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No.279

Issued: 2020.08.14

アフターコロナで日本も目指せ!「グリーンリカバリー」(自然エネルギー財団・石田雅也)

目次
コロナ危機でエネルギー需要に変化
エネルギー転換の経済効果
日本の課題、取るべき対策

 いま世界の多くの国がコロナ危機と気候危機の対応に追われています。洪水やハリケーン、山火事などの自然災害が相次ぐ中で、さらに新型コロナウイルスが甚大な被害をもたらしました。世界の経済は大打撃を受け、各国政府が回復に向けた支援策を急いで打ち出しています。2つの危機を同時に克服する「グリーンリカバリー」(緑の回復)が最大の目的です。コロナ危機から社会と経済を回復させるにあたって、温室効果ガスを排出しない自然エネルギー(再生可能エネルギーとも言う、英語ではRenewable Energy)の開発などに多額の資金を投じることで、気候危機の抑制にも大きな効果を期待できます。世界中の国や企業が自然エネルギーを主体にグリーンリカバリーに向けて動き出し、日本政府も環境省が率先して政策の立案に着手しました。


小泉進次郎環境大臣と気候変動イニシアティブ(JCI)の意見交換会(Web会議、2020年6月10日) 出典:環境省
気候危機の抑制に取り組む企業や自治体など約500団体が参加するJCIの代表らとグリーンリカバリーをテーマに意見交換。「元々グリーンリカバリーが始まっていたものをコロナで加速しなければならない。環境省として全力で旗を振りたい」と小泉大臣は力強く語りました。

コロナ危機でエネルギー需要に変化

 2020年に入って世界各国に拡大した新型コロナウイルスは、さまざまな面で大きな影響を及ぼしています。そのうちの1つがエネルギーです。多くの国がロックダウン(都市封鎖)を実施したことによって、人や物の移動が制限されました。会社や工場の多くも閉鎖されて、活動が止まりました。自動車を走らせるガソリンが不要になり、会社や工場で使う電気も減りました。家庭で使う電気は少し増えたものの、エネルギー全体の需要は大幅に落ち込みました。

 4月くらいから各国でロックダウンが徐々に解除されて、会社や工場の活動も始まりましたが、それでも使うエネルギーは少なくて済みそうです。今後も在宅勤務を続ける人が多く残り、以前と比べて日常の行動範囲が狭くなることが予想されるためです。IEA(国際エネルギー機関)の予測では、2020年の全世界のエネルギー需要は前年から6%減る見通しです。最近では世界のエネルギーの需要が減少することは珍しく、6%も減少するのは第二次世界大戦以来のことです。

 コロナ危機によってエネルギーの需要に大きな変化が生じましたが、その中身を見ると、合理的な変化であることがわかります。石油を筆頭に石炭・ガスといった化石燃料、さらに原子力の需要が減少する一方、自然エネルギーの需要は増加しています。主な理由は2つあります。その1つは太陽光や風力などの自然エネルギーを利用して電力や熱を作っても燃料費がかからず、経済的だからです。もう1つはそれぞれの国や地域にある資源を利用できるため、ロックダウンなどによって人や物の移動が制限されても影響を受けることがありません。

 経済的で、地域内で自給できて、さらに気候危機をもたらす温室効果ガスを排出しないわけですから、化石燃料や原子力よりも優先して利用すれば、社会と経済に大きなメリットがあります。コロナ危機と気候危機の両方を克服しながら社会・経済の回復を図るためには、自然エネルギーの利用を増やすことが重要です。化石燃料や原子力を使うことをやめて、経済的で安全な自然エネルギーで電気や熱を供給することを「エネルギー転換」と呼び、各国が進めるグリーンリカバリーの大きな柱になっています。エネルギーの利用量が少なくて済む生活スタイルや建築物の構造などを工夫すれば、自然エネルギー100%の社会を実現することは十分に可能です。

エネルギー需要の増加率(対前年比) 出典:International Energy Agency(日本語訳は筆者)
2020年は前年比6%の減少が予想されています。1970年代のオイルショックや2009年のリーマンショック後の世界経済危機の時と比べても、コロナ危機がエネルギー産業に与える影響は格段に大きいと考えられます。
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2020年のエネルギー需要の見通し(対前年比) 出典:International Energy Agency(日本語訳は筆者)
コロナ危機による人や物の移動の減少によって、化石燃料の需要が大幅に縮小する見通しです。その一方で経済性と地域性の両面で優れている自然エネルギーの需要は引き続き増加すると予想されています。
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エネルギー転換の経済効果

 実際にエネルギー転換を進めることによって、どのくらいの経済効果を期待できるのでしょうか。わかりやすい指標として、エネルギー産業の雇用者数を見てみましょう。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の分析によると、2017年の時点で世界全体のエネルギー産業の雇用者数は5790万人でした。そのうち約半分は化石燃料の生産や販売などに従事する人たちです。これに対して化石燃料から自然エネルギーへ転換が進むと、2050年には2倍近い9980万人に雇用者数が拡大する見通しです。自然エネルギーの開発や販売などに従事する人が4000万人を超えるほか、エネルギーを効率的に利用できるようにするサービスなどを提供する事業の雇用者が増加します。

