一般財団法人環境イノベーション情報機構

メールマガジン配信中

事例1-2:人と自然のかかわりを取り戻すための「出口」をつくる“生物多様性”と現場をつなぐ事例集

特集トップ
キーワード
1.生物多様性で暮らす
2.鳴き砂を守る
3.海のゆりかご
4.活動のアイデア
5.人工林の間伐
6.天然林の再生
7.海の森づくり
8.都会の生物多様性
事例
1.産直市場グリーンファームの取り組み
2.琴引浜の鳴き砂保全
3.アマモ場の再生
4.宍道湖のヨシ再生
5.森の健康診断
6.宮川森林組合の取り組み
7.アマモが取り結ぶ地域連携
8.野川の自然再生
9.草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持

[1]産直市場グリーンファームの取り組み(長野県伊那市)

事例1-2:人と自然のかかわりを取り戻すための「出口」をつくる


■出口がなければ生産は進まない

産直市場グリーンファーム店内。

柿の皮。1袋250円。漬物の甘み付けなどに使う。

いまや外材よりも安い国産杉材。山々で間伐された材がその場で「切り捨て」にされている現実。それを消費する「出口」がないからである。

道の駅を含む農産物直売所が全国で成功したのは、農を「業」とするまでいかない小規模な農地所有者が、生産した野菜の格好の出口を見つけためである。じいちゃん・ばあちゃんがせっせと育てた野菜たちは、家では食べきれない。隣近所もみんな野菜を作っているから、あげる先もない。都会の孫に送ってもたかがしれているし送料の方が高くつく。そんな余った野菜が出荷できることで、詰まった管が貫通したように生産物がどんどん流れ出し、じいちゃん・ばあちゃんはその管に投入する野菜をますますはりきって作り始め、元気になった。1年で年金+数十万円、頑張って百万円の収入。お金のかからない田舎生活ならハワイに行ってもおつりがくる。孫にこづかいもやれる。

一方で、野山には資源がふんだんにある。今では資源というと石油だとか、金、鉄鉱石、せいぜい水と樹木ぐらいしか思い浮かばない人も多いだろうが、本来自然はすべてが資源である。自然を資源としなければ生きてこられなかったのが人間である。プラスティックなどなかったわずか数十年前までは、包装資材、紐、家具、道具、鞄も靴も筆記用具も、すべてまわりの自然から調達しなければならなかった。それらが今では見捨てられ、ときに「お荷物」とまで言われるようになった。資源も捨てられた瞬間ゴミになる。


■狩猟採集物の利用を促進する

多種類の薪。

サワガニ。

そんな野山の資源の出口を提供しているのが、産直市場グリーンファーム。ここには、田畑で育てた作物以外の、山からとってきたものが多く出荷されている。野生の獣肉、食用の昆虫、時期には64種類におよぶきのこ。牧場の雑草のナズナ、山菜。これらは、地元の人は昔から食べていたが店で売られるものではなかった。店の表に並ぶ薪にもいろいろな種類がある。ナラ、クルミ、針葉樹、太いもの、細いもの。

自然のものを採ってしまうとなくなってしまうのではないか、という心配は今のところ無用だという。なぜなら、そんな面倒なことをする人間が減ってしまったからである。採集するためには、山を歩き、棘に刺され、マムシやハチに用心しながら茂みをかきわけて行かなければならない。生える場所を知っておく必要もある。見分ける目も要る。不ぞろいなものを採ってきて、泥を落としきれいにそろえるのにも手間がかかる。3時間ナズナを採集したら、出荷する前に6~7時間の処理が必要。買ってきて食べる方がずっと簡単だと誰でも思う。「お金」というものを手に入れてしまうとそうなる。

そもそもワラビやゼンマイなどは、半栽培ともいい、人が採集することによって一定の生育量、生育域が保たれる面がある。ワラビなどは採れば採るほど生えてくる。採らずに放置すれば、やがてそこに木が生え、樹林になり、明るい草地を好む植物は生えなくなってしまう。また、人が草や雑木を採集することで山里の美しさが保たれていたという点も、見逃すことができない。人の営み、生業が里山の自然を保全している面がある。もちろん、珍しいもの、成長に時間のかかるものは採集しすぎないためのコントロールは必要になる。


