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No.283

Issued: 2021.11.30

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産登録について(環境省自然環境局自然環境計画課)

目次
世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」とは
世界遺産登録に至る様々なハードル
将来の世代に引き継いでいくために

 今年2021年(令和3年)7月26日、我が国に新たな世界自然遺産が誕生しました。ここでは、この世界遺産の魅力や経緯をご紹介します。

世界遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」とは

 世界遺産の名称は、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」で、読み方は、「あまみおおしま、とくのしま、おきなわじまほくぶ および いりおもてじま」です。
 約1200kmに渡る琉球列島のうち、固有種や希少種の種数等、その生息地である森林面積等を科学的に分析した結果、選ばれた4つの島・地域が1つの世界自然遺産となっており、名称もそれが直接的に反映されています。

 当初は「琉球諸島」として日本の世界自然遺産の候補地に選ばれましたが、世界遺産になる過程で、ユネスコから具体的な名称にすべきと助言を受け、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」という長い名称となっています。略称は存在しませんが、「奄美・沖縄」と略したポスター等を目にすることがあります。

琉球列島の地図(赤字は世界遺産地域)

琉球列島の地図(赤字は世界遺産地域)[画像クリックで拡大]

科学的観点からの推薦地の選定

科学的観点からの推薦地の選定 [画像クリックで拡大]


 さて世界遺産は、世界遺産としてふさわしい顕著な普遍的価値が国際的に認められた地域が登録されます。
 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界遺産の価値は一言で言うならば固有種や国際的な希少種が生息・生育しているこの地域の生物多様性の価値ですが、実はそれだけではありません。
 ヒントはこの世界遺産が属する琉球列島の成り立ちにあります。
 琉球列島は1200万年以上もの昔にはユーラシア大陸の一部であり、その後の激しい地殻変動や海面変化により、ユーラシア大陸や日本本土との分離、近隣の島間での分離・結合を繰り返し、現在の島々になりました。
 昔は広く大陸などにも分布していた生物が島々に隔離されたことで、大陸にいた共通の祖先が絶滅した後も昔ながらの形態をとどめながら生き残ってきた「遺存固有種」や、各々の島の環境に適応するよう独自の進化を遂げた「新固有種」が4島・地域に今も息づいているのです。
 このように、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」には島の成り立ちを背景としたここでしか見ることができない固有種や国際的な希少種がおり、これらの種を保全するための生物多様性上重要な地域であることが世界遺産の価値となっているのです。
 なお、島々に隔離されたことで独自の進化につながった訳ですから、端的に言えば、生物のうち島外に自由に行き来できる能力をもつ種類は世界遺産の価値の範囲とはなっておらず、また、世界遺産の地域に海域は含まれていません。


奄美大島の渓流帯

奄美大島の渓流帯

西表島のマングローブ林

西表島のマングローブ林

アマミノクロウサギ

アマミノクロウサギ

ヤンバルクイナ

ヤンバルクイナ

イリオモテヤマネコ

イリオモテヤマネコ

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図(A:中期中新世以前)

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図
(A:中期中新世以前)[画像クリックで拡大]

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図(B:後期中新世〜更新世初期)

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図
(B:後期中新世〜更新世初期)[画像クリックで拡大]

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図(C:更新世初期〜現在)

琉球列島の成り立ちと生物の動向の推定図
(C:更新世初期〜現在)[画像クリックで拡大]


世界遺産登録に至る様々なハードル

 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は実に難産の世界遺産といえます。ここでは、世界遺産となるまでの様々なハードルをご紹介します。

世界遺産候補地に選定されるも、そもそも国立公園にもなっていない

 世界遺産に推薦するための条件の一つに、法律等によって開発等から守られている必要がある、というものがあります。我が国では、自然公園法に基づき指定される国立公園のうち、厳しい規制がかかる地域に指定されていることで、この条件を満たすことにしていますが、候補地に選定された2003年(平成15年)時点で、西表島以外は国立公園に指定されていませんでした。

 2016年(平成28年)にやんばる国立公園、2017年(平成29年)に奄美群島国立公園に指定されました。西表石垣国立公園も2016年(平成28年)に拡張されることで、条件を満たすことになりました。

希少な生き物を脅かすマングース等外来種への対策

 奄美大島、沖縄島北部には、侵略的外来種であるフイリマングースが生息しており、固有種のアマミノクロウサギやヤンバルクイナを捕食するなど脅威となっています。2000年(平成12年)前後から駆除のための捕獲が開始され、2005年(平成17年)の外来生物法の施行後には、防除実施計画に則り、戦略的かつ組織的に捕獲が実施されるようになりました。具体的には、各島で40名前後のチーム「マングースバスターズ」を組織し、マングース探索犬も導入されました。沖縄島北部では分布拡大を防止するための柵も設置されました。取組の結果、アマミノクロウサギやヤンバルクイナの分布拡大が確認されるなど防除成果が上がっており、奄美大島では近年の捕獲数はゼロが続いています。

捕獲されたマングース

捕獲されたマングース

マングースバスターズとマングース探索犬

マングースバスターズとマングース探索犬

マングース北上防止柵

マングース北上防止柵


 この他にも、自動車による希少種の交通事故(ロードキル)や観光客による影響の管理、希少種の違法採取などの多くの課題がありますが、関係行政機関や地域住民をはじめとする多くの関係者が日々努力し、多くの対策が行われています。

