一般財団法人環境イノベーション情報機構

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4-3:宍道湖のヨシ再生(島根県松江市・斐伊川くらぶ)“生物多様性”と現場をつなぐ事例集

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キーワード
1.生物多様性で暮らす
2.鳴き砂を守る
3.海のゆりかご
4.活動のアイデア
5.人工林の間伐
6.天然林の再生
7.海の森づくり
8.都会の生物多様性
事例
1.産直市場グリーンファームの取り組み
2.琴引浜の鳴き砂保全
3.アマモ場の再生
4.宍道湖のヨシ再生
5.森の健康診断
6.宮川森林組合の取り組み
7.アマモが取り結ぶ地域連携
8.野川の自然再生
9.草原の自然が育む生物多様性 人とのかかわりが「二次的自然」維持

[4]宍道湖のヨシ再生(島根県松江市・斐伊川くらぶ)

事例4-3:学校と連携して環境教育―将来担う子どもたちを主役に


ヨシの植栽イベント(2009年10月)

斐伊川流域でのさまざまな活動ぶりを紹介する「斐伊川くらぶ通信」の新年号トップページには、昨年10月の「宍道湖ヨシ再生プロジェクト」の植栽活動が大きく紹介してあります。19校の小学校と2校の高校、一般の関係者合わせて総勢900人が湖岸に集まった写真は壮大です。子どもたちは自作の竹ポットにヨシ苗を2本ずつ植え、湖岸の砂地に埋めていきました。「昨年植えた1274本の竹ポットとつながると、将来見事なヨシ原が広がるでしょう」と誌面から期待が伝わってきます。ヨシの植栽や準備のための竹ポット作りの作業をする子どもたちの目も輝いているようです。

宍道湖ヨシ再生プロジェクトは今年秋には10年目を迎えます。これまで参加人数の総数は1万人、植栽したポットは1万個になりました。

■「総合学習」の時間を利用

ドングリ植樹祭で用意された苗ポット

ドングリポット贈呈式

ドングリ植樹祭

さらに情報誌をめくると、中海にある大根島の自然を修復する菜の花の種まきイベントの報告です。地元の八束小学校に加えて、友情校として中海沿岸の朝酌小学校、鳥取県の境港市の渡小学校の3校計106名が一堂に集まりました。当日は生憎の雨で、八束小学校の体育館で記念種まきの式典に変更。児童が播くはずだった種は、後日、斐伊川くらぶのメンバーが播きました。

新年号には尾原ダムの「どんぐりの森づくり」もあります。昨年11月に雲南市木次町の尾原ダム右岸展望広場であった、どんぐり・竹ポット引渡し式を報告しています。この活動はダム建設によって削られた山肌に緑を取り戻すのが目的で、上流域の小学生は拾い集めたどんぐりを、下流域の小学生は自分たちで作った竹ポットをそれぞれ持ち寄り、どんぐりを竹ポットに植えたのです。春に流域の山々に植林をしますが、小原ダムは今年完成予定なので、今年で活動は一段落することになります。

子どもたちを自然の中に導き、体を使ったさまざまな活動をさせるには、どうしても学校との連携が不可欠です。斐伊川くらぶの活動は、どれも「学校の総合学習」として実施されています。さまざまな要素を組み入れた総合学習は、教師にとっても専門的な知識が問われることになりますが、ヨシの植栽は、自然科学や社会の仕組み、歴史などを地元の宍道湖を中心に学べるために、優れた総合学習のテーマとして、学校の理解と協力を得ているのです。

「斐伊川くらぶの活動は、地域に根ざした自然保護や社会学習などの教育目標と一致するだけでなく、運営のノウハウを持っているので学校と協働できるのです」と副理事長の飯田幸一さんは話します。自分たちで竹ポットを作り、苗を植えてヨシを育てる―。一連の取り組みの中で子どもたちは喜びと感動の中から、想像力、発想力、やる気を培うことができます。竹に電動ドイルで穴を開け、なたで竹の皮をはがす作業は一見危険に思われますが、道具を正しく使う知識と練習があれば問題はありません。むしろ自主性や個性を大切にする楽しい教育現場が生まれるようです。「柔軟な思考のころに、体や五感を使った自然教育をしっかり受けさせてやりたいですね」と、理事長の小谷武さんは話す。


ドングリ植樹祭。ポットは土の中に埋めています。

ヨシ植栽ポットつくり学習会

ヨシ植栽ポットをつくる


■次世代に流域の将来託す

次世代を担う小学生を中心にした活動ですが、どうして子どもにこだわるのでしょうか。そこには、小谷さんが県職員時代から、ずっと見てきた地域の実情があります。斐伊川流域では、たびたび水不足に悩まされてきたため、上流に尾原ダムを建設して水の安定供給、下流域の洪水防止を図ることになりました。しかし、ダム建設によって木次、仁多町では、360haの農地が失われ、111戸が家屋移転を迫られました。下流域の公益性のために、生まれ育った古里を失なうなど上流が過重な負担と犠牲を強いることは、流域の住民の間に不信感が生まれ、流域の発展や自然環境の保全の妨げになります。持続可能性のある長期的な流域の将来を考えれば、次世代を担う子供たちに照準を合わせる以外にありません。
「将来環境意識の高い大人になってもらい、豊かな恵みを与えてくれる斐伊川流域を継続的に守っていってほしいのです」

また子どもがさまざまな活動を通じて経験した体験を家庭で話せば、親に斐伊川くらぶの活動の情報が伝わり、住民の自然保護の意識を高めることができるので、まさに「将を射んとする者はまず馬を射よ」です。

「自然再生や復元を目的に人間の手によって組み込まれた動植物は、自力成長が望めるまで、人間の手による育成管理をすることが必要なんです」

一つひとつ名前の書かれた竹ポット

竹ポットでヨシを植栽した場所

斐伊川くらぶの事務所


事務所内に掲げられた子どもの俳句

自然再生について小谷さんは、適切な人間の関与を語ります。だから植栽した後の補植や補修をし、ヨシを大切に育てています。これは、子どもたちを育てることにも通じています。

子どもたちは、土曜、日曜日に事務所を勉強部屋代わりに使っています。「世界の子どもが自分の子ですから」、「子どもの心を掴むのは、よろこびと感動なんです」が口癖の小谷さんは、子どもたちを温かく見守る。親が言うことなら反発する子どもたちも、斐伊川くらぶの大人には耳を貸してくれるのです。

初年度参加した小学校児童たちは、現在は高校生になりました。ヨシ植栽に再び参加を希望することも珍しくありません。まさに「ヨシが育つだけでなく、人も育っている」ようです。

職員の1人、竹内雅幸さんは大学生時代に斐伊川くらぶのボランティアとして、小学生を世話した経験の持ち主で、6年前に職員になりました。

「昨年第一子が生まれました。親となって斐伊川くらぶの活動の大切さを再認識しました」

竹内さんのように、世代を超えて地域の自然に対する意識が引き継がれようとしています。


取材・執筆:吉田光宏


この特集ページは平成22年度地球環境基金の助成により作成されました。