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「KONUS」観光客にも公共交通利用を
──南西ドイツ・シュバルツバルト──
アメリカ横断ボランティア紀行(第7話)
都市景観への新しい取り組み ― 皆で選び、皆で体験
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タンザニアで地域住民がゾウを嫌うわけ
〜野生動物保全とゾウ被害問題〜
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No. アメリカ横断ボランティア紀行(第7話) さよならマンモスケイブ
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Issued: 2006.11.30
さよならマンモスケイブ(その2)
 (その1からつづく)
 ところで、読者の皆様は日本の「温泉法」という法律をご存知だろうか。温泉が枯れないよう泉源保護を目的として作られた法律で、環境省の自然環境局が所管している。ホットスプリング国立公園を訪問すると、この法律のアイデアはこの公園から得たのではないかという印象を受ける。泉源保護の仕組みばかりでなく、飲泉施設、成分表示板、足湯、公営浴場の整備など、よく似た制度や施設がある。
国立公園内に設置されている飲泉施設温泉の成分表示板地表に湧き出している温泉。その下に作られている池の周りにはベンチが置かれ、利用者は足を湯につける。日本の足湯とそっくりだ。
国立公園内に設置されている飲泉施設温泉の成分表示板地表に湧き出している温泉。その下に作られている池の周りにはベンチが置かれ、利用者は足を湯につける。日本の足湯とそっくりだ。

 ホットスプリングにある公営風呂に入り、テネシー州のメンフィスをまわってナッシュビルへ。途中、車を何度か休ませたが、何とかN書記官を空港に送り届けることができた。
 今回の反省から、私たちは車の修理に本腰を入れることにした。アメリカでは車の信頼性が生命の保障にもつながる。また、何といっても西海岸にあるレッドウッドまでのアメリカ横断が控えているのだ。
 目次
修理費2,700ドル!?
フロリダ旅行
修理費2,700ドル!?
 「ヘジテイティング」──これが、私たちがこの旅行から学んだ英単語だった。
 アクセルを踏み込んでも加速しない。それどころか次第に減速する。このような症状を、英語で「ヘジテイティング」と表現するのだそうだ。気がつくと後続車が後ろにぴったりとはりついていたり、インターステート(高速道路)の路肩に止まったことも一度や二度ではなかった。
 私たちがまず相談したのは、車を購入した中古車販売店の修理工場だった。ところが、その店はGMの代理店ではないため、GM車に搭載されているコンピューターのエラーコードが読めないらしい。そこで近くのGMのディーラーに持ち込むことにした。当然のようにエラーコードを読むだけで80ドル請求され、それと引き換えに私たちが手にした見積書は、なんと2,700ドル(約30万円)。車両購入代金の約半分にあたる。内容はトランスミッションの交換だった。
 「これ絶対高すぎると思う。一度帰って、リーさんに相談しましょう」
 妻は車の構造についてはそれほど詳しくはない。にもかかわらず、なぜか説得力があった。その「直感」を信用して、修理を断りディーラーを出た。
 翌日、早速メアリーアンさんのご主人であり、私たちの「お世話役」のリーさんのオフィスを訪ねる。
 「トランスミッションを修理しないといけないのか。でもそれは高すぎる。幼なじみが修理工場をやっているから、一度そこに相談してはどうかな?」
 リーさんは早速電話を入れてくれた。
 コーツさんという汗かきのアメリカ人が経営する工場は、ガソリンスタンドを改装したものだった。周囲には部品やガラクタが雑然と積み上げられている。
 「リーさんから話は聞いてるよ。日本からわざわざマンモスケイブにボランティアをしに来てくれたんだってね。これからカリフォルニアまで行くんじゃ心配でしょう。とりあえずどこが悪いかみてみよう」
 コーツさんはすぐさま車に飛び乗りテストドライブに出かけた。
 帰ってくるなりトランスミッションオイルの色をみてにおいをかぎ、機械でエラーコードを読み取る。エラーは2つ。ディーラーと違い、エラーの内容は自動検策されない。分厚いマニュアル本でコードを参照し、エラーの内容を調べる。エラーも含めて様々な情報から故障の原因を読み解く。ここが修理工場の腕の見せ所だ。
 コーツさんが書架から一冊の雑誌を取り出した。
 「GMのこのタイプのトランスミッションは、走行距離が10万マイル(約16万km)前後になると不都合が生じることが多い。ある部品を交換すれば直るのだが、リコール対象にはなっていません。これまでに3台ほど同じような症状の車を修理したので、まず間違いないでしょう」
 雑誌の記事によると、問題の部品は直径1.5cm、長さ6cmほどの円筒型で、何と不具合を是正した並行品まで出回っている。
 「GMはこの不具合を認めていないので、トランスミッションをそっくり交換したがるという話を聞いたことがあります」
 その日は修理待ちの車があったので、出直すことになった。
 「一週間後にまた来ます。今日はおいくらですか?」
 すると怪訝そうな表情で、「今日はタダだよ。だって修理してないだろう?」
 当然のように答える。これまでエラーコードのチェックだけで毎回1万円弱の金額を払ってきたので、これには拍子抜けした。よくみると、パトカーが何台も修理を待っている。走行距離が長く、地域の事情にも詳しい警察官が修理を依頼しているということは、しっかりした修理工場という証明なのかもしれない。
 車を持ち込んで数日ほどで修理は完了した。
 「吸気を調節するための部品もダメになっていたから交換しておいたよ。高いものだから中古の部品にしたんだが、全部で600ドル(約7万円弱)になってしまった。労賃が少しかさんでしまったんだ」
 少し申し訳なさそうに説明してくれる。「とんでもない、予想よりとても安くあがりました」と言おうとしてもうまく言えず、結局いつものように「サンキュー、サンキュー」の繰り返しに終始する。
 その後、前輪のショックアブソーバー2本を交換すると、愛車モンタナの走りは見違えるようになった。これで何とかカリフォルニア州までたどりつけそうだ。
フロリダ旅行
 11月下旬、休暇を利用してフロリダ半島南部を旅行した。
 私たちは、まずエバーグレーズ国立公園(Everglades National Park)を訪問した。この公園は、フロリダ半島南部に広がる広大な湿地で、公園内にはサギ、アメリカトキをはじめとする多くの鳥類、ワニ、シカなどが生息している。
 公園は1947年に指定され、公園面積は約610,250ヘクタールと広大だ。ビジターセンターが5箇所あり、公園内ではボート、カヌー、キャンプ、釣りなどを楽しむことができる。一方、施設は古く、印刷物も不足している。職員も少なく、メインゲート近くのビジターセンターでさえボランティアが1名で対応していた。
 1992年に公園を襲ったハリケーンは、公園内の多くの施設に大きな損害を与え、現在もその復旧工事が行われている。公園の予算の多くがその工事に充てられていることが、通常の公園管理のための予算を圧迫してしまっている。また、公園内の生態系も、マイアミなど周辺都市の過剰取水、汚水流入、さらには外来種問題などにより危機に瀕している。
メインゲートのすぐ近くにあるビジターセンター公園のあちこちにワニが寝そべっている
メインゲートのすぐ近くにあるビジターセンター公園のあちこちにワニが寝そべっている