 エネルギー転換を柱にグリーンリカバリーを推進すれば、世界全体で大きな経済効果を発揮するとともに、温室効果ガスの排出量を削減して気候危機を抑制できます。エネルギー分野の研究で有名な米国のロッキー・マウンテン研究所は、グリーンリカバリーの効果を増大させる施策を5つ挙げています。(1)石炭火力発電所の金利負担軽減と廃止、(2)エネルギー転換に伴う労働者の開発とトレーニング、(3)効率の良い自動車に乗り換えるための優遇策、(4)自然エネルギーの投資に対する税制優遇の拡大、(5)建築物の電化に対する優遇策、です。

エネルギー産業の雇用者数の見通し 出典:International Renewable Energy Agency(日本語訳は筆者)
化石燃料から自然エネルギーへ転換を図ることによって、2050年までにエネルギー産業の雇用者数は大幅に増える見通しです。なお原子力の雇用者数は100万人未満のため、このグラフでは識別できません
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グリーンリカバリーで期待できる効果 出典:ロッキー・マウンテン研究所(日本語訳は筆者)
5種類の施策を組み合わせることによって、世界各国で投資・雇用拡大・温室効果ガス削減に大きな効果を期待でき、社会と経済の再生と合わせて気候危機も抑制できます。[拡大図]


日本の課題、取るべき対策

 グリーンリカバリーは当然ながら日本でも有効です。企業や自治体など約500の団体が参加する「気候変動イニシアチブ」がグリーンリカバリーの実施を求めて、6月10日に小泉進次郎環境大臣と意見交換しました。その中で小泉大臣は「コロナにはいずれワクチンができるが、気候変動問題にはワクチンがない。元々グリーンリカバリーが始まっていたものをコロナで加速しなければならない。環境省として全力で旗を振りたい」と力強く語りました。

 とはいえ解決すべき課題は数多くあります。日本は海外の多くの国と比べて、自然エネルギーの利用率が低い状況です。国全体で使う電気のうち自然エネルギーは約20%しかありません。カナダは71%、ドイツは44%、イギリスは36%、そして中国も日本より多い27%です。中国の電気の使用量は日本の6倍以上ありますが、それでも自然エネルギーの比率は日本を上回っています。アメリカは日本と同じくらいの比率ですが、国全体の電気の使用量は日本の約4倍あります。つまり自然エネルギーの電力が約4倍あるわけです。

 日本の状況は海外の主要国と比べて遅れているにもかかわらず、エネルギー政策を担当する経済産業省は今後も火力発電と原子力発電を重視する方針です。2030年の政府の目標はガス火力が27%、石炭火力が26%、自然エネルギーが22〜24%、原子力が20〜22%、石油が3%。つまり50%以上を火力発電に依存することになります。効率の低い石炭火力を廃止する政策を最近になって打ち出したものの、石炭火力で26%を供給するという目標は維持する考えです。

 グリーンリカバリーで大きな効果を発揮するためには、石炭火力を全面的に廃止して、その分を自然エネルギーでカバーする必要があります。政府は自然エネルギーを拡大するためにさまざまな対策を開始していますが、2030年の目標が石炭火力や原子力と同程度では海外に比べて大きく見劣りします。東日本大震災後にエネルギーの効率化が進んだ結果、原子力発電が稼働しなくても電力を安定して供給できることが明らかになりました。自然エネルギー財団の分析では、エネルギー転換に必要な政策を実行すれば、2030年度に原子力ゼロで自然エネルギーの比率を45%以上に高めることが可能です。今から10年後ですから、国を挙げてスピーディーに対策を実行しなくてはなりません。

主要国の電気の使用量に占める自然エネルギーの比率(2019年) 出典:自然エネルギー財団(International Energy Agencyのデータをもとに作成)
先進国の中では日本と米国の取り組みが遅れています。両国とも化石燃料を利用した火力発電の比率が70%を超えていて、特に温室効果ガスの排出量が多い石炭火力の比率の高さ(日本32%、米国24%)が問題です。[拡大図]

日本で発電する電気の構成比(LNG:液化天然ガス、再エネ:自然エネルギー) 出典:経済産業省資源エネルギー庁
自然エネルギー(再エネ)は2019年度の時点で約20%まで増えて、2030年度には政府の見通し(22〜24%)を大きく上回ることは確実です。一方で原子力は2019年度で6%にとどまり、今後も再稼働や新設がむずかしいため、2030年度に20〜22%という目標は現実的ではありません。[拡大図]


参考文献

  • 「Global Energy Review 2020」(2020年4月), International Energy Agency
  • 「Measuring the Socio-economic of Transition: Focus on Jobs」(2020年2月), International Renewable Energy Agency
  • 「Global Stimulus Principles」(2020年5月), Rocky Mountain Institute
  • 「2030年のエネルギーミックス実現に向けた対応について〜全体整理〜」(2018年3月26日)、資源エネルギー庁
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〜著者プロフィール〜

石田 雅也
自然エネルギー財団 シニアマネージャー

企業や地域における自然エネルギーの導入拡大をテーマに研究活動に従事。報告書「自然エネルギーで地域振興」(2020年)、「世界中の企業が自然エネルギーへ」(2019年)、「企業・自治体向け電力調達ガイドブック」(2018〜2020年)、「競争力を失う原子力発電」(2019年)、「自然エネルギー最前線 in U.S.」(2018年)などを執筆。
2018年から「自然エネルギーユーザー企業ネットワーク」(略称:RE-Users)の活動を主導する。

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