EICネット
前のページへ戻る

EICピックアップ

環境を巡る最新の動きや特定のテーマを取り上げ(ピックアップ)て、取材を行い記事としてわかりやすくご紹介しています。

トップページへ

[an error occurred while processing this directive]

No.196

アメリカ横断ボランティア紀行(第30話)
ハーパースフェリーセンター訪問

Issued: 2011.07.26

ハーパースフェリーセンター訪問[2]

国立公園の「国立公園局の組織の歴史的背景」

 「歴史的にみると、アメリカの各国立公園の所長は、日本でいう『大名』のようなものでした。1900年代の終わりまで、『準軍隊(quasi-military)組織』と呼ばれていた組織の気風によるものかもしれません」
 例えば、ウェストバージニア州に所在する公園は、ネブラスカ州の公園には全く違う事情があるが、各公園ではそうした事情の違いを理解できない。
 「国立公園の所長は、ワシントンDC本部を嫌う傾向があり、独立性が強いのが特徴です。それぞれの公園の現場における管理で実績を上げ、7つある地域事務所長になることが目標です。このような独立性の強い組織を、1つの統一されたイメージを持つ組織としてまとめるために、ハーパースフェリーセンターが必要だったのです」
 また、国立公園局として、他の公有地管理組織との資源管理方針の違いを明確に打ち出す必要もあった。同じ内務省に属する組織であっても、公有地管理局(Bureau of Land Management: BLM)は、管理地域での開発行為を認めている。そのような管理地と国立公園局とが境界を接しているケースも多く、標識(サイン)などで国立公園区域であることを明らかにし、違法行為を未然に防止する必要がある。
 「そのために、標識の外観、色、デザインなどから、一目でそこが国立公園だとわかるような努力を行ってきました」
 それには相応の予算が必要になる。
 「国立公園をあまり訪れたことがない人々も含めて、一般市民が国立公園の設立や運営に協力的なのは、国立公園局としての『コーポレートルック』が確立されているからではないかと考えています」
 自然解説活動は、人々が国立公園を訪れて初めて行うことができる。民主主義では、公園利用者以外の多くの人たちの支持も得なければ、予算も定員も確保することはできない。
 「ご存知の通り、国立公園ではユニフォームやマーク、サイン(標識)などのデザイン、及び公園のイメージを支える理論的な基礎が統一されています。それは、言い換えれば、日本の自動車メーカーなどのもつ統一された企業イメージ、つまりはサービス及び製品の質の高さなどに関するイメージが明らかにされていることと同じです」
 そのような役割を果たしているのがハーパースフェリーセンターだといえる。
 「ですから、車一台一台の販売への波及効果は明確でないとしても、組織やブランド全体を考えた場合に、その効果は計り知れないものがあるといえます。ただ、このような効果は目に見えません。それが近年のこのセンターの予算や人員が頭打ちになっていることにも現れています」

国を一つにまとめる象徴としての国立公園

富士山に登山した際の杖に結びつけられていた旗。署名やメッセージは、クミンズ所長と一緒に登った日本のパークレンジャーのものだそうだ。
富士山に登山した際の杖に結びつけられていた旗。署名やメッセージは、クミンズ所長と一緒に登った日本のパークレンジャーのものだそうだ。

