一般財団法人環境イノベーション情報機構

H教授の環境行政時評環境庁(当時)の職員から大学教授へと華麗な転身を果たしたH教授が、環境にかかわる内外のタイムリーなできごとを環境行政マンとして過ごしてきた経験に即して解説します。

No.038

Issued: 2006.03.02

第38講 「文明崩壊」を読む

目次
トリノ・オリンピック
コーベ空港開港!
惨点セットと謀略?メール
温暖化四方山話
パプアニューギニアの大秘境
アセスの限界?
環境行政最新動向
「文明崩壊」を読む

トリノ・オリンピック

Aさんセンセイ、荒川静香が金メダルですよ! やっと一矢を報いました【1】。バンザーイ!

H教授うん、よかった。ほんと、ニッポンは大健闘だったよ。

Aさんえー、冗談でしょう。メダルはたった一つですよ。フィギュア以外でもスピードスケート、モーグル、スキージャンプ、スノーボードのハーフパイプとかで、最低でも7〜8個は取れると思ったのに。


H教授ニッポンでの前評判というか、予測が大甘。願望と予測をごっちゃにしてたんだ。海外での戦前の下馬評じゃ、ニッポンは銅メダル一つか二つがやっとと言われていたんだ。
そのうちの一つが、荒川の銅。だったら大健闘じゃないか。ニッポンじゃミキティ、ミキティと騒いでいたけどね。
まあ、アナウンサーやキャスターを勤めるタレントが、願望と予測をごっちゃにして述べるのはしかたがないが、専門家でニッポンの実力を知っているはずの解説者が、5分後にすぐ結果が出るというのに同じようなことを滔々と述べるのはいただけないね。

Aさんでも村主もホントは銀だっておかしくないんじゃないですか。二度も転んだコーエンが銀で、一度も転んでない村主が4位だなんて変だわ。

H教授理由があるのさ。

Aさんコーエン者のせいだなんていわないでくださいよ。


H教授・・・

Aさんやっぱりか! でもああいう採点競技は白人に甘いんじゃないですか。採点競技以外でもルール改正で白人が有利になるようにしたんじゃないかと思うんですけど。

H教授はは、そう思われてもしかたがないね。でも、一方じゃ、開催地イタリアは白人国だけど、政府はまるで冷淡。国民もサッカーワールドカップ【2】のほうに目が向いていたなんて話もある。
ま、ルールが白人有利だからったって、そんななかで中国も韓国もメダルをいくつも取ってるからねえ。引かれものの小唄はやめておこう。

Aさん引かれものの小唄? なんですか、それ?

コーベ空港開港

H教授(無視して)でも願望と予測をごっちゃにするのは日本のお家芸だ。空港建設時の利用客予測なんてその最たるものだ。というか黒字になるために必要な利用客数を無理矢理あげているに過ぎないけどね。
ま、とはいっても、高速も新幹線もない地域の場合、建設費の償還どころか、管理費も赤字であってもつくることはありうべしだと思う。
だけどその場合でもデタラメな予測をするんじゃなく、はじめから赤字であっても必要だという根拠を示すべきだと思うね。

Aさんあ、そういえばコーベ空港が開港したんですね【3】

H教授コーベ空港の場合は出足は好調らしいから、このままがんばって黒字にしてほしいね。


Aさんえ? センセイ、コーベ空港反対じゃなかったんですか。

H教授それとは話は別だ。だって、借金を返すのに市税だけじゃなく、交付税交付金だとかで、ボクらの税金まで投入されちゃかなわないじゃないか。

Aさんそれはわかりますけど、願望じゃなくて、冷静な予測では黒字にできそうですか。

H教授ボクは悲観論者かもしれないけど、管理費はともかく建設費の償還はとてもじゃないけど不可能だと思うな。ま、その場合は建設をごり押しした市長サンや議員サンが私財を投げ打ってくれることを期待しよう(笑)。

惨点セットと謀略?メール

H教授ところで耐震設計偽造、米牛肉、ホリエモンの惨点セットに、防衛施設庁談合事件があって防衛省昇格の話が吹っ飛び、さらに紀子さんご懐妊で皇室典範改定もどっかにいっちゃった。さしものコイズミさんの求心力もがた落ちになったところに、民主党が飛んだ勇み足をしてしまった。敵失で命拾いしたってわけだ。

Aさん例のメール事件ですね【4】。あれはなんだったんですか?

