一般財団法人環境イノベーション情報機構

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.001

Issued: 2003.01.09

第1講 環境行政、2002年の総括と2003年の展望[H教授の環境行政時評

目次
プロローグ
キョージュ、温暖化対策を論じて暑く、もとい熱くなる
ズッコケOBが語る環境省論
濡れ落ち葉=粗大ごみがごみ問題と循環型社会を論じる
キョージュ、生物多様性の行方を占う
キョージュ、ヒトの未来を語る

プロローグ

Aさんセンセイ、明けましておめでとう!【1】

H教授やあ、オメデトウというか、あいかわらずオメデタイね。

Aさんは?

H教授キミの卒業論文だけど、あれで卒業できると思ってるんだもん。

Aさん!センセイ、もう読んだんですか。じゃ、どこを直せばいいか言って下さい!

H教授そうとんがるなよ。からかってみただけだ。いやあ、これがキョージュの特権。快感、快感。

Aさんヒッドーイ。もうセンセイの顔見るのもいやだわ。(小さく)まえからそうだったけど。

H教授怒るな、怒るな。この会話は全国区だからな。今年からEICネットに掲載してくれるんだって。

Aさんえー、やめてよ。そりゃ、いままでは九州のはじっこだからって目を瞑ってたけど、こんなお粗末なセンセイについているのが日本全国でわかると、ワタシまで常識を疑われるじゃない。お嫁に行けなくなっちゃうよ(泣き出す)。

H教授おいおい、まるでセクハラキョージュみたいな言われ方だな。ぼくはキミには指一本触れてないぞ。ぼくにだって選ぶ権利があるんだ。

Aさん(ウソ泣きをやめて)だって、センセイは存在そのものがセクハラだもんってみんな言ってたよ。
(間をおいて)冗談、冗談(笑)。

H教授やれやれ、目には目を、冗談には冗談をか。顔だけかと思ったら口までヒドイ学生を持ったもんだ。

Aさんお互いさまですようだ。さあ、こんなことで貴重な誌面を使っちゃ申し訳ないよ。あ、誌面じゃないよね、これはネットか、じゃなんていえばいいんだろう...(悩む)

H教授どうでもいいけど、せめて教師には敬語くらいは使えよ。礼儀を知らないって笑いものになるぞ。

Aさんだって、尊敬できないんだもん。あ、また、言っちゃった、じゃない、言っちゃいました。ハハ、ワタシってホント正直ですよねえ。

H教授うるさい、さあ、はじめるぞ。第一回は2002年の総括をやることにしよう。

Aさん脱線しないようにね。イラクや北朝鮮の問題でブッシュ大統領や小泉総理の悪口を言ったりするのは控えてくださいよ。全国区なんですから。

H教授わかったよ。環境行政に話を絞るよ。でも、それに関連することならブッシュであろうがコイズミであろうが、きちんと批判はさせてもらうよ。役人上がりにも硬骨漢がいるということを見せなくちゃ。

Aさんはいはい、センセイが「恍惚のヒト」だってのはよくわかってます。

H教授(気づいていない)そうか、キミも分かってくれてたのか。オーイオイオイ(感激のあまり泣き出す)

キョージュ、温暖化対策を論じて暑く、もとい熱くなる

Aさんまったく単純なんだから。さあ、始めましょう。やっぱり去年の最大の成果は温暖化対策の進展じゃないですか。
おととし秋のCOP7で京都議定書の実施にかかるルールが確定されましたけど、批准・発効がなされるかどうかはかなり覚束ないところがありましたよね。でも去年は飛躍的な成果がありました。
日本でも京都議定書を睨んでの温暖化対策大綱が閣議決定され、温暖化対策法も改正、そして京都議定書自体も国会で批准されましたよね。
EUなども同じ頃批准。カナダやロシアも今年中には批准することを表明しましたから、これで京都議定書の発効要件クリアーは確実。
それに世界第二位の炭酸ガス排出大国の中国も批准の表明をしましたしね。残念ながら米国は京都議定書復帰はならなかったけど、昨年3月には独自の温暖化対策の発表も行い、炭酸ガス排出抑制に本格的に取り組むことになったじゃないですか。
8月末から9月までのヨハネサミットでも政治宣言、実施計画が出されたけど、そのなかでも温暖化対策の推進が謳われ、秋のCOP8でもデリー宣言を出すなど、ほんとうに昨年は温暖化対策元年と言っていいんじゃないですか。