 「国立公園局の持つもっともパワフルなところは、インタープリターが直接人々に語りかけるということです。インタープリテーションには、人々が自然や文化資源について理解を深める助けになるものであると同時に、アメリカ国民を1つのコミュニティーとして結びつける役割も求められています」
 親しみやすくかつ知識豊かな職員が、国立公園を訪れた人々の案内役を務める。それは単に知識を教えるということだけではなく、アメリカの誇る大自然を守る国立公園の存在が、アメリカ人としてのアイデンティティーのよりどころにもなっているのだろう。
 「ハーパースフェリーセンターは、このような業務に携わる職員をサポートするための教材やマニュアルなどを提供しています。それは直接的な費用対効果に現れにくいものですが、国立公園としてもっとも本質的な業務であると考えています」
 「カナダの国立公園では、必ず『パークスカナダ(カナダ国立公園局)の○○○国立公園ユニットへようこそ。カナダの国立公園は△△△を目的にしています。』と伝えることが義務付けられています。このような規定はアメリカにはありませんが、とても大切なことだと思います。なぜなら、国立公園には、人々を1つの国にまとめる力があるからです」
 たとえ一つ一つの公園が、小さく、無名公園であっても、体系的なシステムに組み込まれることで大きな力を発揮するという。
 「それによって、黒人などのマイノリティーなども含め、人々を1つにする力が発揮されるのです。それは『包含の精神(Spirit of Inclusion)』とも呼ばれるものです」
 カナダ公園局の取組は、単に一つ一つの公園について紹介するのではなく、それがカナダの公園システム全体を形成している1つのユニットだということを印象づけることになる。
 「ハワイの国立公園に勤務したことが、私にとって大変貴重な経験となりました。そこでは、白人(Caucasian)はマイノリティーなのです。マイノリティーが公園を利用する気持ちというものがよくわかりました」
 アメリカの人口構成は変化してきており、米国本土でも白人がマイノリティーになりつつある。
 「ヒスパニックの人々は、昔のアメリカ人のように大家族でピクニックを楽しみます。4人がけのピクニックテーブルでは合わないのです。また、グランドキャニオンでは、裕福なアメリカ人のリタイア組か、もしくはドイツ、イタリアなどの長期休暇の取れる外国人観光客がほとんどです」
 米国人の多くは忙しく、とてもゆっくりと国立公園に滞在する時間がない。そのために、インタープリテーションプログラムも短いものが好まれる傾向にあるという。
 「ところで、私は1983年に日本に行って富士山に登ってきました。そこで何人かのパークレンジャーに会いましたが、公園管理に携わっている人々には共通の価値観があると感じました。国立公園が、関係者同士を兄弟姉妹のような関係にしてくれるのではないでしょうか。私たちはお互いに協力しあうことで、もっとうまく問題に対処していけると思います」
 公園の管理システムが大きく異なる日米の国立公園でも、共通する問題は多いのかも知れない。

国立公園のサイン(標識)

 アメリカの国立公園には、必ず入口付近に特徴のある「看板」がある。国立公園の名称や国立公園局のヤジリ型のロゴマークが入っているので、写真にとっておくとアルバムのインデックスのような役割を果たしてくれる。私たちもできるだけこの入口標識の前で写真をとるようにしていたが、記念になるだけでなく記録としても便利だった。また、国立公園のまわりには信号などはないので、高速道路から公園の入口までノンストップで到着してしまうことも少なくない。料金ゲートの前で、国立公園の年間パスを財布などから取り出したり、車の中を片付けたりと、ちょっとした小休止にちょうどいいのだ。エンジンをとめて三脚を立てていると、静かな国立公園の雰囲気に包まれ、ようやく国立公園に来たことが実感される。
 この標識を過ぎると、そこから先はいつ珍しい動物やすばらしい風景に出会っても珍しくない自然の豊かな地域だ。ビデオやカメラの準備を準備しておくチャンスでもある。
 標識が設置されている場所は、大抵どちらかというと風景はあまりよくない。その代わり、必ずといっていいほど、十分な駐車スペースが用意されている。車を停めて辺りを見渡すと、看板の周りにも人が並んで立てるスペースが確保されていることがわかる。アメリカの国立公園の入口標識は、単に大きな看板ではなく、国立公園にとって重要な施設のひとつで、大げさに言えば、国立公園のイメージ戦略上も重要な役割を果たすビジターサービス施設といえる。

ビッグベンド国立公園の入口標識。
ビッグベンド国立公園の入口標識。

キーナイフィヨルド国立公園の入口標識。手前に路傍駐車スペースが確保されていることがわかる。
キーナイフィヨルド国立公園の入口標識。手前に路傍駐車スペースが確保されていることがわかる。

カールスバット鍾乳洞国立公園の入口標識。石造りのしっかりした造りが鍾乳洞のイメージと合っている。
カールスバット鍾乳洞国立公園の入口標識。石造りのしっかりした造りが鍾乳洞のイメージと合っている。

標識のデザインや質感が、グランドキャニオンの地形や色などの特徴をうまく伝えている。
標識のデザインや質感が、グランドキャニオンの地形や色などの特徴をうまく伝えている。