H教授さあ、どういう結末になるかわからないけど、ホリエモンが書いたメールじゃなさそうだ。謀略メールにひっかかったのかもしれないから、情報提供者だというフリージャーナリストの名を明らかにし、メールの墨で塗りつぶした部分を全部開示すりゃあいいのに、永田サンは雲隠れしたまま。あれじゃあ、お粗末過ぎる。
ただ、それでもコイズミさんの求心力の低下は免れないだろう。それを占う試金石は行革の行方だ。ボク自身は現在のコイズミ行革は進めるべきものと、しちゃいけないものが混在していると思っているんだが、3月には行革推進法案が固まるだろう。これはまあ、抽象的なものに終わるだろうが、これを受けて秋から年末にかけての具体策で、コイズミさんの持論の、特会見直し、公益法人改革、公務員の純減がどこまでやれるかだね。


Aさんさ、ぼちぼち環境の話題に移らないと、編集部に叱られちゃいますよ。

温暖化四方山話

Aさんまずは温暖化の話題からいきますか。
ロシアの天文学者が、近年太陽活動が停滞しており、6〜7年先には小氷期、ミニ氷河期に入るかもしれないという予測を発表しましたね。
だとしたら、むしろ温暖化したほうがいいんじゃないですか。


H教授そのニュース、どこまでホントかわからないし、たとえホントだとしても、温室効果ガスを人為的に増やして小氷期入りを防ごうなんて傲慢なことを考えると、とんでもないしっぺ返しを食らうよ。
太陽や地球の大循環は受け入れなきゃしかたがないし、一方じゃ、大気や水などの環境条件を人為で変化させようなんて考えちゃいけないんだ。
つまり温室効果ガスの排出抑制は必要なんだ!

Aさんま、お説はお説として伺っておきましょう。じゃ、これはどうです?

(最近のネーチャーに発表された論文によると)森林はメタンガスの増加に寄与していることになり、植林をすればするほど温暖化ガス発生量が増えてしまうことになります。森林総研が追試を行い、スギとカシの葉からのメタン放出を確認したとのことで、環境省や林野庁はどう対応したらよいのか、パニック状態に陥っているとのうわさを聞きました。H教授のご意見を。

前回のお便りです。

H教授もともと樹木からは微量のテルペン類炭化水素が放出され、それが森林浴効果をもたらすというフィトンチッドの本体だという話もある。だから同じ炭化水素のメタンを樹木が放出しても不思議じゃあない。
問題はメタンの発生量だよ。そりゃあメタンは二酸化炭素に比べると温暖化係数は高いけど、二酸化炭素の吸収量に比べれば微々たるもので、吸収源としての効果のほうが圧倒的に高いんじゃないかな。ま、その話は専門家に今度聞いてみるよ。
それより、温暖化絡みの国際政治のほうがおかしくなってきている。


Aさんどういうことですか?

H教授カナダの政変だ。1月末の下院選挙で保守党が勝利し、ハーパー政権が成立した、このハーパーさんは京都議定書を蛇蝎のごとく嫌っているという話だ。

Aさんじゃあ、そのハーバーさんがブッシュさんと手を組むと、大変なことになるじゃないですか。

H教授保守党勝利の原因が自由党政権の京都議定書批准にあるとは思えないし、いったん批准したものをそう簡単に反故にはできないと思うけど、第二約束期間のことを考えると心配ではあるね。
ただ、一方ではそのブッシュ政権が1月末の一般教書演説【5】で、米国は石油依存症から脱却すべきだなどと言い出している。2025年までに中東から輸入する石油の75%を代替するという目標を掲げているそうだ。そのための技術的なブレークスルーに全力をあげ、クリーンエネルギーを開発するとのことだ。

Aさんやっと温暖化対策に取り組むということですか。

H教授温暖化のことは正面からは言ってないけど、温暖化対策に不熱心だという米国内の批判を気にしてるのは間違いないだろう。もちろんメインは中東をめぐる国際情勢にあると思うけどね。一方じゃ、アラビアが中国と急接近しているという話もあるそうだ。