 公園内のボートツアーなどはコンセッション業者(公園内での営業権を有する民間会社)が運営している。ただし、よく知られる巨大な扇風機のついたエアーボートで湿原内を走り回るようなツアーは公園の区域内では行われていない。
国立公園内のボートツアー
国立公園内のボートツアー

 有料ツアーの自然解説もコンセッションの職員が担当していることが多い。例えば、エバーグレーズの北の玄関口であるシャークバレー(Shark Valley)ビジターセンターからは、舗装された歩道(幅員は車道並み)が数マイルにわたって伸びているが、その道路上を運行しているトラム・ツアーの営業も業者が行っている。ドライバーが自然解説も行うが、大変知識が豊富で楽しませてくれる。
 トラムを降りて道路から湿地を見ると、水がとてもきれいで、大きな魚が悠々と泳いでいるのが見える。実はエバーグレーズは湿原全体が大きな川だ。1日に30mというゆっくりとした流れではあるが、歩道を地下で横断する導水管からは勢いよく水が溢れだしており、水が動いていることがわかる。
シャークバレーに広がる湿原トラム・ツアーの様子
シャークバレーに広がる湿原トラム・ツアーの様子

 歩道の終点には巨大なコンクリート製の展望台が設置されている。展望台に上ってみると、360度のパノラマが満喫できる。スロープがついていて、車椅子でも登ることができる。公園が平坦で広大であるためにこれだけの展望台が必要になるのだろうが、景観上の影響は小さくない。このような建設工事に対して反対はなかったのだろうか。
シャークバレーの歩道の終点にある展望台展望台にはスロープがついている
シャークバレーの歩道の終点にある展望台展望台にはスロープがついている

 展望台のデザインは、グレートスモーキーマウンテンズ国立公園の山頂にあったものともよく似ている(→第6話その3)。日本でも、国立公園を訪問する楽しみは、何といってもその美しい風景を眺めることだろう。公園施設としても展望台には人気がある。一方で、設置場所やデザインによっては、せっかくの風景を台無しにしてしまう危険性もある。アメリカの展望台は、むしろ国立公園のランドマークとしての役割を担っているようでもある。エバーグレーズやグレートスモーキーマウンテンズの展望台も、そのように考えると納得がいく気がする。→(その3)へ続く
展望台からの湿原の眺め
展望台からの湿原の眺め

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