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環境さんぽ道

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様々な分野でご活躍されている方々の環境にまつわるエッセイをご紹介するコーナーです。

No.027

Issued: 2014.03.10

ゆきあいの季節に

三村 伸絵(みむら のぶえ)さん

三村 伸絵(みむら のぶえ)さん
 日本画家
 平成12年度文化庁買上優秀美術作品に選出
 各コンクール受賞、海外を含む個展、アートフェア、企画展多数
小さな芽がいっぱい付いた銀杏

小さな芽がいっぱい付いた銀杏

 「ゆきあい」という言葉がありますが、季節の変わり目や、季節が交差するときにも使われています。草むらの中に座り写生をしていますと、草を揺らす風に、季節がうつろう瞬間を感じるときがあります。花を照らす光に、ふと次の季節の気配を感じるときがあります。

 この春浅い季節、木々の枝先には沢山の小さな芽がついて、その膨らみ始めた芽は微熱を帯びたかのようにほんのり薄紅色に見えます。新しい息吹が宿り、そのときを待っているかのようで、私も何だかわくわくしてきます。固く冷たかった土からも萌葱、白緑、浅緑色の若々しい草たちが背を伸ばしています。あと一週間も経つと、色とりどりの花たちが一斉に咲き始め、賑やかな季節へと移っていくことでしょう。
 毎年繰り返される、この一木一草の生命の営みに驚き、心惹かれ、絵筆をとっています。

野山にひっそり咲く山吹と山桜

野山にひっそり咲く山吹と山桜

写生に良く通う草むら

写生に良く通う草むら

 日本の豊かな森や自然の中で、日本人は自然と共存し独特の文化を数多く育んできましたが、日本画もそのひとつです。時代により描かれる絵の内容は異なりますが、紙、絵具、筆をはじめ、画材料、手法は変わることなく、千年以上の歴史を持ち今に受け継がれています。それぞれの画材料も職人さんたちが伝統を守って作ってきました。
 和紙は、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などを原料とし、さまざまな工程と今も変わらぬ手漉きで作られています。日本各地、特徴のある和紙が漉かれていますが、耐久性があり、肌合いも大変美しく、古いものでは天平期の絵画資料もあり驚きます。
 絵具は、鉱物を砕いて作ったものを天然岩絵具といい、動植物から得た色もあります。天然岩絵具の中でもひときわ目立つ群青色は藍銅鉱、緑青色は孔雀石を砕いて精製しています。源氏物語絵巻にも天然岩絵具は使われ、今でも美しい色を保っています。宝石のように貴重なこの絵具は、画材屋でも特別な場所に置かれています。
 胡粉は白色を代表する色材です。蛤、牡蠣の殻を五年以上風化させ砕き精製していて、日本画の顔料として欠くことのできないものです。白色が蛤、牡蠣から作られていると初めて知ってからは、特別な思いを持って有り難く頂くようにしています。
 最近では金箔の美容パックが流行っていますが、その金箔や銀箔などは金属を熟練の技術で一万分の一ミリの薄さまで均一に延ばして作ります。美容パックとして使ったことはありませんが、絵画では静かな空間を表現するのにも効果があります。
 いつも側に置いている墨、硯、筆なども自然界のものを原材料としています。
 以上、日ごろ制作に使っているものばかりですが、こうやって見てみますと、画材料ひとつひとつが、自然の恵みを頂き作られたものばかりだと気づかされます。職人さんたちの技に助けられ、自然の恵みを頂いて初めて画を描けることに感謝しなくては、と改めて思います。

雲肌麻紙、岩絵具、膠、箔を使って描いた作品(227×115cm)

雲肌麻紙、岩絵具、膠、箔を使って描いた作品(227×115cm)


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(記事・写真:三村 伸絵)

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