No.298
Issued: 2026.07.10
南極地域の未来のために―第48回南極条約協議国会議(ATCM48)広島会合の結果と今後の展望環境省 自然環境局 自然環境計画課
2026年5月、広島市において第48回南極条約協議国会議(以下「ATCM48」といいます。)が開催されました。南極地域は、人類の活動による破壊や汚染の影響をほとんど受けていない地球上に残された最大の原生地域である一方、気候変動の影響や近年増加する観光活動による影響など、新たな課題に直面しています。本稿では、32年ぶりに日本で開催されたATCM48の概要と結果を振り返りながら、絶滅の危機に瀕しているコウテイペンギンの保護や増加する観光活動の規制・管理など、南極地域をめぐる国際的な議論と今後の展望を紹介します。
第48回南極条約協議国会議 開会式の様子(環境省(2026年))
第48回南極条約協議国会議ロゴマーク
1.南極条約と環境省の取組
南極地域は、特定の国に属さない地域であり、その管理は国際的な協力のもとで行われています。その中心となるのが、1959年に採択され、1961年に発効した南極条約です。この条約は、南極大陸だけでなく、南緯60度より南の地域すべてを南極地域と定め、そこでは、軍事基地の建設などを禁止して平和目的に限って利用することや、科学的調査の自由を認めて国際的な協力を進めること、さらに領土権の主張を凍結することなどを基本原則としています。2026年6月現在、58か国が締結する国際的な枠組みとなっています。
この南極条約をさらに強化するものが「環境保護に関する南極条約議定書」(以下「議定書」といいます。)であり、南極地域の環境を厳しく守るためのルールが定められています。日本では、この議定書に基づき「南極地域の環境の保護に関する法律」(以下「南極環境保護法」といいます。)を制定し、環境省がその運用を担っています。例えば、南極地域観測隊に職員を同行させ、現地において人間活動の環境への影響や南極環境保護法の遵守状況を確認しています。また、観測隊に同行する環境省職員の活動の様子を「南極地域観測隊同行日記」として発信し、南極地域の貴重な自然とその保護の重要性を広く伝えています。
議定書には6つの附属書があり、そのうちの一つである附属書VI(環境上の緊急事態から生ずる責任)は、事故などにより南極地域の環境に重大かつ有害な影響が生じた場合の主宰者(南極地域活動計画をとりまとめる者)の責任を定めています。日本でも、南極環境保護法を改正するなど、これに対応する国内制度の整備が進められています。南極地域での活動が広がる中、こうした制度の充実は、南極地域の環境をより確実に守るためにも重要です。また、こうした国内での取組と並行して、国際的なルールづくりの場である南極条約協議国会議(以下「ATCM」(Antarctic Treaty Consultative Meeting)といいます。)が日本で開催されました。
南極地域(南緯60度以南)(出典:国土地理院ウェブサイト)
南極の景観(環境省(2026年))
2.第48回南極条約協議国会議(ATCM48)広島会合の結果
2026年5月11日から21日まで、広島市において第48回南極条約協議国会議(ATCM48)が開催されました。日本でのATCMの開催は1994年以来32年ぶりであり、44か国及び関係機関から400名以上が参加しました。また、2026年は、日本の南極地域観測の開始から70周年を迎える節目の年にもあたり、記念すべき年の日本開催となりました。
南極条約が掲げる平和的利用と国際協力の理念は、開催地の平和都市・広島とも深く重なるものです。開会式には、国光あやの外務副大臣、辻󠄀清人環境副大臣、広島市の松井一實市長ほかが出席し、それぞれ挨拶を行いました。この中で、国光外務副大臣は、平和的利用と国際協力を基本とする南極条約は、平和のメッセージを発信し続けてきた広島と、平和の希求という点において深い親和性があり、南極地域の平和利用や科学的調査活動及び環境保護のための国際協力を進めていくことの決意を広島から世界に示すべき旨を会議参加者に呼びかけました。また、辻󠄀環境副大臣は、昨今の国際情勢においても、ATCMを始めとする多国間のメカニズムが着実に機能していることの重要性を指摘するとともに、議定書附属書VI及びその国内担保法が国会で審議中であることを紹介し、未締結国に対して早期締結を呼びかけました。(国内担保法である南極環境保護法の改正法は、2026年4月17日に参議院本会議で可決、6月2日の衆議院本会議で可決・成立し、同月10日に公布されました。)