国立公園における標識整備とCCC

 現在の国立公園の公園施設の基礎は、CCC(Civilian Conservation Corps: 民間人保全部隊)【1】によって築かれたといわれている。CCCは、1933年にニューディール政策の一環として導入された雇用対策のひとつであり、職にあぶれた多くの若者が、公園内に設営された軍隊式のキャンプに寝泊りしながら施設整備に従事した。全国各地の国立公園で、それまで遅れていた道路、駐車場、建築物、歩道、標識などの整備を「人海戦術」によって進めていった。
 こうした大規模な公園整備を進める過程で、国立公園局とCCCは、施設計画やデザインの体系化をせまられることになった。大規模な施設整備が全米で行われるようになると、一つひとつの工事を公園施設の専門家がつきっきりで指導することができない。公園施設に関する専門的知識がなくても、ある程度の土木設計技術があれば設計・施工が可能なマニュアルが必要になった。このような背景から制作されたもののひとつが、「公園及びレクリエーション施設(Park and Recreation Structures)」という公園施設の事例集だ。1938年に取りまとめられている。
 この事例集では、それまでに自然公園に整備された施設が、写真とともに解説されている。標識類は、主に「エントランス車道(entrance ways)」と「標識(signs)」の項で取り上げられている。
 「エントランス車道」の項からは、当時、国立公園が急増する自動車利用に手を焼いていた状況が伺われる。当時普及しつつあった自動車の受け入れは、国立公園にとっても利用者が増えるというメリットがあったが、同時に国立公園での自動車の利用を適切化することが求められることを意味していた。
 例えば、単に近道をするために商業トラックが国立公園内を通行したり、公園に到着したビジターが、それまで走ってきたままのスピードで公園内を疾走したりする問題が起こることになった。
 交通対策としてまず導入されたのが、パイロン(石積み塔柱)やゲート(門)など、入口や境界を明示する構造物だった。主要な入口など扉部分がつけられない場合でも、両側の門柱部分、擁壁、アーチなどを設置することにより、「ここからは国立公園です。ゆっくり走りましょう」というメッセージをビジターに伝えることをねらいとする。

ザイオン国立公園の古い入口標識。石積みのパイロンが主体であることがわかる(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
ザイオン国立公園の古い入口標識。石積みのパイロンが主体であることがわかる(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

ラッセン火山国立公園の古い入口標識(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
ラッセン火山国立公園の古い入口標識(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

現在のラッセン火山国立公園の入口標識。パイロンの部分がうまく標識のデザインとして残されている。
現在のラッセン火山国立公園の入口標識。パイロンの部分がうまく標識のデザインとして残されている。

マウントレーニエの古い入口ゲート(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
マウントレーニエの古い入口ゲート(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

現在のマウントレーニエの入口ゲート。ほぼ昔通りの構造を維持している。
現在のマウントレーニエの入口ゲート。ほぼ昔通りの構造を維持している。

ミュアウッズ国立記念物公園の入口ゲート。ここから静かなレッドウッドの森に入っていくという雰囲気がでている。
ミュアウッズ国立記念物公園の入口ゲート。ここから静かなレッドウッドの森に入っていくという雰囲気がでている。

グランドティートン国立公園の入口標識。ゲートの意匠を取り入れたデザインを採用している。
グランドティートン国立公園の入口標識。ゲートの意匠を取り入れたデザインを採用している。

古い木製のゲート。扉を支える支柱が長く、もう片方の柱が短い(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
古い木製のゲート。扉を支える支柱が長く、もう片方の柱が短い(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

古い木製のゲート。支柱を支えるために、支柱のまわりに複数の杭が立てられている(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
古い木製のゲート。支柱を支えるために、支柱のまわりに複数の杭が立てられている(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

ポイントレイズ国立海岸の入口標識には複数の木柱があしらわれている。片側が高いことや、支柱が複数立てられているところは古いゲートの意匠ではないだろうか。
ポイントレイズ国立海岸の入口標識には複数の木柱があしらわれている。片側が高いことや、支柱が複数立てられているところは古いゲートの意匠ではないだろうか。