【出荷される山菜の例】

ワサビ(野生) アブラナ科の草。渓流沿いに生える。葉や若い花を主に食用にする。もちろん根も薬味として食べられる。
ナズナ アブラナ科の草。牧場の雑草。12月~3月の花が咲く前のものを採集。
ヨモギ キク科の草。もちくさとも呼び、餅に入れるほか、てんぷらなどで食べる。
ノカンゾウ ユリ科の草。わけぎのように酢味噌和えにする。
ノビル ユリ科の草。ピリッとした風味を生かし、生で味噌をつけて食べる。
ウルイ ギボウシ。ユリ科の草。
ナンテンハギ マメ科の草。つる性で、新芽をおひたしやてんぷらにする。
ギョウジャニンニク ユリ科の草。栽培もしている。
ワラビ シダ類。塩漬けにして保存。
ゼンマイ シダ類。ゆでて干して保存。
コゴミ シダ類。ゆでてマヨネーズで食べてもおいしい。
タラノメ ウコギ科の樹木。伐採跡地や法面など明るいところに生える。新芽を食べる。
コシアブラ ウコギ科の樹木。人工林の下層にも多い。新芽を食べる。
ハリギリ ウコギ科の樹木。オニダラとも呼ばれる。新芽を食べる。
ウコギ ウコギ科の樹木。垣根にも植えられている。
リョウブ リョウブ科の樹木。新芽をてんぷらなどで食べる。昔は米のかさ増しのために干して保存しリョウブ飯にした。

小林史麿会長。もとは本屋さん。市会議員でもあった。

けれども、こういうものが初めからグリーンファームで売られていたわけではない。

グリーンファームは、小林史麿会長がりんご農家に呼びかけ、りんごの出荷先として15年前に始めた。

小林会長が書いた当時の呼びかけ文書がある。

□意外なものが、意外と売れる□

消費者のニーズは多様化しております。こんなものが、と思われるものが良く売れると言われます。

例えば、

野の花、生け花用のかれた草、木の実やきのこ、山菜やいなご、蜂の子、竹細工、ワラ細工や木炭、薬草や山野草、まむしや子犬などなど、どんなものでも、身の回りにあるものを商品化する研究をしてみてください。


松ぼっくり。1袋250円。金色のスプレーで色付けしたものもある。リースなど手工芸に使う。

グリーンファームに登録している会員(生産者)は現在約1800人。「農家」でなくても、その地域に住んでいなくても、誰でも参加できる。小林会長は、思いつく出荷物を会員にどんどん提案していった。ナズナを出荷してほしい、ウコギ、松ぼっくり、カブトムシを出荷してほしい、と一人一人に声をかけていった。会員それぞれの得意とするところを知り、出荷の能力を伸ばしていったのである。農地を持たない人も出荷でき、収入を得ることができるようになった。出荷する人自身が野山の生産力を再認識していった。こうして自然は再び資源になった。加えて、そのことを買い物に来た客に伝えることができた。


■採集をなりわいとする人

きのこを採る人は1日10~20万稼ぐことがあるという。マツタケは7月から出始め、11月まで続くのでいい稼ぎになる。ほかにもロージなどはマツタケ並みに高価だ。

カワラタケ。この地方ではむかしからお茶にして飲んでいたが、ガン治療に効果があることが最近分かってきている。

グリーンファームでは64種のきのこが出荷される。量でも種類でも日本一かもしれない。最近ではカワラタケという抗がん効果のあるといわれるきのこを売り出している。そういったきのこの情報を集め、見分け、採集を会員に薦めてきたのも小林会長だ。

きのこは昔は料理屋が多く買い取ったので、出荷する人も多かったが、それが減ってくると採る人もめっきり少なくなった。グリーンファームではフェアトレードで仕入れ、積極的に売る。これによってまた採集する人が増えた。きのこは森林の遷移(植生の移り変わり)によって生えるものも変わってくる。採らなければ保全されて増えるというものではない。採って歩くことで菌がばらかまれる面もあるのだ。

■自然資源の利用で、人の本来のあり方を目覚めさせる

農業技術が発達していなかった頃は、自然の中から食糧を得ることが、今よりもずっと大きなウェイトを占めていただろう。今のように趣味的な位置付けではなく、命をつなぐために採集していたはずである。多品目の直売所は、野山の恵みを販売することで、人と自然のかかわりを再び見直させ、人が生きることの本来的なあり方を示唆している。出荷する会員も、買いに来るお客さんも、心の奥底で何かをかきたてられているに違いない。



この特集ページは平成22年度地球環境基金の助成により作成されました。