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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第24話) 大陸横断(レッドウッド〜フォートコリンズ)
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Issued: 2010.04.08
大陸横断(レッドウッド〜フォートコリンズ)[4]
 目次
フォートコリンズでの休憩
フォートコリンズでの休憩
フォートコリンズ周辺の風景。緑が濃く、ところどころ黄葉したアスペンが見える。遠くに見えるのは雪をかぶったロッキー山脈だ

 コロラド州の州都デンバーの北にあるフォートコリンズは、コロラド州立大学のある緑豊かな学園都市だ。ロッキー山脈越えのため、車に積む水や食料を最小限にしていたため、食料の調達や洗濯、インタビューなどを行うことにした。レッドウッドの付近と比べると、町が広々としてゆったりと計画されている。建物も街並みも豊かな印象を与える。
コロラド州立大学の入口にて

 フォートコリンズのコロラド州立大学は、ロッキー山脈国立公園のお膝元だけあって、自然資源管理においては全米屈指のレベルを誇る。この大学には入学願書を提出したが、書類選考で落ちていた。入学時期が合わないということが直接の理由ではあったが、結局他の大学も含め大学院への進学はかなわなかった(第1話参照)。それでも「もしかしたらここで2年間生活していたかもしれない」と思うと、この高原の大学都市が少し身近に感じられる。
 せっかくだから大学を覗いてみようと思い、キャンパスを散策することにした。自然資源学部には多くの学生が集まり、すごい熱気だ。授業にも多くの学生が詰めかけ、教授の話に聞き入っている。当然ながら学生は皆若い。
 今振り返ると、研修先が大学ではなくてよかったと思う。今さら授業を聞いてレポートを提出するのが億劫ということもあるが、せっかくアメリカに来ているのだから、講義室ではなく国立公園で研修してこそ、現場に役立つ生の体験ができる。国立公園の現場では、本当にいろいろなことを学ぶことができたと思う。
 「ここだと私は何もすることがなかったかもね」
 妻も、今ではボランティア作業や聞き取り調査を気に入ってくれている。聞き取り調査では、2人でメモをとり、妻は写真も撮る。私が相手と話している(ように見える)写真は、妻が上手くタイミングを見計らって撮影してくれたものだ。主要なインタビューのメモは、まず私が手書きで文章に起こす。妻がそれをパソコンに入力してくれる。打ちあがった内容について2人で話をして、あいまいな点などを調べ、加筆修正して保存する。こうして作成した記録は全部で66件。これらの調査とボランティアの経験、各種資料などから徐々に報告書の骨子を考えていく。
 なぜ国立公園に予算が多いのか。どのように利用と保護を両立させているのか。モニタリングがなぜ重要視されているのか。ボランティア制度成功の鍵は…?
 疑問は多くなるばかりで回答はなかなか得られなかったが、少しずつアメリカの「国立公園」というものが理解できてきたように感じていた。
 実務研修の最大の特徴は、そこに「回答」や「教科書」がないということだ。資料、経験、インタビューから持論を積み重ねる。それを現場の関係者にフィードバックして、感想を聞く。「教授」や「上司」のいない立場での作業だ。「誤り」もない代わり、誰も「答え」を教えてくれない。そこが難しくもあり、おもしろい点でもある。
 フォートコリンズからワシントンDCまでは、インタビューが目白押しだ。疑問が解消するか、それとも新たな疑問が発生するのか。ホテルでこれまでのインタビューの概要をまとめながらいろいろ頭をひねってみる。インタビューをするたびに新しい驚きがあるのは今も変らない。
<妻の一言>(旅の伴侶)

 クレーターレイク国立公園に立ち寄った時のことです。私たちは思わぬ「同乗者」と出会いました。料金ゲートをくぐるとすぐ右側に小さなトイレがあるのですが、そこで事件が「発覚」しました。
 車のダッシュボードの隅から小さな動物が顔を出しました。すぐに隠れましたが、しばらくするとまた顔を出します。小さなノネズミでした。どこから乗ってきたのかわかりませんが、もしかしたら、レッドウッドで乗り込んでしまったのかもしれません。
 しばらくドアを開けておきましたが、出て行きません。また、考えてみると、このネズミがこの公園に分布しているのかもわかりません。

 「売店の図鑑で見てみよう」
 ということになって、図鑑を探しましたが、あいにくいい図鑑が売られていませんでした。
 とにかく、まずはネズミをつかまえなければなりません。立ち寄ったスーパーで小さな箱型のワナを購入しました。小さなプラスチック製のものです。
 店の店員に聞いたら、
 「クラッカーにピーナッツバターを塗るといいわよ」
 と教えてくれました。小さなピーナッツバターのビンも購入しました。
 夕方、車から荷物を降ろしていると、またネズミに会いました。今度は荷台の食料入れのあたりにいました。今度は一瞬目が合ってしまいました。なかなかかわいらしいネズミでした。私たちは、この同乗者を「チュー助」と呼ぶことにしました。
 しかし、急いでつかまえなければ、ロッキー山脈を越えてしまいます。また、日本食などの貴重な食料も食べられてしまうかもしれません。
 ところが、なかなかチュー助はつかまりません。エサのクラッカーが挟まり扉がうまくしまらず、エサだけを持って行かれてしまったりしました。既に食料のありかがわかったようで、いろいろ食べ散らかしてくれています。
 今度はピーナッツバターを直接箱に塗りつけることにしました。朝、箱を引き上げてみると、中に小さな茶色い塊が見えました。持ち上げてみると想像以上に軽く、中ではネズミが眠そうにしていました。
 書店を見つけて図鑑を調べてみると、「ディアーマウス」という種類であることがわかりました。幸いこのネズミの分布域はとても広く、このあたりにも分布していることがわかりました。
 宿泊したモーテルの近くにちょっとした茂みがあったので、そこで逃がすことにしました。箱のふたを開くと、チュー助が這い出してきました。しばらく体を地面にこすりつけて毛づくろいしていましたが、すっと草むらに潜り込んで姿を消してしまいました。
 ここ2〜3日は、チュー助のおかげですっかりレッドウッドのことを忘れていましたが、静かな2人旅に戻ると、またレッドウッドが懐かしく思い出されるようになりました。レッドウッドにはもう戻ることはないのですが、それがまだ信じられませんでした。

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記事・写真:鈴木渉(→プロフィール

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