Aさんそういえばブッシュさんは原子力開発にも熱心ですね。

H教授うん、スリーマイル事故以降、米国は新しい原発建設はやめたけど、ブッシュさんになってから方向転換し出したし、最近は日本同様、核燃料の再処理路線に舵を切り替えたという報道もあった。
バイオエネルギーにも力を入れるそうで、トウモロコシからのエタノール生産などに本格的に取り組むかもしれないなどいう話もある。
飼料からエネルギー資源になるってわけだ。

Aさんそうなると世界の食料事情や、米国のトウモロコシを飼料にしている日本の畜産業にも影響するんじゃないですか。驚かしっこなしですよ。

H教授ま、それが実用化するようになる前に米国の水資源が枯渇するかもしれない。農業で膨大な地下水を使っているんだが、地下水位の低下が米国農業にとって危険領域に入りつつあるなんて話もある

Aさんセンセ、センセイ。話が拡散しすぎです。大体センセイの話は、みんなどこまでホントかわからない又聞きでしょう。

H教授又聞きかどうかが問題じゃない。たとえ又聞きをつなげ合わせただけにしても、それが論理的かどうか、きちんと整合したストーリーになっているかどうかが問題なんだ。

Aさんもっと、なんか夢のある話はないんですか。


パプアニューギニアの大秘境

H教授そうそう、パプアニューギニアで一気に二十数種の動物の新種がみつかったという話があった。百万ヘクタール以上の熱帯雨林が広がり、うち30万ヘクタールは人跡未踏の地だそうだ。こういうところは永遠に保存して欲しいねえ。

Aさん日本じゃ考えられないですね。

H教授もう30年以上昔の話のことだけど、自然環境保全基礎調査の一環で都道府県にお願いして「原生流域調査【6】」というのをやったことがある。人為的な道路やダムなどの工作物が一切なく、森林にも人手が入ってない流域がどの程度残っているか、調べたんだ。西日本、南日本にはほとんどなかったけど、中部・東北日本にはかなり残っていたよ。今でも結構残っているんじゃない


Aさんえっ? 人跡未踏の地が日本に?

H教授いやあ、釣り人なんかは当然入っているから、人跡未踏とはいえないけど、それでも貴重だよね。

Aさんそういうところは国立公園だとかの保護地域になっているんでしょ

H教授いやあ、なっていないところも結構あった。

Aさんどうしてですか。

H教授どうしてったって、マスコミも騒がなければ、保護団体の陳情もないようなところを保護地域にするってのは容易じゃなかったんだ。そうしたところは大抵国有林なんだけど、当時、林野庁のガードは固かったからなあ。
ま、そのなかの最大の「原生流域」が秋田と青森の県境に広がる白神山地だった。これは、なんとか国内法で自然環境保全法の「自然環境保全地域」になり、その後、世界遺産に登録されたけどね【7】


アセスの限界?

Aさん他になにかありますか。

H教授いろいろあるけど、あまり新聞に取り上げてない話をしよう。これは「エネルギーと環境」という週刊専門誌【8】に出ていたんだけど、今、山口県の大型火力発電所のアセスが問題になっているらしい。


Aさん中国電力ですか?

H教授いや、今は電力自由化で、純粋の民間会社だ。100万キロワットという大型の石炭火力だ。昨6月に準備書が経産省に出されていて、県は昨年末に意見書を提出、経産省は1月末に環境大臣に意見照会、3月中に経産省は準備書に対して勧告というスケジュールなんだ。

Aさんなにが問題なんですか。環境対策をろくにやっていないんですか。

H教授いやあ、もちろん最新の環境対策を講じているよ。でもねえ、どんな高いエネルギー効率の設備を導入し、最新の環境対策をやろうが、年間の二酸化炭素排出量は580万トンにもなりそうなんだ。アセス審査の当事者である経産省原子力安全・保安院の助言機関である環境審査顧問会でも強い異論が出て、見解をまとめきれないまま、環境大臣に意見照会したらしい。

Aさん強い異論って?