H教授単純なのはキミのほうだよ。確かに京都議定書はスタートに向けて大きく前進したけれど、米国抜きの京都議定書がどれだけ意味あるものになるかだよね。もし、米国が経済でも一人勝ちしたら、脱落するところが続出しないとも限らない。

Aさんだって、米国だって独自の対策をとるって宣言したじゃないですか。

H教授そう、10年後にはGDP当たりの炭酸ガス排出を18%カットするそうだ。

Aさんすごいじゃない。えーと京都議定書では米国は7%カットだったんでしょ。

H教授GDP当たりだといっただろう。そのGDPは毎年3%増大するそうだ。そうすると10年後には90年比で7%カットどころか、35%アップになるんだぜ。これのどこが新たな対策なんだ。大体GDPあたりの排出量は日本は米国の3分の1だ。たった18%カットなんてちゃんちゃらおかしい。

Aさんなるほどセンセイの血圧が上がるわけよね。で、米国を京都議定書に復帰させるために米国の言い分をそのなかにいれるべきだというんですか。

H教授冗談じゃないよ。現在の京都議定書は先進国全体で90年比5.2%の削減しかやらないんだ。一方、IPCCでは温暖化ガスの安定化のためには、いまただちに化石燃料使用を6割カットしなければいけないと言ってるんだぜ。
その程度の削減ですら容易でないからと称して日米は柔軟性措置と称するさまざまな抜け道を主張、COP3でいわゆる京都メカニズムが定められた。
その京都メカニズムの細目をめぐって以降ずうっと日米とEUが対立。米国が離脱宣言したあとも、日本は従来の主張をそのまま繰り返し、ついにその言い分を飲ませたんだ。これ以上米国の言い分を取り入れるなんて、泥棒に追い銭だよ。

Aさんじゃ、どうすればいいんですか?

H教授ヨハネサミットで国務長官のパウエルがブーイングされたろう? ああいう風に国連でもWTOの場でも米国を道義的に孤立させればいいんだ。大体日本なんて米国の最大の債権国なんだからへいこらする必要なんてまるでないよ。

Aさんセンセイ、そりゃあまりにもリアルポリテイックスに無知すぎますよ。環境問題だけで国際政治は動いてるんじゃないですから。

H教授わかってるよ。でも、そのくらいは言いたくなるじゃないか。
...(以下、テロについて、教授延々と語る)...

Aさんセンセイ、センセイ。日本の温暖化対策に話を戻しましょう。温暖化対策大綱を決めたり、温暖化対策法を改正したりして着々と進んでいるように見えるんですけど、実際はどうなんですか。

H教授産業、民生、運輸各分野ごとに削減率を定めたり、そのメニューを打ち出したね。
つい先日ガソリンに植物系エタノールを混合させるなんて方向も打ち出しているけど、正直言って90年比6%削減に向けての担保がまるでないよねえ。やっぱり炭素税の導入しかないんじゃないかな。炭酸ガスの排出が依然増えている民生や運輸部門だってそういう経済的誘導措置の工夫次第で低減は可能だと思うよ。
そうしたほうが得で楽しいような社会システムにすりゃいいんだ。それこそがコーゾーカイカクなんだと思うよ。

Aさんでも、国際競争に負けるからって通産省、あ、いま経産省か、とか産業界が猛反対で、環境省は力が弱いからできないんでしょう?

H教授そうでもないと思うよ。各省にしたって産業界にしたって、表向きは反対しているけど、そうなったときの準備は水面下で猛烈にしてると思うな。

Aさんえー、なんで、なんで?

