EUの積極的な気候変動政策は、世界的に石油生産のピークが過ぎつつある状況や、新興途上国も含めた将来の資源獲得競争等の状況なども勘案しつつ、EU経済に対するプラス面とマイナス面の双方をにらみながら行われているものと思われる。もとより、経済の予測はきわめて難しく、温室効果ガスの削減コストも、将来どの程度のものとなり、経済にどのような影響を与えるかを正確に予測することは難しい。
まして、数十年後にどのような新しい技術が出てくるか、消費者の好みがどう変化していくかということまで含めると、そのような変化による削減コストの低下を含めて、気候変動政策が高くつくか、そうでないかを正確に予測することはほとんど不可能といえる。ただし、はっきりしているのは、積極的な気候変動政策が、中長期的にみて経済的に極めて高くつくと一方的に確信をもって言えることはあり得ないということである。
むしろ、気候変動問題への対応に関し、政府がきちんとした長期的政策フレームを明らかにし、二酸化炭素を排出することがコストとなることと、そのコストが今後さらに上昇する可能性が高いことを明確なメッセージとしてマーケットに出した場合、企業や国民はそれにダイナミックに応える機運が高まっているように思われる。その兆候は、例えばドイツにおける
太陽光発電や
風力発電などの
再生可能エネルギー事業の急速な進展や、日本における
ハイブリッドカーの大幅な普及に見ることができる。
気候変動を安定化させるために先進国に求められている、「2050年までに少なくとも80%以上の温室効果ガスを削減する」という目標は、現在の産業構造、消費構造をもってしては決して達成できるものではない。それは、
炭素税や
キャップつき排出量取引制度、
再生可能エネルギーの買取制度など、政府の賢い政策設計により、現在の産業構造、消費構造を積極的に変えていくことによってはじめて可能となる。その過程において、次々と出てくる革新的技術やビジネスモデル、さらには新たなライフスタイルといったものが、新たな需要や産業を生み出し、それが一国の経済競争力を強化し、新たな時代の環境負荷なき経済発展につながるというシナリオを描くことは決して荒唐無稽な話ではない。むしろ、旧来型の産業構造やビジネスモデルを後生大事に維持していくことの方が、米国の自動車産業の例を見るまでもなく、経済的にもリスクの高いシナリオとなる可能性が高い。
そのため、積極的な気候変動対策が経済に与える影響についての予測に大きなエネルギーと多大の時間を費やすのではなく、まずは排出量取引制度の導入など、気候変動安定化に向けた積極的な対策の一歩を踏み出すことが必要である。その後は、
排出クレジットの市場価格や経済への影響をにらみつつ、気候変動政策と経済の発展が両立できるよう、政策を現実に合わせながら調整していくというやり方が、気候変動の面でも経済の面でも、最もリスクの少ない現実的な政策となるのではないかと筆者は考えている。