H教授つまり今までならゴーサインを出せたんだろうが、今じゃ「京都議定書達成目標計画」を閣議決定していて、電力業界からの削減目標量を定めている。それに真っ向から挑戦するような二酸化炭素排出量の増加をこのまますんなり認めてもいいのかという議論が、経産省内部からもあったらしいんだ。
ちなみにこの点に関し、従来はアセス手続きに係わってこなかった経産省の資源エネルギー庁の見解を今回は求めているらしいんだが、どういう見解が出されるか、みものだね。


Aさんアセス審査で「建設不可!」という結果は出せないんですか。

H教授そりゃあ、ムリだろう。もともとアセスは「建設するんだったら、これだけのことをしてください」という注文を、技術的に可能な範囲でつけるものなんだ。

Aさんつまり何が問題だと?

H教授政府・経産省は電力自由化を進めてきた。その一方で「京都議定書達成目標計画」を閣議決定したんだけど、もともと目標計画と電力自由化は矛盾するものなんだ。それがアセス手続きの中で明らかになった。
もちろん、事業者には代替として、CDMなり排出権購入なりで、別途、見合いの二酸化炭素排出量削減をさせるという手法はある。

Aさんあ、それいいじゃないですか。一種の代償ミティゲーションですね。

H教授ただ、その分がコスト高になって、随分高い電力になってしまう。それはもともと電力自由化の前提そのものをひっくり返してしまうことになるんだ。
この先、どういう結論になるかじっくり見ておくことだ。【註】

【註】 この会話の2日後の新聞に、事業者が事業を中断し準備書を取り下げると発表した旨の記事が出た。記事によると、どうやら断念する模様とあり、理由として石炭の価格高騰や地球環境問題への配慮を掲げている由である。「世界に冠たるMITIの行政指導」は健在か?(H教授)

環境行政最新動向

Aさんなあるほどねえ。他に最近の動きはありますか?

H教授新聞ベースではいろいろあるけど、毎回毎回、温暖化、リサイクルアスベストじゃあねえ。


Aさんいいじゃないですか、時代がそうだったら仕方ないじゃない。簡単に紹介とコメントだけしてください

H教授温暖化対策じゃ日本の環境省と英国の環境・食料・地方開発省が共同で、2050年温室効果ガス半減に向けての共同研究プロジェクトを発足させた。

Aさんいいことじゃないですか。英国は温暖化対策優等生なんでしょう。

H教授うーん、でもやはり半減化路線は相当キツイみたいで、最近は水素化社会みたいな超技術開発に夢を託したり、原子力復活にも色目を使い出したりしているという話も聞いたことがある。技術革新一辺倒じゃなく、総エネルギー抑制社会に向けての構造改革みたいな研究もきちんとやってくれるといいんだが。

Aさん温暖化ではそんなところですか。

H教授いよいよ政府が本格的に二酸化炭素排出権購入に動き出したという記事があった。国内法の整備も進んでいるらしい。
CDMは大賛成だけど、ホットエア購入は賛成しがたいなあ。それぐらいなら第二約束期間に向けてのペナルティ付き借金持ち越しのほうがいいと思う。

Aさん第二約束期間の話がつかなけりゃあ意味ないというか、借金踏み倒しになるんじゃないですか。カナダや旧ソ連圏の動きを見ているとすんなり第二約束期間の枠組みが決まるとは思えないですけど。

H教授もちろん、たとえ第二約束期間の枠組みが決まらなくても、借金踏み倒しはしないと高らかに宣言することが前提だよ。

Aさんリサイクルでは?

H教授これも新聞情報だが、環境省や経産省では地方自治体だけに認めていた廃棄物の輸出入を、リサイクル業者などの民間にも認める方向で検討を開始したそうだ。もちろんバーゼル条約の枠内でだけどね。
「東アジア循環共同体構想」の提示の一環なんだろうな。いいことだとは思うけど、一方じゃ、資源であれ、廃棄物であれ、地産地消の視点を失っちゃいけないと思うな。