多くの関係者がいること、4島に分かれていること

 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」は、行政機関だけでも、関係する法律を所管している環境省、林野庁に加え、鹿児島県、沖縄県、関係12市町村といった多くの関係者がいます。日本の世界自然遺産には、複数の自治体が関わる遺産はありますが、これほどの多さは前例がなく、また、4島に分かれているという物理的な距離感もハードルでした。

 そこで、4島の行政機関が参加する「地域連絡会議」や島毎に「地域部会」を設置する等により連絡調整・合意形成の体制を構築するとともに、世界遺産の管理を担う行政機関の共通の管理方針として「遺産地域管理計画」を策定しました。これにより、1つの世界遺産として対応する体制を整えました。

世界遺産管理体制図

世界遺産管理体制図)[画像クリックで拡大]


世界遺産登録の延期勧告

 世界遺産に登録されるためには、ユネスコの世界遺産委員会において世界遺産一覧表への記載が決定される必要があります。また、世界遺産委員会は諮問機関の評価結果を踏まえ審議を行うことになっています。世界自然遺産の諮問機関は国際自然保護連合(IUCN)となっており、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」についても、日本政府が2017年(平成29年)2月にユネスコに提出した推薦書に加え現地調査等によってIUCNの審査を受けました。

 これらの審査を踏まえ、2018年(平成30年)5月にIUCNが出した評価結果は、世界遺産一覧表への記載の延期を勧告するという内容でした。

 日本政府は、確実かつ早期の世界遺産登録のため、いったん推薦を取り下げ、延期勧告の理由となった指摘事項について専門家で構成される「科学委員会」の助言を受けながら対応し、延期の半年後には2度目の推薦を行いました。

 日本の自然遺産で登録延期勧告を受けた前例はなく、延期勧告は関係者にとって大変衝撃的なものでしたが、これによって生じた期間に、多くの取組が進められました。

 例えば、新たな条例やルールが施行され、官民連携の体制(世界自然遺産推進企業体、奄美群島地域における希少な野生動植物の密猟・密輸対策連絡会議等)も発足しました。島民の世界遺産登録への気運も高まり、自発的な外来植物対策等が実施されました。

 結果として、延期勧告により「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の管理体制の強化に繋がったのです。

新型コロナウィルス感染症による世界遺産委員会の延期

 2度目の推薦書提出・IUCNの現地調査に対応後、本来なら2020年(令和2年)6月頃までにIUCNの評価結果が出され、世界遺産委員会において世界遺産の登録可否が決定される予定でしたが、新型コロナウィルス感染症の影響により、IUCNの評価結果の通知と世界遺産委員会の開催が1年延期されました。

 IUCNの評価結果は2021年(令和3年)5月に出され、世界遺産一覧表への記載を勧告されました。これを踏まえ同年7月26日、世界遺産委員会において世界遺産登録が決定されました。なお、世界遺産委員会は歴史上初めての完全オンライン開催となりました。

 このように非常に多くのハードルを乗り越えた世界遺産登録となりました。候補地に選定されたのは2003年(平成15年)ですから、実に18年の歳月を要しており、こどもが成人する期間と同じ(※令和4年4月より)です。この間、多くの関係者が関わり、また、それぞれの努力や想いの積み重ねによって、成し遂げたものであり、まさに悲願の達成となりました。

将来の世代に引き継いでいくために

 世界遺産に登録される過程で、新たに2つの国立公園が指定され、多くの条例等が施行され、また世界遺産に関係するものに限らず多くの管理体制が設けられたことなど、4つの島・地域の生物多様性を保全するための取組は非常に進んだと言えるでしょう。
 また、世界遺産に登録された事実は、地域の宝が世界に認められたことも意味すると考えてよく、登録そのものに大きな意義があると言えます。

 一方で、世界遺産は将来の世代に引き継いでいくべき宝物であり、今後も世界遺産の価値を守っていくことが求められます。世界遺産委員会より世界遺産登録の際に宿題が出されており、これに対応するのは勿論、それ以上に重要で大変なことは、半永久的にこの世界遺産を守っていかなければならないという事実です。
 ヒントはモニタリング、そして人にあります。
 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」では「モニタリング計画」を策定し、この計画に基づき世界遺産の価値のモニタリングを行っています。モニタリングで得た結果については「科学委員会」において科学的に評価を行い、評価結果は対策や事業に反映する順応的管理を行う体制があります。
 「遺産管理計画」に基づき世界遺産の価値を守るための取組を進めながら、モニタリングを進めていくことが重要です。
 また、4島・地域は、世界遺産の候補地に選定され、行政機関によって生物多様性を守るための取組が開始される前から、地域の方が守ってきた歴史があります。一義的には管理機関である関係行政機関がしっかりと「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を管理する必要がありますが、地域の価値を守っていくためには、地域一丸となり、皆で手を携えていくことが求められるでしょう。

モニタリング結果を管理に反映させるための体制図(「モニタリング計画」より抜粋)

モニタリング結果を管理に反映させるための体制図(「モニタリング計画」より抜粋)

自然観察会の様子

自然観察会の様子

児童参加による外来植物防除の様子

児童参加による外来植物防除の様子

※写真や図はすべて環境省提供。

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