H教授EUは第一コミットメント期には多分90年比8%削減はできると思う。また、それだけの成算があったからCOP3のとき15%カットなんて言い出したんだ。2010年頃にはブッシュは史上最低の大統領だったって悪名だけを残してとっくに表舞台から姿を消してるにちがいないしー

Aさんセンセイ、センセイ。自信持って言うその根拠はなんですか。

H教授因果応報。奢れる平家は久しからずって言うじゃないか。

Aさん(がっかりして)諺だけが根拠なんですか。やっぱりセンセイって恍惚の人だ。

H教授(きっぱり)止まなかった雨はない、明けなかった夜はない。

Aさん(小さく)ほんと、ノーテンキなんだから

H教授で、つづきなんだけど、日本だけが国際公約を守れないとなれば、世界のつまはじきになるから、どんな反対しようが炭素税導入は必至だと見てるにちがいない。だから、いまからそうなったときの生き残り策を練ってるよ。
その証拠にいきなり経産省がエネルギー特別会計を見直し、非課税だった石炭に課税したり、天然ガスの税率を上げたりし、増税分の半分は環境省が使えって言ってきて、環境省は目をシロクロした。つまり環境省の先手を打ってきた。
経団連も表向き反対はしても徹底抗戦の姿勢はみえない。こういうケースは他にもでてくるよ。
例えば建設省、いまの国土交通省だって、脱ダムの模索をはじめたし、自然再生事業にも積極的だ。林野庁だって緑の公共事業、つまり森林の保全再生のための雇用事業にも積極的になってきている。もちろん直接の目的・意図は別にあるんだろうけど、生物多様性というもうひとつのキーワードをうまく利用しているよね。
こんごとも環境省にイニシアチブを持たせないため、先手先手と打ってくると思うよ。

ズッコケOBが語る環境省論

Aさんつまり環境の時代は始まったけど、環境省の時代は来ないと。

H教授お、いいこと言うねえ。ザブトン1枚!

Aさんでもちょっと悔しいでしょう。

H教授そんなことないよ。どっかひとつぐらい、自分の省のことより環境のことを考える役所があったっていいじゃないか。環境省の権限は増えないかもしれないが、権威は増大するのは間違いないから、それでよしとしなけりゃ。

Aさんそんなこと言えるのも退職しちゃったからでしょう。

H教授ばれたか(笑)。でもねえ、各省にしたっていつでもその方向に向ける準備をしてるってパフォーマンスのためのいわばショーウインドウ予算をぶちあげてるだけで、例えば年末に決まった政府予算案にしたって、額そのものは依然として圧倒的に従来型、つまりハードというかハコモノ予算だよ。
環境省にしたって国立公園関係で言えば施設整備関係が圧倒的で、NGOやボランテイアと一緒に公園を管理しようなんて予算はほんと微々たるものなんだから。
でもねえ、日本は700兆円に及ぶ借金を未来の世代にしてるんだ。ハコモノを1割にして、浮いた予算の半分をこういうソフト予算に充て、残りを借金返済していくぐらいにならないとホンモノの環境の時代とはいえないと思うな。

Aさんだって、そんなことしたらゼネコンなんて全部潰れちゃって大失業時代になっちゃうんじゃないですか。

H教授そうすると都会を離れて田舎に帰り、緑の公共事業予算で荒れた山野の再生に取り組む人たちがいっぱい出現する。給料は大幅ダウンしても、より人間らしい生き方が出来るかもしれない。循環型社会ってきっとこうしたスローライフをよしとする人たちがつくる社会だと思うよ。
もっとも循環型社会がきちんと回っていくためには、人間が多すぎるよね。でも、少子高齢化時代が来たということは、そうした循環型社会の基礎が準備されてきたということでもある。

Aさんでも少子化が進むとセンセイのような年寄りがいっぱいいて、それを人数の減ったワタシたち若者で面倒みなけりゃいけないってことでしょう。ヤダヨ、そんなの不公平じゃん。

H教授キミキミ、敬語を忘れちゃダメだぞ。

Aさんうるさい、センセイのバカ!