マンモスケイブ国立公園の入口標識にもやはり木柱があしらわれている。
マンモスケイブ国立公園の入口標識にもやはり木柱があしらわれている。

 マウントレーニエの大きなゲートなどのように、オリジナルのゲートが残っている公園もあるが、ほとんどの場合はゲート自体は既になく、入口標識にこうしたゲートなどの意匠が取り入れられている。
 標識の左右どちらか一方に石積みの部分がある場合は、おそらくパイロンの意匠を取り入れたものだろう。同じように、標識の脇に何本かの丸太が立っていることがある。これはアメリカで昔使われていた木製ゲートの名残のようだ。さらに、これらが混在しているケースもある。
 もちろん、純粋に標識としてデザインされた入口看板もある。その代表的なものは、丸太を横たえたもの、一本支柱、一本支柱に腕木をつけたもの、二本支柱とサイン板、そして屋根つきのものなどである。

古い標識の例。一本支柱タイプ(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
古い標識の例。一本支柱タイプ(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

一本支柱に腕木をつけたタイプ(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
一本支柱に腕木をつけたタイプ(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

セコイア国立公園の入口標識。一本支柱に巨大な腕木がついている。
セコイア国立公園の入口標識。一本支柱に巨大な腕木がついている。

一本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
一本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

現在のクレーターレイク国立公園の入口標識。デザインはほとんど変っていない。
現在のクレーターレイク国立公園の入口標識。デザインはほとんど変っていない。

二本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。
二本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。

アンティータム国立墓地の標識(二本支柱)。
アンティータム国立墓地の標識(二本支柱)。

二本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。前出のグランドティートンの標識がこのタイプといえる。
二本支柱に標識を吊り下げたもの(国立公園局 公園及びレクリエーション施設より)。前出のグランドティートンの標識がこのタイプといえる。

1988年のサインマニュアル

サガロ国立公園の入口標識の脇にはサボテンが植えられている。標識はこの地方特有の土塗りの壁をイメージさせる塗装が施されている。国立公園局のロゴマークも表示されている。
サガロ国立公園の入口標識の脇にはサボテンが植えられている。標識はこの地方特有の土塗りの壁をイメージさせる塗装が施されている。国立公園局のロゴマークも表示されている。
ミュアウッズ国立記念物公園の入口標識には、公園内に残るレッドウッドの大木をイメージさせる輪切りの木材が使われている。
ミュアウッズ国立記念物公園の入口標識には、公園内に残るレッドウッドの大木をイメージさせる輪切りの木材が使われている。

 2003年に新しいユニガイド基準が策定されるまで、国立公園内の標識類のマニュアルとして用いられてきたのが国立公園局の「1988年のサインマニュアル」だ。
 このマニュアルでは、「国立公園の入口標識は、それぞれの国立公園に固有のもの」と位置づけられている。言い換えれば、各公園が独自のデザインを採用することを認めている。いわば、地域ごとの公園地に合ったデザインとすることで、それぞれの公園のイメージを打ち出すための「顔」としての性格付けを行ったものであり、それが現在の有名国立公園の個性あふれる入口標識として残されている。
 マニュアルの内容で特徴的なもののひとつに、使用される材質に関する記述がある。入口標識には、それぞれの公園の性格をイメージさせる素材を使用することが求められている。公園内で見られる岩石、木材を用い、さらに、そのサイズも、原生林のある公園であれば太い丸太を、そうでなければ普通の規格の木材を用いるべきであるとしている。
 その一方で、国立公園局の管理する「ナショナルパークシステム」全体が統一的なイメージを持つことができるようなデザインの統一についても一定の基準を打ち出している。入口標識については、「ロゴマークと国立公園名」のみを記載することとし、場合により「組織名」を含めることができるとしている。板面の記述を簡略化・統一化することにより、入口標識の機能を明確化し、あわせて共通のイメージを提供することを目指している。
 1988年マニュアルのもうひとつの特徴は、エントランス道路の設計速度や、規模幅員などに応じて、盤面の大きさ、高さ、文字の大きさなどを選択するための基準が示されたことである。通行する車両の走行速度などから、文字の大きさなどが選択できるようになったため、道路の設計速度に応じて合理的な標識がデザインできるようになったのだ。これらは、現在のユニガイド基準に採用されている統一規格の導入などにつながるものだ。

ページトップ

[an error occurred while processing this directive]