Aさん電気用品安全法がこの4月から広範な品目で本格実施され、中古家電の販売がむつかしくなるって聞きましたけど。

H教授PSEマークの話だね。実際はそうでもないようだ。詳しくは安井先生のホームページを読んでもらおう【9】。ただねえ、今の日本は安全性ということに非常に気を遣っているというか、気を遣いすぎている。そのくせ、一方じゃ、循環だとかリユースも強調される。
でも、安全性とリユースは時にコンフリクトしかねない概念なんだ。PSEマークの場合も、安全性を強調しつつも、リユースの観点からさまざまな抜け道を許容していることがその表れだね。
もともとPL法ができたときから、家電のリユースにはブレーキがかかっていたんだ。
ボクのいる市のクリーンセンターでも粗大ゴミを再生して市民に引き取ってもらっているけど、電化製品は一切それをしていない。自転車でも市民がクリーンセンターで自分で修理して安全性を確認してから引き取るという形をとっている。そうしないと万一の事故の際の責任をPL法でとらされちゃうからだ。

Aさん要は何が言いたいんですか。

H教授なにがしかのリスク、自己責任を背負う覚悟がない限り、ほんとの意味での循環型社会の実現は難しいということだ。そして、万一の事故の場合は、社会が、法律的な意味ではないけれど、出来る限り被害者をカバーするという姿勢が必要なんだと思うよ。


Aさんあとはアスベストですね。石綿新法が成立しました【10】。でも窓口ではいろいろ混乱がありそうだってありました。

H教授うん、アスベスト関係労働者で時効で労災認定を受けられなかった人や近隣住民被害者の申請が3月20日から可能になるんだけど、窓口対応が間に合わないって話だよね。そもそも窓口も異なっているからね。前者は労働基準監督署で、後者は地方環境事務所【11】。または独立行政法人環境保全再生機構だ。そしてそのための人員確保もしてないらしい。
どうして住民に一番身近な保健所を第一窓口にしなかったのかなあ。ここでも小さな政府という、公務員減らしの政策との矛盾が出てきているね。

Aさんさあ、あとは第三次環境基本計画案ですね【12】

H教授うん、重点分野10項目の取り組み方針を提示するとともに、新たに72項目の定量的目標を盛り込んだらしいね。

Aさん「らしいね」って、センセイ読んでないんですか。

H教授200ページを越える大部なものらしいんだけど、ほら卒論や修論のチェックで忙しかったから。そうそう、キミいつ修論に取り掛かるんだ?

Aさん誤魔化さないでください! 卒論や修論のチェックに忙しかったからって、その割にはマンガや小説はしっかり読んでいるじゃあないですか。だ?

「文明崩壊」を読む

Aさんえっ? なんの書評ですか。

H教授ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊 ―滅亡と存続の命運を分けるもの」(草思社)で上下合わせて800ページを越える大著だ。


Aさん要はいろんな文明がなぜ滅んだか、環境面から考察するっていう話ですね。でもその手の本はいろいろ出てるじゃないですか。

H教授そりゃあそうなんだけど、今まではチグリスユーフラテスだとかローマ帝国だとかの大文明の崩壊を取り上げたものが多かったし、崩壊は必然だったという論調が多かった。しかも、その結論を欧米文明のせいにし、いまこそ「縄文の心を!」などというタイプのものが多かった。

Aさんセンセイだって、よく言ってたじゃないですか。

H教授まあ、そりゃあそうなんだけど、この本が一味違うのは、大文明だけでなく崩壊した小社会、例えばイースター島とかビトケアン島とかヴァイキングのグリーンランドなども取り上げていること、そしてもうひとつは、同じような環境条件下にありながら、崩壊しなかったいろんなタイプの社会を取り上げ、なぜ崩壊しなかったかを論じていることだ。

Aさんへえ、崩壊しなかった社会って?

H教授イヌイットのグリーンランドとかニューギニア高地だとか江戸時代の日本だとか、崩壊寸前で建て直しに成功したアイスランドとかさまざまだ。
ま、江戸時代の日本についてはちょっとくすぐったいし、疑問を呈したいところもあるけどね。

Aさん崩壊した文明とそうじゃなかったところとどう違うんですか。

H教授英明な指導者がいてトップダウンで持続したケース、あるいは住民全体で危機意識を共有し、ボトムアップで対処することで持続できたケースなど個別に論じている。


Aさん現代も論じているんですか。

H教授もちろんだよ。単なるフツ族とツチ族の憎悪に満ちた民族抗争と片付けられがちなルアンダも論じていれば、カリブ海の大きな島、イスパニョーラ島を二分するハイチとドミニカを取り上げ、同じような環境条件下にありながら前者は崩壊に瀕し、後者は希望が持てるのはなぜかと論じているし、中国、オーストラリアの迫り来る危機を描写するとともに、希望の萌芽をも探り当てている。そしてわれわれが何をなすべきかも提言している。