H教授しかし、キミたちの負担が増えるだろうけど、その老人が死んだときのキミたち一人当たりの遺産は増えるんだから、いいじゃないか。人生万事塞翁が馬。

濡れ落ち葉=粗大ごみがごみ問題と循環型社会を論じる

Aさんうーん、なんだか誤魔化されたような気がするけどなあ。ま、いいか。で、ごみとリサイクルの方は昨年の総括はどうなんですか。
一応クルマリサイクル法はできたし、各県では産業廃棄物税が出来たりしてるとあったけど。

H教授うん、それなりに進んできたと思うよ。でもねえ、ごみってのは元はごみじゃないんだ。

Aさんあったりまえじゃないですか。今ごろ何を言ってるんですか。

H教授だから、ごみの問題はもっと上流、つまりごみになる以前のところからやらなきゃ本質的な解決にならないんだ。

Aさん(イライラ)そんなことぐらいわかってますよ。一体、なにが言いたいんですか。

H教授ごみになる前は製品で、そのまえは資源だ。例えば資源を考えてみよう。輸出と輸入の差はどうなってると思う。
例えばキミは外国のバナナを食べるけど、その皮は国内でごみとして処理される。

Aさんほんと、いらいらするなあ。で、それがどうしたんですか。

H教授結論から言うと、毎年10億トンの輸入超過になっている。その一部がごみとなるんだけど、あとは製品として毎年蓄積されている。そうした製品は何時の日にか最後にはごみになる。この構造をアタマの片隅に置いておいたほうがいい。

Aさんはいはい。

H教授「はい」は一度でいい。つまりごみ問題の終局の解決は国内での自給自足か、輸出輸入の量の差をゼロに近づけない限りはない。だから本来は環境の問題は資源の問題に帰着する。
その証拠に、かなりの国では環境行政は資源行政と一体になっている。環境行政を司どってる役所は環境省じゃなく、自然資源省だとか資源環境省というところが多いんだ。

Aさんへえ、そうなんですか。センセイはそんなところの人まで知ってるんだ。(ちょっとびっくり)

H教授そりゃ、そうさ。なんども海外に出張してるもの。

Aさんでも問題は役所の名称じゃなくて中身でしょう?

H教授名は体を現すっていうじゃないか!

Aさん誤魔化さないで、中身をちゃんといってください! そうした国の環境行政と資源行政はどういう風に一体化しているんですか。

H教授(うっと詰まり)中身まではよくわからなかった。時間がなくて名刺交換しただけだから...

Aさん(ニッコリと)時間がなくてよかったですね。だって、センセイの英語はThank you とNice to meet youだけですもんね。

H教授うるさい、うるさい、やかましい、黙って聞け! ごみ問題の原則というか理念は三つのRと聞いたことがあるだろう?リサイクルよりはリユース、リユースよりはリデュースって。リデュースの一番はモノを買わないことだよね。
一方じゃ不景気だ、内需拡大だ、つまりどんどんモノを作り、それを買えって進めてる。これが第二の矛盾。

Aさんあーあ(おおきく欠伸)。はやくごみ行政の話に入ってくださいよ。

H教授しようがないなあ。つまりこうした矛盾のすべてがごみ行政に押し付けられている。それをごみ行政だけで解決しようとするから、どうしても無理がでる。
ごみかどうかは有価かどうかで決まるから、古紙は市価によってごみになったりならなかったりするし、どう見たってごみだのに、香川県の豊島のようにそうじゃないと言い張ることも可能だった。
また概念的には家庭系一般廃棄物、事業系一般廃棄物、産業廃棄物は明確に区別されるけど、実際の現場ではかなりあやふやだ。そうしたものを抜本から見直そうというので、環境省の審議会でいろいろ検討された。

Aさんで、どうなったんですか?

