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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第24話) 大陸横断(レッドウッド〜フォートコリンズ)
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Issued: 2010.04.08
大陸横断(レッドウッド〜フォートコリンズ)[3]
 目次
大陸分水嶺
 アメリカのトラック(トレーラー)はとにかく長い。並んで走行すると、車両間の空気が負圧になり、トラックの方に引っ張られる。並走しないためにはトラックに抜かれないようなペースを保つ必要があった。また、トラックにも上手い下手がある。走行速度が一定で、追い越しなどが安定しているトラックの後ろを走るように心がけた。
 アメリカの自家用車の設計は日本車のそれとは大きく違うことがわかる。このポンティアックのモンタナはワンボックスタイプで、総排気量は3.6リッターの6気筒エンジンを積んでいる。アメリカではこのクラスとしては小さい方だろうが、日本の平均的なワンボックスより一回り大きい。相当な荷物を積んで長時間・長距離の運転をしてみてはじめて、アメリカの車の特徴が理解できる気がする。日本の街乗り中心で短距離を走行することが中心の使用環境とは相当異なる。かなり厳しく多様な気象条件の中を、比較的長距離移動するための移動手段なのだ。
GM社のポンティアック・モンタナ。横断中は生活用品や書類が満載だった

 モンタナは、これまでトランスミッション、ショックアブソーバー、プラグ、ハイテンションコード、給気センサーなど、相当手間をかけて修理を重ねてきた、いわば「戦友」だ。大陸横断の時だけは不思議と故障しなかったが、今回もそれを祈るばかりだ。決して性能がいいわけではない手のかかる車ではあるが、車内はゆったりとしていてクッションもきいている。こうして、引越しのため生活用品を積み込んで運転しているとモンタナが「幌馬車」に思えてくる。また、こうした大陸の横断には、何か運命を変える予感のようなものが今もあるような気がする。
 ソルトレイクシティーは、グレートベイスンの東の端に位置する大都市だ。ソルトレイクシティーに近くなると、荒地のところどころに白いものが目立つようになった。サービスエリアに駐車してその白いものをなめてみると塩辛い。雪ではなく、土の中から析出した塩類だった。表面は硬く、歩くと「サクサク」と音がする。
 しばらくすると、道路左手に灰色に広がる湖面が見えてきた。ソルトレイクだ。冬のどんよりした雲の下に広がる湖面は巨大で、海のようにも見える。湖岸には塩田や白い塩の山があちこちに見える。
白く見えるものは塩類が集積したもの後ろにひろがるのはソルトフラットと呼ばれる平原。一面塩類で覆われ灰白色に見える
白く見えるものは塩類が集積したもの後ろにひろがるのはソルトフラットと呼ばれる平原。一面塩類で覆われ灰白色に見える
 ソルトレイクシティーは大きな都市だった。市内を通らず周回道路を迂回することにしたが、市街地を抜けたころ、正面に茶色い岩肌が見えてきた。近づいてみると、道路右手にそびえるように迫ってくる。
 驚いたことに、インターステート80号線はこの山塊にまともに直行するように伸びていた。山塊はロッキー山脈のはしりだったのだ。考える余裕もなく、道は壁のような急坂を登り始める。アクセルを床まで踏み込んでも加速しないどころか、空荷のおんぼろトラックにも抜かれる始末だ。
坂の両側には風化して赤茶けた岩が続くワイオミング州に入り、道路の両側には荒地が広がる
坂の両側には風化して赤茶けた岩が続くワイオミング州に入り、道路の両側には荒地が広がる
 ようやく傾斜がゆるやかになってくると、両側には荒涼とした風景が広がってきた。草もまばらな荒れ地だ。標高が急に高くなり、気温もぐっと下がった気がする。その夜から、眠りが浅くなり、ご飯の炊きあがりも悪くなってきた。標高が高いために気圧が下がり、沸点が下がったようだ。いよいよロッキー山脈の横断が始まった。

 「明日から天気が崩れるみたいよ」
 妻が不安そうにホテルのテレビに見入っている。
 予報は当たり、翌朝は雪になった。予想以上に雪がひどかった。ホテル滞在者たちがあわただしく出発している気配を感じながら、しばらく様子を見ることとした。日が昇るにつれ、雪の降り方は断続的なものとなり、定期的にやむようになった。路面は濡れているが、幸いシャーベット状になる程ではない。
 雪が小止みになったところでホテルを出る。そこからは雪雲との追いかけっことなった。しばらく走行すると雪雲を抜けるが、休憩していると急に風が強くなり雪が降り出す。すると、周囲の荒れ野がみるみる白くなる。
雪が降ると、荒地は一面白くなる

 道路は上り坂が続き、標高は少しずつ上がっていく。ところが、右手を見ると貨物列車がゆっくりと走っている。こんなに標高の高いところにも鉄道が通っていたのだ。
大陸分水嶺
 大陸分水嶺(Continental Divide)は、80キロメートルほどの間隔をあけて2回横断する。2回目の分水嶺は標高約2,100メートルで、なだらかな丘だった。雪の中を水しぶきを上げて走り抜ける。私たちは、「ロッキー山脈」と聞いて、カナディアンロッキーのような険しい山岳地形を想像していた。そのため、このなだらかな地形には拍子抜けした。しかしながら、今超えている山塊は、間違いなくこれまで経験したことのないような巨大な山塊だ。あらためてアメリカ大陸のスケールに圧倒される。
 分水嶺を越えて少し休憩していると、また雪と風が強くなってきた。雪道は下りの方が危険だ。休憩回数を減らし、一気にワイオミング州の州都シャイアンまで走り下ることにした。
ようやく晴れ間が見えてきた

 雪雲を追い越したのか、路面が乾いて運転がとても楽になった。徐々に草原も出てきた。最後の長い急坂の区間を過ぎると、黄葉したアスペン(ポプラの一種)がちらほら生えているのが見えてきた。久しぶりに見る広葉樹に、ようやくロッキー山脈の東側に帰ってきたことを実感する。
 アメリカ西部は自然も文化も人も想像以上にダイナミックだったことを思い起こす。広葉樹を中心とする中西部や南東部は、自然も文化もずっとマイルドだ。
 私たちのまわりは晴れていたが、今越えてきた山脈の方を振り返ると、真っ黒い雲が覆いかぶさっていた。
 翌日、ロッキー山脈国立公園の横断道路が雪に閉ざされ、本格的な冬ごもりに入ったことを聞いた。私たちはまさに間一髪のタイミングでロッキー山脈を越えることができたのだ。ここからはのんびりと東へ向かいながら、いろいろな政府機関を回って聞き取り調査を行う予定だ。

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