Aさん何をなすべきかって「縄文の心に戻れ」じゃないんでしょうね。

H教授もちろんだよ、例えばネイティブアメリカンなど先住民社会を「聖なる人々」とあがめる人たちもいるけど、それを「“エデンの園”風環境保護主義」として斥ける。
彼らのライフスタイルが持続的であったのは、先人たちのさまざまな失敗や崩壊を学んでそうしたのだと実証的に論じている。そうした先住民社会の人肉食などはでっち上げだという論に対しても否定し、人肉食習慣が価値論的に劣っているということこそ差別だという。

Aさんへえ、面白そう。

H教授うん、一読の価値はある。これ自体、ロンボルグの超楽観主義【13】に対する厳しい批判だと思うな。

AさんそのJ. ダイアモンドさんは、他にどんな本を書いているんですか。

H教授「セックスはなぜ楽しいか」。

Aさんやだ! エロ本じゃないですか、センセイ、そんなの読んだんですか。

H教授いや、まだ読んでないけど、エロ本じゃないと思うな。
読んだのでは「銃・病原菌・鉄」。いやあ、これは名著だよ。
現代社会はアングロサクソン、つまり白人が世界を制しているけど、それは決して人種として彼らが優秀だったからでなく、いくつかの環境条件の違いがそうさせたにすぎないと論じたものだ。
著者は、もともとはニューギニアでフィールドワークしていて現地の人の頭のよさに感心したそうなんだ。その現地の人から、「いろんな資源を活用してさまざまな現代的な製品を作り、世界を制したのは白人で、われわれではなかったのはどうしてか」と聞かれたそうだ。
それを何十年か考え続けてその答えとして書いたそうだ。


Aさん環境条件の差って?

H教授例えば、栽培に適した植物があったか、家畜化しうる動物がいたかどうかだ。馬は家畜に適しているが、シマウマはどうやら無理なようだ。

Aさんそれだけ? 随分大胆な推理ですね。

H教授もちろんそれだけじゃないけど、そうしたちょっとした条件の違いが、加速度的に差を広げていったと論じている。ボクはすごい推論だと思い感服したけど、同僚のT先生は、ハッタリが過ぎると否定的だった。そこがアカデミシャンとボクの差かな。

Aさんじゃ、これで今回は勘弁しますけど、第三次環境基本計画案、きちんと読んでおいてくださいよ。

H教授ちょっと待て、あれはちゃんと公表されているんだ。だったらキミが読むべきじゃないのか。

Aさんアタシャ、読まなきゃいけないものがいっぱいありますから。

H教授F4のグラビア本だろう【14】。まったく院生だというのに。


注釈

【1】トリノ・オリンピック
【2】サッカーワールドカップ 2006ドイツ大会
【3】コーベ空港開港と、キョージュの見解等
【4】ライブドア事件に関連する送金指示メールについて
【5】一般教書演説(State of the Union Address)
米国大統領が、両院の議員を対象に行う演説で、国の現状(State of the Union)についての大統領の見解を述べ、主要な政治課題を説明するもの。アメリカ合衆国憲法に規定されている。慣例として、1月末の火曜日に行われることが多い。
 日本における内閣総理大臣の施政方針演説に相当。
 なお、2003年1月29日にブッシュ大統領によって行われた一般教書演説は、「悪の枢軸」発言を含んでいたこともあり、米国内メディアだけでなく国際的にも注目を集めた。
【6】原生流域調査
【7】自然環境保全地域と白神山地
【8】
【9】電気用品安全法と中古家電の販売
電気用品安全法に関する安井先生のホームページ
【10】石綿新法
【11】
【12】 第三次環境基本計画案
【13】ロンボルグの超楽観主義
【14】F4
若者や主婦に大人気の台湾の4人組アイドルグループのこと。日本でも人気を博し、近頃、Aさんがお熱をあげているらしい。

(平成18年2月26日執筆、同月末編集了)
★本講の見解は環境省およびEICの公的見解とは一切関係ありません。