年から全国の国立・国定公園総点検事業を始め、2010年に結果を公表しました。その中で、奄美群島は、アマミノクロウサギをはじめとする多くの固有種が集中して分布する特徴的な生態系が形成されているほか、国内最大規模の亜熱帯林、自然性の高い河川、マングローブ林、サンゴ礁などが分布し、陸域から海域にかけて多様で連続性を持つ生態系を有していると高く評価され、国立公園に指定することが適当な地域に選定されました。
 また、屋久島と白神山地が1993年に世界自然遺産に登録されて以降、新たな登録に向けた取組が行われていなかったことから、環境省と林野庁は新たな世界自然遺産候補地を選定するための検討会を開催し、2003年に知床、小笠原諸島、琉球列島の3地域を候補地に選定しました。琉球列島で世界自然遺産登録の可能性がある4島のうち、奄美大島、徳之島、沖縄島北部(やんばる地域)は国立公園に指定することが世界自然遺産登録の前提でした。
 こうした背景の中で、奄美大島と徳之島の森林部の多くを規制の厳しい特別地域として取り込んだ奄美群島国立公園が誕生したのです。

公園区域面積の比較(単位:ha)
奄美群島国立公園 奄美群島国定公園
陸域 42,181 7,861
(内訳) 特別地域 40,611 7,332
普通地域 1,570 33
海域 33,082 25,024
(内訳) 海域公園地区 1,124 446
普通地域 31,958 24,578

奄美大島の河川

畦海岸(徳之島)


奄美群島国立公園の概要

 奄美群島は、標高の高い山地がある奄美大島(694m)と徳之島(645m)、そして標高の低い隆起サンゴ礁の島である喜界島(214m)、沖永良部島(240m)、与論島(97m)の3島で構成される島嶼です。およそ1000万年前までユーラシア大陸の端に位置していた地域が大規模な地殻変動により切り離され、その後、氷河期と間氷期に繰り返される海面の上下変動や暖流である黒潮の影響などを受けて形成された島々です。こうした島を形成した地史が奄美群島に生息生育する動植物を特徴づけています。
 亜熱帯照葉樹林に覆われている奄美大島と徳之島には、大陸から分離後に天敵となる捕食動物がいない環境下で独自の進化を遂げたアマミノクロウサギや両島で別種に分かれたトゲネズミなど固有種や希少種が数多く生息生育しています。7万haを超える群島最大の島である奄美大島には、北部の笠利半島と南部の大島海峡にサンゴ礁が発達しているほか、まとまった面積としては北限になるマングローブが形成され、多様な自然環境が見られます。徳之島には、花崗岩が露出する海岸や海食崖など特異で雄大な海岸景観が見られるほか、南部の石灰岩地域には隆起サンゴ礁上に生育する森林として貴重な低地高齢林(ガジュマルやアマミアラカシなどで構成)が見られます。
 喜界島は現在も年間2ミリほど隆起を続けている世界有数の隆起サンゴ礁の島で世界中の研究者が注目しています。公園区域には島の成り立ちを示す段丘斜面や隆起サンゴ礁海岸の景観が含まれています。沖永良部島は、琉球石灰岩のカルスト地形(鍾乳洞など)や海食崖などの海岸景観が特徴的な島です。与論島は、沖合約1kmに及ぶ広大な礁湖の景観が最大の特徴で、大潮の干潮には百合ヶ浜が出現します。

住用マングローブ(奄美大島)

サンゴ礁の海(与論島)

生態系管理型の国立公園

 火山や山岳などの雄大な自然景観を保護対象とする国立公園と異なり、奄美群島国立公園では亜熱帯照葉樹林とそこに生息生育する貴重な野生動植物からなる生態系を保護することが求められます。奄美大島では、樹木の伐採や動植物の捕獲・採取などの行為を規制するだけでは生態系の保護を図ることはできません。これまでも、過去に人が放したマングースがアマミノクロウサギや貴重なネズミ類、カエル類を捕食している問題に対して、マングース駆除の取組が行われてきました。国立公園指定後は、希少種の保護に重点を置きながら、亜熱帯照葉樹林の生態系の状態を定期的にモニタリングして変化に対し適切な対応をとる取組が国立公園の管理という観点から重要になります。このため、奄美群島国立公園は生態系管理型の国立公園ということができます。

アマミノクロウサギ(写真提供:環境省)

琉球石灰岩地の森林(徳之島)


環境文化型の国立公園

 奄美群島国立公園の区域には17集落が含まれています。奄美大島の龍郷町秋名集落では旧暦の8月に海と山の神に豊作を祈願する二つの行事(アラセツ行事)が行われ、国の重要無形民俗文化財に指定されています。また、喜界島の阿伝集落にはサンゴの石垣がある美しい集落景観が残されています。自然と共生してきた暮らしの中で培われた地域の伝統文化(環境文化)であるこれらの有形無形の文化景観も奄美群島国立公園の魅力になっています。亜熱帯照葉樹林とそこに生息生育する野生動植物、サンゴ礁など多様な自然環境だけでなく、それらの自然と共生してきた地域の人たちの伝統文化、そして暮らしに触れることも想定した国立公園であることから、奄美群島国立公園は環境文化型の国立公園といえるでしょう。

阿伝集落のサンゴの石垣(喜界島)


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