一般財団法人 環境イノベーション情報機構

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No.270

Issued: 2018.12.13

気候変動への適応に向けた国立環境研究所の取組

目次
はじめに
気候変動適応センターの設立
適応センターの業務
さいごに

はじめに

 日本では、年平均気温が100年当たり約1.2℃の割合で上昇していて、温室効果ガスの削減を厳しく進めなければ、今後もさらなる上昇が見込まれます。今年は夏に多数の地域で40℃を超えるなど記録的な猛暑となったり、また、豪雨による甚大な被害が出たりするなど、異常な気象を肌で感じる機会が多かったのではないでしょうか。今の調子で気候変動(温暖化)が進んでいくと、稲作をはじめとする農作物への悪影響や洪水や高潮といった災害の増加、熱中症患者の増加など、その影響はますます深刻化することが予想されています。
 今後の気候変動に備え、その影響による被害を回避・軽減することを「適応」といいます。既に温暖化が進行している現状、温室効果ガスを減らす取組(緩和)と並び、この適応がますます重要になることから、政府は今年の6月に「気候変動適応法」(平成30年法律第50号)を策定し、国、地方公共団体、事業者、国民が一丸となって適応策を推進することになりました。
 国立環境研究所はこの法律において、適応に関する情報基盤に位置づけられました。そこで、本稿では、気候変動への適応に向けた国立環境研究所の取組をご紹介したいと思います。

日本における年平均気温偏差の経年変化傾向【出典:A-PLAT 観測データ(気象庁による作成図)】
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日本における日最高気温35℃以上(猛暑日)の年間日数の経年変化傾向【出典:A-PLAT 観測データ(気象庁による作成図)】
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気候変動適応センターの設立

気候変動適応センターのロゴ

 気候変動やその適応に関する国内外の動きを踏まえ、国立環境研究所では適応の推進にどのような形で貢献ができるか検討を進めてきました。また、気候変動適応法において、①適応に関する情報の収集・整理・分析・提供、②地方公共団体や地域気候変動適応センター【1】における適応に関する取組に対する技術的助言などを行う役割を担うことが定められたことから、これらの業務や適応に関する研究を進める拠点として、本年12月に国立環境研究所に「気候変動適応センター(以下、適応センター)」を設立しました。
 適応センターは、適応策を推進するためのオフィスである気候変動適応推進室、関連研究を実施する気候変動影響観測・監視研究室や気候変動影響評価研究室、気候変動適応戦略研究室の4室体制、併任の研究者を含めた100人体制でスタートしました。


気候変動適応センター体制図
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気候変動適応センター開所式の様子(左:渡辺理事長、右:向井センター長)


適応センターの業務

 適応センターでは、法律に定められた業務をはじめ、事業者や個人を含む各主体による適応に関する取組に貢献するため、以下の業務を実施する予定です。

3-1.適応に関する情報基盤の整備

 国立環境研究所では、地方公共団体や事業者などが気候変動の影響への適応に関する取組を促進する基盤として、気候変動の影響への適応に関する情報を一元的に発信するポータルサイト「気候変動適応情報プラットフォーム(通称:A-PLAT)」を平成28年8月より運営してきました。気候変動適応法の成立を受け、気候変動情報や気候変動による影響の観測・監視、将来影響評価、適応戦略に関する科学的知見を活用しやすい形で広く提供していくなど、情報基盤として充実・強化を図っていきます。
 A-PLATでは、例えば、WebGIS(地理情報システム)による気象情報や農業分野、健康分野といった各種分野に関する将来予測データや、適応策データベース、地方公共団体へのインタビュー、気候変動影響・適応に関する科学的知見といった情報を扱っています。
 今後は、行政や事業者だけでなく、国民一人一人の日常生活における気候変動やその影響への意識も重要になってくると考えており、A-PLATを通じてみなさまから情報を得て、適応策につなげていくような仕掛けができないか思案しているところです。

21世紀末における影響予測例 左図:コメ収量(品質重視)、右図:猛暑日年間日数【出典:A-PLAT 全国・都道府県情報】
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3-2.適応に関する研究の推進

 適応センターでは、気候変動適応研究プログラムを編成して、①気候変動によりどのような影響が出ているかを観測・監視するシステムづくりや気候変動と影響の関連性を分析する研究や②気候変動による影響を予測するためのシナリオ開発や様々な分野・スケールにおける影響の評価に関する研究、③適応策の概念整理や評価する方法の開発に関する研究に取り組みます。本研究プログラムの成果は、政府による気候変動影響の総合的な評価についての報告書の作成や気候変動適応計画の変更といった政策決定に貢献するとともに、A-PLATを通じて公表し、地方公共団体をはじめとする各主体による気候変動適応に関する取組に貢献します。
 また、気候変動が影響を及ぼす分野は、防災、農林水産業、生物多様性、人の健康と多様で、空間スケール(地球全体〜地域)、時間スケールも非常に幅広いため、適応センターの研究だけではすべてをカバーすることはできません。そこで、各分野の研究機関と連携して、みなさまに必要な情報が提供できる体制を構築したいと考えています。

国立環境研究所における気候変動適応研究プログラムの全体図
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3-3.国際連携・協力

 科学的知見に基づいたアジア太平洋地域の途上国における適応計画の策定・実施を支援するための情報基盤として、国立環境研究所では「アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(通称:AP-PLAT)」のプロトタイプ版を2017年度に立ち上げ、COP23(国連気候変動枠組条約締約国会議)において公開しました。今後、2020年までの本格公開に向けて、環境省が実施する二国間事業等の成果やその他アジア太平洋における適応策の推進に必要な情報を掲載していく予定です。
 また、気候リスク情報等の共有を目的とする国際的な取組と連携しながら、アジア太平洋域の各国による気候リスク情報をまとめた独自のプラットフォームの立ち上げ支援にも取り組んでいます。

AP-PLATウェブサイト プロトタイプ版
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3-4.その他

 適応センターでは、事業者、個人などを対象とした気候変動影響や適応に係るシンポジウムや講演会、ワークショップを開催するとともに、パンフレットや資料の提供を行い、各主体による気候変動適応の取組を支援したいと考えています。

さいごに

 気候変動影響は一定したものではなく常に変化するものと捉える必要があるため、当センターでは新たな研究成果の提供や現場における新鮮な情報などを各機関と連携して提供することが重要と考えています。そのためには、行政や研究機関ばかりでなく、ひとりひとりの気候変動影響・適応情報提供に対する協力や事業者による適応技術や適応ビジネスの展開なども重要な要素と考えられます。将来に向かって幅広いステークホルダーの皆様のご意見等を伺いながら当センターの運営を行いたいと考えておりますので、末永くよろしくご指導ご協力のほどお願い申し上げます。

【1】地域気候変動適応センター
地域において確保される適応に関する情報収集・提供を行う拠点。
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記事・図版:国立環境研究所 気候変動適応センター

2018年12月1日設立。「気候変動影響・適応に関する情報の収集・整理・分析や研究を推進し、その成果を広く提供することで、政府、地方公共団体による気候変動適応に関する計画の策定や適応策の実施をはじめ、事業者や個人を含む各主体による気候変動適応に関する取組を支援すること」をミッションとするセンター。センター長は向井 人史(むかい ひとし)。

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