一般財団法人環境イノベーション情報機構

ヘルプ

サイトマップ

メールマガジン配信中

環境Q&A

機器分析での定量下限値算出につきまして 

登録日: 2007年02月05日 最終回答日:2007年02月08日 環境一般 その他(環境一般)

No.20951 2007-02-05 10:42:14 鉄志

はじめまして。私は環境分析の業務に携わっている者です。このたび、表題にありますように
定量下限に関して疑問を持ちましたために、この場をお借りしまして質問させていただきます。

定量下限値の算出につきまして疑問に思ったことなのですが、例えばICP-MSで各金属元素の
定量下限値を算出する場合、一般的には「ブランク溶液の10シグマ」を元に算出すると考えて
いました(実際にネット上で検索しても10シグマを採用されている方が多かったです)。そこで
JISではどうなっているのかなと「JIS K0133 高周波プラズマ質量分析通則」を確認したところ
「定量下限値」という記載ではなく「方法定量限界(MLOQ)」という記載があり、その計算式は
「MLOQ=14.1×Sd(ブランク溶液の標準偏差)/k(検量線の傾き)」と記載されていて、14.1は
「(ルート2)×(10)」の値でした。

上記の事につきまして
「1.一般に言われている「定量下限値」と、この「方法定量限界」は別物なのでしょうか?」
「2.「10シグマ」を「ルート2」倍している根拠(考え方)はどのようなものなのでしょうか?」
もしよろしければ参考までに
「3.回答者様が定量下限値を算出される場合に用いる計算式は「10シグマ」ですか、「14.1シグマ」
ですか、あるいは別の計算式(考え方)を用いられますか?」

ICP-MS以外の分析機器ではどうなっているのかなと思いJISを検索した結果では、ICPの「JIS K0116
発光分光分析通則」の方法定量下限、原子吸光の「JIS K0121原子吸光分析通則」の方法定量下限、
いずれも「10シグマ」の「ルート2」倍でした(ICP-MSでは「限界」なのにICPと原子吸光は「下限」と
表記されているのも小さな疑問なのですが)。

「方法定量」という言葉の意味が十分理解できず、このような質問をさせていただきました。もし
調査不足や理解不足のために質問に値しない頓珍漢な質問であった場合は申し訳ありません。
お叱りも含めてご回答やご意見をいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

総件数 1 件  page 1/1   

No.21048 【A-1】

Re:機器分析での定量下限値算出につきまして

2007-02-08 18:48:41 筑波山麓

「鉄志」さんへ。方法定量下限値(MLOQ)は「Method limit of quantification」の略で定量下限値の求め方の一つです。文献その他では定量下限値は「Quantification limit」又は「limit of quantification」と表記されることが多いです。

定量下限値はいくつかの国際機関でその定義が与えられており、このMLOQはISO及びIUPACの定義に基づくものの一つで、『2重測定の場合、ブランクの10σに√2を乗じて定量下限値を求める(私の意訳)』からきていると思います。

定量下限値(検出下限値も)の求め方は「ブランク溶液の10シグマ」等の他にも多くあります。私が使用しているだけでもMLOQと合わせて4方法あります。いずれもが「試料に含まれる分析対象物の定量が可能な最低の量又は濃度(定量限界の定義)」を求める理論から出ており正しいといえます。私は分析方法に定められた定量下限値算出方法がある場合はその定められた方法を、そうでない場合は「ブランク溶液の10シグマ」を使用し他の妥当であろうと思われるものを比較・併記しています。

以下の説明は私の考えです。√2は統計的確率からきていると考えております。2重測定は1重測定より測定回数が2倍多いので、そのバラツキ(個々の)が√2倍大きくなる。定量限界の定義から外れる値で2回の平均を算出することは危険ですから、「10シグマを√2倍している」と考えております。なお、これは2重測定が1重測定より不確かさが大きくなる事とは違います。2重測定の平均値の不確かさは、1重測定より√2倍小さくなります。誤解のないように説明を加えておきます。

最後に、ICPの付属書に、「バックグラウンド等価濃度(BEC)」試薬ブランクの濃度、「短時間安定性」BECの100倍程度の測定値の変動係数(バラツキ)、「長時間安定性」3時間程度の測定内変動、「装置検出下限(ILOD)の算出」検出下限値、「方法定量下限値(MLOQ)」、「検量線の直線性」検量線の直線領域(検量線上限)とあり、定量下限値は判定項目の一つでしかありません。なお、JISでは「k」を検量線の傾きと言っておりますが、検量線でなく定量下限値付近のICPの感度(発光強度/濃度)を求めているものです。また、MLOQは機器の定量下限値であり、測定操作全般の定量下限値でないこと等に御留意ください。

回答に対するお礼・補足

筑波山麓様

回答いただきまして誠にありがとうございます。非常に興味深く回答を読ませていただきました。

「ルート2倍」がISOおよびIUPACの定義に基づいてしているということは全く考えてもいなかったので
非常に驚きました。時間があれば是非ISOおよびIUPACから「ルート2倍」に関して自分なりに調査し、
この場所にてご報告できればと思っています。また、「ルート2」という数字につきまして統計学的
見地から説明いただき、納得いたしました。

最後にご指摘いただきましたように、機器の定量下限と測定項目の定量下限を混同しないよう、
測定項目の操作手順を十分考慮した上で測定項目の定量下限値の算出を行っていきたいと思います。

貴重な勉強をさせていただきました。改めまして御礼申し上げます。ありがとうございました。

総件数 1 件  page 1/1