会議では、環境保護委員会(以下「CEP」(Committee for Environmental Protection)といいます。)も同時に開催され、科学的な知見を踏まえた環境保護の具体策が議論されました。その結果、南極特別保護地区【注1】の新規指定や同地区の管理計画の見直しなど、具体的な保全措置が進められました。
議論の中でも、特に注目を集めたのが南極地域に生息する世界で一番大きいペンギン、コウテイペンギンの保護です。気候変動の影響による海氷の減少により生息環境が変化し、その絶滅リスクが高まっていることが各国で共有されました。会議では、同種を優先して保護する重要性が広く認識され、同種を特別保護種【注2】に指定することについては圧倒的多数の国が支持しました。しかしながら、一部の国が反対したため、コウテイペンギンの特別保護種指定は見送られ、今後も議論を継続することとなりました。
また、南極地域においては、観光客の増加や観光活動の多様化により、環境への影響や安全面の課題が指摘されています。ATCM48では、観光活動の規制・管理方法や環境影響モニタリングのあり方について意見が交わされ、より包括的な枠組みの構築に向けて引き続き検討を進めることで一致しました。
さらに、ATCMに合わせて開催された「気候変動とモニタリングに関するCEP・南極海洋生物資源保存に関する科学委員会(SC-CAMLR)合同ワークショップ」では、気候変動とそのモニタリングをテーマに活発な議論が行われました。南極地域における長期的な観測の重要性や、科学的知見を政策に生かす必要性が改めて確認された点も、大きな成果の一つです。
南極観光客数、航行数の推移(国際南極旅行業協会(IAATO)資料より)
コウテイペンギン(提供:国立極地研究所)
- 【注1】南極特別保護地区
- 南極特別保護地区は、環境上、科学上、歴史上、芸術上の、又は原生地域としての顕著な価値を有する地区として、環境保護に関する南極条約議定書附属書Xに基づき指定される地区。2026年6月現在で77か所が指定されており、ATCM48で新たに採択された2地区を加えると、79か所になる予定。
- 【注2】南極特別保護種
- 環境保護に関する南極条約議定書附属書IIに基づき指定される種。科学的調査であっても捕獲が特に規制される。
※捕獲は、他に代替手段が無いやむを得ない場合に限り、殺さない方法のみによる。
※2026年6月現在、ロスアザラシ1種のみが指定されている。
3.今後の展望
南極条約は、科学協力と環境保護を軸に南極地域を管理する国際的な枠組みです。国際情勢が複雑化する中でも、このような協力の仕組みが機能していることには大きな意義があるといえます。
ATCM48では、南極地域をめぐる課題が一層複雑になっていることが改めて明らかになりました。気候変動は南極地域の生態系に大きな影響を与えており、コウテイペンギンに代表されるように、生態系の保護は喫緊の課題です。一方で、観光客の増加や観光活動の多様化は、保護と利用のバランスをどのように取るかという課題も投げかけています。
ATCMでは、全会一致による議事運営がなされているため、意思決定には時間がかかる面もありますが、そのような丁寧な合意形成プロセスを経ることにより、各国が納得した形でルールを構築することができます。しかしながら、急速に進む環境の変化に対応するためには、より迅速で実効的な対応が求められていることも確かです。
次回、韓国・インチョン市で開催される第49回南極条約協議国会議(ATCM49)では、ATCM48での議論を土台として、より具体的な成果が期待されます。とりわけ、絶滅が危ぶまれるコウテイペンギンの保護、観光活動の規制・管理に関する包括的な枠組みの具体化などについて合意形成が進むことが求められており、日本も引き続き積極的に議論に参加していきます。また、議定書附属書VIの発効に向け、未締結国に対して引き続き早期の締結を働きかけていきます。
ATCM48では、南極地域の自然環境や日本の環境保護の取組、南極地域の観測活動を紹介する展示を実施したほか、ATCM48の報道や全国各地での展示を通じて、南極への関心の高まりが見られました。
環境省では、今後も、南極地域の環境保護の重要性について、広く発信していきます。
日本が管理する第41南極特別保護地区(環境省(2026年))
第48回南極条約協議国会議(ATCM48)での普及啓発の様子(環境省(2026年))
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〜執筆者〜
環境省 自然環境局 自然環境計画課