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No.288

Issued: 2023.6.13

改正外来生物法におけるアメリカザリガニとアカミミガメの扱い(国立環境研究所・五箇公一)

目次
1.外来生物法の規制から逃れてきた外来種2大巨頭
2.意図的に導入されたアメリカザリガニとアカミミガメ
3.外来生物法の改正と「条件付き特定外来生物」
4.なぜ、いま、規制が必要なのか?
5.アメリカザリガニとアカミミガメを飼育する人たちへ

 アメリカザリガニとアカミミガメといえば、どちらもペットとして馴染みの深い水生動物であるが、この6月より、外来生物法という国の法律の規制対象生物となった。今後、これら2種の動物を飼育する際には、終生飼育が求められることとなる。飼い切れないからといって、野外に逃すようなことをすれば罰金刑に処される。いったい、なぜ、いまこれら2種に対する規制が厳しくなったのか。その経緯と意義について解説する。


1.外来生物法の規制から逃れてきた外来種2大巨頭

 環境省の外来生物法が2022年に改正された。この法改正によって、我が国の外来生物対策における積年の課題が解決に向けて、大きく前進すると期待されている。

 今から18年前の2005年に施行が開始された外来生物法は、世界でも類稀なる外来生物に特化した国の法律である。この法律では、生態系や人間社会に深刻な影響を及ぼす、あるいはその恐れがある外来生物を「特定外来生物」に指定して、規制対象とすることになっている。

 具体な規制として、@輸入すること、A国内で飼育すること、B国内で移動させること、C国内で逃すこと、およびD国内で譲渡・販売すること、以上の行為が全て禁止される。

 また、アライグマやマングースなどのように既に国内に定着して、被害を及ぼしている種については、国が主体となって、駆除を進めることとされている。

 この法律によって、これまで156種類の特定外来生物が指定されてきた(2023年4月1日時点)。ところが、この中には、深刻な生態影響を及ぼしているとされる、侵略的外来生物の「大御所」の2種類が含まれていなかった。その2種とはアメリカザリガニとミシシッピアカミミガメであった。

2.意図的に導入されたアメリカザリガニとアカミミガメ

 両種とも北米原産で、アメリカザリガニは、ウシガエルを養殖するための餌用に1927年に輸入されたのが日本への持ち込みの始まりとされる(ちなみにウシガエルも北米原産の外来生物であり、1918年から食用目的で輸入されていた)。

 一方のアカミミガメは、1950年代にペット目的で輸入が始まったとされる。アカミミガメの小ガメが祭りの売店で「ミドリガメ」と称して売られていたことを記憶されている読者も多いのではないだろうか。

 アメリカザリガニもアカミミガメも、飼育されていた個体が野外に逃げ出したり、あるいは逃されたりしたことで、日本国内で野生化が進行し、分布を広げ続けてきた。

 非常に身近な水辺の生物となったことで、多くの子供達が野生個体を捕獲し、持ち帰って飼育するということも当たり前となった。筆者自身も子供の頃に、近所の水田で捕獲したアメリカザリガニを家で飼育した経験がある。

 しかし、一方で、これら2種の野生化集団が増えたことで、日本の生態系に大きなダメージをもたらした。どちらも大食漢の雑食性で、日本の貴重な水生昆虫類や水草などを食べ続けたことで、それらの数を大きく減少させていたのである。

アメリアザリガニ(写真提供:金沢大学・西川潮)

公園の池で日向ぼっこをするアカミミガメたち
(写真提供:国立環境研究所)


3.外来生物法の改正と「条件付き特定外来生物」

 外来生物法の施行が開始された当時、アメリカザリガニとアカミミガメを特定外来生物に指定することが議論されたが、法律の制度上、特定外来生物に指定されると、自動的に飼育も禁止されてしまうことから、膨大な飼育個体が一斉に野外に放されてしまうおそれがある、と、環境省は判断して指定を見送っていた。

 NPOなどによるボランティア的な駆除活動を除いて、これら2種の野生化個体群は、ほぼ手付かずの状態が続き、その分布域は、広がり続けた。何より2種とも、販売・頒布が公然と継続していたことから、野外への放飼にも歯止めがほとんどかからないままだった。

 その後、法律施行から17年の時を経て、国民の間でも外来生物に対する認識が高まり、また防除技術も発達したことを受け、環境省は柔軟に法律を適用できるよう改正を図った。

 その結果、2022年に法律が改正され、この2種の外来生物は、輸入、販売、移送および野外へ逃すことが禁止とされつつ、家庭内などで飼育すること自体は禁止されない、という「条件付き特定外来生物」に指定されることとなった。

4.なぜ、いま、規制が必要なのか?

これまでの調査記録に基づくアメリカザリガニ分布地図
[画像クリックで拡大]
(環境省:https://www.env.go.jp/nature/amezari_keii.html

 今回の法改正を受けて、「アメリカザリガニもアカミミガメも、すでに広く日本に定着しており、今更、規制したところで手遅れなのではないか」とか、「もはや日本の環境に馴染んでしまっているのだから、規制は意味がない」という意見も、少なからず耳にすることがある。

 確かに2種とも身近な水環境で普通に目にすることができるほど増えてしまってはいるが、それはあくまでも我々が日常で観察できる範囲の話であって、実際には、まだこれらの外来種が侵入していない、固有の生態系が残されている水域は国内に多く存在する。

 そうした水域にまで、アメリカザリガニやアカミミガメが持ち込まれれば、間違いなく、貴重な自然生態系は破壊し尽くされて、最終的には日本固有の生物多様性が完全に失われることとなる。

 これらの侵略的外来生物は日本とは全く異なる環境で進化してきた生物であり、日本の環境において日本の生物群と持続的な共生関係を構築することは困難とされる。放置すれば、餌となる日本の生物種を食べ尽くして、最終的には自らも個体群が崩壊する、という最悪のシナリオを辿る恐れがある。

 残された日本固有の淡水生態系を保全するためにも、この2種に対する法的規制という「錦の御旗」が立ったことには大きな意義がある。この法改正によって、国および自治体は、積極的にこれら2種の防除に取り組む「権限」と「責務」を負うこととなる。つまり、予算を確保する法的根拠が備えられたことになる。同時に飼育者にも終生飼育の責任が課せられることになる。


5.アメリカザリガニとアカミミガメを飼育する人たちへ

 外来生物法改正により、この国では、アメリカザリガニとアカミミガメのこれ以上の海外からの持ち込みや販売は不可とされ、また、意図的な飼育個体の放飼・放逐は刑罰の対象となる。

 現在、ご家庭で飼育されている方々は、飼育個体を意図的であれ、非意図的であれ、絶対に野外に逃さないようにして、大切に死ぬまで面倒を見て頂きたい。そして、この終生飼育の原則は全てのペット生物に当てはまることも知っておいて頂きたい。

2023年6月1日以降のアメリカザリガニおよびアカミミガメの法的な扱い。


※法律の詳しい内容や相談は、環境省「日本の外来種対策」サイトを参照ください。
 https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/regulation/jokentsuki.html

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〜著者プロフィール〜

五箇公一
富山県出身。高校時代は山岳部に所属。京都大学農学部に入学後もサークル活動として登山する傍ら、オフロードバイクにはまって日本一周をする。京都大学大学院修士課程修了後、山口県にある民間会社の農薬研究部に勤務。その後京都大学で論文博士を取得し国立環境研究所に入所。多才で、趣味としてCGで生き物の絵を見事に描く。

※掲載記事の内容や意見等はすべて執筆者個人に属し、EICネットまたは一般財団法人環境イノベーション情報機構の公式見解を示すものではありません。