H教授そのまえに現行廃棄物処理法の処理責任の話をしておこう。産業廃棄物の場合は処理責任は排出者にある。昔はそれを排出者から委託された処理業者の責任にしたけど、それじゃあ解決にならないというので、排出事業者、つまり工場の共同責任とされ、一方規制も厳しくなったり、産廃税の動きもあたりして、事業者側では産廃そのものの減少、いわゆるゼロエミッションなどの動きも或る程度進んだ。
一方、一般のごみのほうは市町村が処理するとされたんだけど、処理困難物やコストの増加、それに最終処分場の逼迫といろんな問題が出現、さいごに例のダイオキシン騒動で減量の切り札、ごみ焼却場の建設まで住民の反対でむつかしくなった。
ぼく自身はダイオキシンのリスクというのは他の汚染物質のリスクと同等かそれ以下だと思うけど、要はそれまで都会のごみを押し付けられてきた地方のひとたちがダイオキシンをきっかけで反乱を起したんだ。
で、出てきたのは産廃の事業者責任と同様の、拡大生産者責任という考え方、つまりごみとなる製品の生産や流通、販売に関わるものの責任ということだよね。すでに一部の製品についてはその考え方でリサイクル法が作られているけど、根本となる廃棄物処理法の抜本的見直しで、その原則が打ち出されるかどうか、廃棄物の定義の抜本的見直しとともに注目を浴びてたけど、結局はダメだったね。
つまりごみ問題をごみ行政の問題だけで解決しようとしたからできなかった。

Aさんというのは環境省のひとたちも言ってるんですか。

H教授いや、ぼくの独断と偏見。こんなこと内情知ったら多分言えないよ。幸いぼくはごみ行政の経験がゼロだから言えるんだ。ま、それでも従来の延長線上ではあるけど、事業者サイドの責任をさらに厳しく、またリサイクルを促進する方向で廃棄物処理法も改正されそうだ。
ただねえ、リサイクルを進めることで、それがリユースやリデュースを阻害する面がなきにしもあらずだ。まあ、これを説明しだすと長くなるからやめておくけど、循環型社会を標榜するからには、リユース、リデュースをいかに促進するかの政策がこれから必要になってくるね。

Aさんうーん、なんか抽象論ばっかりだったような気がするなあ。あとは?


キョージュ、生物多様性の行方を占う

H教授循環と来れば、つぎは共生に決まってるじゃないか。そのキーワードは生物多様性だね。
去年、新生物多様性国家戦略が閣議決定された。改正前は国家戦略とはタイトルだけで、中身は各省の関連ありそうな既存政策を羅列して、美辞麗句でつないだだけだったけど、新・国家戦略では、これまでなおざりにされてきた中山間地域や、対応のむつかしい里地里山の問題を正面から打ち出したことは大いに評価できるよね。
自然公園法や鳥獣保護法の改正にも、そうした問題意識が伺えるし、化審法や水質環境基準も生物多様性の観点からの見直しが進められてきている。自然再生法も制定されたし、農水省や国土交通省の新規施策もさきほど言ったように生物多様性という観点からも前進と評価できる。
でもねえ、こうした政策の積み重ねだけで中山間地域の生物多様性を保全し、そこでの暮らしと自然の再生が可能になるかというと、やっぱり疑問だなあ...。

Aさんじゃ、どうすればいいんですか。

H教授それを考えるのがキミたち若い世代に課せられた役目なんだ!

Aさんそんな無責任なあ。ま、センセイのいい加減さはわかってましたから、いまさら腹も立ちませんけどねえ。で、それ以外にはなにがあったんですか。


キョージュ、ヒトの未来を語る

H教授もう疲れた。ちょっとお屠蘇を飲みすぎたよ。もうこの辺でいいだろう。土壌汚染対策法、自動車NOx法等々、各戦線でそれなりに成果を挙げていってるけど、そのあたりはこの次から見ていこう。

Aさんワタシも疲れたわ。でも最後に一つぐらいなんか楽しいほのぼの系の話しをしてくださいよ。

H教授最近では隣国の大統領選。あ、この話は内政干渉みたいだからやめておこう。長野の田中康夫の再選とか、尼崎の無党派女性市長誕生とか地方の反乱はまだ断続的に起きてるねえ。ハトかタカか、大きな政府か小さい政府かとかコーゾーカイカク派か守旧派か、とかいろいろ言われているけど、日本ではどの党派も結局は経済の発展、つまり経済成長派だよね。
そりゃ経済発展が結果的にできればいいけれど、まずは環境だというような、ヨーロッパの緑の党のような部分が欠けている。その部分がこうした地方の反乱から生まれないかと期待はしてるんだけど、やっぱり無理かなあ。

Aさんほら、また暗い話になった。

H教授そうだ。田中さんだ! 学位もない一介の技術者がノーベル賞。おまけに謙虚だよねえ。報奨金が多すぎるとびびったり、役員昇格を荷が重過ぎると辞退したり、ほんと一服の清涼剤だよねえ。

Aさん(ニッコリと)ほんとですよねえ。論文を書く能力も意欲もないくせに、学生をいびるだけのどっかの先生と大違いですよねえ。

H教授(むっとして)これでキミの卒業は遠のいたな。

Aさんえ、センセイ、なんか身に覚えがあるんですか。

H教授う、うるさい。

Aさんもう、センセイったらすぐ冗談を真に受けるんだから。最後に21世紀の展望を述べてくださいよ。お屠蘇の勢いで。

H教授わかった。わかった。いま、環境問題に限らず、いろんな問題が起きているけど、その地下では猛烈な地殻変動が起きてるんだと思うよ。

Aさんセンセイはよく言ってましたよね。戦後日本を支えてきたすべてのパラダイムが20世紀と共に終焉するだろうって。

H教授じつは21世紀というのは、人類史のうえでもっと大きな意味があるのかもしれないとすら思ってんだ。

Aさんえー、また大きく出ましたね。やっぱりお屠蘇のせいだ。

H教授うるさい。
つまり人類史の最初の一歩は一万年まえに起きた農業革命だよね。これで採取・狩猟生活から脱皮し、定住生活を営むようになった。
つぎが二百数十年前の産業革命に端を発する、科学技術革命。これにより生産力とエネルギー利用と人口の指数関数的発達で人類は果てしなく豊かになるかに思えた。より快適に、より便利に。つまり西洋型文明の価値観が世界を覆い尽くしたかにみえた。
でも20世紀の終わりになって、それが自分の尻尾を果てしなく呑み込んでいき自滅してしまうウロボロスの蛇かもしれないということに気付いた。地球温暖化もそのひとつのあらわれだよね。
そういう意味では21世紀は人類史の大きな転換点だと思うし、下手すれば人類自滅ということにもなりかねない。だからこれからの10年、20年でいままでの常識からは考えられない事態がつぎつぎと生起すると思うよ。こわいけどワクワクする時代でもある。
そして在ってはならない21世紀はいくらでも思い浮かべられるけど、在るべき21世紀の具体的なビジョンというのはまだだれにも視えていないということ。つまり自分たちの知恵で試行錯誤しながら一歩一歩進んで行くしかないということだよ。だって循環とか共生とか持続的発展たって所詮キャッチフレーズ、お経の文句だもの。

Aさんセンセ、センセイ。そのセリフ、去年の正月とまったく同なじですよ【2】

H教授だから、こういう時代にあって、キミもアイドルを追っかけまわしたり、ブランドものにうつつを抜かしたりしないで、これからの時代を見据えて...(お説教が始まりそうになる)

Aさん(遮るように)センセイこそ、酔っ払ってないでこれからの日本と世界を変えるためになにかしてくださいよ。ワタシたちはそのために高い授業料払ってるんですからね、わかってるの!(怒鳴りつける)
あ、いけない。これからカレと初デートだ。センセイ、それじゃあ、バイバイ(駆け出す)。

H教授う、ああ...(キョージュ、呆然としたまま立ち尽す)


注釈

【1】
昨年までふたりの会話は「環境行政ウオッチング」と題してミニコミ「南九研時報」(隔月、南九州地域環境問題研究所)に連載していた。今年からはそれ以外に本ホームページにも話題を変えて隔月で掲載する予定。
【2】
南九研時報32号より

(2003年1月8日)、文:久野武)